ATAK過去作配信第7弾、世界的芸術家たちを捉えたドキュメンタリー映画のサウンドトラック2作品

2017年9月11日より、渋谷慶一郎の主宰レーベルATAKの過去作品が毎月11日に配信リリースされる。OTOTOYでは各作品に関して、毎回、ライター、八木皓平による渋谷慶一郎本人へのインタヴューを行い解説とともに配信をお送りします。第7弾は、『ATAK017』に続き2作のサウンド・トラック作品。渋谷慶一郎が作曲・演奏・レコーディングの全てを自らのスタジオで一人で行った、限りなくソロアルバムに近い内容の作品で、世界的写真家、杉本博司のドキュメンタリー作品、映画『はじまりの記憶 杉本博司』のサウンドトラック『ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto』。もう1作は、こちらも世界的な芸術家、荒川修作を捉えたドキュメンタリー作品、ドキュメンタリー映画『死なない子供、荒川修作』のサウンドトラック。ことらも渋谷慶一郎のソロ・アルバムといっていい感覚の体制で作られた作品。

インタヴュー : 八木皓平

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まずは先日、横浜赤レンガ倉庫で行われたライヴの話から

──とりあえず渋谷さん、先日はありがとうございました! ようやくお会いできてうれしかったです(笑)。

注 : 本連載はメッセンジャー・アプリでのチャット対談のため、実はふたりはこれまで一度も直接会っていない。2月17日に神奈川・横浜赤レンガ倉庫 1号館にて開催の「横浜ダンスコレクション2018」での、渋谷が音楽を手がけるダンス作品「Parade for the End of the World」および、中村としまる、ピーター・ナイト、ジョー・タリアを迎えた特別ライヴ「Quiet Storm for Four Musicians」の現場にてはじめて直接面会した。

ですね。ついに出会った的な。

──公演前日、渋谷さんがあげていたジェレミーとジュスティーヌの喧嘩動画を観て、明日の公演大丈夫かなってビビってましたよ。

あの感じは、連日ですよ。ちなみに初日は僕が怒りました(笑)。

──そうなんですね(笑)。でも、ああいうのが作品にとっていいんだろうなと。

思いっきり言い合えるから、気持ちの良い関係ですよ。

──ですよね。

あの感じ、日本人だとビビっちゃって無理ですよね。単純に「渋谷さん怖いよね」とかになっちゃうんだけど、それもちょっとなあと思います。

──そして、結果、ぼくが観た3日目は強烈でしたね。

すごかったでしょう。

──振り付け、映像、音楽とそれぞれの情報量が異常に濃厚なので、全部合わさると人間の認知を完全に超えてるんですよね。だから、あと2、3回観たいくらいです。PAもヤバかったですし。

把握できない情報量というのは原作の元のパラードにもあって、それを当たり前に推し進めた感じです。サウンドシステムは完璧だったでしょ、

──『THE END』以上かなとすらおもいましたね。

サウンドシステムのエンジニアは、『THE END』と同じ金森(祥之)さんですね。

──どうりで……。

本当に細かいところまで詰めましたね。

──ノイズの粒立ちが体感できるくらいのクオリティでした。

「リアのスピーカーを0.3db上げましょうか」とか話して。

──あの音はそのレベルの調整ですよね。

僕の耳もかなりのとこまできてて「メインの後ろのサブ・スピーカー、左側すこしレベル下がってませんか?」とか言って、それで調べてもらったら、0.5db落ちてたという(笑)。

──すっげえ。

動物に近づいてます(笑)。

──低音もすごい破壊力でしたね。ぼくの近くに座ってた子供が喜んでましたよ(笑)。

子供は喜び、老人は弱るという(笑)。

──老人(笑)。

『THE END』同様に客席の真下にもサブ・ウーハー仕込んであったんです。ボワッと広がる低音じゃなくて、下から突き上げる感じで(笑)

