吉岡哲志と山田杏奈による男女ユニット「pair」、待望の1stアルバムをHQDで!!
七尾旅人を輩出し、ROVOなど良質なサウンドを奏でるアーティストを擁するワンダーグラウンドの加藤Roger孝朗と、ROVO、DUB SQUADでの活動やスーパーカーの仕事で有名なエンジニア・プロデューサー益子樹が立ち上げた新レーベル、Bright Yellow Bright Orangeからの第二弾リリースは、LLamaのフロント・マン、吉岡哲志と山田杏奈によるユニット、pair。益子樹がプロデュースをし、勝井祐二(ROVO)、岡部洋一(ROVO)や鬼怒無月ら、一流ミュージシャンがゲスト参加。デビュー作ながらも長く聴き継がれるであろう名作に仕上がっています。そんな本作を、CDよりも音のよいHQD(24bit/48kHzのWAVファイル)でご堪能ください。
pair / Pair!
1. なまえ / 2. peco / 3. 鋼鉄の街 / 4. まだこない / 5. DRIVE / 6. キセキ / 7. ツノ / 8. 今は… / 9. You’ve got a friend
【販売形式】 HQD(24bit/48kHzのWAV)
【価格】 単曲 220円 / アルバム 1,800円
INTERVIEW : 吉岡哲志×山田杏奈
LLamaの吉岡哲志と、山田杏奈による2人組男女ユニット、pair。どちらも作品に対するこだわりの強いアーティストなだけに、アーティスティックで小難しい音楽が出来上がったものとばかり思っていた。ところがどっこい、完成した作品を聴いてみると、意外なくらいポップさで溢れていて、正直、驚いてしまった。ここで使っているポップという単語は、最大公約数の大衆に向けられたという意味ではなく、もっと個々人の深層心理で共通するような、普遍的なうたという意味である。いつの間にか琴線をくすぐられるような爽やかさをこの作品に感じて仕方ない。
取材時に撮った写真を見てもらえば分かるとおり、2人の表情はとてもやわらかい。やわらかいどころか、終始ニコニコと笑顔で話をしてくれた。「最終的に責任をとなきゃならないのが自分じゃないよなぁ、くらいの気楽さ」といった発言が出てくるくらい、リラックスして作品作りに臨めているようである。そうした状況ができたのは、2人を支える益子樹と加藤Roger孝朗というプロフェッショナルな存在がいたことが大きい。しかし、この状況ができたのは偶然なんかじゃない。作品作りに余念のない2人が行き着くべくして辿り着いた音楽的ブルー・オーシャンなんじゃないかと思う。まったく荒らされていない地に咲いた一輪の花。そんな絵が浮かんでくるpairの作品に耳を傾けてみてほしい。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 丸山光太
一緒のものを食べているようで、食べていないんだと思います(笑)
――まず始めに、吉岡さんと山田さんが、pairとして活動することになったきっかけを教えてください。
吉岡哲志(以下、吉岡) : 昔、(山田)杏奈ちゃんがやっていたユニット、コマイヌと東京でライヴが一緒になったことがあったんです。その後も何回か一緒になる機会があって、「今度一緒に何かやりましょう」って話をしていたので、『ヤヲヨロズ』を出し終えた頃くらいに声をかけてみたんです。そのときは、お互いの曲を持ち寄ってライヴをしたんですけど、一曲作ってみたら楽しくて、もうちょっと作ってみようかという感じで、ゆるやかに続けていったんです。
――曲も歌詞も均等割りで制作しているということですが、完全に半々ずつ作っているんですか?
山田杏奈(以下、山田) : 自分の歌詞とメロディはそれぞれで作るんですよ。まあ、割と均等だよね?
吉岡 : そうですね。小節ごと曲にする前提で歌詞を書いているんですけど、お互いに作った部分が何段落かずつあるから、自分で考えたところは自分で歌おうかって感じで。
――つまり、一曲の中にそれぞれの作ったパートがあって、それをくっつけていくような形ですか。
吉岡 : くっつけるというよりは、流れで「次あなたの番ね」みたいな感じです。
――連歌に近い感じですね。
山田 : そうですね。
――吉岡さんも山田さんも、自分の作品に対する創造意欲や表現に対するこだわりが強くある方だと思うんですね。だから、どちらかがイニシアチブをとるっていう形ではなく、半分半分でやっているのかなと思ったのですが。
山田 : 自分たちの音楽は本当にこだわってやっているから、pairのときは、逆にこだわりを持たないというか。相手から出てきたものに今回は乗っかります、みたいな感じだったり。わりと投げ出し系だよね。だから逆に自由というか。
吉岡 : なんとなく、そういう風にしていたら、思いのほかポップな感じな曲になって、これ面白いなぁって思ったんです。こだわっている部分は無意識にこだわっていると思うんですけど、LLamaのときよりもずいぶん人任せな部分が多いというか。「杏奈ちゃんがいいならいいよ~」ぐらいの感じ(笑)。
――あははは。それはLLamaでやっているときと何が違うんですか?
