ATAK過去作配信第4弾、今回はパン・ソニックや灰野敬二のライヴを収めた初の動画作品も

2017年9月11日より、毎月11日に、半年に渡って渋谷慶一郎が主宰レーベルのATAK過去作品を配信リリース。OTOTOYでは各作品に関して、毎回、ライター、八木皓平による渋谷慶一郎本人へのインタヴューを行い解説をお送りします。第4弾は、2006年リリースの渋谷慶一郎、中村としまる、ノルベルト・モスランによるスリリングなライヴを収録した『ATAK008』。2007年リリース、渋谷慶一郎の、世界初の三次元立体音響を実現したヘッドフォンによるリスニング専用の作品『ATAK010 filmachine phonics』。そしてレーベル初の映像作品となったライヴ作品『ATAK011 LIVE DVD ATAK NIGHT 3』(動画データを配信)の3作品となっている。

インタヴュー : 八木皓平

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曲に聴こえるけどこうは作曲できない、僕にとってそこが即興の醍醐味

今回は『008』からだっけ?

──ですです。今回は『ATAK008 Keiichiro Shibuya+Norbert Moslang+Toshimaru Nakamura』、『ATAK010 filmachine phonics』、『ATAK011 LIVE DVD ATAK NIGHT 3』の3本です。

2006年8月13日オリジナル・リリース
Keiichiro Shibuya+Norbert Moslang+Toshimaru Nakamura / ATAK008
01. 3'42 / Keiichiro Shibuya
02. 3'57 / Keiichiro Shibuya
03. 3'49 / Keiichiro Shibuya
04. 2'39 / Keiichiro Shibuya
05. 6'20 / Keiichiro Shibuya
06. 7'32 / Keiichiro Shibuya
07. 1'17 / Keiichiro Shibuya
08. 10'30 / Keiichiro Shibuya
09. 4'04 / Keiichiro Shibuya
10. 5'30 / Norbert Moslang
11. 5'52 / Norbert Moslang
12. 3'29 / Toshimaru Nakamura
13. 10'00 / Toshimaru Nakamura

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 1,050円(税込)

『ATAK008』は2007年?

──2006年、8月リリースですね。

これは〈ATAK〉で一番セールスに苦労したアルバムで(笑)。

──超とがってますもんね(笑)。

とがってますね。当時、あのとがってたmariaが、この方向でリリースを続けるとレーベルが潰れるからやめようと言ったくらいです(笑)。

──〈ATAK〉のリリースで一番ノイズが鋭いですよね。

というかこの作品はコンテクストも複雑なんです。2005年くらいから始まった東京大学の池上高志さんとの「第三項音楽」という人工生命やカオスのデータをデジタルノイズを作って音楽も作るという非常にマキシマリズムなプロジェクトと、当時、Off-Siteを中心とした形式的にも音量的にもミニマルなノイズ、実験音楽という真逆なものがいきなり衝突してるんですよね。

──Off-Site系のメンツがガッツリ入ってるのでビビりますよね。今見るとすごいメンツ。

よく事故らなかったという。

──いや、それほんとに。むしろすごく混ざってますよね。

これ、CDの前半の僕ととしまるさんとノルベルトのトリオは〈ATAK NIGHT2〉というイベントのライヴ録音なんです。〈ATAK NIGHT2〉はOff-Site勢と、そこに準ずると言ってしまっていいのかわからないけどスイスのインプロヴァイザーたち、そこに僕、evala、mariaという、〈ATAK〉勢の中に、さらに高橋悠治さんも参加していたという。

──ほんとにめちゃくちゃな濃度ですよね。コンテクストが。Off-Site勢としては中村としまるさん、杉本拓さん、秋山徹次さん、宇波拓さん…… 。

あ、悠治さんと杉本拓さんのセッションは事故ってましたね(笑)。

──いやー、それ観たかったですね。

全くセッションが噛み合わず、間に挟まれたジェイソン・カーンが当惑するという。昔の後期UWFみたいでした(笑)。

──そのたとえヤバい(笑)。

イベント自体はすごく面白くて、このガチにノイジーなメンツで会場は超満員という。現代音楽の人たちが来てビビってました。

──あ、このメンツで超満員はやばいですね!