─あ、どうりで!!!! その話聞けてよかったー。あの、ボトムが体を抜けていくような感じは、そうじゃないと説明がつかないようなものでしたからね。

『サンレコ』の國崎(晋)さんもすごい喜んでました。

──國崎さんとはあのあと、朝の3時くらいまでずっと渋谷さんの話を中心に盛り上がってました(笑)。

その話、聞きたかったな。そのときの話は、八木くんが酒を飲みすぎて吐いたという話しかこっちにはきてないです(笑)。

──おかしいな…… もっと大事なことをたくさん話したのに!!! ま、でもそれも真実だからしかたないです……。

トイレでゲロってたという場所まで指定してました。

──体調がもともと悪かったんですよ(笑)。っていうか、いいですよ、僕の話は!(笑)。『Parade』は元ネタとまったく違いつつ、リズムはそのままというところはありますが、ほかにも随所で連続性が担保されてて、それが素晴らしかったですね。元ネタの現代性も実感しつつ。

その上で最終部で完全に裏切っているというか。

──はいはい。

1部の途中まで周到に構造を同じく作っていき、最終部は、その続きでやるのではなく、途中まで進んでいた1部を完全に脱構築、そしてリミックスして駆け抜けるという。

──実際、あのフィナーレは音楽だけとっても、渋谷さんのネクストレベルですよね

そう思います。情報圧縮型の極北。

──ピッチを持ったノイズ、細切れになった情報が一挙に押し寄せて。あれは(ゲルハルト)リヒターに着想を得たんでしたっけ。

そうですね。

──年始に日本でやってた回顧展のやつですか?

それではなくて、比較的近作でストライプの作品があるんです。

──あ、ありましたね!これですね→"New Strip Paintings and 8 Glass Panels".(http://www.wako-art.jp/exhibitions/data/2012/gr2012/)

あれは1枚のアブストラクト・ペインティングを半分に切断して、それをさらに半分にとやっていって、最終的に4200分の1くらいまで細切れにすると、ストライプになるんだけど、そのストライプを構成してる線はもともとアブストラクトな膨大な情報を持っているペインティング作品だから線の中の情報を脳が把握しきれなくて、単なる絵画なのに目の前に立つと線が揺れてるように見えるんです。

──それを音楽化してやったわけですね。

そうそう。着想レベルですけど。音楽でできることももっとあるしできないこともあるから。

──『Parade』を使って。

自分が作ったParadeの第一部を素材に、そうやったわけです。


こちらはオリジナルの「Parade」


こちらは2016年5月27日、28日にパリで行われた「Parade for The End of The World」の模様を納めた動画

──あれ、10.2chで聞いたら、ぶっ飛ばされましたよ(笑)。ぼくは渋谷さんに音源自体はいただいて聴いていたのですが、別次元の感覚でしたね、

あれはサラウンド向きの音楽ですね。ただし、あの楽曲がサラウンドじゃないと成立しないというほど衰弱なものでもなくて。なので、あの方向で突き詰めてアルバムを作ろうかなとか考えてます。

──アルバムきた! あれ、でもレイヤー構造じゃないというのはほんとに凄いですね。

連続性のみで出来ているという。

──で、それがありがたいことにカセットの『ATAK023』に収録されているという。

あれ、売り切れてしまって、見事に幻のテープ作品になりました(笑)。

──っていうかあのカセット、リリースの発表も公演直前だったので、焦りましたよ(笑)。ぼくが買う前に売り切れるんじゃないかと。

テープだしね。あらゆる意味でなかなか聴けないという(笑)。

──公演後に「カセット、まだ、ありますか」って。息切れしながら尋ねましたからね(笑)。

そういう人になってましたね(笑)。でも、このリリース形態は、僕なりに考えてやったことで、つまり100本のカセット・テープで新作発表って、ほとんどの人が聴けないわけで。

──ですね。

発表したという事実と聴きたいという欲望があるだけでしょ。実際の音は想像の中でしかなくて、言ってみればApple Musicのサブスクリプションとか、Youtubeみたいにいつでもタダで聴き放題みたいものの逆なわけで。この作品の完璧な状態で聴きたければ公演に来るしかないという。

──カセットというフォーマットでリリースするというアイディアは、いつ頃決めたんですか?

