ルーティン化したやり方で制作しないっていうのは大事なこと
──次は“ちいさなうた”ですね。
riya:これはeufoniusのすごく古い楽曲です。今回コラボをやるに当たって、リミックスを一ノ瀬さんにお願いしようって思っていたんです。これはもう、どちらかというとリアレンジですよね。実は、このボーカルトラックは十何年前の当時のそのままなんですよ。
一ノ瀬:大体のアレンジができた時にもう一つ何か要素があったほうがいいんじゃないか、ソプラノサックスを入れたいなと思って、ジャズの田中邦和さんに頼んだんですよ。ただ、そのときソプラノサックスはもちろん持ってきてくれたんですけど、「もうひとついい楽器あるんだよ」って持ってきてくれたのがタロガトーというハンガリーの管楽器なんですね。見た目はオーボエとかクラリネットみたいに見えるんですけど、とても柔らかく趣のある音でね。3人で音色を聴いて「これで行きましょう」ということになりました。
菊地:僕はタロガトーのことを知らなかったので、マイクの立て方には最初苦戦しましたけど、最終的にはすごい綺麗な音で録れましたね。
一ノ瀬:この曲はミックスは僕がやりました。タロガトーの音(の録音)だけ菊地さんにお願いして、そのファイルを僕がもらったんですけど、やれどもやれどもタロガトーの鮮明さがすごくて。ヴォーカルが少し古い録音だったので存在感がなくなっちゃう心配も少ししたのですが、でもリアレンジだし、これはこれでありかなということに落ち着きました。タロガトーのアドリブの不思議なモードぽいのも上手くアレンジにハマってくれたなと思っています。
──次は“反転カラフル”ですね。
菊地:この曲は、2018年に声優の久保田梨沙さんに提供した曲ですね。アルバム大体の全体像が見えた時点で「もう一曲どうしようかな」と思った時に、この曲をリアレンジしてやってみたら、曲の並びの中で異色な感じもあるしおもしろいかなと思って入れました。ピアノは一ノ瀬さんにお願いしました。
riya:元はポップな感じだったんですけど、ピアノが違うだけで全然印象が変わりました。ちょっとおしゃれな楽曲になりましたね。
一ノ瀬:ぱっと聞いた感じはそんなに苦労しないでいけるかなという感じだったんですけど、コードの展開の目まぐるしさに動体視力が追いつけず(笑)。いただいたステム音源を何度も繰り返し聴いて曲の流れを(体に)落とし込んでから録ったら、楽しくできたんですけどね。他のトラックもある状態からだったので、コードとかは整合するように入れていく必要があって、その辺はパズルっぽいところがあるんですよね。そのなかでどれだけ動けるか、かつ悪目立ちするってこともあんまり考えずに。名脇役を目指したという感じですね。
菊地:弦のトラックがすでにあるなかでピアノを入れていくのは難しいと思うんですけど、そこを縫って存在感を出してくれたのはさすがだなと、思いました。
──そして、5曲目の“doomsday cord”です。
一ノ瀬:僕が自宅のピアノに向かいながら、riyaさんが二人いて、二つの声が絡み合っていく曲をイメージしました。これは、アップライト・ピアノをミュートして、つまりソフトペダルを踏んであんまりならないようにして録ってるんです。クローズドな、秘めたる音と二本の旋律と、大袈裟だけど黙示録的なものとか、そういうことを考えて作りました。
riya:歌詞はイメージをいただいて、あとは好きに書いてくださいというふうにもらいました。二つ旋律があって色々合わせなきゃいけないのでそこだけ少し手間取りましたが、それ以外は本当に好きに書かせていただきました。
一ノ瀬:2つのヴォーカルが同じタイミングで同じことを言ってみたり、違うことを言ってみたりして。そういう温度感が変化していくっていうのがあって。
菊地:ヴォーカルのレコーディングだけeufoniusのスタジオでやらせていただいてるんですけど、旋律と歌詞が2つあるので、僕はひたすら録るだけで。出来上がってからこういう曲だったんだって気づきましたね。
──レコーディングはどのように行ったんですか?
一ノ瀬:まずは、デモ音源用に自宅のアップライトの音をKORGのポータブルレコーダーで録りました。その後、本番録音に差し替えようと思ったんですけど、その最初のテイクの方が良かったので結局そのまま使ってしまいました。ハイレゾでは録ってましたし。ボーカルは若干バイノーラルぽくして頑張って自分の方でなんとかまとめたという感じですね。
──なるほど。
一ノ瀬:最初は、どこからどう録るかっていうのがわからなくて。テンポもクリックみたいなやつを、手動で入れるんですけど。それもあてにならないような(笑)。
──すごいですね。
一ノ瀬:クリックって僕の考えでは、ある意味、ある楽想においては余計なものになり得ます。クラシック音楽をやるときにクリックはまずないわけじゃないですか。riyaさんにはクリックから開放された状態で歌ってもらいたかったっていうのがあるんです。
──テンポの呪縛から開放する的な狙いがあったんですね。
一ノ瀬:そうですね。クリックに合わせて弾いてるというのはやらされてる感がどこかにあって。この曲ではそうしたくなかった。ルーティン化したやり方で制作しないっていうのは大事なことだと思っていますね。