吉岡 : ネガティブな発言ではないんですけど、最終的に責任をとなきゃならないのが自分じゃないよなぁ、くらいの気楽さというか(笑)。
――以前、LLamaで取材させてもらったとき、吉岡さんは人情社長みたいな部分があるって話になりましたよね。それに対して、pairはもっとフランクにできると。
吉岡 : そうですね(笑)。何でかは分からないですけど。
――心なしか、LLamaの取材の時よりも、表情も口も柔らかいですもんね(笑)。
山田 : あはははは。
吉岡 : そうですか(笑)?
――山田さんの場合はどうですか。今年リリースされたソロ作はミックスまでご自身でやられており、誠心誠意エネルギーをつぎ込んでいたと思うのですが、pairには気楽な部分を感じますか。
山田 : そうですね。気楽というか… わりとサクサク出来上がっちゃうっていう手応えの軽さみたいなものはありますね。一人でやっていると、絶対につまづく点があるから。それが、サクサク進んでいく感じがあります。
吉岡 : もし、それぞれが一人で作っていたら、絶対に作れないものが出来てくるんです。へんな話、それをどうしていいか分からないから、流れに乗って進めるしかないかなぁって。
――今作って、歌が前に出ていて、歌を聴かせる作品だなと思ったんですね。以前、OTOTOYで行ったaoki laskaさんと山田さんとの対談で「あまり歌をメインで考えてない」とおっしゃっていたから、意外だなと思ったんです。
山田 : でも、2人の共通点といったら歌しかないからね。楽器も違うし。
――その取材で、音楽をやることを「ご飯を食べることと同じで、当たり前のようにあるもの」っておっしゃっていましたよね。今回は、言ってみれば、2人でご飯を食べた形じゃないですか。2人いる以上は、お互いの好みも違うから、もっと味付けを濃くするなんてこともあったと思うんですけど、その辺はいかがですか。
山田 : 一緒のものを食べているようで、食べていないんだと思います(笑)。
――出てくるものは一緒だけど加える調味料は違うってことですか?
山田 : うん。それぞれの食べ方は違う。
2人の力だけじゃ、ここまで全くできなかったよね
――pairをやることで、ソロ活動にフィードバックされることはありますか。
吉岡 : まだないです(笑)。まだないけど、何らかの形では必ず影響があるかなと思います。
山田 : 影響というよりはソロでできない欲を、pairで満たしてるって感じですかね。
――ソロでできない欲っていうのはどういうものなんでしょうか?
山田 : すごくポップな感じとか歌を全面に出してとか、人と何かをやって出来上がるものの喜びとか、そういうところですね。
――「BYBO(Bright Yellow Bright Orange)」のレーベル理念に「少しひねくれた新たなPOPS」とあるんですけど、pairとしてポップであろうという気持ちはありますか。
吉岡 : それは元々持ってなかったんですけど、LLamaやソロでやっいている音楽よりもポップなものがなぜかできたんです。でも、それに対する嫌な気持ちはなくて「うわぁ、こんなポップな感じにできたなぁ」って。
山田 : 2人ともすごくポップなものが好きなんだけど、自分ひとりだとできないんだよね。思ったようにできないんだけど、2人でやると、「あ、できちゃったね」みたいなところがあるんです。
――吉岡さんはLLamaでできないものをpairに出すってことはありますか?