年末くらいかな。

──なるほど。まだまだこの前の公演の話も尽きないのですが、今回の本題の『ATAK018』にいきましょうか。

はい。

編集の段階では『for maria』から抜粋して、映像に曲を当ててたんですよ

2012年4月25日オリジナル・リリース
Keiichiro Shibuya / ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin Hiroshi Sugimoto
01. Five Elements
02. Lightning Fields
03. The Day After
04. Architecture
05. Theaters
06. Timeless
07. Study
08. Mathematical Models
09. Empty Garden
10. Lightning Fields2 / W.H.F Talbot 他、全16曲収録




【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 1,050円(税込)

──本作は『ATAK017』に引き続き、カタログの見え方としてはサントラ・シリーズの一環という感じですよね。でもコンピ的だった『ATAK017』と『ATAK018』とはまったく性格の違うものになってて。

言ってみれば『ATAK018』と『ATAK019』は、サントラという枠組みがあるものの、ほぼ僕のソロ・アルバムですね。ソロとしてある枠を設定してやりきった感じです。

──そして、本作『ATAK018』はざっくりいえば宅録ですよね。

ざっくり言わなくても宅録です(笑)。自分のスタジオにある普段作曲で使ってるピアノに自分でマイクを仕込んで、夜な夜な静かになった頃にDSDでレコーディングをしていました。ピアノの隣りにラップトップを置いて、自分でレコーディングのスタート / ストップ・ボタン押して。そして、あとからその素材をコンピュータで編集するという。

──マイキングは工夫しました?

アースワークスというピアノ専用の物干し竿みたいなマイクがあって、それを買って、それのみで録音しましたね。要するにマイク・スタンドを立ててないです

──『for maria』の、ホールでのDSDレコーディングとは全然違うわけですよね。方向性は違うものの、それでもクオリティは甲乙つけがたいということでビビりましたね。

おなじDSDでも全然違いますね。やはり自分のスタジオだから、部屋鳴りもわかっていて。それでも自分で試し弾きして、それをDSDに録って聴き返して「マイクの位置はこっちかな」とか微調整して。徹底的に自分の耳の感覚でできたのが良かったんだと思います。僕は別にレコーディング技術の基礎とか知らないですけど、これは自分の耳でやるとこうなるという音ですね。

──これって、ピアノの蓋の反響というか響きも大きいんでしょうかね。

この作品は、「響き」と言われる要素をなるべくカットして、打鍵の瞬間の生々しさだけを録音しようとしたんです。

──あ、これは言われてみれば、打鍵がちゃんと入ってるのは確かに面白いですね。

ピアノのハンマーが弦を叩いているのが見えるような音にしたくて。タッチノイズとか弦のノイズとかも入れてます。

──でもいわゆる宅録のピアノ音楽にありがちな、「パーソナルな音楽」とかじゃなく、解像度が高いから聴いててけっこう異様なんですよね。

パーソナルというよりは、生理的ですね。

──ですよね。ピアノの生々しさが出てて。

このアルバムは女の子にすごく人気があって、このアルバムのピアノの音が一番好きだという感想をよく聴きました。

──へー!なんでだろう。

彼女たちはすごく生理的に聴くから、

──あ、なるほど。面白いですね。

この音像の近さが多分良いんでしょう。客観がないというか。

──で、作品としては、このピアノはめちゃめちゃプロセッシングされてて、そういう意味ではすごく渋谷さんらしい、コンピューターとピアノの隔ての無さみたいなのを感じますね。

そうですね。逆に録れたワンテイクがすごく良くて。となりの部屋の話し声とかも、うっすら入ってるけど、そのテイクを使ってるというのもあったりします。あとはピアノの椅子のノイズが「ギーッ」とか言ってるけど、演奏が良いかそのテイクを使ってたり。この場合の演奏が「良い」というのは、上手い下手じゃなくて夜中に自分でスタジオで弾いてるから、やはりすごくリラックスしてるんですよね。それは普通のレコーディングじゃできないことかな。