女の子の客とか多かったりして。

──いまの感覚から言うと全体的になにかがおかしいですね(笑)。

チケットは売り切れというか、入場規制してたくらいです。

──すごいなぁ。いまだったらありえないですよね。当時の空気ならではというか。

実験的な音楽に関しては、日本ではこの頃がピークですね。今また少し面白いけど、10年代の初頭にかけてすごい勢いでそういったものが後退していったなという印象があります。

──そうですよね。

この『008』に収録されている中村としまるさんとノルベルト・モスラングと僕のセッションは奇跡的にピタッと合ったというか。「これで即興ってすごいね」という感じになったんです。そういうことって時々あって、去年の年末にやった菊地成孔さんとのセッションもそうだったんだけど、曲に聴こえるけどこうは作曲できないという。僕にとって即興の醍醐味はそこなんですね。


2017年の渋谷慶一郎、菊地成孔とのセッション

──この手の集団即興って、各々が好きなことをやって、とか役割分担が実はできてて、みたいなのが明確なことありますけど、これはそういうのを全く感じないセッションですよね。

クズみたいなダラダラした時間が続いたりすることがありますね(笑)

──言い過ぎ(笑)。

このセッションに関してはクリシエがないけど、ただ時間が流れって行っちゃうような弛緩もない。終わった瞬間にとしまるさんがすごくいい笑顔だったのを覚えてます。というか、彼は一緒に演奏しててすごい演奏家だなと思いました。

──どういうところがすごかったですか?

このライブ以来、僕はずっととしまるさんのことを尊敬しています。時間と空間と他の音、演奏者との距離の取り方が自在で、ノイズとか物質性とか言われる人は非音楽方向に偏りがちだけど、としまるさんの中に音楽の否定弁証法みたいなのがないんですよね。すごく音楽的な人です。

──そうじゃないと、即興でこの高密度な持続はないですよね。ある種のバランス感覚がきちんとあって。

なんか不思議な縁を感じています。前にパリでとあるアーティストをとしまるさんから紹介されたことがあるんだけど。その人が「としまるさんはあなたの音楽が大好きで」とか聞いて、最近はこの頃だいぶ違うことやっているので耳を疑いました(笑)。

──良い話ですね(笑)。としまるさんは他の収録されてる曲も素晴らしいですよね。即興ならではのもので。

これで音源はノーインプット(入力しない)ミキサーとエフェクターだけだからね。ノー・インプットのミキサーから出ている回路のノイズを外部のアナログ・エフェクターでコントロールして、ここまで音楽的に演奏できるわけでしょ。すごいよね。

──ノルベルトさんは、どういう機材を使ってたんでしょう。

ノルベルトは、静かに狂ってる人でしたね(笑)。彼は光を演奏してるんです。

──この作品情報に関して、ATAKのサイト(https://atak.jp/ja/music/atak008)には赤外線を利用したエレクトロニクスとって書いてありますが、いまいちイメージがわかなくて。

発光する機械から音出してたな。赤外線もそうだけど、ともかく光を音に変換してるんですよね。

──じゃあ、視覚的にもかなりすごいんですね。

ライヴ中、ずっと発光してました(笑)。

──すごい(笑)。渋谷さんは、ビートや周期性にたよらず、アンビエントにもならず、という演奏ですよね。

この時の機材はラップトップと少しだけノイズジェネレーターとしてプロフェット5を使ってましたね。

──〈ATAK Night 2〉でのラップトップ勢は他には?

evala君とmaria。だから〈ATAK〉勢は、暗黙にしかし強固にラップトップ主義だったわけです。

──あ、ATAK勢はそうか。

あと悠治さんもラップトップでしたね。ライヴ中も、みんな肘をついてラップトップをいじってましたよ(笑)。悠治さんも「第三項音楽」には興味を持っていて。当時は“アンチ・演奏 / アナログ”みたいな明確な姿勢が僕たちにはあった。だから、このイベント自体はある種のイデオロギー闘争でもあったんですよね。『ATAK 008』はその唯一の記録ということになりますね。

──色んな意味で、当時の実験音楽の空気をパッケージングしてるんですね。

で、この前、言いかけたんだけど、としまるさんとまたやりましょうという話があって。

──前回最後に出た、あのライヴの話というのはとしまるさんとのことだったんですね! それはアツい情報ですね!

