変わっていくことを楽しんでいる。そういう意味ではムーンライダーズはインプロに合ってる
──ちなみに、おふたりが好きな即興演奏のプレイヤー、作品にはどういうものがあるのですか? ミックスも含めて今作を手掛けるにあたって参考にした作品などはありましたか?
良明:僕はやっぱり山下洋輔トリオとか梅津和時、ギタリストだとネルス・クラインとかビル・フリゼールとかジュリアン・ラージとかが好きですね。参考にしたかどうかはともかく、ビル・フリゼールって演奏の向こう側に、アメリカの大地が浮かんできたりするじゃない? あれって年齢のなせる技だなあ、いいなあ、じゃあ僕らの演奏の向こう側にはどういう景色が浮かんでくるんだろう? って思ったりするね。
慶一:ビル・フリゼールの『Guitar In The Space Age!』ってアルバム(2014年)なんてさ、カヴァー集なんだけど、向こう側にヴェンチャーズのアルバム『宇宙に行く(Ventures In Space)』(1964年)が見えたもんね。
良明:ビル・フリゼール……ああいうギタリストになりたいって思うもん。僕の場合、音の向こうに見えるのは浅草の土壌だけどさ(笑)。
慶一:私からは良明のギターのバックに東アジアが見えるんだよなあ(笑)。『It's the moooonriders』を録音している時に、歪ませないでパラララリ~ンって感じの音を出してて、あれは東アジア……東南アジアだなあって思ってた。ベトナム、タイ、カンボジア……あのあたりの音。バンドだとデングフィーヴァーとかを思い出す。
──私は良明さんのギターから時折クルアンビンのビザールなギターを思い浮かべます。
良明:クルアンビン、結構好きで聴いてた!
慶一:即興だと意識して演奏しない分、普段自分では見えてなかった側面が出るよね。良明は特に今回それが出ておもしろいなと思った。
良明:(慶一は)負けず嫌いな側面が今回強調されて出た感じもする(笑)。僕がギター・ソロ弾く前に自分が弾きはじめたりしたし。あとは、結構背景を作るのが好きだよね。アンビエントな音作りとかを作るのが上手いって改めて思った。アコースティック・ギターの音とかもさりげなく聞こえるようにするとかさ。そういうそれぞれの良さもミックス作業とかで改めて確認できたよね。
──今作、残念なことに岡田徹さんにとって最後のムーンライダーズ録音作品になってしまいましたが、岡田さんはどのような準備でスタジオに入られていたようでしたか?
慶一:ショルダー・キーボードを主に使っていたんだよね。これなんの音だろう? いい音だなあと録音日にプレイバック聴いてわからなかった音も、実は岡田くんがショルダー・キーボードから鳴らしていた。年末のムーンライダーズのライヴ(12月25日 恵比寿ガーデンホール)の楽屋で、「あれいい音だねえ」って声かけたら「そう?」なんて言ってたけど。さっき話したように、『It's the moooonriders』では確かに岡田くんの参加率は低かったんだけど、今回のアルバムで新しい領域というか、プレイヤーとしておもしろいことをもっとやってくれそうだ、岡田くんにとっていい方法なんだなって確信を持てただけに、本当に残念無念だよ……。
良明:僕が思うには、コード要らない、譜面要らない、リズムに合わせて演奏しなくていい……っていう今回のセッションは岡田くんにとってやりやすかったんじゃないかな。みんながビックリするくらいいいフレーズ、リフがどんどん出てきてたしね。彼自身すごく楽しんでやっていたんじゃないかなって気がするね。ある意味、その場の空気をあまり気にせずスッと演奏に入ってくる、それがカッコいい……なんていうか、長嶋茂雄のカッコよさに似ているよね(笑)。
慶一:コードや譜面やリズムのような制約から解き放たれたんだと思う。昔の曲はちゃんとフレーズを弾くけど新しい曲にはなかなか参加が難しくなっていたけど、それは出来たばかりの曲だという制約があるなかでの作業だったからなんだ。いまの岡田くんにはフリー・ミュージックが合っていたんだよね。これまでの蓄積も活かせるし、自然とそれを出せる技術は当然あったわけだから。