──こういう作品になったのは、映画の影響なのか。渋谷さんのモードだったのか。そのあたりはどうでしょう。

まず、この作品には2つの話があって。1つ目は、監督の中村祐子さんは、杉本(博司)さんにずっと密着してこの映画を撮影しいて、その編集の段階では『for maria』から抜粋して、映像に曲を当ててたんですよ。

──あ、テンプ・トラック(映画の製作段階で、劇伴が必要なシーンに既存の楽曲を借り当てすること)が渋谷さんの音楽だったんですね。

だから、そもそも音楽を頼むとしたら僕しかいないという状況だったんです。

──たしかに。

で、『for maria』を当てていたので、僕にピアノでやってほしいというのが最初にあって、このプロジェクトははじまったと。2つめはもともと僕が杉本さんの作品のことをすごく好きで、尊敬してるアーティストなんですね。

──ですよね。

それで、最初のオファーの段階で杉本さんのサヴォワ邸の作品をジャケットに使わせてもらえてATAKからリリースできるならやりますと答えました(笑)。

──素晴らしいジャケですもんね。

元データも頂いて相当色も緻密にやったのですごい仕上がりですよね。

──音楽的内容と密接に繋がりがあって。

杉本さんのそのサヴォワ邸の写真もそうなんですけど、建築シリーズというのがあって。

──ありますあります。

無限大の2倍というフォーカスで名建築を撮ると、かろうじて輪郭がわかるくらいに、すごくぼやけて写るという。で、杉本さん曰くこの姿が建築家の最初のインスピレーションで、建築はそこから実際に建てるまでに様々な現実的な制約があって、もともとの理想からは遠のいていくという。だから、このぼんやりとした建築の写真が建築家の最初の想像力、つまり理想形を表しているというコンセプトの作品シリーズがあるんですね。

──クリティカルな話ですよね。

そこでこの作品でピアノを使うのは決まったけど、じゃあピアノでこの建築シリーズみたいなことを出来ないかなと考えたときに、「ピアノの音」と言われた時に人が普通に想像するのはタッチの瞬間、つまり「ド」とか「レ」とか弾かれた瞬間の音ですよね?

──そうですね。

でも、例えばピアノの鍵盤に腕の全部を乗せて「ガシャーン」と弾いてペダルを踏むとずっと音が伸びている状態になる。

──はいはい。

最初はいわゆる「ガシャーン」という不協和な現代音楽みたいな音がするけど、それをずっと伸ばしてると響きが溶け合って気持ちの良い音響に変化していく。そこでペダルを離さないで完全に音が消えるまで聴いていると、それは最初の「ガシャーン」という印象とはほど遠い響きになるわけです。で、時間としてははるかにこっちの方が長いわけだから、この溶け合った残響の方がピアノの本質と言うこともできる。だから、音が鳴る瞬間のアタックを取り除いてピアノの音楽を作れば、従来のピアノでは出来なかったような音楽になるし、それは見えない本質をあぶり出すと言う杉本さんの建築シリーズとも対応するだろうと思ってやってみたんです。それで、ひたすら自分のスタジオで腕とか肘とかで鍵盤を押して、ピアノのトーンクラスターをレコーディング、それで打鍵の瞬間をコンピュータでカットした音の素材を作りって組みあせたりしたのが最初かな。最初はそのアタックのないピアノの残響だけで作ろうかと思ったんだけど、音楽としてそれだけだとあまり面白くなかったのと映画音楽としてオーダーに応えられないから、結果的には弾いたりした部分が増えましたけど。

──「単なるドローンですね」という感じになりかねませんしね。普通に弾いてる断片とかもたくさんあるけど、この作品のコアはアタックのないピアノの音響ですね。

──あ、じゃあ本作の打鍵とそのあとの響きはものによっては別なんですか?

