第2部 : 唐世杰、張盛文(透明雑誌)×波多野公士(V/ACATION)
——第二部は、日本と台湾のパンク・シーンについて伺いたいと思います。第一部で「台湾では音楽を積極に聞く人が少ない」という話が出たのですが、そもそも台湾に“パンク・シーン”はあるんですか?
唐世杰(Dr.)(以下、トリックス) : 5、6年前はパンクをやっているバンドは多かったです。台湾でバンドをやっている人たちは、パンクに限らず色々なジャンルの音楽に興味があるんです。ただ、台湾には兵役があるので、兵役の前にバンドをやって、兵役の後にバラバラになるということが多いです。でも、ずっとパンク・バンドをやっていた人たちは、今、バンドをやっていなかったとしても、パンクの精神を持ち続けている人が多いです。
波多野公士(以下、波多野) : バンドがいま少なくなってきているのは、日本も同じだと思う。とくに世代の若いバンドは少なくなってる気がする。
トリックス : 欧米や日本であれば、80年代からパンクの文化がありますよね。でも、台湾ではパンクの歴史というのは浅くて、根付いていない。だから、一時の流行でパンクをやる人は多くても、ずっと続ける人は少ないです。台湾でパンク・バンドが多かった時は、パンクがファッションと一緒に入ってきた。だからみんな「パンクをしましょう」みたいな感じでやっていたんです。
波多野 : なるほど(笑)。
——逆に、日本にはパンクの歴史があるわけじゃないですか。その中にあって、若いパンク・バンドが減っているのはなぜだと思いますか?
波多野 : これは…、まずわからない。ただライヴ・ハウスにいる人たちというのは5年前から変わらないように思う。少なくとも身の回りはそうですね。僕たちは、パンクに限らず、バンドを新しく作っていく土壌を持っているから、新しい人が入って来さえすれば、その人に声をかけて、一緒にバンドやろうよってことができる。でも、いないとは言わないけど、少なくなってきてる。ただそれは一慨に悪いことだとも言えなくて、人が入って来ない分、いまいる人たちの繋がりで、他のコミュニティとの交流が活性化して面白いことになってはいる。面白いことをやっている人達は(昔)よりアンダーグラウンドの方に潜ってしまっているから、全体でみると大きな流れというのは起こっていないかな。
——「パンク」というテーマを扱うにあたって、一つ僕が聞きたかったのは、最近は原発デモなどの動きが大きくなってきていて、ちょっと前の時代だったらパンクの精神みたいなものがもう少し前に押し出されていてもおかしくないと思うんですね。けれども、パンクというもの自体の盛り上がりはあまり起こっていない。ということは、「パンク」というのは今の価値観とズレているのではないかなと思ったんですが。
波多野 : 「パンクだ! 反対だ! 」っていうのはすごく分りやすいし、昔はそういう人が多かったんだと思う。それはそれで美しいと思うんです。その一方、僕たちのパンクというのは、「色々なことを自分達でD.I.Yでやっていく」ための精神というか、心のよりどころみたいなもののように思います。話、それますが、僕が(透明雑誌の)二人を尊敬してる理由は、Waiting Roomっていうレコード・ショップを経営しているところ。台湾には文化の発信基地みたいなものって僕の知る限りでは他にないんです。そういった(逆境的な)環境の中で、人に届ける場所を作っている。あるいは、長腦筋唱片(chngin records)っていうレーベルをやっていて、自分たちのことは勿論、他の国のバンドもリリースする。そんな風に、やれることをしっかりやっているっていうことが本当に素晴らしいことだと思うし、パンクだと思う。で、じゃあ自分が出来ることは何かって考えた時に、Less Than TVっていうレーベルを手伝うってことが浮かんだんです。自分の面白いと思ったものを、Less Than TVを媒介に発信できる。そういうやり方も、二人に影響を受けています。
——波多野君は透明雑誌に刺激を受けているとのことですが、透明雑誌のお二人が活動を続けているモチベーションはどこにあるのでしょう?
トリックス : それは、台湾の音楽シーンを盛り上げるためです。10年前からモンキー(洪申豪)と一緒にバンドを組んで活動してきました。10年間、台湾のインディー・シーンは変わり続けているけど、流行廃りが激しく、面白い音楽が出てきても、一時期盛り上がってみんなすぐに離れてしまう。しかし、長腦筋唱片のような存在があれば、発表したいときにいつでも作品を発表できる。これがレーベルを続けていけるモチベーションですね。自分の周りの友達はクリエイターが多くて、そういう人たちの作ったものを尊敬しているので、(作品を発表できる)場所を作ってあげなければいけないと思いました。また、自分は若いときから海外のレーベルを見て、音楽を買っていたんですけれど、台湾にはそういったレーベルがあまりないので、自分で作ったというのもあります。
——台湾で、あなたたちと同じような活動をしている人はいないのですか?
