
突然、大学生の女の子からSiNEの名前を聞いた時、僕は一瞬固まった。SiNE=シネ=死ね!!
そんなインパクトのあるバンド名を持つ彼らは、全員が別バンドで活動している6人組。言ってみれば、東京アンダーグラウンド・シーンの選抜チームである。nemoの本間則明が、toddleのベーシストである江崎典利を誘ったことからバンドはスタートする。ギターにはLimited Express (has gone?)のドラマーであるTDKが参加していたり、現在ふくろでも活動中の最年少dickyが参加したり、取り止めがない。しかも6人が奏でる音楽はダブ! もちろんこれも一筋縄ではいかない。所々にハードコア的な要素やパンク、ジャズなどの影響も垣間見える。アルバム名が『HEAVY MEATHYL(ヘビー・メチル)』というだけあって、酒の話も止まらない。ここに掲載できないような話題も延々と続いたインタビューを、以下にお届けする。ちなみに、myspaceの影響を受けたアーティストの欄にはこう書いてあった。酒…。
インタビュー&文 : 西澤裕郎

「Last Dance of the M.J.」のフリー・ダウンロードはこちら(期間 : 3/18〜3/25)
全員「自分が一番まともだ! 」って思っている
——バンド名がインパクトのある名前ですが、由来を教えてください。

本間則明(以下、H) : もともと僕の勘違いがきっかけなんです。知り合いの女の子が「シネ」っていうバンドで活動しているって聞いたので、本人達に会った時に訊いてみたら全然違う名前だったんです。そのエピソードが面白かったので名前を決める会議の時に話したら、TDK(Gu)が「それがいい! 」って言って決まったんです。
——「死ね」って意味じゃないんですか?
H : 正直、言葉自体に意味はないです。インパクトの強さとアルファベットの感じがよかったのが大きいですね。
——よかった。恐い人たちかと思いました(笑)。この6人はどうやって集まったんですか?
H : 3年くらい前に、僕が突然新しいバンドを作ろうと思ったんです。漠然とダブ・バンドをやろうと思っていたので、まず最初に江崎君(江崎典利(Ba))を誘いました。それからよく対バンをしていたdicky(Dr)を誘って、更にどんどん人を集めていった。結果、やり始めるまでに3年くらいかかっちゃったんですけどね(笑)。
——どういう基準で声をかけていったんですか?
H : 基本的に、僕が気になっていた人に声をかけていきました。イワモトリョウ(Sax)だけは、ある日スタジオに行ったらいたんですよ。それでいつの間にかメンバーになってた(笑)。TDKもちょっと変則的ですね。野本くん(野本直輝(Synth))に声をかけた時にTDKもいて、「俺もやりますよ。パーカッションとか」って話になったんですけど、いつの間にかギターになってたんです(笑)。
——nemoでも活動されているのに、なんで違うバンドをやろうと思ったんですか?
H : 一つはSUPERDUMBとかVERMILION SANDSとかを観て、ダブ・バンドがおもしろそうだと思ったこと。もう一つはエフェクターとかが好きだったので音響系のバンドもやってみたいと思ったことがきっかけですね。あと、弦楽器以外をやってみたかったっていうのもあります。
(江崎典利遅れて到着)
江崎典利(以下、E) : すいません。よろしくお願いします。
——よろしくお願いします。来ていきなりですが、SiNEの6人がどんな人たちなのか教えてもらえますか?
E : みんなまともじゃないよね。
H : そうそう(笑)。前から思ってたことがあったから今聴こうと思うんだけど、全員「自分が一番まともだ! 」って思ってるんじゃないかな? 江崎君も思ってるでしょ?
E : いや、俺は超エキセントリックな人生を過ごしてきたと思ってるけど。
H : そうなんだ(笑)。俺が話してる限り、みんな自分が一番まともだって思ってるように感じるけどなあ。