それを別にしてるところもある。例えば「ドレミファソラシド」というメロディの「ドレミ」はある日にレコーディングした音で「ファソラシ」は別の日なんだけど、編集でつなげてひとつのメロディみたいにしてることもたくさんやってます。

──へー! それは聴いててわからないですね。

そう、聴いてわからないんだけど、なんかところどころにモーションとエモーションが分断されてるような感じがあるでしょう。

──それはあります。

それはそのせいです。

──そういうことか! なるほどなぁ。

すごいでしょ、なかなか(笑)。

──音響がひたすら循環したり…… 。

リヴァースしたりね。

──そういう音響効果が、本作はすごいですよね。

まるで幻覚のようにね。時間が伸縮したり止まったりというのは杉本作品の本質だと思うから、それはフルに意識して作ってますね。ちなみにアルバム・タイトルになってる最後から2番めの曲があるいわく付きで。

──おっ。

これが使われたのは一番重要なシーンなんだけど、監督がここだけベートーヴェンの弦楽四重奏を使いたいとか言ってて、それに対して僕は猛反対して(笑)。

──いい話だなぁ(笑)。

それより良いのを作るからとか言って、自分のスタジオで打ち合わせ中に即興でササッと弾いたんです。それを完成させた曲が「Memory of Origin」というタイトル曲になってます。

──渋谷さん、必ず何かエピソードあるのなんなんですか(笑)。

そういう人生なので、死んだ時の伝記とか面白いと思います(笑)。

──楽しみにしてますって……あ、楽しみにしちゃだめか(笑)。でもこのアルバムも、毎回言ってて言い飽きてるんですけど音がめっちゃよくて。

うん。

──奥田(泰次)さんとキムケン(木村健太郎)さんが関わってるんですよね。

奥田さんもだっけ?

──クレジットには「Recording Support」で書いてありますけど。

ああ、確かマイクを借りたんだエア用の。

──あ、なるほど(笑)。

「サクリファイス」のピアノとヴォーカルだけのテイクは自分のスタジオで録ったんだけど『ATAK018』に関しては、結局エア・マイクは使わないでアースワークスのステレオ2チャンのみで録りました。

──そうなんですねぇ。

それも自分の耳で聴いて判断したというか。

──そろそろ、またソロ・ピアノのアルバム作ったりしないんですか? 待ってる人は多いと思うので。

と、よく言われてます『for maria』のリリースが2009年だから。

──あ、やっぱり。

2019年に出そうと思ってたんだけど。

──おお。

2018年3月の現状では、気持ちがデジタルにいっててどうしようかなと思ってます(笑)。でもそろそろ『for maria』の次のピアノ・ソロをリリースしないとなとは思ってるから、あとはスケジューリングかな。

──待ち望んでいますので、なにとぞ実現を……。というわけで、イイ区切りですかね。

うん。

このサントラは3.11をまたいで作られた

2013年9月13日オリジナル・リリース
Keiichiro Shibuya / ATAK019 Soundtrack for Children who won’t die, Shusaku Arakawa
01 天命反転のテーマ
02 ヘレン・ケラーのために
03 建築する身体
04 死なないための葬送曲
05 夢
06 意味のメカニズム (with Madeline Gins)
07 天命反転のテーマ (Rhodes Piano version)
08 ミステイク (with Madeline Gins)
09 アナザーテクスチャー1
10 アナザーテクスチャー2 他、17曲収録




【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 1,050円(税込)

ATAKの公式ショップにCDの僅少在庫あり

──つぎの『ATAK019』は、ある種のサントラ・シリーズの終着点ですけど、荒川修作さんとは何度かお会いしてるんでしたっけ?

うん、そんなに多くないけど。亡くなられる前に何度かはありますね。

──刀根さんの話の時にも、荒川さんの話題が出ましたし、色んなインタビューや映像などから察するに、やっぱりけっこうぶっ飛んでる感じの人なんですか?