トリックス : 台湾にも一応レーベルはあるのですが、数が少ないので、もしこのまま、いくつかのレーベルだけが大きくなってしまうと、限られた種類の音楽しか流通しないかもしれない。自分でレーベルを作ると、(環境に刺激を与えるという)良い意味での競争を起こせると思いました。
波多野 : レーベルを起こす、まさにきっかけみたいなものを聞きたい。小さなレーベルがないなかで、参考にしたレーベルとかあった?
張盛文(Gu.)(以下、ヴィンス) : 昔、台湾にKapitalism recordというレーベルがあったんですけど、そのレーベルはパンクのレコードをたくさん紹介していて、モンキー(洪申豪)やアホン(薛名宏)と知り合えたのは、そのレーベルがあったからなんです。自分でバンドをやるようになったのも、そう。でも(そのレーベルが)潰れてしまって。パンクを紹介しているところはそこしかなかったので、パンク好きはどこに行っていいかわからないじゃないですか。もともと台湾の音楽マーケットはつまらなかったし、じゃあ自分たちがやろうと思いました。
自分が好きなものを人にも知ってほしい(トリックス)
——透明雑誌の二人は、台湾に自分の好きなレーベルがなったから作ったんですね。それに対して、波多野くんは今の日本には数多くのレーベルがある中で、なぜLess Than TVを選んだんですか?
波多野 : 選んだというより、レーベルのイベントのアフター・パーティーでお酒を飲みながら、次のCDや次のイベントの希望を色々言っているうちに、気がついたらコレやってよアレやってよって言われるようになって。そんな感じです(笑)。レコードに限らずですけど、今の日本で尖ったものって、LESS THAN TVくらいのレーベルの規模より全然もっと小さい規模で、自主でやってるものが多い感じがします。自分でパブリッシャーをやってる人たち。それはそれでいいと思うし、カッコいい。それに対して、Less Than TVってまた特殊で、もはやレーベルでもないのかなって。昨日、友達と喋っていたのは、レスザンは場所だよねってこと。CDだけ出して、ツアーのブッキングやって終わりじゃなくて、一緒に面白いもん作ろうよって感じ。例えば「誰誰、バンドやめたんだって? じゃあ一緒にやろうよ!」みたいな(笑)。そこが他のレーベルと違うところだし、刺激的。一緒に楽しく悪ふざけできてる理由だと思う。だから、レーベルじゃないかな。言うなら、コミュニティかな。そこが好きっす。
——実際、Waiting Roomも、コミュニティの居場所の役割を意識されてるんですよね?
トリックス : 今は、コミュニティになってる感じもありますね。一緒にWaiting Roomをやっている友達の中にも、自分でレーベルをやってる友達もいて、外国のCDなどをずっと出してきた人がいます。創業メンバーは全部で6人だから、友達の友達、みたいな音楽好きが繋がっていった。ライヴやパフォーマンスをやる時も仲間がたくさん来てくれます。さっきのKOJI(波多野)の話を聞いていると、僕らがやっていることと重なる部分も多いと思います。
波多野 : 今のWaiting Roomって、本当に最高の場所なんです。4年前に初めて会った時は、まだなかった。彼らにとって初めての海外バンドの招聘ってことでV/ACATIONとでぶコーネリアスを呼んでもらった。で、その後も仲良くなってメールやら電話やらでやりとりしてたら、Waiting Roomというレコード屋をやるって聞いて。それを聞いた時に、「これはすごいことが起きるぞ!」と思って。っていうのも、初めて台湾行った時に、ヴィンスにレコード・ショップに連れて行ってくれって言ったけど、(台湾にはレコード屋が)本当にない。結局、ヴィンスがバイトしていた大型レコード・ショップに連れていってもらって。そういう環境の中で、彼らが自分の場所を作るって事実に興奮して、日本でレーベルやレコード・ショップをやっている友達に電話して、(レーベルの)CDを全部一回、ウチに送ってもらったんですよね。で、ボストンバッグにそれを入れて台湾に行って、これ全部サンプル盤だからって渡して。その時、僕は勝手にWaiting Roomの理想形として、さっき言ってたコミュニティのような形を思い浮かべてたんだけど、この間行った時、見事に理想の通りになっていた。すごいことだなあ。
——今の時代、音楽をやっていくにあたっては、そういう場所をちゃんと作らないとダメなんでしょうか?
波多野 : 大事だと思う。どんだけ、みんなでたむろしてるかっていう(笑)。だって、面白いこととか、かっこいいバンドとかって、全部友達が教えてくれる。
ヴィンス : 台湾と似てます。
——このインタビューが載っているOTOTOYも、捉え方によっては場所だと言えると思うんです。色んな人が音楽を聞きに来たり、インタビューを読みに来たり、ミュージシャンが先生をやっていたりもする。ただ、場所だけ作っても、人を集めるのは大変だっていうことも実感しています。みなさんは、どうやって場所に人を集めているんでしょう?