そうそう。ピーター・ナイト(Peter Night)というオーストラリアのトランペッターがいて、彼は僕がアデレードで初演したアンドロイド・オペラのオーケストラ・リーダーで、かつインプロヴァイザーなんですよ。で、彼が日本に来るんですよ。だけど、その時期が横浜赤煉瓦倉庫の『Parade for The End of The World』(音楽をエリック・サティ、美術をパブロ・ピカソ、脚本をジャン・コクトーが担当した、1917年にパリで上演された舞台作品『Parade』の現代版を作るプロジェクト)の時期と丸かぶりで。

──来年2月(2月15日~18日)ですね。

そうです。だから出来るとしたら、『Parade』のどの日かの終演後に同じセット、サウンドシステムでやるしかなくて。主催の横浜ダンスコレクションと交渉してて、ついに決定しました。そこにスペシャルゲストとして、としまるさんも加わってもらおうと。彼は世界的に有名な人なのでピーターは死ぬほど喜んでましたね。

──すげー。

僕とピーター・ナイト、中村としまるさん、あとジム・オルーク・バンドのドラマーのジョー・タリアを加えて4人のカルテットで、2月17日(土)のParade公演終了後に同じく赤レンガ倉庫で19時からということで決定しました。横浜ダンスコレクションとATAKの共同主催で、詳細は後日に発表します。

──おお…… でも、これ一度限りのスペシャルセッションですよね。ではそろそろ『ATAK 010』にいきますね。

これは絶対にヘッドフォンで聴いてください

2007年2月2日オリジナル・リリース
Keiichiro Shibuya / ATAK010
01. data logi/tm_vertical and diffusion
02. jet horizontal/variation of aggression
03. CA_r18
04. CA_r110/guernica_war piece
05. logistic white haze_invisible film and machine









【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 1,050円(税込)

ATAKの公式ショップにCDの僅少在庫あり

──これはそもそも、インスタレーションだったんですよね。“filmachine(フィルマシーン)”という。

そうです。2006年に山口のYCAMで作って、そのあとベルリンでやったときはハイナー・ケッペルズが来て絶賛してくれて。彼のオペラに初演してくれたサイモン・ラトルも紹介してくれたという。


──すげ~。ベルリンの方が、日本よりウケよかったとかあります?

僕の作品はたいがいそうです。filmachineのライヴのヴァージョンみたいな公演のときも過去にベルリンでやっていて。そのときの対バンがカールステン(ニコライ)で、会場は超満員だったんだけど。僕のライヴが終わった瞬間、10分くらい拍手が止まなくて、持って来たCD約120枚がすぐに売り切ったのを覚えてる(笑)。

──売れすぎですね。

mariaが客席にいた、マイケル・ナイマンを楽屋に連れて来てくれて。そこで話したら「これは未来の音楽だ」とか言われたな。

──さっきから固有名詞が豪華すぎますって…… 。

次の日からベルリンのクラブとか行くと、来てた客から握手攻めとかで。とにかくfilmachineとそのライヴ・バージョンはベルリンで大受けでした。

──でもこういう音の3次元移動って、ヨーロッパで前例ありそうなものですけど、ないんですよね。

あったとしても、この精度のものはないと思う。すごく面白いきっかけでこれは生まれたんですよ。2005年くらいに、YCAMからオファーされてインスタレーション作ることになって、あれこれ調べていて。最初はソノルミネッセンス使おうとか、色々やってたんだけど。ある日、家でテレビ観てたら、「カウントダウンTV」かなんかやってて「くだらねーな」とか思いながら寝っ転がりながら観てたんですね。

