Thom Yorke『Confidenza (OST)』
LABEL : XL
トム・ヨークにとって、2作目のサウンドトラックとなる本作は、じつに興味深いものになっている。ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ(以下LCO)と組むのは『サスペリア』に続いての事だが、プロデューサーにサム・ペッツ=デイヴィス(『サスペリア』、ザ・スマイル『ウォール・オブ・アイズ』)、ドラマーにトム・スキナー(ザ・スマイル)、管楽器にロバート・スティルマンを起用しており、トム・ヨークの現在の人脈が存分に活かされている。本作の一番の聴きどころは、トム・ヨークがキャリアを通して培ってきたジャズ~クラシック~アンビエントの文脈がこれまでとは違った形で練り上げられており、それぞれの境界線を静かに侵食している点だ。上記の3つのジャンルのどれを追及しても「トム・ヨーク」というフィルターを通したオリジナリティ溢れるサウンドになっており、その完成度は『サスペリア』を大きく上回り、彼のソロ作品の中でもとりわけユニークな作品になった。
Jason Treuting 『Go Placidly with Haste』
LABEL : Cantaloupe Music
ソー・パーカッションといえば、この連載で何度もその固有名詞を記載してきた。今、世界で最も活躍しているパーカッション・グループのひとつと言っても過言ではないだろう。そんなソー・パーカッションの創設メンバーであるジェイソン・トロイティングの新作は、精密にコントロールされつつも、野心的なリズムと音色が詰まったパーカッション・サウンドとエレクトロニクス、ヴォーカルが混然一体となった魅力的な作品になっている。サム・アミドン、yMusicのアレックス・ソップ、プライベートのパートナーでもあるヴィオラ奏者ベス・マイヤーズをはじめ、多彩な顔触れを召喚し、キャッチーな歌モノからハードなインプロヴィゼーションまで、極めて多様な音楽性を扱っているが、どれも捻ったアイディアがサウンドに込められており、一筋縄ではいかない卓越したセンスを感じる楽曲ばかりだ。本作が現代音楽のフロントラインといえるレーベル〈カンタロープ〉から出るのは頷ける。
Caroline Shaw and Sō Percussion 『Rectangles and Circumstance』
LABEL : Nonesuch
キャロライン・ショウとソー・パーカッションのコラボ作品といえば『Let the Soil Play Its Simple Part』(2021年)があるが、それを凌駕する傑作がここに誕生した。ソー・パーカッションの実験的なパーカッション・サウンドが、卓越したシンガー兼作曲家であるキャロライン・ショウとじつに上手く溶け合っており、楽曲の構成は極めて実験的であるにもかかわらず、じつにポップに響いている。そのポップさは、共同プロデューサーのジョナサン・ロウ(テイラー・スウィフト、ザ・ナショナル)が引き出している部分も大きいだろう。クラシック~現代音楽の畑から出てきた音楽家たちがコラボレーションした結果として、このような作品がリリースされ、それを紹介できるということだけでも本連載をやっていて良かったと心から思える。最後の楽曲がフランツ・シューベルトというのも彼らの出自を体現しているようで見事だ。キャロライン・ショウは現在のクラシック~現代音楽の中でもっとも重要な人物の一人なので、要注目であると念押したい。アタッカ四重奏ともコラボレーション作品をリリースしており、こちらも素晴らしい出来なので、マストチェックだ。
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