茨城県在住の3人組、Meme(ミーム)のデビュー作『alku ringo』は、大量に溢れている音楽情報の中を、颯爽と駆け抜ける痛快なアルバムである。映画音楽にインスパイアされた中澤恵介(vo、gt、key)を中心に、高校時代からの友人である松崎泰宏(gt、key)と、小学校からの友人である別府万平(gt)によって作り上げられた11曲は、アンビエントでありながら透明感溢れるポップさに満ちている。トクマルシューゴ以降を感じさせる、実験的で枠にとらわれない彼らの姿勢は、どこにも属していない孤高の光を放っている。
サウンド面の特色を求め、廃校になった小学校でレコーディングを行い、プロになることは二の次で自分の求める音楽を作ると言い切る彼らに、どうして注目しないでいられよう。HPなどの情報も少なく、ライヴも2本しか行っていない彼らは、初めてのインタビューと言いながらも、独自の音楽感を自分の言葉に置き換えて返してくれた。その言葉の端々から、これまで向かい合ってきた音楽の軌跡を感じずにいられなかった。Memeの初インタビューをお届けする。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
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Meme / alku ringo
ブライアン・イーノやシガー・ロスのような絶対的な美しさを持ったMeme(ミーム)のデビュー作。胸を優しく動かす感動の芸術作品。
【TRACK LIST】
01. poploop / 02. antennae / 03. cenotaph / 04. farm / 05. fjord / 06. ringo / 07. Surströmming / 08.cploop / 09. mememe / 10. e.p. / 11. alku alku
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歌詞は曲と連動したときに初めて意味がある
——3人が住んでいる茨城の街について教えてください。
中澤恵介(以下、中澤) : 茨城の中でも、ちょっと変わったところなんです。あまり古い街じゃなくて、他所から来た人が集まっている街で… 何と言うか変なんですよね。ちょっと離れるとすごく田舎になるし、かと思えば大きいお店がいっぱいあったりして。高い建物を立てちゃダメっていう規制があるので、多少ごちゃごちゃしているんですけど、空が見える開放的なところです。
——なぜ街についてお聞きしたかというと、1曲目の「poploop」に街というフレーズが出てきたからなんです。最初にMemeの音楽を聴いたとき、自然にインスパイアされた音楽なのかなと思ったので、意外な感じがしました。
中澤 : あれは昔からあった曲で、もともとはインストだったんです。人工的でデジタルな要素が音に入っているので、人工物の世界観が浮かんできて、街という描写が出てきました。
——そこで歌われている街は、茨城の街のことですか?
中澤 : ではないですね。自分が見たことがあるものを組み合わせたり、空想したりした街です。
——以前読んだトクマルシューゴさんのインタビューで、音楽を作ることは“想像”を具現化する作業だと言っていました。Memeの曲作りもそれに近いのでしょうか。
中澤 : まさにそうですね。自分は映画音楽が好きなので、ストーリー的なものを曲の中に入れていくこともあります。聴いた人によって感じ方は違うと思うんですけど、歌詞や歌がなくても、ストーリー的なものが含まれている曲になっていればいいなと思って。
——映画のようなストーリーを音楽の中で表現しているということですか?
中澤 : それほど細かいコンテがあるわけじゃないんです。牧場が舞台になっているとか、そこで働いている人についてとか、風景についてとか、情景などをメンバー間で共有して、後は音と合わせていく感じですね。
——そうしたストーリーの元となるイマジネーションは、どこから湧いてくるのでしょう。
中澤 : 音から出てくることが多いです。曲を作るときは、言葉を整列させたり整理する以外、あまり考えることがなくて。風景とかは勝手に出てくるんですよ。その情景に沿って空想で道筋を立てていくんです。この人はこういう暮らしをしていて、こういう道を辿ってとかって。
——じゃあ最初からストーリーがあるわけでなく、音を聴いてイマジネーションが膨らんでいくんですね。
中澤 : そうですね。音を聴いて自分がどう思うかが重要なので、最初から歌詞を入れて作ることはないですね。
——Memeの歌詞にメッセージなどは含まれていない?
