プレイヤーとオーディエンスの断絶なき現場

yukinoise:メインフロアでそれぞれ好きに踊ってる光景、良すぎるな~。
山本:フロアの作りが本当に最高だったんですけど、何か意図してこうなったわけじゃないですよね?
NordOst : スピーカーの置き方とかは設営チームが初めてその場に行ってやってみるかって感じで。すごいっすね。

yukinoise:松島(NordOst)はこの日のDJでどんなレイヴ観を出そうとしてたん?
NordOst : レイヴィーだけど耳疲れしない」みたいな? 最近〈Tribe〉や〈Freetekno〉とかハードテックあたりの音源でDJするのにハマってて、その原型になったサイ・トランスでもハードコア・テクノでもない中間くらいの柔らかい感じの曲を多めに持ってった。途中からよくわかんなくなって単純に好きな曲かけたりもしたけど、自分の前のwetssidくんが有機的なUKブレイクス中心のプレイだったから、それに寄せながら。持ち時間の中でガッツリカマすよりも、焚き火を育てるような感覚を意識してた。自我を出すのもいいんだけど、最近はフロアでの機能や役割みたいなものを優先してますね。
山本:〈Tribe〉や〈Freetekno〉はまさにフリー・レイヴの元祖みたいなところがあるので、それをちゃんと持ってくるのがやっぱり流石ですね。
NordOst : 各々のレイヴ解釈をみんなが持ち込むだろうと思って、その中でプレイされなそうな、聴けたらいいだろうなって曲を。僕はそんな感じでした!

yukinoise:サブフロアは飛び込みDJ可のブースにしてたけど、装飾も空気感もちょうどよかったよね。
NordOst : ホワイトボードに名前を書いて予約して、聴いたり聴かなかったり立ち止まって踊るみたいな。
山本:チャンスオペレーション的な、偶発性が結果的にすごい良いかたちだった。

NordOst : 「ここでカマすぞ!」みたいにフロアの熱量を総取りしようとする奴がいるとフリーブースとかフリーB2Bって成り立たないので(笑)。そういう意味でもよかったですね。
yukinoise:パーティーってさ、プレイヤーとオーディエンスでその場にいる人の立ち位置が分断されてしまうことがあるじゃない。自分はそういう関係性や肩書きの有無によって遊び場が濁ることが苦手だからさ、オープンなフリーブースがあることによってプレイヤーにもなれるチャンスもありながらただの純粋なオーディエンスでもいられるようなフラットな空間がすごく心地よくて。
山本:今回参加した人は演者だろうとそうじゃなかろうと一律でお金を払うってのがよかったと思うんですよ。それでやりたいことを中でやってくださいねっていう結果、フラットな場になったのが勝因というか。
NordOst : 分かち合いだったね。普段だったらDJが収入源になってる人とかも、等しく「いや行くっしょ!」みたいな感じで。エントランス代が~とかじゃなくて、レイヴを作るための費用をフラットに払う、って遊び方への理解度とかも。仕事とかではないけど全力でやって全力で遊ぼう、ってのが共有できたのはデカかったんじゃないかな。
yukinoise:商業的なレイヴをやりたいわけじゃなかったからね。商業にするならレイヴじゃなくてフェスをやったほうがいいし、何がレイヴたらしめてるかって言われたらこのDIY精神こそだと思う。
レイヴのフードは人の命を救う


NordOst : 朝の6時50分あたりのTUDAさんのイージーリスニングセットやばかったな、TUDAさん含め全員陶酔してた。チルアウトエリアよりチルアウトしてた感じで。
TUDA : めっちゃAIシリーズとかかけてた。
山本:その後のkiyotaさんも良かったですよね。
yukinoise:良かったね~、ドラクエのサウンドトラックを流してたの覚えてる。
NordOst : kiyota君は最高のDJですね~。
yukinoise:実は朝に振る舞った豚汁うどん、設営中に下ごしらえした後に昆布を入れといて夜中踊ってる間に出汁取ってたんだよね(笑)。自分はDJとかしない分、違うかたちでレイヴをサポートできたらと思ってさ。全力で遊び切るには栄養補給がマジ大事。
NordOst : 普通のパーティーだと朝方には帰り始めるじゃないですか、朝ごはん食べたりして解散、みたいな。それに対して、レイヴはやっぱり長尺になるから走り抜けるためにはカロリー補給が大事なんだけど、やっぱりその辺の感じも超わかってくれてるな~と。食欲なくても豚汁は啜れるって人も多かったし。
山本:レイヴのフードは人の命を救いますからね(笑)。

NordOst : 参加してる人が自分だったら何ができるかな、って自然と考えられる空間もそうそうないから、とにかくそれが成立してて良かったです。
山本:しかも誰かに強制されるわけでもなく楽しいからそうなるってのが、理想的な社会のあり方だなと…。
yukinoise:初めてフードやってみたけど楽しかったよ。フロアとは違うかたちのコミュニケーションも取れたし、それこそDIYだからこそ自分のやれることをやるっていうわたしなりのレイヴ観が豚汁で体現できたかもしれない。
NordOst : 相当行ってないとこの境地に辿り着くのは無理でしょ(笑)。
yukinoise : これまたいい1枚。そういえばうちらもフロアが最高すぎて自然とハグしてたよね?レイヴやれてよかったね~って達成感と感慨深さで一瞬抱きしめあったけど、その後すぐ各々また踊り始めた記憶がある。

NordOst : 個人主義的な一体感って理想。手前のチェック・シャツの彼こそが暗躍者というか、kase takumiくんってDJですね。最高。
yukinoise : 朝方に“Born Slippy”のテック・ハウスや“徳利からの手紙”をかけてて本当に感動した。ハウス的な美学でそういう曲をDJで使うってかなり今の世代っぽい感覚。
山本:”徳利からの手紙”はバックトラックがKZAさんの曲ということもあって、よく考えたらハウス・マナーに沿って流すことは出来るんだけど、あんな流れで聴けるとは想像もしなかったですね。
yukinoise : まさか“徳利からの手紙”をレイヴで聴くことなんかないでしょ…って最初は思ったけど、そういえば今日は自由にやっていい日だったんだって改めて実感させられたし、かつてのああいうインターネット的なノリが好きだった自分のルーツも肯定できた。今だからこそそう思えることなのかもしれないけど、なんとなく無意識的に隠してたルーツや好きだったものも自信持って示していいんだなって。
NordOst : 違うルーツを各々が全員抱えてて、あんまりそれを曲げたりすることもなく自然と溶け合ってたって感じを、このハグが象徴してるような(笑)。
yukinoise : その場にいるすべての人がオリジナリティを尊重し合ってた、多様性の本来あるべきかたちだと思う。あなたはあなたのままでいい、あなたのルーツを大事にしてねってムードが広がってたな。きっとあの時のムードもいつしか自分のルーツになる。みんないろんなことを好きでい続けて、今こういうものを面白がってるんだなってことも知れた気がする。
NordOst : いい分かち合いだった! 加瀬くんの前のDJが貧血でダウンしちゃった分長めにハウスをしっかりやるって感じになったんだけど、これもまた良かったというか。
山本:そうですね~。