ノスタルジックなメロディと叙情的な音色で、ダンス・ミュージックともエレクトロニカとも異なる独自のスタイルを確立したジョセフ・ナッシング。約2年半振り5枚目となる新作は、前作「Shambhala Number 1」の続編であり、<シャンバラ>3部作の完結編でもある。

チベット仏教で“桃源郷”を表す<シャンバラ>を彼なりに解釈し、音楽に昇華した3枚のアルバムの中でも、核となる一枚は間違いなく「Shambhala Number 3」である。これまでのジョセフ・ナッシングを思い浮かべて聴いたなら、その変化に驚くだろう。そこには胸を締め付けるメロディもなければ、暖かみのある音色もない。不規則なリズムと耳慣れないビートで構成された曲が8曲収められている。深夜の廃墟病院などにフィールド・レコーディングに出かけ集められた膨大な素材は、「幽霊と共演したかった」という驚くべき動機から収集されたものである。

前回に引き続きアートワークを現代美術家で漫画家のタカノ綾が担当しており、<シャンバラ>の壮大な世界観が描かれている。不思議なセッションに思えるかもしれないが、ジョセフ・ナッシングと彼女の共通点は、どちらも極度の超常現象マニアであること!? ジョセフ・ナッシングの意外な一面が垣間見える貴重な話を、渋谷アップリンクで行われた新作試聴会&トーク・ショウの前に伺った。

インタビュー & 文 : 西澤裕郎

タカノ綾 & Joseph Nothing

モノを作りたいっていう欲求には、逆らえなかった

——「Shambhala Number 3」に収められている曲は、すべてフィールド・レコーディングで集めた音で構成されているのですか?

100%フィールド・レコーディングですね。サンプリング場所は廃墟の中がメインなんですけど、自分で壁を叩いたりドアを開け閉めしたりして音を集めました。そこで集めた何千とある音の中から一音一音削り取って、サンプリングしてビートに合わせていったんです。コンピュータでオートメーションするのではなく、自分の耳で判断して音を切り取ってリズムを組み立てていったので、膨大な時間がかかりました。

——どのくらいの期間集めていたのですか?

アルバム用の素材は、約2年半くらい期間をかけて集めました。長いこと集めていたので、DATやSDカードに膨大な素材が何十時間にも渡って収録されています。

photo by sasaki wataru

——廃墟に行って幽霊の音を録音しようと思った、とお聞きしたのですが(笑)。

そうですね(笑)。フィールド・レコーディング自体は前からよくやっていたんですけど、本格的にやりたいなって思ったきっかけが、幽霊が参加している作品を作りたいっていう動機だったんです。深夜2〜3時あたりに壊れた廃墟みたいな場所に行くと、ものすごい音がしているんですよ。主に録音していたのが曰く付きの病院で、経営者が何回も変わったり、飛び降り自殺や医療事故があったりした場所で、そういうのが積み重なっておかしくなっちゃった病院なんです。深夜に行くとすきま風が人の声や泣き声に聴こえて、ドアもバンバンバンバン鳴っていたりする。病院の中に鳥が住んでいるんですけど、鳥が突然動く音が人間っぽい感じに聴こえたりするんです。

——単純に怖くなかったんですか?

最初は怖かったんですけど、モノを作りたいっていう欲求がすごく強くて、それには逆らえなかった。もちろん行く度にお神酒みたいにお酒を置いて、自分の中で礼儀をわきまえて録音していることを示していたので、そんなに悪い事はされないだろうとは思っていました。だから最初はすごくびっくりしたんだけど、慣れてくると「これは上の方でドアが勝手に動いているな」とか、「動物や鳥が入り込んでいるんだな」とか、そういうことがわかってきたんです。

——狙いどおり、幽霊の音は録れましたか?

基本的に石やら鉄板を叩いたビート音を録っていたんですけど、そういう音を編集作業の時に何回も聴いていると「この音はちょっとおかしいな」と思うことは確かにありました。そういう音はわざと長く編集しておいてビートに絡める素材として使ったり、その後の余韻部分に使用しました。おかしいと思う音は分からないように色々混ぜこぜにしています。ヘッドフォンとかで聴いていたら「何か変な音だな」って聴こえることはあるかもしれないですけど、それがどの部分かっていうのは特に言わないようにしていますね。

僕なりに解釈した<シャンバラ>の音風景を作りたかった

——前作『Shambhala Number 1』から引き続き<シャンバラ>がテーマとなっていますが、これはフィールド・レコーディングをする前から決めていたテーマなんですか?

