僕がカーネーションを知ったのは中学生の頃。何の曲だったかは忘れてしまったが、ラジオで初めて耳にした。今調べてみると彼らがコロムビアに移籍して、アルバム『EDO RIVER』を発表した頃にあたる。正直に言えば、僕はカーネーションの音楽を素通りしてしまっていた。今では信じられないくらい全体的にCDが売れていた時代で、NHK-FMでフィッシュマンズやTOKYO NO.1 SOUL SETなどを聴いてはいたものの、少ない小遣いはサザンオールスターズやMr.ChildrenのCDに費やす普通の少年だった。
それから15年近く経った今、カーネーションの3年振りのアルバム『Velvet Velvet』を聴いて、彼らの音楽の強度に驚いている。実験的なことをわかりやすい形で表に出しているわけではない。変に装飾することなく、王道といっていいくらい真っすぐなロックが鳴らされている。それにも関わらず、そこには誰も真似できないカーネーションという個性が宿っている。彼らの曲を表面上で真似できても、一番の核を真似することは絶対に出来ないだろう。

デビュー30周年以上を迎えたムーンライダーズが今年発表した『TOKYO 7』と同じように、カーネーションの辿って来た積み重ねが作品の核にはある。所属事務所の移籍、数度のメンバー・チェンジやレーベルの立ち上げなど、音楽周辺の出来事も彼らの音楽形成に大きな影響を与えている。しかし、直枝政広がOTOTOYのインタビューで「サウンド自体が何か目的を持って生まれてきたものだと思うので、その中にもう1度入り込んでいって歌詞を練り上げる」と話しているように、楽曲ありきの姿勢が垣間見える。そう考えると、当時からのオリジナル・メンバーが直枝ひとりだというのは必然とも思えるし、今作のサポート・ドラマーにタマコウォルズの中原由貴を迎えているのも結果として納得できる。これだけの月日をブレることなく進むことが出来たのは、直枝の音楽を作る姿勢が楽曲をメインにしているからであり、その上で表出方法を模索してきたカーネーションの楽曲を他のバンドが再現することはやはり難しいだろう。

それと同時に、この作品を聴いて内田樹の著書『表現者の航路』の一節を思い出した。フランス哲学を勉強していた彼がどうしても理解できない箇所にぶつかった時、それが理解できないのは自分の「生き方」が足りないからだと述懐する。「親の死を看取ること、子供を育てること、人を愛すること、愛する人を失うこと・・・そういう身銭を切った体験がないと一行一行に血と涙がにじんでいるような言葉はわからない」。中学生の頃、カーネーションの音楽を素通りしてしまったのは、僕の「生き方」が足りなかったからなのだろう。そう考えると『Velvet Velvet』がこれだけ素晴らしいと思えるのは、僕が歳をとって経験を積んだ証左とも思えて個人的にも感慨深いし、なによりこのようにして思いを馳せることが出来るのは、カーネーションが結成26周年を迎えてもなおシーンの前線で活動を続けているからなのである。ミュージック・マガジンのインタビューで、直枝が独立する際に体を壊していたことを話しているが、まさに身銭を切った体験を経て出来上がった作品として『Velvet Velvet』は今まで以上にフックのあるアルバムに仕上がっている。ただ一つ誤解すべきでないのはそうした苦悩が込められた作品ということではなく、幸福感に満ちているアルバムであるという事実である。音楽を作ることの喜びがカーネーションを、そして直枝を突き動かしてきたのである。

新作と共にコロムビア時代の音源が再発される。カーネーションのように苦楽を伴いながらもシーンの前線で活動を続けてきたアーティストが、これからの音楽シーンでより重要な意味を持つのは言うまでもない。聴き手の「生き方」がどうであれ、この作品に耳を傾けることから始まることは多いはずだ。多くの背景を濾過して出来上がった純粋な音楽を、これまでの軌跡とともに追体験することは何とも言えない醍醐味であり、非常に喜ばしいことである。(text by 西澤裕郎)

『Velvet Velvet』収録の「さみだれ」を高音質で


ニュー・アルバム『Velvet Velvet』より、「さみだれ」を24bit/48KHzの高音質HQDで配信中。一度聴いたら忘れない、落ち着きがあり哀愁の漂うメロディと、直枝政広の確固たるヴォーカル、そしてバンドのキャリアからにじみ出る説得力と勢いに溢れた演奏が感情を揺さぶります。レコーディング時の空気感を、高音質の細やかな音像でお楽しみください。
「さみだれ」特集ページはこちら 直枝政広のインタビューもあり