荒川さんのことも僕は大ファンで、中学生の時に作品集買って眺めたりしてました。すごいチャーミングな人ですね。

──あ、そうなんですね!彼は(マルセル)デュシャンに可愛がられた人なんですよね。

荒川さんは、デュシャンには、天才だとめちゃくちゃ認められてましたね。

──ですよね。そのつながりで、ウォーホールなんかにも会ったとどこかで読みました。

荒川さんが初めてニューヨークに着いた時に空港に迎えに来たのがオノ・ヨーコさんだったという話もどっかで聞いたな(笑)。

──当時のオノさんは一柳(慧)さんと一緒の時代だったんでしたっけ(編集部注:一柳とオノは1956年に結婚、1962年の離婚)。

かな? よくわからないけど、でも荒川さんはモテるだろうなと思いました。

──あ、そういう感じなんですね!

会った印象だとすごくそう思ったな。

──初めて会った時に、すでに荒川さんが渋谷さんの音楽聴いてたりしなかったんですか?

自分の『filmachine phonics』を持っていたのでその場でヘッドフォンをつけてもらって聴かせたら、「おお、縦があるんだな」って言ってくれて。

──へーー!!

「私ならこの音楽でダンスを作る。後ろ向きにしか移動しないダンスを作る」とか言いだして実際に後ろ向きに歩いてましたね、初対面で(笑)。

──キュートな方ですね(笑)。

僕が「昔の絵画作品がすごく好きで、ずっと見てました」とか言ったら「私はもう美術はやらない、生命と建築しかやらないんだ」とか言うから「でも、絵うまいから描いた方がいいですよ」と言って、そしたら照れたような笑い顔で「そうか?」とか言ってたのが印象的だったな。

──なんかグッときました……。

「絵、うまいんだからとか」とか荒川修作に対して言う僕も大概ですけどね(笑)。

──大物にそんなこと言っちゃう渋谷さんのエピソードにはそろそろ慣れました(笑)。

しかも初対面で。まわりはそれを見てドキドキしてたと思うんだけど、僕は相当にリスペクトある人にしかそうはしないから本人が怒り出すとかいうことはないんです(笑)。

──でもああいうレジェンドたちって、そういうこと気にしないですよね。素直に喜んでくれますよね。

なぜか荒川さんとは非常に波長があって、NYに作る予定の新作のビルに恒久設置のインスタレーションを一緒に作りましょうとか話してたんだけど、それは実現できなくて非常に残念だった。

──それは残念ですねぇ。

相当面白い人でしたよ。その後紹介されて、池上高志(注:東京大学大学院情報学環 教授、複雑系と人工生命などが専門)さんに知り合ったんだけど。

──あ、なるほど!

僕が荒川さんに相対性理論とやるコンサートの招待状を送ったら

──ああ、そういう時期か……。

「渋谷くんはすごいな、複雑系の次は“相対性理論”か!」とか言っていて(笑)。

──めっちゃ笑いました(笑)。

「いや、そうじゃなくて」みたいな(笑)。

──池上さんと言えば、マドリン(ギンズ / 注:荒川修作のパートナー)の声は彼が録りに行ってくれたんですよね?

そうです盗み録りですね(笑)。

──え、そうなんですか(笑)。

あの、本当にかなり狂ってる人で荒川さんが「あんな頭のおかしいやつは自分くらいしか面倒見れない、そう思ったから結婚した」とか言うくらいなんで(笑)。CDのために朗読してほしくてなんちゃらとか言ったら、一生できないけど、結果が良ければ喜ぶでしょうと事務所の人に言われて。

──それも凄い話ですね(笑)。

でしょ(笑)。でも、実際できたものは喜んでたらしいです。「なんで私の声が!」みたいな。

──でもほんとにいいヴォイスですよね。はつらつとしてて、明晰で。

いや、でも盗み録りしてましたすいませんと言うことなんだけど(笑)。これはCDにする時に絶対に欲しいなと思って、だから映画の中にはないんだけどあとからはめたんですよね。

──あ、そうなんですね!