——どういう部分でまともじゃないと思うんですか?
H : だって、dickyなんて名前からしておかしいじゃないですか(笑)。
E : まあおかしいわな。でも、自分のことを変わってると思ってるかどうかは置いといて、何かおもしろいことないかなって感覚でバンドをやっていると思いますね。一般的には年齢を重ねるごとに落ち着いていくのに、この6人は逆ですから。本間君とdickyは別だけど、他のメンバーは音楽を始めたのが割と遅いんですよ。例えるなら、40歳くらいでキャバクラにハマったおっさんみたいな感じ。羽振りがよくなったころにハマって抜け出せなくなっちゃった感じ。色んな音楽を聴いてきて色んなおもしろいものを見てきて、ちょっと自分でもやってみたら抜け出せなくなっちゃった。
——メンバー同士で聴いてきた音楽とかは似ているんですか?
H、E : 知らない(笑)。
H : 直接的に話をしなくても、それぞれが何となく共通する部分があると思うんですよ。江崎君とTDKで合うところもあるし、俺と野本君で合うとこもあるし。全員が完璧に合ってる部分はあまりないんじゃないかな。dickyは飛び抜けて若いですし。
——年齢がバラバラですもんね。年代を越えてバンドを組んでみて、どんな感じですか?
H : おもしろいですよ。年齢が関係するのか分からないけど、みんな一通りやってきた人たちだから打てば応えてくれるし、自分がやりたいことをそれぞれが思ったようにやってくれているので刺激になります。
E : メンバーを揃えた時点で、本間君はすごい仕事をしたと思ってます。
H : 正直それで満足しちゃってる部分もあるから、あとはみんなで好きなことやってくれって思う。
お酒を飲んでバイブスをこねる
——曲作りに関して教えてください。
H : 大体が江崎君が練ってきたフレーズにdickyが合わせて、それに対して俺らがのらりくらりと合わせていく感じですね。
E : ジャムってる時って「さっきのはよかったね」っていう部分があっても、曲にはならないじゃないですか。そういうものが、ライヴが決まることによって形になっていくんです。
——初めてのライヴはどんな編成だったんでしょう? youtubeに上がっていた動画を観たらノイズばっかりだった気がするんですが…。
H : 最初は山形でライヴをしたんですけど、ギターが3人いたんですよ。野本君とリョウ君とTDKがギターで、後ろで江崎君がベース、俺が鍵盤を弾いていて、その後ろでdickyがドラムを叩いていた。
E : あの時は俺とdickyしか曲の構成を知らなかったから、みんな好き勝手やってたよね。

——『HEAVY MEATHYL』に収められた10曲はいつ頃出来た曲なんですか?
E : 録音している途中で完成したよね。
H : そうそう。前日まで曲を作っていた。前日までに4曲まとめて、残りは当日録りながら合わせていった。
E : 曲が出来ていなくても安心だったのは、すごい量のセッションをしてきたから自信があったんです。あとセッションの際に、すごくいいフレーズとかが出来るんだけど、曲にしないことがが多いんです。そういうものを実際に曲にしたら絶対にかっこいいだろうなって感覚があったし、みんなもそういう感覚だって分かっていたから全然心配なかった。ここを繰り返して、こういうブリッジつければ曲っぽくなるよねって感じで進めていった。
H : そうそう。そこでブレイクを入れようとか言いながらやって、本当に当日に合わせちゃった。
——読み方の分からない曲があるので教えて欲しいのですが、5曲目「I-4-tell」は何て読むんですか?
H : 愛してる。
——9曲目「I$」は?
H : アイドル。
——なるほど! このタイトルの付け方はすごくセンスがありますね。
H : 僕が、仮歌にある単語を抜き出してつけているんです。捻くれてるんでそうなっちゃうんですよ。たまに江崎君に止められる時もあるんですけどね。
E : でも「I-4-tell」は俺の言葉だよ。歌の中にはないもん。
H : そうだ! 結果歌わなかったんですけど、江崎くんから「愛してるって歌いなよ」ってずっと言われていてそこからつけたんです。
E : 途中にブラック・サバスっぽいリフのところがあるから、そこに合わせてデス声で「アーイーシーテールー!! 」って歌ったら面白いかなって思ったのにさ。
H : あの曲が出来た当初からずっと言ってるよね(笑)。
——歌詞はどうやって書いているんですか?
H : 曲を作っているときに仮歌が入っているんで、言葉になっていない部分に単語を当てはめていって文章にしています。最後の曲だけは、書き出した単語を彼女に渡して文章にしてもらいましたけど(笑)。