中澤 : メッセージとか、こう感じてほしいってものはないです。どちらかというと、歌は(音を)補助する機能ですね。歌詞重視というよりは、音楽を補助するパーツでしかない。(世の中には)歌詞について語られる曲も多いですけど、自分達の歌詞は、曲と連動したときに初めて意味があると思っています。
いい音楽を作ることが第一
——今作はMemeの1stアルバムになります。活動としては、10年以上続けていらっしゃるので、何曲も持ち曲はあったんじゃないですか。
中澤 : 19歳の頃からオリジナルを作り始めていたんですけど、それほど曲があるわけではないんです。作っている途中で「こんなのが作りたかったんだっけ?」と思って、放棄しちゃうことも多くて。その間にメンバーや形式も変わったりして、2008年から今の形式になったんです。今が一番力が抜けている状態です。
——2008年以前と今で、何がそんなに変わったのでしょう。
中澤 : それまではバンドの概念に沿ってやっていたんです。ベースとドラムがいなきゃいけないとか、展開を繰り返さなきゃいけないとか。でも、もういいんじゃないかと思えるようになって力が抜けた状態になったというか。
——バンドという概念に囚われていた状態から、どうやって解き放たれたんですか。
中澤 : 意識的にやってみたというより、気づいたらそう思えるようになっていたんです。勉強のためにポストロックとかも聴いていたんですけど、ポスト・ロックというわりにはそうじゃないものが多いなと思って、飽きてきていたんですね。ドラムとベースが入った形式になると、パワフルではあるけど自由度が限られてきちゃう。そう思うようになってからは、バンドの音楽をあまり聴かなくなってしまって。もちろん、いいと思う人はいるんですけど。
——今の3人は本気で音楽をやろうという人たちで集まったメンバーなんですか。
中澤 : プロになりたいから音楽をやっているっていうより、いい音楽を作ることが第一なので、音楽でご飯を食べるとかっていうのは二の次ですね。
——職業的音楽家というよりも、楽曲制作に重点を置いているわけですね。10代の頃から一緒にやってきたメンバーなので、その辺りの意思疎通はだいぶ図られているのでは?
中澤 : そうですね。聴いてきた音楽が多少違くても、同年代で生活パターンや嗜好性が似ているので、土台の部分は同じなんです。似た音楽を聴いていたって人たちで集まると、作りたい音楽が先立ってしまうので、そこから話が平行線になって広がっていかないんですよ。今日来ていない別府万平みたいに「こういう音楽を聴いたことがないけどいいの? 」って言ってくれる人のほうが、思いがけないものが拾えたりするんです。
——Memeというバンド名の由来を教えてもらえますか。人から人へコピーされる、習慣、技能、物語といった情報という意味があるようですが、どういう意図でつけられたのでしょう。
中澤 : もともとバンド名がなくて、2008年くらいにようやく決めたんです。誰も考えたくない病ってのが発生していて(笑)。MUSEってバンドがいるじゃないですか? 名前だけ聞いたらバカバカしいけど、そういうノリに近いと思います。文化的遺伝子とかって意味合いもあって、その言葉を知る前から2人ともそういうのが好きでテーマとしてやっていたので、全然当てずっぽでもないかなって。
——てっきり確信犯的につけたものだと思っていました。というのも、曲名にスウェーデン語が出てくるので、言葉に意識的なのかなと思ったんです。
中澤 : そうですね。英語表記かスウェーデン語表記かで名前をつけるとき、元の名前を尊重してつけるようにしているんです。それで、そうなっただけです。自分たちは邦題をやめてほしいと思うタイプなんですよ。日本のものを海外に出したときに、意味が分からなくてもいいから、元に近い状態で出してほしい。
——翻訳されることで、もともとの意図が変容してしまうということですか。
中澤 : そうですね。絵と同じように、アクセント記号がついているかいないかで、(印象が)だいぶ違うと思うんですよ。あとは曲名に関しても、そんなに決めたくない病で(笑)。ほとんど仮につけた名前を、そのまま使っちゃっています。
自分が表現しているのは、基本的な感情なんです。
——少し抽象的な話になってしまうのですが、音楽を縦軸で見るか、横軸で見るかという考え方があります。楽器の重なりとしてのサウンド面に焦点を置くか、メロディなどの流れに焦点を置くかということなのですが、Memeはどちらかに焦点を合わせたりしますか。
中澤 : 自分たちはどっちも意識していますね。どちらも、うまくコントロールして出来ればと思っています。サウンドとして点で捉えるのか、メロディを線として捉えるかってことですよね?
——そうですね。映画やストーリーが土台になっているということだったので、どちらかというとメロディに焦点を当てているのかなと思ったんです。
中澤 : バースからコーラスに移ったときに、いきなり飛んじゃう曲ってあるじゃないですか。今までの流れは何だったの? って。完全に地続きじゃなくてもいいんですけど、それまでやってきた意味をサビにも表したいというか。そうじゃないと、それまでの滑走路は何だったんだって思っちゃう。意味があるものだったらいいんですけど、大体がそうじゃないので。自分達はギターソロとかも(不必要なものは)あまり入れていません。
——いわゆるポスト・ロックやエレクトロニカなど叙情的なサウンドって、感情的な言葉で置き換えられることが多いと思うんですね。例えば、「涙が出てくるほど何何な~」とか。自分たちの音楽が、人の感情をコントロールしてしまう恐さを感じたりしますか?
