神聖かまってちゃん@恵比寿LIQUID ROOM text by 西澤裕郎
音楽情報を定期的にチェックしている人だったら、神聖かまってちゃんの名前は一度は目にしたことがあるだろう。来年3月10日にはミニ・アルバムのリリースが決定している。雑誌『Quick Japan』のインタビュー取材を「ニコニコ生放送」で生中継したり、京都で行われた音楽フェス「みやこ音楽祭'09」の夜の部に出演したりと、2010年に間違いなく更なる旋風を巻き起こすこと請け合いのバンドである。何か新しいことが始まりそうな予感。そんな思いに駆られ、恵比寿で行われたフリー・イベントに足を運んだ。
初めて見る神聖かまってちゃんのライヴは、とにかく異質で未知の空間だった。の子(Vo & Gt.)がステージに登場したと思ったら、靴を蹴り飛ばして缶ビールを飲み、歩き回りながらマイペースに用意し始める。その姿にリーダーのmono(Key)が突っ込み(というか文句)を入れる。1曲目を終えたら、またそんなやり取りが始まる。そうしたやり取りにドラムのみさこも普通に割り込んできたりで、その光景はWEB上のチャットを連想させた。Twitterのやり取りにも似た一連の流れに、バンドという統一感は見受けられない。暴走気味にの子が「今日、僕らはスライムです。スライムっていっても経験値を沢山積んできたスライム」といってみたり、トリを務めるマスドレのことをドラクエと言ってみたりする姿は、パフォーマンスというより思いついたことをすぐ言葉に変換しているようにも見受けられた。演奏に関しては、ギター、ベース、ドラムを中心にmonoがキーボードを弾いたり、曲によって楽器を変えていた。その中でも神聖かまってちゃんの軸となるのはmonoがキーボードを弾いている時だろう。「23才の夏休み」や「いかれたNeet」などでのポップで叙情的なメロディは、の子の狂気性と中和して何とも絶妙なバランスを創出していた。の子がゲップをした瞬間に始まった「ロックンロールは鳴り止まないっ」は、間違いなく神聖かまってちゃんの代表曲であり、既存のロックの価値観を更新する衝動に駆り立てられる作品だ。実際に他の曲に比べ演奏面でもタイトに仕上がっており、イントロのキーボードが鳴り始めた瞬間フロアから歓声の声が上がっていた。
正直に言えば、最初にライヴが始まってしばらくは、演奏もそれほどうまくないし、何か斬新なことをやっているとも思えなかった。更に言えば、の子を中心としたステージ上のおしゃべりや立ち振る舞いもパフォーマンスのように見えた。リキッドルームのような大きなステージでライヴをするには時期尚早だとも思った。しかし、ライヴが進むにつれてその認識は覆されることになった。何か大きな引き金があったわけではない。観客が熱狂的に彼らを持ち上げていたわけでもない。どちらかというと、様子見に見える客が多かったくらいだ。それでも、最後には「もっと、やれ」などオープニング・アクトにも関わらず、アンコールが起こっていた。この経験したことがない不可思議な熱の帯びようが、とにかく異質で未知の体験だった。ライヴの途中、の子は2回客席にダイブした。まばならな客席のため、ほとんどクッションのない状態で固い床に体を打ち付けたはずだ。最後の曲ではピンクのギターをステージ床に叩き付けまくり、完膚なきまでにギターを破壊した。の子の手にはネックの部分しか残っていなかった。youtubeで初めて「ロックンロールは鳴り止まない」を観た時に、パンクが始まった衝撃はこういう感覚なのかと思った。それが今日のライヴ会場には確かにあった。ネットを中心に活動をしてきたという部分が注目されてしまうけれど、形が違うだけで神聖かまってちゃんは間違いなくロックンロール・バンドだ。
ステージ後、物販前は神聖かまってちゃんのCD-Rを買い求める客で溢れ返っていた。彼らはホーム・ページで曲をほとんど公開しているし、動画も大量にアップしている。それでもCD-Rを買い求める人たちで溢れていたのは、ライヴで感じた衝動を還元するための無意識の方法だったのだろう。の子の作る曲には、欺瞞や建前は見て取れない。それだけに剥き出しで攻撃的ですらあるけれど、そこにロックの持つ先鋭さやリアルさがストレートに顕われている。どう捉えられるかは人それぞれだが、神聖かまってちゃんを今聴かないと後悔するだろう。2009年の12月に、2000年代最大の衝撃が訪れている! (text by 西澤裕郎)
Public/image.FOUNDATION SPECIAL: FREE LIVE SHOW!!!
LINEUP LIVE : Metalchicks / MASS OF THE FERMENTING DREGS
Opening Act : 神聖かまってちゃん
DJ : Twee Grrrls Club
VJ : onnacodomo