INTERVIEW : 出戸学(OGRE YOU ASSHOLE)
2012年9月19日 、OGRE YOU ASSHOLE 『100年後』リリース・イベント。ぎゅうぎゅう詰めの代官山UNITのステージに登場した彼らは、OTOTOY TV♭の『RECORD YOU ASSHOLE』時と同じように、淡々と登場し、丁寧に1曲づつ演奏していった。今度は、自分達が作った曲のみを。そして、もっとも極限の、もっとも気持ちいい場所を探しながら、見つかったとたん、その場所は自分達のものだと言わんばかりに、心地よいノイズの嵐を降らした。ゆらゆら帝国との仕事で知られる石原洋をプロデューサーに、中村宗一郎をエンジニアに招いているため彼らと比較されることもあるが、それは、決してネガティブな意味ではない。ゆらゆら帝国という究極のバンド生物に最も近い存在であるのは、現存するバンドの中では、OGRE YOU ASSHOLEであることを、この日のライヴで確信した。
また、メンバー出戸学、馬渕啓、勝浦隆嗣と前述の2人で創り上げた音源『100年後』は、ライヴに負けず劣らず、凶暴で心地よい。メロディや歌だけでなく、アレンジや音響効果、そしてジャケット・デザイン等、細部までこだわって作られていて、隙間だらけなのに、まったくもって突く所がない。名盤は、偶然で出来るものと意図して出来る二種類があるが、本作は、間違いなく後者である。3度の『RECORD YOU ASSHOLE』、LIVE Ustream、そして今回の出戸へのインタビューのそれぞれで、少しずつこの『100年後』という作品を読み解くことができた。この場を借りて、彼ら3人に感謝をしたい。そして、読み解いてわかったことは、結局本作は名盤であったということだ。
インタビュー : 飯田仁一郎(Limited Express (has gone?) / BOROFESTA / OTOTOY)
文 : 小澤剛
OGRE YOU ASSHOLE / 100年後
1. これから / 2. 夜の船 / 3. 素敵な予感 / 4. 100年後 / 5. すべて大丈夫 / 6. 黒い窓 / 7. 記憶に残らない / 8. 泡になって
【配信形式】 wav
【価格】 単曲 250円 / アルバム 1,800円
100年というのは何かが終わるひとつのターンだと思う
――『100年後』を作るにあたって目指したことやテーマはありましたか?
出戸学(以下、出戸) : 前作の『homely』に漂っていた終末感のようなものや、何かが終わっていく感じを表現したいと思っていました。終わっていくことに対してジタバタしないというか、終わっていくことを受け止めつつ、静かな気持ちで終わりを見るというか。メンバーにはそういうアルバムにしたいという話をしていましたね。
――たしかに終末感をものすごく感じました。終末感を表現しようと思った理由はあるのでしょうか。
出戸 : それは、子供の頃から自分の中にあった資質なのかもしれないです。100年後には、今いる人間がみんないなくなるってことを考えると、ちょっと悲しい気持ちになる反面、どちらかというと落ち着くんです(笑)。ちょっと心が静まるような気持ちになるというか。
――落ち着く?
出戸 : 今あるものが全部終わっているってことを考えると、ちょっと寂しさみたいなものもあるけど、落ち着かないですか?
――落ち着かないかな(笑)。いや、落ち着かないというよりも、考えたことがないです。
出戸 : 自分が死ぬこととか考えないですか? 「俺はいずれ死ぬんだな」みたいな。あと、僕もいつも考えているわけではなくて、たまにですよ。100年というのは何かが終わるひとつのターンだと思うんです。それで、『100年後』というタイトルを付けました。
――それは出戸君の100年後のことですか? それとも世界や他の物事の100年後のことですか?
出戸 : それは何でもいいんだけど、今から100年後という感じではないですね。何かから100年後とかっていう感じかな。物事が終わるひとつのターンが100年くらいだと思うんですよ。人間が死んでいくまでのタームというか。それは恐怖ではなくて、静かな気持ちで終わりを迎え入れるという感じです。そういう終わりを表現したかったんです。
――それは所謂、達観というやつなんじゃないですか?