——なんで最終曲「Last Dance of the M.J.」だけそういう手法をとったんですか?
H : マイケル・ジャクソンが亡くなるかなり前だったんですけど、TDKがすぐにタイトルをつけちゃったんですよ。。俺はほとんどマイケル・ジャクソンを聴いてなかったので、すんなり歌詞をつけられなかった。だから、この曲に関してはタイトル先行ですね。書いてるときに彼女が横にいたので、文章にしてもらってレコーディングで一発で歌いました。
——アルバム・タイトル『HEAVY MEATHYL』にはどんな意味があるのでしょう?
E : 僕は工業高校の化学科だったんですけど、有機化学とかを勉強しているとメチル・アルコールの話が出てくるんですね。教師が「戦後アルコールがなくて酒を飲みたい時は、我々団塊の世代はメチルを飲んだ」みたいな話をするんですよ。メチルは失明するっていう逸話も聞くけど、その分めちゃくちゃ酔っぱらうらしいんです。SiNEを始めた時、ベースでヘビー・メタルっぽい曲を構成してみんながそれに合わせて形を作っていた。音楽でもヘビー・メタルやダブとか飛ばす音楽がいっぱい存在するじゃないですか。そういう飛ばすものの代用として一番過激な飲み物がメチルだと思ったので、ヘビー・メタルとメチルを合体させたんです。
——メチルを飲むような感じで、音楽自体で飛ばせるようなものにしたかったということですか?
E : だってダブってそういうものでしょ?
H : スタジオに3時間くらい入っているうち2時間はロビーで酒を飲んでるんですよ。だからセッションの時間や曲を作るときは結局酔っぱらってるんですけどね(笑)。
E : お酒を飲んでるっていうかバイブスをこねているんですよ(怒)。
H : 言い方だよね(笑)。
E : みんなの波長を合わせるためにこねているんです。
——こねないでやったらバイブスは出ないですか?
E : ライヴの時は、お酒の力を借りなくてもテンションやアドレナリンで行けますよね。
H : …俺は100%飲んでるけど。
演奏に対する幻想をなくしてくれた
——レコーディング/マスタリングを益子樹さんが担当されていますけど、これはどういう経緯でお願いしたんですか?
E : 僕がよく益子さんのスタジオに行ってたんです。それで誰に頼もうかっていう時に、僕がぽろっと益子さんの名前を出したことがきっかけですね。結構刺激的だったけど大変な部分もありました。
H : 益子さんの存在は大きいです。キーがずれていると、ギターですぐキーを教えて直してくれるんです。僕は鍵盤なんですぐやってもらえるんですけど、リョウくんはサックスなので吹き直すのは結構大変そうでしたね。そういう感じだったので、益子さんの力はすごく大きかったです。

——皆さん別バンドでも活動されていますが、そうした活動を通しても大きい経験だったんですね。
H : そうですね。こんなに奇麗に音が録れるんだなってビックリしました。
E : 録音に対する幻想をなくしてくれたんですよ。ドラムを録るのに床の音を録ったり、ものすごく遠いところにマイクを置いたりっていうのはロマンの話であって、実際ライヴ・ハウスに来ている人たちはそんな音聴いてない。バンド自身もね。だからそういう音はいらないでしょ。それよりも、鳴っている音そのものをちゃんと録ろうよって。そのために作ったスタジオらしいんです。印象的だったのが、ギターって音がデカくてドラムに音がかぶっちゃうから普通一緒に鳴らさないんですよ。でもライヴの時は一緒に並べてマイク立ててるから平気じゃんみたいなノリでやってみたら、実際そんなに気になるほどの音じゃなかったんです。
H : 逆に鳴りがよくなってたよね。
——発見の多いレコーディングだったんですね。
H : そうですね。だから個人個人があのレコーディングで色んな発見をしたと思うんですよね。
——色んな発見を通して出来ることが分かってきて幅が広がっていくと思うのですが、SiNEの目標や理想はどこにあるのでしょう?
E : 正直ないです。個人的な方向としてやってきたのはギター・ロック的な音楽ですけど、みんなノイズもパンクもダブも色んなジャンルを聴いているじゃないですか。だから普通に曲を持ってきても、僕らの感覚としてはそれに対して教科書通りに合わせるよりも、違った角度から合わせるほうが面白いんです。SiNEは更に反対の目線からやってたりするのかもしれないけど、基本的にやっていることは一緒です。聴いたもの、誰かが発したものに対して、こいつが思ってる以上のものを作ってびっくりさせたいって考えてますね。
H : SiNEはそれぞれみんな違うバンドを持っている人が集まっているから、主だってこういう感じにしたいとかはないかもしれない。強いていうなら、俺の場合は友達と遊ぶ感じでバンドをやりたい。それがSiNEを始めたきっかけですから。音が人を作るじゃないけど、その人が奏でる音があればいいかなって。本当に人ありきで始めたバンドなんで。
——最初と今でその人ありきの感覚は変わってないですか?
H : はい。その感覚自体は変わってないですけど、今回出来た『HEAVY MECHIL』に関しては正直ビックリしましたね。こんなに奇麗な音が俺たち録れるんだって。完成した作品にビックリしました。

