どんどん聴き手に歩み寄っていきたいなって思いはじめてます
──というところで “everyone likes” の暗さについて話していきたいんですが。
YOCO:実はめっちゃワクワクのつもりで書いたんですけどね。
MAIYA:字面は暗いけど、YOCOの気持ち的には暗くない。
YOCO:そう。こんな終わりみたいな世界に生きてて、まだ生まれて20数年ですけど、この世がめっちゃお気楽だって思ったことないんですよ。子どものときは別として、自我が芽生えまくってからは「なんかな~」みたいに思うことが多くて。もういっそ世界が終わっちゃえばいいと思うこともたくさんあります、正直。価値観がアップデートされて、よりよい社会にするために立ち上がる人も増えてるから、そこには希望もあるけど、拮抗するいにしえの勢力もいるし。
──そうですね。
YOCO:で、あるときもし「今年いっぱいで人類が滅亡することに決まりました」と言われたら、自分はなにがしたいんだろうなって考えたんです。こんな世界で、わたしはこれから残された時間になにをしたいんだろうとか、「明日にはなんでも願いが叶いますよ」って言われたらなにになりたいんだろう、なにを望むんだろうと思ったときに、「どうせ死ぬんだったらめっちゃワクワクしたいな」って思って、今回の4曲は作りました。だから全体的にはワクワクなんですけど、歌詞は……やっぱ暗い人間が書くと暗いんだな、っていう(笑)。
──裏に切実さが貼りついたワクワクですね。
MAIYA:大丈夫。高校のときから一緒にやってますけど、YOCOの歌詞見て明るいなって思ったこと、マジで一度もないから(笑)。でも今回はひねくれずに向き合ってる感はあるよね。前作『side_effects.+』はひねくれてるなと思ったけど。
YOCO:あのときは「どうせおまえたちにはわからない」みたいな気持ちがあったと思います。いまは、もっとilliomoteの考えてることや音楽の楽しさを共有してくれる人が増えてほしいから、わたしもどんどん聴き手に歩み寄っていきたいなって思いはじめてますね。ライヴでめっちゃ話しかけてみたりとか。
MAIYA:「めっちゃ盛り上げてみようか」って話してます、いま。
YOCO:誰にもレスポンスされなくても、「あ、楽しい人なんだな」って……や、暗いですけど(笑)、楽しいことも好きな人なんだなってわかってもらえるんじゃないかなって。
MAIYA:暗い暗い言ってますけど、ふたりでいるときなんかうるさくてしょうがないんですよ。
YOCO:全然ダルい絡みとか好きだし、ふざけるし。うちら楽しいよ、この世界も楽しいんだよ、みたいなことを知ってもらいたくて、伝わりますように……っていう気持ちで歌詞を書いたりとかしました。
──祈りがこもっているわけですね。この暗さは表層的な話ではなくて、おふたりが時代の空気をしっかり呼吸して表現していることの証だと思うんです。illiomoteが暗いとしたら、それは世の中が暗いということなのでは? と。
YOCO:よかった。伝わってた。
MAIYA:そうなんですよ。うちらだって、最高な世界に生まれてたらこんなんなってないから。
──正直なんだと思いますよ。
MAIYA:正直だよね、確かにうちら。嘘つくの無理だし。
YOCO:正直です。嘘は一度はつけてもつき通せない。
──音楽的には、2枚目(『TEEN TRIP into the FUTURE』)あたりから表に出てきた、シューゲイズ/ドリーム・ポップとダンス・ミュージックとインディポップの配合具合がいい感じですよね。少ない曲数でもちゃんとヴァラエティとバランスを感じる。
MAIYA:ほんとですか! よかったー。バラバラなんじゃないかって心配になっちゃって。方向性が固まってきたのかもしんないですね、自分のなかで。やりたいことはいっぱいあるんですけど、illiomoteでやれること、やっていくことがちょっとずつ見えはじめたのかもなとは思います。でもどうしよう、次に全然違うの作ったら。メタルとか。