出戸 : 達観という部分もあるかも(笑)。
――出戸君は昔からそういうことを考えていたのかもしれないけど、その思いがどこかで加速したのかなと感じたんですね。例えば、OGRE YOU ASSHOLE(以下、オウガ)が長野に活動拠点を移したことがきっかけになったのか、もしくは地震が起こったことや原発で大騒ぎしていることが関係しているのかなって。
出戸 : もともと持っていた資質ということもあるんだけど、そういうことを表現する自信がついたってことなんじゃないかと思います。以前は、このフレーズをどう弾こうかみたいなプレーヤー気質に寄っていた部分があったんです。今はそれよりも、どういう質感の曲にするかに力を尽くすことが出来るようになってきたというか。それが『homely』あたりから出てきたのかな。
――表現に対する自信がついたのには、きっかけがあったのでしょうか?
出戸 : 自信がついたというよりも、今までとは違う方法でやりたいという思いがありました。これまでは、4人でセッションをしながら曲を作っていたんです。そうすると、4人の均等な場所に楽曲が落ち着いていたというか、楽曲がピンポイントに収まっていくような感じで。
――僕もバンドをしているので、それはよく分かります。
出戸 : あとは、方法論が似てきてしまったということもありました。スタジオで練習しているときと、その音をCDにパッケージするときはテンションが違いますよね。そこに違和感みたいなものがあったので、ライヴとCDを分けなきゃいけないと思いました。レコーディングをするときには、録った音に反応するほうが、いい作品になっていくことを学んだので、レコーディングしたものをスピーカーから流して聴いてみる。それからその音を咀嚼して、もう1回出す。バンドで構築したものを、レコーディングのときに解体していくということです。そういう方法で作ると、リスナーの気分を味わいながら作ることができるんですよね。
――解体することの楽しさを知ったんですね。
出戸 : そういう方法で作ったほうがいいものができるということを『浮かれている人』で知りました。今回はそこからさらに進んで、何かテーマを据えてアルバムを作ってやろうと思ったんです。
レコーディングでは繊細な音が出せる
――そこで、プロデューサーの石原さん(石原洋)とエンジニアの中村さん(中村宗一郎)が入ってきたわけですね。
出戸 : 石原さんと中村さんはインディーの頃から一緒にやっているんですけど、以前はバンドでがっちりと固めていたので、2人の前で解体していませんでした。石原さんは録音したものにコーラスを入れたり、ウワモノを乗っけたりするくらいで、解体して組み上げるという作業には携わっていなかったんです。でも、『浮かれている人』や『homely』あたりから、レコーディング中に少しずつ崩し始めて、中村さんや石原さんも含めて、みんなで作っていくという感じになっていきました。
――ライヴで2、3回やったような曲をレコーディングしようとしたときに、それは一発で録ってしまうんですか?
出戸 : まずはバッキングのギターと歌を録って、その後バッキングのギターがなくなって、ギターやシンセ、キーボードを加えていくという感じですね。
――アレンジがおもしろいなと思ったんですよ。それは後乗せだからなのかと思ったのですが。
出戸 : バンドでバン! って音を鳴らすと、繊細な音が出づらいじゃないですか。
――そうですね。
出戸 : レコーディングでは繊細な音が出せるんですよね。音の質感がよければ、それでいい。バンドでスタジオに入って音を出していると、そういうことが分からない。バンドをやっていてそういうことはないですか?
――それはめっちゃありますね。
出戸 : 本当は足りているのに、何か足りないんじゃないかと思って、音を足していってしまう。音が飽和していないと心配になるというか。レコーディングだとそういうことがなくなる。そういうことが分かったから、CDとライヴは分かれていきましたね。
――今のオウガはスリーピースですよね。『100年後』にはキーボードを使っている曲やツインギターの曲が入っています。そういう曲のアレンジは東京のレコーディング・スタジオのピースミュージックで作ったんですか?
出戸 : デモの状態で、キーボードが入っている曲やツインギターの曲もあります。中村さんから、「この曲とこの曲は似ているから、もっと違うリズムにならないですか」と言われることもあるので、そしたらその場で考えます。そこからリズムが変わって、どういう感じになるのか分からないまま進んでいくこともあったりしますね。
――中村さんはサウンド・プロデュースだけではなくて、楽曲のプロデュースもやっているんですか?