──突然のお茶の間感(笑)。

そうしたら聖飢魔IIがアン・ルイスの「六本木心中」をカヴァーしてて、

──この時点で出てる単語が面白すぎるんですけど(笑)。

そのPVのCGでは、スライムみたいなものがビヨーンとか伸びて、飛んで来るみたいなやつだったんですよ。で、当時「ATAK diary」というのを毎日ウェブで書いていて。今でいうブログですね。そこに「あのPVのCGの動きみたいなことを音でできないかなぁ」とか書いたんですよ。そうしたら次の日コメント欄に「できるんです」というコメントがあって。それが久保さんという方で、当時「Huron」という音像移動とか音響シュミレーションの機材を扱ってる代理店の人だったんですよね。で、その久保さんが「Huronを使えば出来ますよ」とか言われて。代理店まで見に行ったら、スピーカーの位置と関係なく、音が本当にボールみたいに移動してて。しかも残響のつけ方もかなり精密にできるから、体験してみたらびっくりして。「これだ! 新作のインスタレーションは」となったんです。

──すげえ話ですね……圧巻です。

でしょ。音像移動のプログラムで無数に点を増やしていけば、ジェット機のような音の移動とか、自分を通り過ぎる音とかできるなと瞬時にわかったの。

──ただそのシステムも合わせて、作曲をするのに時間かかりません?

すごいかかる。というかevalaくんとふたりで、2ヶ月くらいの間、毎晩、朝まで東大の研究室にこもって「ホワイトノイズが自分を突き刺して通り抜ける」とか音の実験をしてました。

──『ATAK 000』の制作プロセスもすごかったですが、『ATAK 010』も気が狂いそうですね。

うん、これは完全にオリジナルものができたと思ってます。似たものがない。

──久保さんとであった出会ったときは、池上さんと面識は?

池上さんとは2004年に出会っていて、2005年にはICCで最初のインスタレーションを発表してます。ただ「第三項音楽」のノイズは情報量が多すぎて、普通のスピーカーだと情報過多で知覚できないみたいになってたから。filmachineのように音像データにも、カオス・アトラクター使うというのは福音でした。低音が移動するというのはパラダイムシフトでしょ。

──ほんとにそうですよね。

テクノでもなんでもキックとベースは、土台なわけだから。

──縦の移動っていうことを考えたときに、リズムについてはどのように考えてたんでしょうか?

それは発見で。僕、実は海が好きで毎年海に行って泳いでるんですね(笑)。で、これを進めていた頃、葉山のビーチハウスみたいなとこでマッサージを受けてたら波の音が気持ちいいじゃない?

──はい(笑)。

でも波の音って周期的にはランダムですよね。

──あー、たしかに、波が単純なリフレインなわけがない。

みんなミニマルなビートが気持ちいとか、固定された拍がないと音楽が難解なものになってしまうイメージがあって、固定された拍が音楽では好まれていて。でもランダムな波の音は気持ちよくて、「これはなぜだ?」とか考えながらマッサージ受けてたんだけど。それは波の音がステレオ・チャンネルじゃないからなんですね。

──あー、なるほど!

LRの2スピーカーは2で割り切れるビート、即している。

──そうかそうか……。

「波というのは音像的には面だし、2つのスピーカーという制約を離れると非周期的なビートというのは気持ちいいんだ!」とわかって、マッサージ受けながら興奮してましたね。

──それを聞いて、ぼくもいま大興奮してます(笑)。

だから特に3曲目の「Ca18」だっけ、この曲を聴いてもらうとわかるけど、非周期的なリズムが縦方向というか縦横無尽に動いてますよね。でもあんな気持ちいいビートはなかなかないですよね。

──やー、おもしろい。あとでまた聴き直します。

これは絶対にヘッドフォンで聴いてください。あとはこのインスタレーションをYCAMまで観に来たサンレコの國崎さんが、当時松下電機にいた飯田さんという音像移動の研究者を紹介してくれて。飯田さんは携帯の着信音で「馬の足音が走り回る」とか、そういうものを作ってた人なんですけど。なのでヘッドフォン音響とか音像移動の専門家ですね。『ATAK010 filmachine phonics』は、飯田さんとevalaくんと松下電機の研究所で作ったんです。