フィールド・レコーディングをする前から、トータルで決めていました。アートワークを担当しているタカノ綾ちゃんから借りた1冊の本がすごくおもしろくて、それがきっかけの一つになっています。<シャンバラ>っていうのはチベット仏教でいう伝説の桃源郷なんです。もともとUFOや超常現象が大好きだったんですけど、<シャンバラ>と超常現象がすごくうまく絡み合って繋がっている部分が多かったので、同じ作品を作るならUFOなど1つの超常現象にフォーカスを当てるんじゃなくて、トータルな意味も含めて作りたかった。<シャンバラ>っていうのは、俗世界の一般的な世界からかけ離れたような場所で、カルトっぽく言えば次元が違う世界だったりする。それを僕なりに解釈して<シャンバラ>の音風景みたいなものを作りたかったんです。それが、「Shambhala Number 3」。何もかも形式から外れたような音楽になっています。メロディを敢えて入れずに、プリミティヴな音を出して楽しむっていう原点に立ち返る作品になっていますね。

——3部作を通して聴いてみて、「Shambhala Number 3」が一番、非現実的に聴こえました。現実の音で作った曲が一番非現実的に聴こえるというのが不思議でもあり、ちょっとゾクっとしました。

それは嬉しいですね。最後の締めとしては、似たような傾向の音楽をやるよりは、違うものを描きたかったんです。実際に「Shambhala Number 3」は一番時間がかかった作品。僕には人に理解されにくい世界があると思うんですけど、そういう世界を表現しようとしている人って、なかなかいなかったと思うんです。いたとしても、大体がアンビエントの方向に向かっていくことが多い。もちろんそういう音楽も好きなんですけど、僕は敢えてビートに焦点を絞ったんです。アンビエントといえばアンビエントかもしれないけど、オーガニックなサウンドでまったくエフェクトや音を加工したりせず、ありのままを切り取って厳選しました。その上でそれをプログラムしてビートを組み立てていったんです。

photo by sasaki wataru

——僕がジョセフ・ナッシングの作品を初めて聴いたのはイルリメの「未だ、知り染めし岐路に」でサンプリングされた「Flight Of The D.I.O」なんですが、音色やメロディがすごく特徴的だと思っていました。今回その両方の要素を排除して、ビートに焦点を当てた1枚を作ったのはなぜなのでしょう?

今現代にある音楽って、ポップ・ミュージックにしても打ち込みのビートが土台になっているじゃないですか。そういう暗黙のルールみたいなものがあって、そういう音楽も好きなんですけど、ちょっと発想を変えて電子的で機械的なグルーヴから解放された音楽を作ろうと思ったんです。よくやっているんですけど、坂道に石ころを置いて転がしてその音を録ったりとか、大きな石を転がしながらレコーダーを持って追いながら録ったりだとかしました。そういう音をビートのグルーヴに混ぜると、独特のグルーヴになることがあるんです。そういう試みを遊びがてらやっていたら、おもしろいし色んなヴァリエーションのビートを作れると思ったんです。これを長い作品にしてみたら、誰もやったことのない世界になるだろうと思ったんです。アンビエントの世界ではなく、ビートのみの石器時代ディスコみたいな発想で(笑)。

——石を転がすっていうのは、不定期に転がるリズム音をそのまま使うってことですか?

そうですね。空き缶とかでもよくやっていたんですけど、「カランカランコロンカラン」みたいなそういう音も「このリズムおもしろいな」と思ったら、敢えてチョップしないでそれをハイハット代わりに使ってみたり、自然の持つリズム感を生のまま使いましたね。

——最後の曲は神秘的というか、禁忌的な作品だと思いました。神殿で鳴らされるような音がするのですが、あれもフィールド・レコーディングで録ったんですか?

あれもそうですね。インタールード的な感じで、ちょっとホッと一息入れるために入れたんです。隅田川沿いに誰でも叩ける鉄琴が置いてあるんですけど、その鉄琴を1音1音サンプリングして、並び替えて新たなメロディを作ったんです。それがものすごくいい感じの音色だったので、これだったらインタールードにぴったりかなって思って入れました。

「Shambhala Number 3」がすごく重要だったりする

——<シャンバラ>をテーマにした作品を、3部作にしたのはなぜなのでしょう?

最初は3枚別々に出そうというアイデアがあったんですけど、「Shambhala Number 3」が一般的には恐らくとっつきにくい部類のアルバムになるので、だったら2枚組にして価格もなるべく押さえて、更にアートワークは開くことで特殊なオブジェになるようなことが出来たらいいなと思って、最終的にはこういう形になりました。

——「Shambhala Number 3」は<シャンバラ>を表現するという意味でも象徴的な作品ですが、「Shambhala Number 1」と「Shambhala Number 2」はこれまでのジョセフ・ナッシング節を踏襲したメロディのある電子ミュージックとなっています。3枚目に対して1、2枚目はどのような役割を持っているのですか?