波多野 : 僕に関しては、顔も名前も知らない1000人よりも、しっかり喋れる10人くらいの方が面白いと思っているので、人数を稼ぐというやり方はわからないです。
トリックス : じゃあ、数より質?
波多野 : いや、そう言っちゃうとアレだけど(笑)。でもまあ、そうだね。だから、1000人、2000人の前でライヴやることは面白い経験だと思うし、やってみたいとは思うけど。でも、だったら50人の前で、来てくれた人の顔が全部が見える環境で、たくさんライヴをしたいな。自分が面白いと思うことを頑張ってずっと続けてたら、ちょっとは集まって来ますよ。変な人たちが(笑)。台湾ではどうやって人を集めてるの?
トリックス : 第一にパッションが大事だと思います。今やっていることに関しては、音楽制作やツアーを組むことや、その他色々なことまで含めて、好きなことしかやっていません。それも重要だと思います。さらに、話すよりも、実行するということが大事だと思います。とりあえず、やってみてから考えます。
波多野 : かっこいいね。とりあえず形にしろと(笑)。
ヴィンス : 自分の能力の範囲内でできることをやりたいです。例えば、その結果50人が集まったのであれば、その50人に対してできることを精一杯やりたい。全ての出発点は、自分が本当に好きなものを、同じような好みを持っている人達とシェアしたいという気持ちです。自分だけじゃなく、他の人も同じ思いを持っているなら、お互い色々な音楽を教えあうことができるし、少しずつ仲間の輪も広がる。生活が続く限り、こういう事を続けると思います。
——最初の話に戻るのですが、パンク・バンドの人口が減っているとおっしゃってましたよね。でも、1000人の顔の見えない人よりは、1人の濃い人間の方がいいと。そういう矛盾した状況がある中で、波多野さんはどういう気持ちなのでしょうか?
波多野 : うーん。
トリックス : パンクが流行っている時にその流れにのって入ってくる人たちは、数は多くても長くはいないです。それは自由な選択なので、別にこちらからは何も言えないですけど。そんな中で残った人達は本当にパンクが好きな人達だから、そういう人達がいる限りはパンクの文化は残り続けるんだと思います。
波多野 : そうだね。フォローありがとう(笑)。多分二人も僕も、これ以外の戦い方を知らないんだと思うんですよね(笑)。さっきトリックスが言った通り、要はやるかやらないかってことなんですよね。あとは頑張ってそれを続けていくってことしか、僕らにはやり方がわからないんですよ。場所、コミュニティがあって、ずっとそれを続けていけば新しい人が入るかもしんないし。例えば、自分に見合わないことをして、だかんだ500人集まったとしても、それは僕らの仲間じゃない。西澤さんの指摘する矛盾の、解決にはなってないけどね。お客さんが少なくなってるって大きな流れはあるけども、少ないなら少ないなりに純度を高めて色々やっていきたいというか。あと面白いヤツは絶対潜んでるんで!
——ある意味、茨の道ってわけじゃないですけど、ストレート・エッジな道を歩いているというか(笑)。そのバランスを崩してしまうとパンクじゃなくなるんでしょうね。
波多野 : そう思います。
——自分達でできることをやりながらも、透明雑誌は日本でメジャー・デビューをするわけですが、そのことに対しては率直にどういった気持ちですか?
トリックス : メジャーになってもならなくても自分に大きな影響はないです。台湾で生活しているし、台湾にいるときはいつもと同じことをやるので…。メジャーになったら何か変わるんですか?
——それこそ、今まで知らなかった人にも音楽が届いたりするかもしれません。
トリックス : それは面白いと思います。ただ、それで、自分が変わることはないと思う。さっきも言ったように、こういう活動をしている理由は、自分が好きなものを人にも知ってほしいという気持ちからです。自分達の作品を聞くかどうかというのは、聴く人達の自由なので。
波多野 : 僕は透明雑誌というバンド自体ももちろん好きだけど、今日見せたような二人の側面の方がより好きなので。バンドも好きだけど、活動もカッコイイよね。
トリックス : うん、がんばる(笑)。
——それでは最後に、お互いに激励の言葉をお願いします。
トリックス : Come To Taiwan.
波多野 : 来年…、なんとか! あ、メテオナイトin台湾はどう?
二人 : Oh~。
波多野 : 前から、同じ感覚でやってると思ってたんですけど、今回話してみて同じノリだな~ってことを一層強く感じました。それは、環境が違うからアウト・プットが違うだけで、やってることや想いは変わらないんで、これからも変わらずお互いの場所を行き来してやっていけたらいいね。
——またこういう機会でお話を聞けたらと思います。ありがとうございました。
全員 : ありがとうございました。