——なるほど。普段ダブとかハードコアを聴かない人に対しても門徒を広げていきたいと思いますか?
H : そういう明確な気持ちはないですけど、山形の蔵王龍岩祭でライヴをした時に、こういう人たちが喜ぶんだっていう人たちに声をかけてもられたりしたので結果的にそうなっているのかもしれないですね。実際どういう人たちが聴きにきているかっていえば、SiNEに関しては全然わからない。まあ名前も名前ですしね(笑)。あっ、数学のsine、cosineの意味も入ってるんですよ…。
E : 死ねでいいんだよ(怒)。
(一同爆笑)
——最後に。これからのSiNEの展望を教えて下さい。
H : 次は7インチを録ろうと思っています。今回のインスト曲はtialaの柿沼君に歌ってもらう予定だったんですけど、実現できなかったのでそれを実現したいですね。もう1曲はwe are! のShuheiにワンマンの時に歌ってもらって、それを曲にしようっていうのが大きなプランですね。
——江崎さんは?
E : ずっと続けられるバンドにしたいですね。ずっと続けることが面白いことであるし、すごく大変なことだから。やろうと思えば続けられる、無理だと思ったときが終わり。だからやろうと思っていたら続けられると思うんです。
H : 続けたいよね。でも多分こういう感じで、ずっとふざけながら続けていくと思いますよ。
E : 今もふざけてんの? (怒)。
H : 俺は常にふざけたい。真面目な話している時も心の中では多分ふざけてる。でも最後に一言だけ言わせてもらうと、一番まともなのは僕だけどね(笑)。
PROFILE
江崎典利 (from toddle) / Ba
本間則明 (from nemo) / Vo & Key
野本直輝 (from PLUGDEAD) / Synth
TDK (from Limited Express(has gone?)) / Gu
イワモトリョウ (from maiysha) / Sax
dicky (from shobu) / Dr
2008年のエンド・オブ・サマー、最高の夏を忘れないために結成。プリミティヴ且つフォーエバー・ヤングな表現を行うバンドは数知れぬ現世だが、SiNEはそれらをヒラリと凌駕するNEXT ONEである。到達点を更に超越したカオティック・マインドと、個々の活動を通して培養してきた芯とスキルを一同に介させる事で、実に音楽的な未知との遭遇に成功したのだ! そのサウンドを形容するならば、東名高速富士インター近くのインダストリアル地帯にて(要するに世界の中心で)彷徨うロッキーがエイドリアンへの愛を叫んだ瞬間抽出される「考えるな。感じろ」と刻印された例の落雷マークを見事顔面キャッチ(以下略)
LIVE SCHEDULE
- 4/24(土) 彷徨う豚 presents "WANZAKURE"@小岩bushbash
- 5/2(日)SiNE "HEAVY METHYL" release party@渋谷o-nest
SiNEメンバーの活動を紹介!
LTD / Limited Express (has gone?)
解散、上京、加入、出産・・・数々の出来事を重ねてきたLimited Express (has gone?)が、約5年ぶりとなるニュー・アルバムをリリース。谷口順(U.G.MAN)と竹久圏(KIRIHITO)をプロデューサーに迎えて制作された今作では、持ち前のアヴァンギャルドさはそのままに、ライブを重ねてきたことで生まれた強靭なグルーヴ&バンド・サウンドを繰り広げています。
逃走線 / fukuro
結成11年、にせんねんもんだいをはじめ、ジャンルを飛び越え数多くのアーティストと競演、多くの音楽ファンやアーティストの支持を得ているfukuroの1stフル・アルバム。クラブ・シーンとポスト・ロックを通過した激情型の轟音とガット・ギターが絡み合う次世代を占うオルタナティヴ・インスト・ロック・シーンの縮図!!