うん。

──音楽作品としては、こちらの方があまりにもハマってるじゃないですか。

でしょう。

──そういうものとして音楽が作られたのかと思いましたね。

映画の中でも話してる人はいるんだけど、「ちょっとなー」と言う感じでそこの部分の曲はそのままで、アルバムでは声だけ差し替えたのかな。

──へー! この作品は、渋谷さんが第三項音楽を次の段階に進めたものとして捉えてるんですけど、ご本人としてはどうでしたか。

そういう側面はすごく強いかもしれない。

──ですよね。ピアノやヴォイスというレイヤーが足されて。

第三項音楽を音楽化すると言うか。

──すごくよくわかります。

そう言う意味では、非常にこの時期の僕の問題意識と通底している作品で、ソロ・アルバムとはいえ、やはりソロ・アルバムに近いですね。

──その問題意識と言うのは、どういったものでしたか?

こういった音楽が、ノイズ・ミュージックに回収されない方向性はあるのかな、という。

──あー、なるほど。

マルチ・チャンネルじゃなくてステレオで第三項音楽をやるとどうしても情報過多でノイズになっちゃうんですよね。

──そうですよね。

じゃあ、それを別の風景と組み合わせたらどうなるかなという。

──そういう意味では、このアルバムは構成がよくできてて。1曲目で渋谷さんが仰ってたテーマを見事に提示してるんですよね。

そう、それで2、3曲目はかなり変わったことができたなと思っています。

──これ、サイレンスをめちゃめちゃシャープに音楽化しててびっくりしたんですよね。

あまりそれまでの僕にないタイプのサイレンスの使い方ですね。

──そうですよね、というか他でも聴いたことないです。

これはオートマティックにノイズの素材をミックスするプログラムが走っていて、そこに膨大に録音したものを編集したんです。

──なるほどなぁ。

このサイレンスの挟まり方は人間じゃできない、予測不可能性があるでしょ。

──いや、ほんとにそれで、だからいわゆる「現代音楽」のサイレンスじゃないんですよね。こういうやり方があったのかという。

現代音楽の「シーー」っみたいなサイレンスは僕はかなり苦手です(笑)。

──でしょうね(笑)。

なにをやってんねん、とか思う(笑)。

──ちょっと一曲目に戻るんですけど、これ、ピアノの音が独特な気がするんですけど、そんなことないんですかね。具体的に言うと、ノイズに隠れないで、でもピアノの定位で鳴っているという。

これはどうやったんだっけな……。ピアノの部分は…… いまでも覚えてるけど、渋谷の東急プラザの地下に当時八百屋があって、僕がそこでネギとか野菜買ってたんですよ(笑)。

──渋谷さん、たまにいきなり生活感出してきますよね(笑)。

それでレジかなんかでTwitterみてたら、荒川さんが亡くなられたというニュースが流れてて、「ガーン」というショックを受けて、で、その時にマドリンか、彼のオフィスが公式に出したコメントが「Reversing Desteny──天命は反転する」というもので、僕はとっさに「これは悲劇ではない」とツイートしたんですよね。それから、帰宅して自宅のピアノでそのまま作った曲なんです。だからコラールみたいでしょ。

──ほんとですね。これ、特に“Rhodes Piano version”がよくて。渋谷さんのピアノは基本的にローズと相性良い印象あります。

これはね実はKORGのKRONOSのプリセットを少しいじっただけで、本物のローズじゃないんです。

──えっ。わからなかったです(笑)。

本物のローズでも確か録ったと思うんだけど、クロノスの音の方が曲に合っててこっちを使ってたと思う。この時期よく弾いてますね。

──ローズと言えば、「死なないための葬送曲」で反転させて使ってますよね? 後半で。これ、見事ですよね。

そうそう。これは12音技法じゃないんだけど、自分でモードというか音階作って。

──そんなことをやってるでんすね(笑)。

そうそう(笑)。その音階で和音を作るというのをやってて。そうやって色々やってるからマンネリにならないのです(笑)。というのもその和音が柱みたいに並んでるのが荒川さんがその後、国立国際美術館でやる展覧会のメインになってる棺桶シリーズみたいだなと思ってそのモードの和音の連続でできてるんですよ。で、同じ曲をローズで弾いて、こっちは本物のローズね。