吉岡 : LLamaでできないことを出せてるというよりは、LLamaでできないことができちゃったなぁ、って感じですかね。最初からそういう意思を持ってやっていたわけじゃなくて、「あれ? できてるけど」みたいな。
――山田さんとやり始めたら、思っていなかった新しいものがどんどん出来ていったという感じなんですね。
吉岡 : LLamaは大所帯なんですけど、ものを作るってことに関しては孤独な作業で。杏奈ちゃんと作っていく中で、それは全く感じなかったですね。こんなに杏奈ちゃんに任せてもいいのかなって思っていたところもあったし、杏奈ちゃんもそう思っていたのかなって。
山田 : うんうん、思う思う。悪いなぁとか思いながら(笑)。
――行き当たりばったりで目標を立てなくても、ちゃんと形になっていくってのがおもしろいですね。
吉岡 : そうですね。例えばひとりで曲を作っていて、「これはボツだな」って判断は自分で決めるじゃないですか。でも杏奈ちゃんに「どうしたらいいんだろうなぁ」って思いながら返したものが、「これいいじゃん」って返ってきたら「ああ、つながったな」と思ってうまく回っていくみたいな。
――お互いの価値観の衝突みたいなものも特にないんですか。
山田 : うん。お互いの音楽を尊重してるとこがあるからね。私はLLamaが好きだし、吉岡くんも私の音楽に対して信頼してくれている部分もあると思うので。
吉岡 : 好きですよ。
山田 : (笑)。そういうところでの安心感みたいなのはあるかなぁ。
――こんなに雰囲気が柔らかくて、しかも京都と東京で離れていて、うまくいくものなんだなって、すごい新鮮な印象を受けています。
吉岡 : 益子(樹)さんだったり、BYBOオーナーの加藤(Roger孝朗)さんだったりの助けがあって、うまくいったっていうのも、もちろんありますけど。
山田 : うん。2人の力だけじゃ、ここまで全くできなかったよね。
ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちをひとつの詩のなかに共存させる
――2人が作っていることを加藤さんと益子さんに話したら、「形にしようよ」という形で進んでいったんですか。
吉岡 : LLamaの打ち合わせで東京に行ったときに、加藤さんにライヴに誘われたので、「ちょっと紹介したい子がいる」って初めて連れていったんです。そしたら「めずらしいな、お前が友達を連れてくるのは」ってなって。経緯を話したら「やるか」って。僕はずっと加藤さんに色んな面でお世話になっていて、杏奈ちゃんは作品のMIXとかで益子さんにお世話になっていて。そういう話をしたら、加藤さんも益子さんのことをよく知っているというので、「じゃぁ、益子さんにも声かけよう」ってなって。その日、僕は東京から京都に帰ったんですけど、夜に加藤さんから「決まったから」って電話がかかってきて。え? って。
――加藤さんの仕事は相当早いですね(笑)。
加藤(Roger孝朗) : こいつ(吉岡)、バンドマンの友達いないっていうのが売りだったんですよ(笑)。初めて人を紹介したいって言われて驚いて。要は雰囲気が面白かったから、やろう! って。吉岡からは「ちゃんと聴いてくださいよ! 」って言われて(笑)。ずっと信頼をしていた吉岡が連れてきた杏奈ちゃんが、信頼している益子さんのところでお世話になっているってことだから、これは別にやらない理由ないじゃんと思って。
――吉岡さんは山田さんと相当気があうというか、初めて連れて行ったくらい引きつけるものがあったんですね。
吉岡 : 変な話、お互いドライだし、ドライな関係を好むと思うんですよ。その距離感っていうのに苦痛を感じると、その人とはうまくやっていけないじゃないですか。それがたまたま上手くいったのかな?
山田 : うん、そうだね。
吉岡 : 歌詞を送って1ヶ月放置しても怒られないし(笑)。
山田 : 逆もあるから(笑)。
――歌詞も交換日記のように、交換しながら書いていくわけですよね。それぞれ、どういう詩を書こうとしているんですか。
吉岡 : まず、どちらかが一番最初の行を書くじゃないですか。それに対して思うことがあっても、何が歌われているか知らない状態で続きを書いていくんですね。それが進んでいくうちに、「この時のこれって、何をいっているの」ってなってくるんですよ。それで、つじつまが合わなくなってきたぞっていうとき、「これはペットのトカゲのピンちゃんのことを歌ってるんだよ」「あ、そうだったんだ! 俺も自分の犬に向けて直そう」みたいな感じで修正していくんです。
山田 : 楽器を録るようになってから、お互いの想像していた世界が違ったみたいなこともあるんですよね。「鋼鉄の街」はそうだったよね。
吉岡 : うんうんうん。
山田 : 夕暮れ時の団地のことを言っていたのに、私は紅葉の街だと思って作っていて。楽器を録るときに話したら「え、そうだったの!? 」みたいになって。
吉岡 : それぐらい確認せずに進んでたんですよね。
――つまり、パーソナルな歌でありながら、最初から自分の手を離れた歌としても作っている感覚っていうんですかね。
吉岡 : どうしても2人で詩を書いているので、登場人物が1人じゃなくて、2人出てくるんです。各々が言いたいことを言い合っている、という形が多いかな。
山田 : うんうん。
――なるほど。あくまでもそれぞれの気持ちを尊重した上で、2人の登場人物が世界観を混ぜていくっていう形なんですね。
吉岡 : そうそう。だから普段、ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちをひとつの詩のなかに共存させるって、難しいじゃないですか。そういう矛盾って、すごく表現しづらいと思うんですけど、杏奈ちゃんの中ではすごく前向きなことを歌ってる、僕の中では後ろ向きなことを歌っている。でもそれが1曲の中で成立できるっていうのは2人いるからできることだなって思いますね。
――それって本当に奇跡的な感じですよね。人目につかず、荒らされることのなかった森で進化していった生き物のような、特殊さを持ったユニットだなぁと思います。では最後にpairとして、今後どういう風に活動していきたいかを教えてください。
吉岡 : 僕にはLLamaがあって、杏奈ちゃんには自分の作品作りがある。そういう各々の活動の中でゆるやかにできたらなって思っています。
山田 : うんうん、気晴らしにね。
――最後に、他に何か言い残したことはありますか。
吉岡 : ないんだよね(笑)。
――あはははは。
山田 : すごくいいアルバムができたから聴いてね、とか(笑)?
