誠実さを持ったアーティストとして、そういう人たちと向き合って一緒に仕事したい
──「Door to Door」と「NO.5」を聴かせていただいての印象ですが、まず率直に言うと、真部さんらしいメロディセンスと言葉の曲だと思うんです。すごくキャッチーな曲である。その上で、捉えどころのなさとか、謎めいているようなところもある。これが何らかの壮大な世界観の序章なのか、もしくは直感的なスケッチのようなものなのかわからない。なので、このプロジェクト全体で目指しているところを聞きたいなと思ったんです。そのあたりはいかがですか。
真部:別に謎めかしたいわけではないんですけれど、野望としては新しくスタンダードになるような音楽を作りたい。これはミュージシャンだったらみんなそう思っていると思います。その上で僕はあまり計算高くなく、自分の生理的なものだったり、感覚的なものが新しいスタンダードになってほしいという願いがあるので。心がけていることとしては、それをどう伝わりやすく表現するか、どうたくさんの人に届くような形で出していくかということを考えているだけです。これが序章で何らかのストーリーが展開していくということは特にはないです。
──「NO.5」はどのようなアイデアから生まれたものでしょう?
真部:この曲自体は20年近く前のアイデアなので。かなり前ですね。原型としては、当時の作家仕事の中で提案したアイデアというところから来ています。その時は「すごくオリエンタルですね」と言われていたのですが、今、Widescreen Baroqueでやると「ヨーロピアンな感じがする」と言われる。その感覚の違いは面白いなと。
──「Door to Door」についてはどうでしょうか。
真部:「Door to Door」は最近の曲なので、戦略的にストックを出していこうという感じはないですね。自分なりに、いかに自分らしくいられるかというところが最近の自分の課題です。なので、その時々で自分らしいと感じる曲を仕上げ、このチームで共有して広げていくというが制作スタイルになっています。
──Widescreen Baroqueの世界観としてSFというキーワードはありますよね。でも単純にSFっぽさというよりも、親密さと不思議さの共存のような感じがあるように思うんです。そのあたりがキーなのではないかと思うのですが、どうでしょうか。たとえばインスピレーションを受けた作品はありますか?
真部:それに関して言うと、もしそういう印象を抱かせるものがあるとしたら、この2曲に関しては歌詞に一人称がないんです。その良し悪しというか、何が正解なのかは迷ってはいたんですけど。インスピレーションを受けたもので言うと、ミシェル・ウェルベックの『素粒子』という作品があって。これは究極の三人称のような小説で、三人称視点というか、非常に風景のような言葉選びになっている。遠い未来から今の地球を観察しているような感じということですね。それがSF的というのであればSF的なのかなと思います。そういう影響は大きいかなと思います。
──これまでの取材でも、真部さんは繰り返し「ポップスのど真ん中でありたい」と言っていますよね。
真部:そうですね。
──しかもきちんと結果を出していると思うんです。「元相対性理論の〜」というイメージが先行していた10年前、15年前とは全く別の形で、たとえばanoさんの「ちゅ、多様性。」などヒットソングを生み出している。
真部:それは周りの皆さんのおかげでしかないです。
──その上で、作家というのは、あくまで裏方の仕事であるわけですよね。大衆と向き合う、自分自身を商品にするのは曲を歌っている本人である。でもこのWidescreen Baroqueという自身のユニットを始めて、そこでポップスのど真ん中を目指すということは、あくまで自分自身が大衆と向き合わなければいけない。そこへのエゴや欲望があったのではないかと思うんですが、どうでしょうか。
真部:というより、例えばanoちゃんと仕事させてもらっていますが、すごくリスペクトがあるんです。フロントマンとして彼女は自分の音楽に誠実だし、正直であろうとしている。そういう中で、僕も作家やサポートだったりの裏方の仕事をする上で、お仕事としてはやりたくないんです。やはり同じような誠実さを持ったアーティストとして、そういう人たちと向き合って一緒に仕事したいというのがある。なので、僕もそういった表現を独自に持っていないといけないなというところから来ています。
──なるほど。むしろこういうユニットで自分の表現をしていることが、作家の仕事にもプラスにフィードバックすると。
真部:するのではないかなと思っています。
──Hinanoさんにお伺いしたいんですが、Hinanoさんから見た「真部さんらしさ」はどういうところに感じますか?
Hinano:正直な人だなと思います。素直で正直。だけど、ときどき自分の中で噛み合っていないところがあるのだろうなというのは見てて思うし、そういうのがインスピレーションになったり、曲作りのエネルギーになったりするのかなと思います。いい人です。でも、矛盾している部分も抱えているのかなと思います。私に矛盾しているところがたくさんあるから、そう思うだけかもしれないけど。
──ボーカリストとして、真部さんの曲を歌っていて面白いと思うところ、表現しがいがあると思うところはどうでしょうか。
Hinano:曲に対して思うことはたくさんあります。言語化するのは難しいです。良い曲を書くのは大前提で、毎回ちゃんと新しいことに取り掛かろうとしているなと思います。
──お二人の関係性や役割分担についてはどうでしょうか。
真部:役割は決めていないですね。自分ができそうなことは率先してやるという。
Hinano:そうですね。お互いに思いやりを持ってやっています。
真部:この先にライブがあるのですが、そこでの舞台演出の部分はHinanoさんにお願いしています。ビジュアル的なところでも意見を言ってくれたりしていますね。