出戸 : そうですね。楽曲のプロデュースの話もできるんです。また、石原さんのアイデアで曲のイメージがガラッと変わることもありますよ。
――オウガが長野に拠点を移したのはいつ頃のことですか?
出戸 : 『浮かれている人』のときだから、2年前です。
――長野ではどんな作業をするんですか?
出戸 : 長野ではコード進行と歌メロを作っています。曲のベーシックの部分ですね。その中で半分ぐらいは最初の状態からほとんど変わらない。残りの半分ぐらいはガラッと東京で変わるって感じです。
――オウガは前身バンドが長いんですか?
出戸 : 長野でバンドは結成していたんですけど、今のメンバーは1人もいなくて、OGRE YOU ASHOLEというバンド名だけがありました。その状態で名古屋に行ってメンバーが変わって、4人になったんです。馬渕(馬渕啓)と勝浦さん(勝浦隆嗣)が入ったのも名古屋です。それで長野に戻って、ノリ(平出規人)が抜けて今の3人になりました。
――長野に戻ったのは何か理由があるんですか?
出戸 : 馬渕の地元が長野で、僕の地元も長野なんです。勝浦さんの地元は長野ではないけど、長野の大学に行っていて。そういうこと以上に、自分たちだけで使える練習スタジオを持ったことが大きいですね。
――長野と東京のピースミュージックは距離があるじゃないですか。そこは気になりませんか?
出戸 : そんなに気にならないですね。レコーディングをしている1ヶ月ちょっとの間は東京で生活をしているので、行ったり来たりはしていないんです。
――長野で作ったものを東京に持ってきてレコーディングをするというのには違和感はないですか?
出戸 : そこまで違和感はないかな。長野はゆっくりしてそうなイメージだけど、作るものはそんなに変わらないですね。あんまり意識したことがないかも。
――オウガは曲の構造やアレンジがおもしろいと思うんですね。Jポップと呼ばれる音楽にはAメロがあって、Bメロがあって、サビがあって、間奏があってという流れがありますよね。それが崩れているのが、オウガのいいところだと思います。そういうアイデアは出戸君が構築するんですか?
出戸 : 『100年後』の曲は馬渕が持ってきたものが半分で、僕が半分ぐらい。馬渕は歌メロは作らないんですけど、インストでも聴けるぐらいのものを持ってくるんです。そこに僕が歌を乗せるんですけど、そのときにコード進行を変えることもあります。あとは僕がコード進行と歌メロを作って、馬渕がアレンジをした曲がある。この2パターンですね。
自分達が納得したものを常に作れるようにしたい
――歌は出戸君がすべて書いてますよね。
出戸 : メロディーと歌詞はそうですね。
――出戸君の歌はとても独特だと思うんです。何か意識していることはありますか?
出戸 : 歌詞がジャマにならないようにしたい。説教っぽく聞こえるとか、言葉に耳がいってしまうとか、そういう感じにはしたくない。かといって、ものすごく意味のない歌詞もイヤですね。
――出戸君はいろいろな音楽から影響を受けていると思うんですけど、日本語の歌詞という面では、影響を受けているものはありますか?
出戸 : 僕は日本語のバンドの音楽をほとんど聴いていないんです。親が歌謡曲とかを聴いていなかったから。
――親がスティーリー・ダンを聴いていたみたいですね(笑)。
出戸 : そうです。日本語の歌は学校の音楽の時間や、ラジオでかかっているものとかテレビでかかっているものを聴くぐらいでした。日本語の歌に接している時間が少なかったから、誰に影響されたかということは分からないです。歌い始めの頃は英語でもいいんじゃないかと思ったけど、日本語にしました。日本語で英語っぽく歌うのがイヤだったんです。
――それはなぜですか?