吉岡 : そうだね(笑)。すごくいいのができたの思うんですよ。本当に、いろんな人の手を借りて。「You’ve got a friend」とか、僕はギター弾けるんですけど、弾いてもらってます(笑)。っていうくらい、いろんな人に手を借りて作ったアルバムなので、ぜひリラックスして聴いてほしいです。
RECOMMEND
LLama / インデペンデンス(HQD ver.)
2003年京都で結成、現在も京都在住。幾度かのメンバー・チェンジをして、現在に至る。Vo.Gu.、ツイン・ドラム、ツイン・トランペット、コントラバス、エンジニアという変則的なメンバー構成の7人組。前作より4年ぶりの、2ndアルバム。マスタリングは益子樹(ROVO)。
山田杏奈 / カラフル
2003年ぐらい前の楽曲から最近の楽曲まで、厳選された全9曲が収録されており、ベスト盤と言っても過言ではない、素晴らしい曲が揃ったアルバムとなった。これまでの彼女の活動をフォローしている方々には勿論、彼女の作品に初めて出会った方々にもきっと満足して頂ける、ヴァラエティに富んだ非常に完成度の高い作品に仕上がっている。
triola / Unstring,string
ジム・オルーク・バンド、石橋英子バンドのメンバーであり、mama!milkやOORUTAICHIなど、数多くの作品にヴァイオリニストとして参加し、広告や映像の音楽制作、ストリングス・アレンジメント等も手がける波多野敦子。2009年より、ヴィオラに手島絵里子を迎え、デュオとして始動した弦楽プロジェクト「triola」の1stアルバム『Unstring,string』が完成!! 林皇志がエンジニアを、益子樹がマスタリングを手掛けている本作を、CDよりも音のよいHQD(24bit/48kHzのWAVファイル)でご堪能ください。
PROFILE
pair
京都の異能集団LLama(ラマ)の首謀者で、PaperBagLunchboxやchori等の多くのエンジニアリング&プロデュースも手掛けてきた吉岡哲志と、昨年12月にHEADZからアルバム『カラフル』でソロデビューした山田杏奈のユニット、pair。京都在住の吉岡と、東京在住の山田が、データのやり取りで1曲のうち、曲も歌詞も均等割りで制作していくという特殊な方法を用いて作りあげるPOPSは、唯一無二。 そこに、勝井祐二(ROVO)、岡部洋一(ROVO)、鬼怒無月、徳澤青弦、田中祐二(ex-くるり)、POP鈴木(ex-さかな)、青木タイセイ、ヤマカミヒトミ等の超一流ミュージシャンをゲストに迎えて一流のポップスを展開。このユニットは、益子樹全面参加のもとに作られた本レーベルの象徴と言える作品となった。 名曲のカバーは、キャロルキングとジェームステイラーのデュエットでも有名な、「You’ve got a friend」を収録。
Bright Yellow Bright Orange
七尾旅人を輩出し、ROVO、LLama、chori等の一筋縄ではいかないアーティストを擁するワンダーグラウンドと、スーパーカーの仕事で有名なエンジニア・プロデューサー益子樹が新しいクオリティ・ポップス・レーベル「Bright Yellow Bright Orange」を設立。コンセプトは、ロックではない、耳にココロに優しい、大人の鑑賞にも耐えうる、少しひねくれた新たなPOPS。腕の確かなベテラン・ミュージシャンの高品質な歌モノを、高音質の益子サウンドで春夏秋冬の年4枚送り出す予定。レーベル・ブランディングとして、時間や季節を問わない楽曲と、必ず名曲のカバーを収録というコンセプトでFMを主に展開。第一弾はジム・オルーク・バンド、石橋英子のメンバーとして大注目の波多野敦子の弦楽ユ ニットtriola。バイオリン、ビオラ、チェロ、ピアノ、フルート等のアコースティック楽器のみを使用。歌とインストを交互に並べた構成で、聴くシチュエーションを問わない内容になっている。カーペンターズ「close to you」のカバーを収録。
Bright Yellow Bright Orange HP