1、2枚目は「Shambhala Number 3」にいくまでのミッシング・リンク的な存在っていうのが分かりやすいと思います。今までアルバムを3枚出してきて、いきなり単体のアルバムとして「Shambhala Number 3」が出たら、「なんだこりゃ?!」って感じで肩すかしをくらってしまうと思ったので、3枚組にすることで整合性がとれると思ったんです。最初の2枚は今までやってきたことを踏襲したような作風で聴いてもらって、実はこういう世界もやりたかったっていうプレゼンテーションの意味も込めて3枚目をリリースしました。だから気持ち的には僕にとって「Shambhala Number 3」がすごく重要だったりするんです。それに導くために、今までやってきた世界を2枚間に入れて、3枚目を聴いてもらえたらなと思いますね。

——ジャケット・アートワークをタカノ綾さんが手掛けていますが、これはどのようにして出来たのですか? 「Shambhala Number 3」の音をインスピレーションにして描いてもらったのですか?

音楽が出来る前に描いてもらっていました。先に<シャンバラ>のイメージが浮かんでいたので、綾ちゃんにイメージを伝えて、それをキャンバスに書いてもらいました。だから絵は先に出来ていて、音に関しては同時進行に近い感じで作っていました。「Shambhala Number 2」までは出来ていたんです。ただ、「Shambhala Number 3」に関しては、日本の色んな場所に旅している時でもレコーダーを持って録音をしていたので、難産のような感じだったんです。先にアートワークがあったので、アートワークとトータルで作品として残せたらと思って音楽も作っていきました。

photo by sasaki wataru

——ちなみに今回のアートワークは、デルタUFOをモチーフにした「デルタ・ジャケット」とのことで、広げると三角形のアート作品に様変わりするのですが、デルタUFOというのはどんなUFOなんですか?

デルタUFOは、ベルギーに頻繁に現れた三角形のUFOです。ベルギー政府も公式に存在を知っていて、軍が出動したんですよ。だけど全然追いつけないし、最終的には軍も降参みたいな感じで「こんなのが出てきたら太刀打ちできない」って公式に発表しているんです。写真に鮮明に写っているものもあって、動き方が変なんです。真っすぐ進んで止まったと思えば、Iターンしたりとか、ジェット・エンジンを使った動き方とはかけ離れた動きをしているんです。形はステルスにすごく近いんですけど、ステルス自身がデルタUFOをモデルに作られているっていう噂もあるくらい。僕は宇宙人が操作しているUFOっていうのにはわりと懐疑的で、<シャンバラ>ではないですけど、どこかの異星ではなくて地球の内部からエイリアンがUFOを飛ばしているという説のほうがしっくりくるんです。ステルスがイラクを爆撃しているときの写真を見ると、空中で浮遊しているように見えて、まったく動いていない状態で爆撃をしている動画もある。専門家に話を聴いてみると、ステルスは空中に浮遊する技術を持っているって言う人も沢山いるんです。デルタUFOは、ベルギー政府が公式に認めている事件なので、信憑性の高いおもしろい事件だと思うんです。アルバムのジャケットを広げて、後ろから見るとそのデルタUFOの様に見えるんですよ。

——<シャンバラ>とデルタUFOには近いものがあるんですか?

(c)2010 Aya Takano/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

そうですね。僕が読んですごくおもしろいなと思った本が、<シャンバラ>からUFOがやってくるっていう話なんですけど、それによると<シャンバラ>っていうのは亜空間の中にある。亜空間がなぜ生まれるかっていうと、プラズマっていう第4の物質が関係してくるんです。例えば宇宙って99%はまだ何か解っていない色んな物質で満たされていると言われてるんですけど、そういう物質の中の一つにプラズマというものがある。火の玉の研究で有名な大槻教授とかも唱えてるんですけど、火の玉って正体はプラズマだって言われていて、プラズマが条件よく何かに接触すると透過する性質があるんですよね。壁とかをすり抜けてしまう性質があるんです。そのプラズマに囲まれた世界が地球の内部にあるんだけど発見はされていない。それが亜空間と呼ばれている場所なんです。昔から研究されていて、エジソンのライバルでニコラ・テスラっていう科学者がいるんですけど、彼もプラズマに関わることをやって軍にスポイルされたっていう不遇の人生を送ったんですけど…。あれ、何の話でしたっけ?(笑)。