──filmachineを音源化するのはかなりたいへんそうですよね。

(インスタレーション以外は)諦めていたから。だから國崎さんにはすごい感謝しています。

──國崎さんの暗躍によって可能になったんですね。

この頃から暗躍する人になってたんですね。これ、CD盤もまだ少しだけ在庫があってこれもジャケットが『ATAK000』と同じで、スーパー・ブラックですね。

ATAKの公式ショップにCDの僅少在庫あり→https://atak.stores.jp/items/50436ae656ea709623000713

──実は、ぼくが初めて買った〈ATAK〉作品がこれでした。

そうなんだ。この盤でATAKのジャケット定型が出来たりして、ものすごいこだわっていて、というかこの作品はすごい思い入れあったからリリースも気合入りまくってて、最初のゲラ段階では、黒のレイヤー違いでタイトルとか書いてあったんだけど、その仕上がりが良くなくて僕がゲラ見てブチキレて、全てやり直しとかになり、いまのデザインになったのでした(笑)。たしか、発売遅れたりしたんじゃないかな。

──渋谷さんの丁寧な解説付きなので、これはぜひCDでも在庫があるうちは買ってほしいなと強く思います。音がどう動いてるかの詳細がよくわかるんですよね。あれを読むと。

'*OTOTOYでご購入の方にもCDと同内容の解説PDFを後日配布予定です。'

最後の曲は、ドローンですけど、これだけ音が動きまくってるドローンというのは通常は不可能ですね。

──同時にいくつもプログラムを走らせて作るんですよね?

いや、元の制作はfilmachineの24.2チャンネルのインスタレーションのセットの中に、僕とevalaくんが机を並べて入って作曲して、同時に池上さんとmariaがプログラムどんどん走らせて、音を作っていき、それらを一定の法則で組み合わせて、同時に音像を動かすプログラムをHuronで書くというものでした。全て同時進行だから、今考えると気が狂ってます。

──狂ってますね。このアルバムの三次元移動って、ボリュームの変化が重要ですよね?

それはすごくそうで、移動の顕著な瞬間に合わせてボリュームを書いてるんですね、そうすることで知覚的に強化されるという。

──えっと、じゃあコンプとかはほぼかけないという感じなんでしょうか。

かけたのは、リミッターだけかな。「このプログラムで作られたこういう音の連続は、この音像移動のプログラムと相性がいい」とかやりながら発見していくんです。実は、この辺の技術は『THE END』でも駆使されてるんだけど。正直、mariaが死んでいなかったら、一生こういう作品を作ってる可能性もありましたね。

──『ATAK 019 Soundtrack for Children who won’t die, Shusaku Arakawa』『ATAK 020 THE END』あたりは、すごく本作と連続性を感じますね。

そうですね。電子音響的にはいくところまでいってると思います。

──参照例がない、前例がないっていうのは完全に試行錯誤だなと、当たり前のことを認識しましたね。

マルチ・チャンネルの作品とか近年すごく増えてるけど、これを超えるようなダイナミズムはまだ聴いたことがないです。

電子音楽と〈ATAK〉という意味では最初のピーク

2007年10月10日オリジナル・リリース
Pan sonic Keiichiro Shibuya Keiji Haino Goem evala / ATAK011 LIVE DVD ATAK NIGHT 3
01. ATAK NIGHT 3












【配信形態 / 価格】
こちらは動画作品です
動画データ購入 1,050円(税込)

──次は映像作品『ATAK011』。これは〈ATAK night 3〉なんですよね。

そうです。

──その映像化と。〈ATAK night 3〉はツアーだったんですよね。

そうそう。確かツアーの公演は京都が最初かな。

──何か所くらいだんたんですか? 渋谷さんがツアーするイメージがあまり無くて(笑)。

山口、京都、東京の3箇所です。あ、国内のツアーってこと?

──はい、国内で短期間にツアーするっていう。

たしかに最近は国内はしてないですね。でもこのツアーは面白かったな。

──けっこう場所のセッティングとかたいへんそうですよね。

すごく大変で。しかもレーベルとしてはこのツアーを主催していたから、それこそ飛行機、新幹線の手配からすべてのオーガナイズもするから。実質、mariaがそういうのはやっていたんだけど。

──そうですよね。トラブルとかはどうでした?