中澤 : コントロールされてしまうのは仕方ないというか、もともと音楽ってそういうものじゃないですか。それを聴いていいと思うってことは、自分もそれを聴いてコントロールされているってことだし。逆にコントロールの連続だと思うんですよ。コントロールされていない音楽なんて、音楽じゃないわけですし。
——確かにそれはノイズや実験音楽に近くになっていきますよね。
中澤 : そこには聴いている人の素養とか教養も反映してくると思うんですよ。縦に割っている音楽って、ある程度曲に対する知識があったり、いろんな音楽を聴いている人じゃないと、あまり着目しないじゃないですか。もしかしたら、そういう人たちもそこにコントロールされているとも言えるし、考えれば考える程、堂々巡りになっちゃいますよね。
——フォーク・ミュージックなどのアーティストは、日常生活が曲に反映されたりします。Memeの楽曲に日常生活のことは反映されていると思いますか。
中澤 : 自分が歌詞を書いているので、個人的な意見になっちゃうんですけど、こちらが体験したことを、同じように思ってくれっていうのは無理があると思うんです。でも、寒いときに布団から出たくないってことだったら、日本人のほぼ全員が分かるじゃないですか。そういう感覚を架空のストーリーに入れていくんです。それだったら、自分が思っているものとズレが少ないので。だから、日常生活は反映されていると思います。
——もしも音楽だけに専念したら、その感覚が損なわれてしまうとは思いませんか?
中澤 : それはないですね。例えば、小説家の人は小説を書くことに専念しているから、よりうまく伝えることが出来ると思うんですよ。自分が表現しているのは、基本的な感情なんです。熱いとか、寒いとか、痛いとか、おいしいとか、楽しいとか。一番細かい感情の部分。だから生活環境が変わったところで、ダメになることはないと思います。一日の生活とかじゃなくて、一瞬の部分を表しているんです。
——そういう意味で、Kilk recordsからデビューするのは最適なんじゃないかと思います。オーナーの森(大地)さんは、アーティストには曲作りに専念してほしいという意思を持っている人ですからね。
松崎泰宏 : そうですね。森さんはすごくバンドのことを考えて話をしてくれるので、信頼できる方だなって思っています。
中澤 : hydrant house purport rife on sleepy(以下、hydrant)みたいな引き出しの多いバンドから、Lööfさんみたいにコンパクトで丁寧にやっている人たちもいて、こういうレーベルがあったらいいなって環境に入れたと思っています。みんなバラバラな面を持っていたほうが、色んな音楽を聴けていいと思っていたんです。
——確かにバラエティに富んだレーベルですよね。
中澤 : みんなバラバラなんですけど、会って話をすると考えている部分が似ていてびっくりするんですよね。この間、hydrantのメンバーと話したら、自分達と同じことをKilk recordsに入るまで思っていたみたいで驚きました。
——今後彼らと交わることで、Memeがどのような化学反応を起こしていくか楽しみです。最後に、今後の活動について教えてください。
中澤 : 実はまだライヴを2本しかやっていないので、クオリティを上げて、ライヴもやっていきたいと思います。もしかしたら、今後ドラムを入れてやることもあるかもしれないし、その状況にあったライヴをしながら、やっていきます。
RECOMMEND
Hydrant House Purport Rife On Sleepy / roll over post rockers , so what newgazers(HQD Ver.)
hydrant house purport rife on sleepyのデビュー作は、タイトルが示すように、ポスト・ロックにもシューゲイザーにも飽きてきている人々への救世主的な作品。ゲストとして青木裕(downy/unkie)、森大地(Aureole/Kilk records主宰)、cuushe、Ferri、Lööfなどが参加している。HQD版(24bit/48kHzの高音質wav)での販売。
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INNER SCIENCE / Elegant Confections - Ambient Version -
アンビエント・ヴァージョンでは、流麗なリズムと、ピュアな電子音とが繰り出す独創性溢れる音楽。例えばダンス・フロアやベッド・ルームなど、聴くシチュエーションを選ぶということからすらも、もはや一線を画している。作り手の主張する自由さばかりでなく、聴き手にも自由を委ねた強烈な快作となっている。
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Rayons / After the noise is gone(HQD Ver.)
サティやドビュッシーを思い起こさせる美しく危ういピアノの響きを主体に、少女性を感じさせるイノセンスボイスが重なり、ファンタジーとダークネスが交差する独自のサウンドに仕上がっている。ときにドラマチックなストリングスや、琴線に触れずにはいられない繊細なピアノの響きは、聴く者を短編映画を見ているような感覚にさせる。
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PROFILE
Meme
2008年結成。10代の頃からの友人である中澤恵介(vo,gt,key)、松崎泰宏(gt, key)、別府万平(gt)の三人で構成されるアンビエント、ミニマル、ポストロック・バンド。何度かのメンバーの入れ替えを経て、2011年より現在の形で活動を開始。曲中のパーツをミニマル・ミュージック的に構成していくと同時に、全体像としてはポップな印象を残す手法を多様している。レコーディングやミックス等も全てメンバーで行い、サウンド面での特色を求め商用スタジオを使わずに廃校になった小学校等を利用して行なっている。空気感を変えてしまう圧倒的な力を持った彼らの音楽に、音楽関係者からの支持も厚い。