REVIEW #3 「あなた」のために作品を作るなかで、最終的にたどり着いた「わたし」
Text by ニシダケン
毎朝7時30分にテレビ東京「シナぷしゅ」という子ども番組を見ていると、一緒に見ていた2歳の息子のテンションが一際上がる瞬間がある。それがカゴメ「野菜生活100」のCMの時間だ。そのなかで披露されるダンスを一生懸命に踊る息子の姿に、毎日のことながら心がどこか揺さぶられてしまっている。と、いきなりパーソナルな話題から入ってしまったが、そのCMソング“ナイスアイディア!”で、全国の子どもたちをも虜にしているのが、緑黄色社会である。
『NHK紅白歌合戦』には3度出場し、あらゆる世代の人々にその名が知れ渡った緑黄色社会。新たにリリースされた最新アルバム『Channel U』には、前述のCMソングのほか、ドラマ、アニメ、映画、恋愛番組など多くの話題作のタイアップ楽曲を収録。その活躍ぶりは、まさに「国民的バンド」の一角を担う存在といえるだろう。
そんな緑黄色社会の最新アルバムを『Channel U』を再生してみると、タイトルが示す通り、まるで「緑黄色社会」というテレビチャンネルの、1日のタイムテーブルのような音楽の世界が展開される。緑黄色社会の真骨頂のような応援歌“PLAYER 1”から“ナイスアイディア!”までの、流れは慌ただしくも爽やかな朝。そして昼間の“Monkey Dance”で全力で汗をかいたあとは、“∩” で休憩を挟んで、夕方時の“マジックアワー”へ。さらに“Each Ring”で夜の匂いを感じさせると、月9の主題歌“サマータイムシンデレラ”が心を癒す。そして“コーヒーとましゅまろ”で一度ブレイクを挟んだあとの終盤には、深夜帯のアニメの主題歌である“Party!!”、“花になって”が待っている。こういったどの時間にも合う、バラエティー豊かな楽曲を仕上げられるのが、緑黄色社会のバンドの特異性であり、強みでもある。
数々のタイアップソングを手がけ、「国民的バンド」として活躍する緑黄色社会が、いわば大衆性の象徴である「テレビ」をテーマにしたような作品を作り上げたのは、必然だろう。がしかし、果たしてこのアルバムは単に、大衆性を意識してつくられた作品なのかと問われると、それは「否」であると思う。
ここで、今作に収録された、タイアップ以外の新曲に目を向けたい。今作において、僕が度肝を抜かれたのは、“Channel Me”という楽曲である。4分のなかに、あらゆる音楽の要素を詰め込んだ“Channel Me”。テレビをザッピングして観るがごとく、楽曲の断片だけを少しずつ聴かせるのだが、そのどれもがキャッチーで、メロディーも耳馴染みが良い。ここからさらに膨らませていけば、すごく良い曲が誕生しそうな気がするのだが、それをあえて1曲にした潔さが素晴らしい。この曲からは、昨今の「サビだけを聴く」ような音楽の聴かれ方へのアンチテーゼが感じられ、緑黄色社会というバンドのなかの、ある種の「尖った部分」が出ているように思う。またアルバムタイトル『Channel U(あなた)』のちょうど中心に“Channel Me(わたし)”が置かれているのは、偶然だろうか。
さらに、最後に収録されている楽曲“オーロラを探しに”は、ヴォーカルを務める長屋晴子のごく個人的な経験が叙景的に描かれている。タイアップ楽曲を通して、一般大衆である「あなた」のために楽曲を作ってきた緑黄色社会だが、この楽曲では徹底的に「わたし」という個人に向き合い曲を紡ぐ。それはまるで、自分のためだけに歌っているようでもあるが、こういったパーソナルなものにこそ、人はグッと気持ちを揺さぶられるものである。
「あなた」の中にいるアルバムを作るなかで、最終的には「わたし」にたどり着いた緑黄色社会。次はどんな作品を世に届けてくれるのだろう。『Channel U』は、そんな緑黄色社会の未来への期待も感じさせる作品だ。
編集 : 西田 健
より自由で強固なポップを鳴らす最新作
インタヴューはこちら
ライヴ情報
〈Channel U tour 2025〉
3月8日(土) 千葉・市原市市民会館
3月14日(金) 栃木・宇都宮市文化会館 大ホール
3月22日(土) 愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
3月23日(日) 愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
3月28日(金) 広島・広島文化学園HBGホール
3月30日(日) 熊本・熊本城ホール メインホール
4月6日(日) 新潟・新潟県民会館
4月11日(金) 京都・ロームシアター京都 メインホール
4月12日(土) 和歌山・和歌山県民文化会館 大ホール
4月18日(金) 三重・三重県文化会館 大ホール
4月20日(日) 宮城・仙台サンプラザホール
4月27日(日) 北海道・函館市民会館 大ホール
4月28日(月) 北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)
5月2日(金) 茨城・水戸市民会館 大ホール
5月5日(月祝)群馬・高崎芸術劇場 大劇場
5月8日(木) 大阪・フェスティバルホール
5月10日(土) 兵庫・アクリエひめじ 大ホール
5月14日(水) 静岡・アクトシティ浜松
5月21日(水) 東京・J:COMホール八王子
5月24日(土) 高知・高知県立県民文化ホール オレンジホール
5月25日(日) 香川・レクザムホール 大ホール
5月30日(金) 岡山・岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
6月1日(日) 島根・島根県民会館 大ホール
6月7日(土) 長野・ホクト文化ホール
6月8日(日) 石川・本多の森 北電ホール
6月13日(金) 福岡・福岡サンパレス
6月14日(土) 鹿児島・川商ホール第1
6月20日(金) 福島・けんしん郡山文化センター 大ホール
6月22日(日) 秋田・あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
緑黄色社会 ディスコグラフィー
緑黄色社会の過去記事はこちら
PROFILE : 緑黄色社会
愛知県出⾝4⼈組バンド。愛称は“リョクシャカ“。⾼校の同級⽣であった⻑屋晴⼦(Vo / Gt)、⼩林壱誓(Gt)、peppe(key)と、⼩林の幼馴染・⽳⾒真吾(Ba)によって2012年結成。2013年、10代限定ロックフェス〈閃光ライオット〉準優勝を⽪切りに活動を本格化。2018年、ファースト・アルバム『緑⻩⾊社会』をリリース。以降、映画・ドラマ・アニメなどの主題歌を多数務める。
「Mela!」(2020)がストリーミング再生数4億回、「花になって」(2023)が同2億回、「キャラクター」(2022)・「サマータイムシンデレラ」(2023)が同1億回を突破するなど話題曲をコンスタントに発表。2022年には初の日本武道館公演、2023年~2024年にかけてアリーナツアーを成功させるなど躍進を続けている。
「NHK紅白歌合戦」3年連続出場(2022~2024)、第65回日本レコード大賞優秀作品賞受賞(2023/サマータイムシンデレラ)。
⻑屋晴⼦の透明かつ⼒強い歌声と、個性・ルーツの異なるメンバー全員が作曲に携わることにより⽣まれる楽曲のカラーバリエーション、ポップセンスにより、同世代の⽀持を多く集める。
■公式HP:https://www.ryokushaka.com/
■Twitter:https://twitter.com/ryokushaka
■Instagram:https://www.instagram.com/ryokushaka_official/
■YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC_1GPhYlXI2ka2ji5gnqWFQ