トラブルというか、とにかくオーガナイズ自体が大変で。そのせいで自分のライヴの準備が差し支えて。確か僕自身のライヴ、最初の山口と京都公演とかは散々だったな。で、悔しくてツアー中ずっとホテルでアップデートし続けていて。

──オーガナイズやりながらだと、事前のライヴの準備もままならなそうですもんね。

最終公演がここに収録されている東京のライヴなんだけど、でも、そのアップデートが功を奏してこの時はすごく満足でした。僕のライヴだけ映像がエキソニモなんですよね。


『ATAK 011 LIVE DVD ATAK NIGHT 3』のサンプル動画

──へー! 映像作品も音響もクオリティ凄いですよね。

素晴らしかった。音響は当時AOさんというエンジニアと組んでいて。たしかMartin Audioのラインアレーとか〈UNIT〉に持ち込んでましたね。なんでもやる時は徹底的にやるんですよ。しかも赤字も出さないという(笑)。

──観客、めっちゃ盛り上がってますよね。

すごかった。

──叫び声がきこえる(笑)。

当時の日記が出てきたから引用します。

「僕は彼らに刺激されてツアー中も朝までライブの素材を作り直す日が続き、これは完成かも、と思ったのは最終公演の開始2時間前、2月23日の21時だった。というわけでこのツアーは自分を無理矢理ググッと更新する感じがあった。そもそもこのツアーの発端は彼らの音を本当に高い解像度で聴いてみたい、近くで一緒に音楽をやることは刺激になるはずだということだった。そのために全公演ともサウンドシステムは万全を期した。特に代官山UNITでの東京公演ではMartin Audioの最新のラインアレー・システムによる四方向からのサラウンドを持ち込むことによりフロアでの体感は凄まじく、脳が震えるような低音と高密度な音の粒子が舞うような中高域のバランスはこれまでに聴いたことのないレベルだったと思う。Goemはオランダを拠点に20年以上に渡って電子音楽の最前線をリードしている人物だが、彼をしても今回のサウンドシステムや特に東京の超満員のオーディエンスの音色とリズムの微細な変化や精度に対するビビットな反応は驚きだったようで、確かにそこには繊細な狂気と新しい音楽への欲望が渦巻いていた。そんな中では最初に書いたアナログとデジタルの二項対立など些細な問題だし、誰も聴いたことがない音色とリズムの新しい音楽のかたちが見えた瞬間も何度かあった。音楽は止まらない、なんていう言葉が演奏中に一瞬よぎったのは寝不足と熱狂のせいだけじゃない」(2007.10.29)。

──でもこれ、いつものことながらメンツすごいですが、その中でもやっぱり灰野(敬二)さんが強烈ですよね。灰野さんとは親交合ったんですか?

パン・ソニックのミカ(・ヴァイニオ / MIKA VAINIO)が灰野さんの大ファンだったんで、そこから、思いついたんだけど。

──なるほど!

灰野さん自体はどこで知り合ったのかな……忘れてしまったけど、やはり僕は常に「ミニマルでかっこいい電子音響」みたいなイベントには一石投じたいという気持ちが強くて。だからイベントの中のノイズとして灰野さんに「3分だけ出てください!」というオファーをしたんだよね。これ当日までシークレットでした。

──これは、観客嬉しかったでしょうね。

パン・ソニックのライヴが終わって、僕のライヴがはじまる前にMCで「スペシャルゲスト、灰野敬二」って僕がアナウンスしたら、みんなすごくびっくりしてました(笑)。

──灰野さんとパン・ソニックは、いってみれば演奏としてはアナログ勢ですよね。

そうですね。

──渋谷さんはパン・ソニックとツアーをしてて、やっぱり刺激うけました?

そもそも僕は大ファンだったから。

──ですよね

これのかなり前に渋谷のラブホテル街のなんとかっていうライヴ・スペースでライヴは観てたんです。当時から「すごいかっこいいなぁ」と思っていて。ミカは、そのときTR-808を使ってたんですよ。


──へー!