良明:インプロって俺たち老齢ロックには合ってるのかもしれないね!(笑) 譜面関係ないし間違えても怒られないし(笑)。
慶一:間違いがそもそもない(笑)。
良明:やっぱりいいなあ、インプロ。
──考えてみれば、指針になる元のフォルムに従わないというのは、そもそもが自由なムーンライダーズ自体に言えることではありませんか? 私はアルバム『マニア・マニエラ』(1982年リリース)再現ライヴを去年2回見て、他にも日比谷野音や昭和女子大人見記念講堂など去年だけでムーンライダーズのライヴはかなりの数を観ましたが、たとえば"Kのトランク"(『マニア・マニエラ』収録曲)を何度ライヴで聴いても演奏やアレンジが少しずつ違う。自分たちの足跡からもちょっとずつ解放されようとしている気がします。
慶一:そう。変更に次ぐ変更でね。でも誰もそこを気にしていない。変わっていくことを楽しんでいる。そういう意味では確かにムーンライダーズはインプロに合ってるかもしれない。
良明:曲を忘れてきてるというのもあるんだけどね(笑)。曲がアイスのように溶けてきて、別のケーキになってる、みたいな感じ。だから気づかない。"バラがなくちゃ……"というサビの部分に来てようやく、「あ、この曲は"Kのトランク"なんだ」って気づく、みたいなね(笑)。
慶一:譜面に水かけて流れちゃった感じ。
良明:わかんないところ弾かなくなってたり(笑)。
慶一:澤部(渡)くんと優介くんに教えてもらってはじめて思い出すとかね(笑)。
──今回のアルバムには10のセッションのうち、含まれていないものがまだありますよね。セッション5、6、7、9の演奏が収録されていません。
良明:収録されたセッションでも使われていない部分がいっぱいあるしね。
慶一:まだまだあるんだよね。だからVol.2を出したいな、と(笑)。残っているのはアヴァンギャルドな部分ばかりなんだよ。岡田くんのアコーディオンの蛇腹の空気音だけを録音した部分とか、そこに澤部くんがテープをベリベリって剥がした音が重なって延々1分くらい続いていたり。
良明:チューブラー・ベルでラテンやってるみたいなのもある(笑)。くじらくんと澤部くんだけで管楽器セッションやってるのもあったよね。
慶一:あるある。だから無限に作れる。次だけじゃなくその次も、またその次もね(笑)。ただこの録音物の再使用で幕引きってことでは決してないよ。
編集:梶野有希
10時間超に及んだインプロビゼーションを詰め込んだ新作
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PROFILE : ムーンライダーズ
1976年のデビューから 45 年以上のキャリアを誇るロックバンド。現在のメンバーは、鈴木慶一(Vo / Gt)、岡田徹(Key / Cho) 、武川 雅寛( Violin / Trumpet)、鈴木博文(Ba / Gt)、白井良明 (Gt)、夏秋文尚(Dr)。70年代前半に活躍した「はちみつぱい」を母体に 、1975年に結成される。 1976 年に鈴木慶一とムーンライダース名義でアルバム「火の玉ボーイ」でメジャーデビュー 。翌1977 年にムーンライダーズとして初のアルバム「 MOONRIDERS 」を発表し、以降コンスタントにリリースを重ねる。 1986 年から約 5 年間にわたり活動を休止したが、 1991 年にアルバム「最後の晩餐」で活動を再開。つねに新しい音楽性を追求するサウンドは、同年代だけでなく数多くの後輩アーティストにも影響を与えている。また、各メンバーが積極的にソロ活動も行い、それぞれプロデュースや楽曲提供など多方面で活躍中。
■公式ホームページ:http://www.moonriders.net/
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