——<シャンバラ>とUFOの関係性がどこにあるかです(笑)。

(笑)。話すと長くなっちゃうんですけど、<シャンバラ>は物理的な地球空洞にある世界でなく、亜空間に存在する国であると思うんです。UFOもそこからやってきたという捉え方を僕はしているので、<シャンバラ>とUFOはすごく関係性があると思いますね。火星から飛来するとかそういうのではなくて、地球の内部から来ているっていう発想がおもしろい。

日本人って独特で優れた部分も持ち合わせていると思う

——「Shambhala number 2」には、「ロズウェル事件」などの超常現象をモチーフにしたタイトルがつけられていますが、「Shambhala number 3」のタイトルは「YAP pure land」で統一されています。「YAP pure land」とはどういう意味なのでしょう?

日本人はYAP-1っていう特殊な遺伝子を持っていて、それは中国人も韓国人も持っていない遺伝子なんですよ。日本人の起源を辿ると中東がルーツという説があって、遺伝子的にシルクロードを通って日本にやってきたっていう説があるんです。日本人ってすごく独特で、日ユ同祖論っていうのもあるくらい。アイヌの人や沖縄の人って顔の作りが本土の人とは違う作りをしているじゃないですか。そういう点も含めて、日本人はアラブなど中東の方から来ているという説があるんです。つまり、「YAP」というのは日本人が持っている特殊な遺伝子なんです。「pure land」というのは、極楽浄土の浄土っていう意味で、要約すると「日本人の遺伝子を持つ人たちの浄土」っていう意味ですね。色んな本を読んでいて、日本人が優れた何かを持っているんじゃないかなと思ったんです。アインシュタインも1922年に、「世界をリードすべきなのは日本人」という意味の言葉を残したりして、日本人のポテンシャルを指摘していたんです。軍国主義以降、日本は戦争を起こさずに経済大国になったことも考えると、やっぱり日本人って独特で優れた部分も持ち合わせていると思うんです。

——もっと話を伺いたいのですが、時間が来てしまったので最後に1つ。3枚組の大作を発表されたばかりですが、ジョセフ・ナッシングとして次のテーマや展望があれば教えて下さい。

去年の頭からドラマー/ベーシストの吉川弾さんと一緒にライヴをやっていて、同時にタカノ綾ちゃんに映像もリンクしてもらうライヴ・ショーを活発にやっているんです。その作品がだいぶ仕上がっていて、そのブラッシュアップをしている段階ですね。あと純粋な電子音楽のアルバムを徐々に作っていて、2枚ぐらいの作品がツメの作業なのでそれも発表したいですね。

photo by sasaki wataru

PROFILE

Joseph Nothing
1974年アメリカ生まれ。98年にオーディオ・アクティブ主催のBeat RecordsよりRom=Pari名義でアルバム「View」発表。その後、Iva Daviesからオファーを受け、ピンク・フロイドのGuy Prattと共にアルバムに参加。2001年2月にμ-ziqのPlanet-μより、Joseph Nothing名義でアルバム「Dummy Variation」、7inch「Just One Fix」を発表。イギリスのメジャー誌「NME」、「WIRE」等の雑誌で絶賛を受ける。2002年7月に2ndアルバム「Dreamland Idle Orchestra」発表。2003年7月に3rdアルバム「Deadland after Dreamland」をROMZより発表。The CureのPerry BamonteはわざわざイギリスからUNITでのライブを観に来るなど、国内外で話題が殺到しつつも、実態がみえないミステリアスなイメージは継続する。2005年突如、音楽活動から離れる。2009年から現代美術(作)家のタカノ綾、ドラマーの吉川弾との出会いを切っ掛けにまた音楽活動を再開する。

アートワーク担当:タカノ綾
1976年、埼玉県生まれ。多摩美術大学芸術学部卒。現代美術(作)家。超常現象へのあからさまに傾倒するマインドを、揺れ動く女性の欲望やファンタジー、エコロジカルなコンテクストに絡めつつ描き出す画題の方向性は、現代のゴヤと言えるかもしれない。一度そのアディクショナルな世界に感染すると、何度でも浸りたくなってしまうのは、そうした社会批評性と現状絶対肯定する生き方のアンビバレンツさに、今を生きるリアリティを感じてしまうからなのだ。

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インタヴュー

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筆者について
西澤 裕郎 (西澤 裕郎)

1982 年生まれ。ファンジン『StoryWriter』編集長。http://storywriter-magazine.com/

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