TR-808でハンドメイド・シンセを同期させていたと思う。でも、そのあとTR-808は重いし、運搬中に壊れたりしたら大変だからってことでMFBのものとか他のリズムマシンにしなってたかな。

──なるほど。

でも、そのほかのリズムマシンになってからは、やっぱりちょっとグルーヴが違っていて。「うーん」と思っていたんだけど。ここに収録されているライヴのときは全く関係なかったですね。演奏がすごい。

──強烈な完成度ですよね。

そう、完成されてるんだよね。

──これをみた観た後、他のアナログの電子音響聴けないレベルです。

確かに。相方のイルポ(ヴァイサネン / Ilpo Väisänen)の演奏レベルもすごいし、やはりミカが音楽をすごいよく知ってるんだよね。

──それは『ATAK012』のミカのリリースにもつながってきそうですね。

うん。このツアーの時に何回かセッションもしたんだけど、ミカがリズムに使ってるディレイがすごく良くて。なにを使ってるのか教えてもらったら、LexiconのMX200というディレイで。それは僕もその後に買ってTR-808を使う時は組み合わせてます。

──あー、そういうダイレクトな影響というか学びもあったんですね。

あとミカは、耳でやりたいからって言って、波形とか一切見ないんですよね。

──すごいな……。

MPCを使っていたときもあったけど、MPCのディスプレイで波形は見てないとか言ってたと思う。動物のような人でしたね、すごく優しくて。そういえば、ミカは一度、別の機会にお母さんを日本に連れて来たことがあって。恵比寿の駅で待ち合わせてびっくり寿司に3人で行ッタリしたな(笑)。

──え、お母さんときたんですか!

すごくお母さん思いなのよ。

──日本でのライヴに連れてきたってことですか?

いや、それはプライベートな旅行だったと思う。耳もいいけどグルメなんだよね。灰野さんがベルリンのミカの家に行ったらベジタリアン料理のフルコースを作ってくれたって言ってました。

──なるほど。渋谷さんは、ミカとはけっこう色んな話をしたんですね。

彼はなんというか味わい深い人でした。だから今年、4月に突然亡くなって本当にショックだったな。あと、evala君もこの時のツアーでいまに繋がるようなスタイルを見つけた感じがするな。

──evalaさんはここに収録されているライヴでも非常に精密に音をコントロールしてますよね。

うん。

──実は、evalaさんのライヴはこれで初めて観ましたけど、これは凄いなと。

だからこのツアーはすごく濃かった、体験として。ライヴをやるごとに成長するような。

──渋谷さんの学びも非常にあったんですね。

あったし、電子音楽と〈ATAK〉という意味では最初のピークでしたね。

──ATAK的には、ここで初期のひとつの区切りといえるんですね。

うん、そうですね。会場では、なんかオーディエンスも勝手にビートを探して踊っている感じで、それがすごくよかった。

──このライヴ映像は、映像作品としても優れてますよね。エディットもめちゃめちゃ細かくて。

そう思います。エデットは僕がやったところがかなりあって。当時、逢坂芳郎君というビデオ・アーティストと組んで映像は色々やっていたんだけど。毎晩のように彼のアパートに行って、一緒に編集してて「ここは音に合わせて1コマづつ映像を変えたい」とか僕が言い出して、ファイナル・カットの使い方教わって自分でやったりした時もありました(笑)。

──この手の音楽のライヴ映像って、動きが少なくてのっぺりしてるものがけっこうありますけど。これは映像が音楽に負けてなくて、拮抗しててすごいなと。しかもほぼ3時間ですからね(笑)。

うん、予算もすごくかかったし、すごく作るの大変だった。で、これすごく大変な思いしてこれ作った後に違法レンタル店で勝手にレンタルされてるのを友だちから聞いて、日曜日の昼下がりにmariaと高円寺とか御茶ノ水で3軒くらいハシゴして行って、シメました(笑)。

──そうやって手間かけて作ったものをレンタルされてたらなんて、作った本人としてはたまったもんじゃないですよね。

その場で二度とレンタルにはしません、とか書かせたりして(笑)。

──渋谷さん、1作1作におもしろエピソードあってすごいですね(笑)。

大変な人生です(笑)。

──当時は笑いごとじゃないかもですけど。

ネットが今ほど普及してなかったからすぐアップされちゃうとかなかったんですよね。だから、違法レンタルとかされると売上にもろに響いて、レーベルとしてはダメージ大きかったから。

──そうですよねぇ。インディペンデントですからね。

そうそう。『ATAK 011』には六本木の〈Superdeluxe〉でやった〈ATAK NIGHT3〉よりもフリーなセッションも追加で入っていて、こっちもすごくいいんですよね。これも僕がかなり編集した気がする。

──灰野さんがフルート吹いてるの初めて観ました。

あれはインパクトありますね。

──しかも、実にいいという。

このときのミカのソロのライヴもすごくよかった。

──そうですよね。


なんかミカはボックスで武満徹全集とか日本で買ってて。それは、あのライヴを観た時にすごく納得した記憶がある。

──「地平線のドーリア」とか好きそうですね

それは僕もすごく好きです。

──あ、そうなんですね!

