楽曲に「堀江晶太」を一滴垂らすと、不思議とその曲の生命感が上がる
――おふたりが作ったなかで印象に残っている楽曲はありますか?
草野:私が作った元々のアレンジからガラッと変わって革新的だなと思ったのは、LiSAちゃんの「unlasting」という曲。ビートが6/8で、すごく大きな揺れのあるバラードだったんですけども、それを生楽器を極限まで減らした、シンプルなアレンジをしてくれたんですよ。
堀江:あれはコーラスもないんだよね。
草野:元々は下三度のコーラスつけた、J-POP的なアレンジを施してたんですよ。それがいろいろチームで相談する中で方向性が変わっていって、最終的にその時どこにもないようなサウンドになったのが印象的でした。もともとの旋律が持ってた和のテイストというか、独特な歴史観みたいなものは残しつつ、ここまで楽器の厚みを軽量化しても、LiSAちゃんがあれだけ歌える人だから成り立つんだと思いましたね。
堀江:発注段階で、明確に今までないのが欲しいっていう意識が強かったので、これはすごい試合になりそうだなって感じていたんですよ。だからすごく悩みましたし時間もかかりました。でもそういう曲がくると、自分としてもステージをもう一段階上げて、進んでいかないとって思いますよね。
草野:LiSAちゃんがトップランナーとして、常に新しいことをしようという責任感や期待を背負ってやってくれたことが、いろんな仕事でも勇気になったんですよ。その経験のおかげで、「当たり前の曲を当たり前に書き続けてたら、やばいな」って思うようになりました。みんなが同じことばかりして疲弊して飽きてきてるところを、自分のライティングで変えなきゃいけないっていう意識はありますね。
――おふたりの関係性を一言で表すとしたら、どういう言葉になりますか。
堀江:友人でもあるし、ライバルですね。「お互い負けてはいられない」みたいな、そういう感じももちろんあります。
草野:でも逆に「ここはこいつにならば負けていいな」っていうところが明確にあります。私はとにかく強いメロディーでぶん殴るタイプだし、そこは絶対負けない自信がある。でも楽器のプレイとアレンジ、そして音色に立体感を持たせるということに関しては堀江君には絶対に勝てないですね。
――草野さんから見て、堀江さんのすごいところってどういう部分ですか。
草野:今回のアルバム「産地直送」には、堀江くんにギターでいろんなところで活躍してもらってるんですけど、楽曲に「堀江晶太」を一滴垂らすと、不思議とその曲の生命感が上がる感じがするんですよ。楽器を自分が弾いてるとかじゃなくて、触るだけで体の一部にできるタイプ。そこがすごいですね。これは持って生まれたものだろうなって感じます。逆に言うなら、私は何かを見た瞬間にメロディーが浮かぶのはギフトだっただろうから、なんかそのお互い持っている最強の武器がちょっと違うのがちょうど良いんですよ。
堀江:最近思うんですけど、僕楽器持っていた方が何事にも良いんですよ。話す時も楽器持ってた方が話しやすいし、椅子座る時も楽器持ってた方が重心が安定するし(笑)。
草野:楽器でバランス取ってる(笑)。まあ、それがすべての楽器に対してなんですよね。ピアニストでもあるし、歌もうまいし。
堀江:超速弾きがうまいとか、技巧的ってわけじゃないんですけどね。
草野:アレンジャーでもあるから、例えば原曲のビートを、バンドメンバーの中の演奏が後ろにもたった瞬間があったとしたら、堀江くんはそれをアレンジしながら軌道修正するフレーズ弾くんですよ。こういう人はなかなかいないし、楽器に愛されてるんだなって思います。
――すごいですね。今回の「産地直送」に収録されている、uijinの「ignition」は原曲のアレンジを堀江さんが担当されています。
草野:これは改めてアレンジを私と岸田さんとebaくんでやり直そうということになり。それで岸田さんと相談してたんですけど、「う~ん、原曲いいから変えるとこないな。どうする?」ってなって。結局、私と岸田さんとebaくんの3人で揃うと、堀江晶太に近いものが本当に自然に出来上がるし、だから結果、似たものを目指す座組にはなったかもしれない。
――原曲の方はどういう風に作ったんですか?
堀江:明らかにスピード感があるメロディーと歌詞の方向性だったから、力強い意志をちゃんと感じさせつつ、たくましさを見せるのが、テーマだと思ったんですよ。全体構成としてはスピード感をちゃんと持たせるんですけど、楽器一個一個が鳴る瞬間の重厚感っていうのはしっかり構成しないといけないと思ってたので、その重さと速さを両立させるようにしました。ものすごい重たいボールが高速スピードで進んでいる感じです。
草野:ぶつかったら一瞬で死ぬぞ、みたいな曲で。「ignition」という曲のテーマ自体が、着火とかアクセルを踏む瞬間ですし、uijinが終わりに向けて走りながら、ブレーキなんてぶち壊してる曲なので、鉄の塊がずっと止まらずに転がり続けているイメージが、堀江君が考えてたアレンジと完全一致したので、同じゴールに向かって進んでる印象がありました。あと、この曲「冒頭を歌い出して始まった方がいいんじゃない?」って言ったの堀江君でしたね。
堀江:僕でしたっけ?
草野:そうそう。それが結果として良かったなと。堀江くんはuijinの既存曲も聞いてくれてたから、オリエンタルな空気感も出してくれたりしていて。お互いアーティストのディスコグラフィーは必ずチェックするぞマンなので、それを反映してくれたのもありがたかったです。