
ヨンシー(シガー・ロス)のバックを支える俊才、ULFURことウルヴル・ハンソンのソロ2作目が完成! チェロ、ヴァイオリンやヴィオラ、さらにサックスやフレンチ・ホーンといったブラス、ウォーター・パーカッションまでを使用した本作は、壮大でオーケストラルなサウンドスケープが広がる作品。ヨンシーも絶賛した異色のチェンバー・エレクトロをどうぞ。
ULFUR / White Mountain
1. Evoke Ewok / 2. So Very Strange / 3. Black Shore / 4. Water Memory / 5. Moiety / 6. Wolves / 7. Knoll of Juniper / 8. White Mountain / 9. Molasses
音楽と自然が溶け込む瞬間
これまでクライヴ(Klive)という名前で活動してきたアイスランドのアーティスト、 ウルヴル・ハンソン(Ulfur Hanson)が、本名のウルヴル(ULFUR)に名義を変えて、2枚目のソロ・アルバム『White Mountain』を完成させた。2010年に、シガー・ロスのフロントマンであるヨンシーが来日した際も、ヨンシーのパートナーのアレックス・ソマーズとともに来日し、バックをサポートで支えていたようである。
クライヴ名義だった前作『Sweaty Psalms』は、いわゆるおもちゃ箱をひっくり返したようなアイスランド的なサウンドで、原始的なビートを使いながら、オーガニックなものから音響系まで幅広い色を見せてくれるものだった。それに対して、名義を変えた今作ではビートはほとんどなくなり、アンビエントといっていい作品になっている。名義変更からも分かるように、作品としても新しいチャレンジになっているのだろう。
アイスランドを代表するアーティストの1つとして、先ほど名前が出たシガー・ロスがあげられる。彼らの鳴らす楽曲は、聴く人たちに悠久の自然を思い起こさせる壮大な美しさを持ったものである。それに対してウルヴルの楽曲は、自然の中に曲をとけ込ませていくようなものになっている。両者に共通しているのは、自然というテーマである。しかし、自然に対するアプローチの仕方が異なっている。例えば、シガー・ロスの音楽は、聴くものにイメージを喚起させる。それは、我々が想い描くような自然を超越してしまう神聖さを持った自然である。それに対して、ウルヴルの楽曲は、誰もが接するような日常的な自然との融和をはかる。例えば、アルバム冒頭に港で泣くカモメのような声が入っていたり、水の上でリズムが跳ねているような音が入っていたりする。自然にある音を曲中にとけ込ませていくことで、自然と音楽を交ざり合わせていく。要するに、ブライアン・イーノが提唱したような、日常にとけ込む意味でのアンビエントといって間違いないだろう。

アイスランドのアーティストは、そのぞれの結びつきがとても強い。今作にもゲスト・ミュージシャンが多数参加している。ドラム、ビブラフォン、パーカションを担当しているのは、ムームやベンニ・ヘム・ヘム作品にも携わっている、オラフ・ビョルン・オラフソン。クラリネットには、ビョークのアルバムにも参加する、シグルン・ジョンズドッティール。マウンテン・マンのメンバーのアレキサンドラも、ボーカルで参加している。さらに、アイスランドの首都レイキャビックで、唯一のヴァイオリン専門店を営業するリペア職人もチェロで参加しているという。ミックスはアレックス・ソマーズ。アートワークは「21世紀のひとりヒプノシス」とも言わる、タチアナ・プラコヴァが担当している。同じアイスランドのアーティストたちが関わっていても、アプローチが異なることによって、いろいろな顔を見せてくれる。アイスランドはわずか30万人の島国であるけれど、そのイマジネーションはどこまでも広く深い。そんなことを感じることが出来る作品だ。(text by 西澤裕郎)
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