出戸 : 自分が外国人ではないということもある(笑)。あとは、自分が日本語で歌ったときの独特の響きもいやな感じではなかった。日本語を使って聴き手にちゃんと伝わるように歌いたいと思って。
――英語ではなく日本語だからこそ、今のオウガがあるんだなと僕は思っていて。言葉がちゃんと入ってくるんですよ。歌詞を見ながら曲を聴いていて楽しい。これはすごいことだと思う。日本語で歌ったときの自分のスタイルはどこから見えてきたものなんですか。
出戸 : まだ研究はしたいと思っています。だから今日も大橋純子さんのアナログ盤を買ってきました(笑)。
――へえ(笑)。
出戸 : 日本語の音楽を全然聴いてこなかったから、新鮮に聴こえることもあります。
――今のオウガは6枚目のアルバムを目指していこうという状況なんですか? それとも、これからのツアーのためにアレンジを練っているんですか。
出戸 : 今は『100年後』の曲のアレンジを考えています。尺を伸ばしてもいいと思う曲があるし。どうしたらもっとライヴで伝わるのかということを考えたいですね。
――ツアーに向けて動いているという感じなんですね。
出戸 : そうです。
――オウガはゆらゆら帝国と同じ境地に行こうと思っているというか、行くような気がします。ゆらゆら帝国はこれ以上の作品は作れないと言って解散しましたよね。オウガも同じような道を目指しているのかなと思いました。
出戸 : 死ぬまでバンドをやるということもあるかもしれないけど、どこかで終わりがあるじゃないですか。これ以上の作品は作れないから解散というのは、バンドとしては美しい終わり方だと思います。でも、それを目指すというよりも、自分達が納得したものを常に作れるようにしたい。3人でそれができる限りはやりたいですね。3人でできることはどんどん変わっていくだろうし、それぞれもどんどん変わっていくだろうし、俺も変わっていくだろうし。その中でお互いに飽きさせない関係でいられたらいいですね。
――けっこう長いスパンで見てるんですね。
出戸 : すぐに解散しようとかは考えてないですよ(笑)。長いスパンで見てますね。
――『100年後』は本当にすごいアルバムだと思います。究極の域に達しようとしてるなあと思ったんです。だから、未来を考えるのも大変やろなあとも(笑)。
出戸 : まだやれると思うんです。いろいろやりたいこともあるし、アイディアが枯渇していない感じもする。『100年後』や『homely』にも恥じないような作品を作る自信はないけど、作りたいという欲求はある。作っている途中で挫折するかもしれないけど(笑)。そうならないようにもっといろいろな音楽を聴いたりしたいですね。
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2011年の初頭にデモ制作を開始し、メンバーによる永遠に終わらないマツリ・セッションを経て、2012年初頭より本格的レコーディングを開始したという本作は、これまで以上に研ぎ澄まされた作品へ昇華。作詞作曲、録音、ミックス、ジャケット、PV撮影編集など、マスタリングを除く全ての制作作業を向井秀徳がマツリスタジオにて行い、 70年代より数々の名作を手がけたUKの巨匠エンジニア、Kevin Metcalfe(The soundmasters)が、マスタリングおよびアナログ・カッティングを担当。ZAZEN BOYSの新たな名作がここに誕生!!
LIVE SCHEDULE
AOMORI ROCK FESTIVAL '12 〜夏の魔物〜
2012年9月22日(土)@青森県東津軽郡平内町夜越山スキー場
石橋英子『imitation of life』発売記念ツアー 名古屋
2012年9月30日(日)@名古屋 CLUB UPSET
森、道、市場2012
2012年10月20日(土)@三ヶ根山ロープウェイ山麓駅跡周辺
「100年後」リリース・ツアー
2012年10月13日(土)@松本ALECX(ワンマン)
2012年10月19日(金)@新代田FEVER
2012年10月21日(日)@横浜F.A.D
2012年10月27日(土)@札幌cube garden
2012年11月3日(土)@新潟CLUB RIVERST
2012年11月4日(日)@仙台MA.CA.NA
2012年11月9日(金)@福岡DRUM Be-1
2012年11月10日(土)@広島ナミキジャンクション
2012年11月17日(土)@名古屋CLUB QUATTRO
2012年11月18日(日)@大阪BIGCAT
ツアー・ファイナル
2012年11月24日(土)@SHIBUYA-AX
PROFILE
出戸学(ギター、ボーカル)
馬渕啓(ギター)
勝浦隆嗣(ドラム)