カーネーションと共にこちらもどうぞ

Here we go'round HQD / moonriders
6ヵ月連続でリリースした配信限定シングルを、限定シングル・コレクションとして、HQDで高音質配信。シンセサイザーの音色があちこちに飛び交う「Tokyo, Round and Round」、淡く儚いラブ・ソング「恋はアマリリス」、リコーダー、グロッケン、アコーディオンやバイオリンなど多様な楽器を使用した「You & Us」、歌詞の至る所に東京の地名がでてくるカントリー調の「Tokyo Navi」、シンプルながらヴァイオリン等のアレンジがキラリと光る「三日月の翼」、ホーンの音色が鮮やかでファンキーな「Come Up」と、彼らの魅力を余すことなく収録。購入者特典は、配信形態では入手不可能だった歌詞入りのウェブ・ジャケットです。

THIS IS MUISC / 大橋トリオ
2008年7月に発売され、ロング・セラーとなった2ndアルバム。穏やかで心地良いメロディやヴォーカルや、前作の音楽性を踏襲しながらも、エレクトロニカやヒップ・ホップなどの貪欲に新しいスタイルも取り入れ、更に洗練された楽曲を丹念に作り上げた作品。アルバム全体が大人のための絵本のような雰囲気をもった名盤です。

PROFILE

カーネーション
1983年12月耳鼻咽喉科を前身にカーネーション結成。当時からのオリジナル・メンバーは、直枝ひとり。 1984年シングル「夜の煙突」(ナゴム)でレコード・デビュー。以降、数度のメンバー・チェンジを経ながら、時流に消費されることなく、数多くの傑作アルバムをリリース。練りに練られた楽曲、人生の哀楽を鋭く綴った歌詞、演奏力抜群のアンサンブル、圧倒的な歌唱、レコード・ジャンキーとしての博覧強記ぶりなど、その存在意義はあまりに大きい。2008年に結成25周年を迎え、2009年1月、ドラマー矢部浩志が脱退。現メンバーは、直枝政広(Vo.G)と大田譲(B)の2人 に、サポート・ドラマー中原由貴(タマコウォルズ)を迎えて活動している。
カーネーション web : http://www.carnation-web.com/

CARNATION tour 2009 "Velvet Velvet"

12/11(金)@大阪 Shangri-La
OPEN 19:00 / START 19:30
前売り¥4,500 +ドリンク代

12/12(土)@京都 拾得
OPEN 17:30 / START 19:00
前売り¥4,500 +ドリンク代

12/23(水・祝)@東京 渋谷O-WEST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売り¥4,500 +ドリンク代

ツアー・サポート
Drums : 中原由貴(タマコウォルズ) / Keyboards : 渡辺シュンスケ

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水曜日のカンパネラ、メジャー1stアルバム『SUPERMAN』をハイレゾ配信開始
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特集 : 選ばれたグルーヴ――この国のインディ・ロックの新たなグルーヴ・メソッド
[CLOSEUP]・2017年02月03日・特集 : 選ばれたグルーヴ──この国のインディ・ロックの新たなグルーヴ・メソッド ここ数年の、この国のインディ・ロックのシーンにインディR&Bやネオ・ソウル、現代ジャズといった音楽のグルーヴを援用したバンドたちが人気を集めている。本特集では、「選ばれたグルーヴ」と題して、現在OTOTOYでは配信中で、こうしたサウンドへと接続する音源を紹介するとともに、『Jazz The New Chapter』監修者 / ライターの柳樂光隆と、OTOTOYプロデューサー、高橋健太郎のふたりの識者の対談なども交えてお届けしよう。また、ここで、こうした流れの注目のバンドで昨年リリースされ話題を呼んだ、WONKの『Sphere』も配信開始する。文・選盤・構成 : 河村祐介 イントロ──選ばれたグルーヴ 2015年から、そして2016年にかけて、この国のインディ・ロック・シーンのサウンド面で新たにキーワードとして出てきたのは、インディR&B、ロバート・グラスパー以降の現代ジャズやアシッド・ジャズ……ざっくりと言ってこういったものだろう。こうした見方で言えば、さきほどリリースされたSuchmosのアルバム『THE KIDS』は、そう
by 河村 祐介
筆者について
西澤 裕郎 (西澤 裕郎)

1982 年生まれ。ファンジン『StoryWriter』編集長。http://storywriter-magazine.com/

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