全員が主人公になりたがるところがあるし、それぞれ目立ちたがり屋
──なるほど。中野さんはどうですか?
中野:私は"1998"ですね。(曲名は)私の生まれ年でもあるんですけど、レコーディングでもいままでの人生を思い返しながら歌ってたんですよ。ふだんは「ここがいちばんの聴かせどころ」「ここにピークを持ってくる」という部分を自分のなかで設けるんですけど、"1998"は全部がハイライトだと思っていて。ストーリーを感じながら、ひとつひとつのフレーズにこだわって歌ったので、ぜひ聴いてほしいです。
神門:中野の人生をすべて知っているわけではないですけど(笑)、自分たちの世代が感じていること、これから感じるであろうことを歌詞にしていて。1998年生まれの人たちはたぶん、「初恋のあの子、どうしてるかな」と思うこともあるだろうし、僕たちよりも先輩の人たちは「そういう時期もあったな」みたいな気持ちになってもらえるだろうなって。
──1998年生まれはZ世代と呼ばれることもありますが、自分たちの世代ならではの特徴ってあると思いますか?
久米:すごく感じますね、それは。
神門:時代の移り変わりをすごく感じている世代だし、この先歴史の教科書に絶対に載るであろう、コロナも20代前半で経験していて。SNSの影響で「人から見られている」という意識が強い世代だとも思うし、自己肯定感の低い人が多い気もします。"1998"の「いつも気にしてる / 肌荒れの跡、前髪のこと / もうほっとけよ」という歌詞も、世代感みたいなものが出てるのかなと。ドラムの和希は年下だから、ちょっと分かんないけど(笑)。
松本:僕だけ2001年生まれなんです(笑)。みんなよりもちょっと下ですけど、一緒に時代を感じながら活動してきたし、連帯感もありますね。"1998"は歌詞も最高ですが、ドラムは自分でも突き詰められたと思っていて、気に入っています。
神門:うんうん。今回のアルバムのサウンドはベースとドラムが引っ張ってくれたところが大きくて。特に"1998"はドラマーとしてのこだわりを感じたんですよ。さっきも言いましたけど、アレンジを他のメンバーに任せる部分も多くて。ぶつかることもありましたけど、自分としては(曲を)「与える」「与えられる」ではなくて、一緒に作っていきたかったんです。メンバーに求めることもたくさんあったし、自分自身も勉強になりましたね。
──制作における関係性がフラットになったというか。
久米:神門が作詞作曲して、中野がピンヴォーカルじゃないですか。僕と和希は、ただ演奏してるだけだと絶対に負けちゃうし、アイデンティティーを保てないんで。「食らいつかなきゃ」というか、レコーディングでもアイデアをバンバン出して、一歩でもフラットな関係に近づきたいと思ってます。
松本:ヴォーカルとギターは華がありますからね。僕らも頑張らないと「じゃないほう芸人」になっちゃうんで(笑)。
神門:(笑)。いい案を持ってきたヤツが勝ちというか、けっこう民主主義的なバンドだと思いますけどね。全員が主人公になりたがるところがあるし、それぞれ目立ちたがり屋なのかなと。
──松本さんの印象的な楽曲は?
松本:今作には短い曲が2曲("間に合ってます" "卒業")入ってるんですよ。特に"間に合ってます"は、速いツー・ビートで、サビでリズムのパターンが変わって。おもしろいことができたし、気に入ってます。
神門:この曲は、家で曲を作ってたときに、セールスが来たんですよ。「ごめんなさい、間に合ってます」って断ったあとに「"間に合ってます"って言葉、おもしろ」ってなって(笑)。この言葉って良くも悪くも流しちゃうと思うし、もし誰かに言われたら、あとになって「すげえイヤだな」とか「ムカつくな」って思いそうじゃないですか。そういう気持ちを同じ目線で伝えられる曲にしたかったんです。
松本:歌詞を見たときは「こわっ」って思いました(笑)。でもポップなサウンドとのギャップがいいですよね。
神門:ショート・チューンはアルバムのセクション分けの役目もあって。"卒業"はゆったりとしてて、寄り添う感じの楽曲なんですよ。(イベントや対バンなどで)ライヴで時間が余ったときにもやれるし、ヴァリエーションもつけられるのかな、と。
──"ロックバンドなら"の再録ヴァージョンについても聞かせてください。2020年のコロナ禍で制作された楽曲ですね。
久米:はい。僕ら、2019年まで社会人として働いていたんです。2020年からバンドに専念することになったんですけど、すぐコロナ禍になって、ツアーもなくなって。ずっと家にいたんですけど、飲まれてしまいそうな状況でもあったと思うんですよ。そんななかでメンバーと話をしたり、和希とスタジオに入ったりしてたんですけど、神門が「この曲どう?」って"ロックバンドなら"を送ってきてくれて。「救われた」というと安っぽいかもしれないけど、グッときちゃったんですよね。
中野:うん。
久米:だいぶライヴ・シーンが元通りになってきたなかで、新たに録音したヴァージョンを収録できたのはよかったと思いますね。それこそ、まさに『Oribital』(軌道)というか、戻ってきたというか。
中野:コロナ禍での思いもあるし、「時代は関係ない」という気持ちもあって。この曲をフル・アルバムに入れられることを誇りに思うし、「ここからまた行くぞ」という思いも上乗せして、さらに力強く歌っている感じもありますね。
神門:原曲よりもテンポが上がっちゃってるんですよ。
松本:ライヴでやっているうちに速くなってきて(笑)。今回はそのBPMで録ってます。
中野:ヴォーカルもほぼ一発録りですね。
神門:歌詞に関しては、いまになってみると、子供っぽく聴こえる感じもあるし、でも本質を捉えているような気もして。再録しても歌詞はまったく同じなのに、違う意味合いで自分に訴えかけてくる感覚もあります。
──「ロック・バンドだからこそ、やれることがある」という確信もある?
神門:ありますね。かっこつけることも正当化できるし、「きれいごとを言うな」と歌うこともできるし、きれいごとをそのまま伝えることもできる。寄り添うこともできるし、ついてこい! とも言える。バンドには無限の可能性があるし、なにを選ぶかによってバンドの個性が出るんだと思います。ロックの解釈が変わったとしても、"ロックバンドなら"のサビの歌詞に書いてあることはずっと変わらない。そういう意味では、やっぱりこの曲の歌詞は本質を捉えているんだと思いますね。