──(笑)。それはそれでいいんじゃないですか。
YOCO:「人間らしいでしょ??」ってコメント出せばOK(笑)。
──統一感があるのは、YOCOさんのヴォーカルの力も大きいと思います。
MAIYA:あー、そうですね。本当に。
YOCO:いいのか悪いのか……。一応幅広くする努力はしてるんですけど、やっぱりわたしのメロだな、みたいな。
MAIYA:それがいいんだよ。
YOCO:いろんな曲をやるのがふたりとも好きなんですけど、 “violet” は、わたしが聴いてはいたけど歌としては通ってこなかったジャンルなので、けっこう苦戦しました。結果、自分なりのポップスにはなりましたけど。
MAIYA:だからめっちゃバランスよくなって、ほんとによかったなと思う。あれは「むっちゃ歪んでるやつやりてえな」みたいな感じで、ライヴの前にやってた別の曲のアレンジから広げていってできた曲なんですよ。
YOCO:クラブでライヴしたときに、「クラブだからあえてビートを流さないで、ギターと歌だけではじめることで注意を引こう」って言ってはじめた曲なんで、初期衝動的な部分が詰まってると思います。
MAIYA:自分なりのシューゲっぽさっていうか、バンド映えするやつがやりたいと思って作ったんですけど、YOCOの歌が入ることで、ポップでちょっと踊れるilliomoteっぽい感じになって、よかったです。
YOCO:コードが好きなんだ、わたし。開放弦の響きが鮮やかで。はじまりのワクワク感みたいなものを詰め込めた曲かなって思います。
──歌声ってバンドの音楽性をよくも悪くも決めちゃうじゃないですか。
MAIYA:楽器の音が決まっちゃってるみたいなもんですからね。ギターはまだいろんな音出せたりするけど、歌はリコーダーみたいな(笑)。
YOCO:音楽を作って表現していく上でジェンダーは関係ないと思うんですけど、生物学上の男性の声、女性の声の違いはやっぱりあると思うんですよ。男性が歌ってキャッチーに聞こえる音程や声色に憧れるときもあるし、「やっぱ女性ヴォーカルいいな」って思う部分もあるし、どっちも表現できたらよかったのにな、ってたまに思います。でも、自分の声で男声っぽいメロディをやると「やっぱ低いよな」みたいな。
MAIYA:ライヴでしんどくなっちゃうよね。
YOCO:今後、そういう自分がやりたいのをうまくメロディに取り入れていきたいんですけど、むずい!
MAIYA:キーが縛られてくる。でもそれが色だよ。今回けっこうその感じが出てていいと思います。 “Wake up soon” とか、ミックスもらったときに歌めっちゃきれいに乗ってたし。
── “Wake up soon” の歌詞は「ネット真に受けるなんてnon non 洗脳気味じゃんmy friend」と、批評性が表に出ていますね。
YOCO:コロナ禍で人と会わない時間が増えて加速した部分もあると思うんですけど、それがすべてになっちゃってる人が多いなと思うんですよね。ネットの恩恵ももちろんあるし、うまく共存して活用していくべきだと思うけど、やっぱりわたしたちはリアルに生きてると思うから。ネットで起こってることに囚われすぎないで、実際に人と会って話したり、顔色を見たり、声色を聞いたり、ちょっとした変化を見つけてコミュニケーションをとっていくことがめちゃめちゃ大事なんじゃないかな、っていう気持ちを込めました。
MAIYA:「これ、俺のこと言ってんのかな」って思う人けっこういると思う。実際、うちの彼氏が「もしかして俺のこと?」って言ってたし(笑)。
YOCO:ちげーから。でも、そう思ってドキリとして、家族や友達とのリアルな関係を大事にしてもらえたらいいかなって。
──ネットにどっぷりな人ほど、自分のことじゃないと思いそうじゃないですか。「困ったもんだよな。俺は違うけど」みたいに。
YOCO:そうそう。自分を疑うことがないんですよ、そういう人たちって。その意味でも洗脳気味なんじゃない? みたいな。わたし自身そうだから、いったん自分を客観視してみようと試みることが大事なんじゃないかって。