──すげー面白いですね(笑)。

それを「Reversing Desteny」、つまり反転させて、逆走させたら笙(しょう)みたいになって、「これはいいな」と思って。

──なってますね。

曲の真ん中からもとの曲に重ねたという。

──聴いてて一瞬、あれ、笙かな?って思いましたもん(笑)。

本当にね。

──「ナンバーズ」は曲名も音的にも、渋谷さんが以前にやったジョン・ケージ生誕100年のプロジェクトを思い浮かべてしまいますが、実際それとの連動性ってありますか。

そのオマージュですね。ケージの「ナンバーピース」の。あと、これはまだCD盤が残ってて

──おお。

荒川作品の元データから、起こした作品が多数ジャケットにプリントされてるからCDもオススメです。

ATAKの公式ショップにCDの僅少在庫あり

──この作品は、全部曲名が荒川さんの作品名になってて。

割と映画に沿ってます。

──音楽もそれと何かしら結びついてるのが面白いですよね。そういう制約(?)のなかでよくぞここまで自分の実験性と結びけられるなと。

それは『ATAK018』と共通ですね。自分の実験性と結びつけられるのは好きなアーティストだからですね。で、もちろん荒川修作は原体験でもあるから。

──あ、なるほど。中学生の頃からですもんね。

うん。だから良い仕事です、音楽家は。

──自分の音楽性の中にも荒川さんがいるかもしれない、という。

やってれば憧れてたアーティストに会えて、仕事も一緒にできるという、それはすごくあると思う。

──渋谷さんはほんとにそうですよね。

なぜかそうですね。だから今後も楽しみ。

──あ、あとひとつ。これは重要なんですけど、最後の「死なない子供」で「for maria」がくるのは感動しました。

これはエンドタイトルが本当に難しくてなかな作れなかったんです。海のシーンでね。

──はい。

で、なにかどうしても「for maria」が合ってる気がして、ただ、ここに収録されているのはかなりヴァージョンというか弾き方が違うでしょ。

──そうですよね。

しかも初対面で。まわりはそれを見てドキドキしてたと思うんだけど、僕は相当にリスペクトある人にしかそうはしないから本人が怒り出すとかいうことはないんです(笑)。

──やー、ほんとうにそういうものは、リスナーにも伝わってきたと思います。知り合いはみんなあそこで泣いたっていってました(笑)。

あ、そうなんだ。

──はい。

僕も非常に感慨があったな。「for maria」は今ではいろんなヴァージョンがあって、それぞれコンサートでも弾いてるけど弾くたびにあれから遠くに来たもんだな、と思いますね。今回は、というところでしょうか。

──ですね。

第8回に続く

第1弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第2弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第3弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第4弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第5弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第6弾配信作品の解説インタヴューはコチラ


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PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作にピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』『ATAK020 THE END』、パリ・シャトレ座でのソロコンサートを収録した『ATAK022 Live in Paris』など。また、映画「はじまりの記憶 杉本博司」、ドラマ「TBSドラマSPEC」など数多くの映画・TVドラマ・CMの音楽も担当。2012年には、初音ミク主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」をYCAMで発表。同作品は、その後、東京、パリ、アムステルダム、ハンブルグ、オーフス、アブダビ、ジョージアなど世界数カ国で公演が行われ、現在も上演要請が絶えない。2016年にはサティ、ピカソ、コクトーのコラボレーション作品「Parade(パラード)」のリメイク「Parade for The End of The World」をパリで発表。2017年にはパリ・オペラ座でパリ・オペラ座・エトワール、ジェレミー・ベランガールとビデオ・アーティストチームのエイドリアンM & クレアBとのコラボレーションによる「Scary Beauty」のダンスバージョンを発表。最新作はアンドロイドとオーケストラによるモノオペラ「Scary Beauty」で今年9月に初演が決定、その後は世界巡回が予定されている。これまでにアーティストの杉本博司、複雑系研究者の池上高志、ロボット学者の石黒浩、パリ・オペラ座・エトワールのジェレミー・ベランガールなど数多くのアーティスト、またルイヴィトンやピガール、エルメネジルド・ゼニアといったファッションブランドともコラボレーションを展開している。現在は東京とパリを拠点に活動を展開している。

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