オーケストラを書く時は、必ず「地平線のドーリア」のスコアを見ますね。アレンジャーやってた頃、坂本美雨ちゃんの「時雨の森」という曲のストリングス・アレンジをした時に「地平線のドーリア」みたいなアレンジにしたことあったな。あ、そうだ、このDVDはCDクオリティでマスタリングもしているんだ。だから音がすごくいいです。

──音良すぎですよ(笑)

確か「48kHz / 24bitの音質でもいける、CDよりも音がよくできる」とかキムケンスタジオで騒いでたな。

──普通こういうものって、音はかなり圧縮されたやつで作るじゃないですか。

そうそう。

──これはほんとに音良すぎですよね~。あれ、これはATAK初の映像作品ですか?

そうです。すごくオススメです。

──『ATAK 008』のときも言いましたけど、というかいつも言ってる気がしますけど(笑)。〈ATAK〉の作品って、当時の実験音楽シーンのドキュメントにもなってるんですよね。〈ATAK〉の作品って初期はそういうカラーがありますけど。そういう意味でもぜひこれはみんな観てほしいなと。

うん。あと、すごく時間かけて作っていて、それが作品として功を奏している。本当は配信したくないくらいだったんだけど(笑)、もう在庫もないしオクラ入りにするのはもったいないから、今回初めて配信することにしました。

──パン・ソニックと灰野さんのコラボなんて他じゃ映像観れないでしょう。

今日あげた3作品とも、だから今でも観たり、聴いたりすることに足るものになっている。実験的という鎧をかぶったものってその辺が雑なことが多くて、僕はそれにはアンチです。

──やっぱりそこ実験性や尖ったコンセプトだけじゃなく、音楽のに身体的な快楽を重視する、というのはほんとに大切ですよね。音の良さなんてそれの最たるもので。

ハードル上がるからね、作品は理論を超えないといけないから。

──全く同感です。だから、渋谷さんの作品を人に勧めるときは、気持ちいいよってススメてます(笑)。

そこが一番難しいから。文脈共有してない人の評価はすごく大事だと思います。

第5回に続く

第1弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第2弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
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PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作にピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』『ATAK020 THE END』、パリ・シャトレ座でのソロコンサートを収録した『ATAK022 Live in Paris』など。また、映画「はじまりの記憶 杉本博司」、ドラマ「TBSドラマSPEC」など数多くの映画・TVドラマ・CMの音楽も担当。2012年には、初音ミク主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」をYCAMで発表。同作品は、その後、東京、パリ、アムステルダム、ハンブルグ、オーフス、アブダビ、ジョージアなど世界数カ国で公演が行われ、現在も上演要請が絶えない。2016年にはサティ、ピカソ、コクトーのコラボレーション作品「Parade(パラード)」のリメイク「Parade for The End of The World」をパリで発表。2017年にはパリ・オペラ座でパリ・オペラ座・エトワール、ジェレミー・ベランガールとビデオ・アーティストチームのエイドリアンM & クレアBとのコラボレーションによる「Scary Beauty」のダンスバージョンを発表。最新作はアンドロイドとオーケストラによるモノオペラ「Scary Beauty」で今年9月に初演が決定、その後は世界巡回が予定されている。これまでにアーティストの杉本博司、複雑系研究者の池上高志、ロボット学者の石黒浩、パリ・オペラ座・エトワールのジェレミー・ベランガールなど数多くのアーティスト、またルイヴィトンやピガール、エルメネジルド・ゼニアといったファッションブランドともコラボレーションを展開している。現在は東京とパリを拠点に活動を展開している。

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