作家生活10年経ちましたけど、まだまだ歌いたいことがある
――編曲で言うとA.B.C-Zさんの「火花アディクション」にも参加されています。
堀江:これは、もともとのアレンジもやらせてもらいましたし、今回のリアレンジも自分の方で一番ガラッと変えましたね。
草野:変わりましたね。A.B.C-Zさんの原曲バージョンは、ちょっとウェットな湿気のある色気のある曲だったんです。今回はカラッとしていた自立した女性が見えるようなアプローチになりました。
堀江:元に比べて、細かい音符を体で感じて進んでいくビートに組み替えたんですよ。これ華余子さんが歌うから、そうしようかなと思いまして。
草野:原曲の時はA.B.C-Zさんが歌って、いちばんかっこよく聴こえるアレンジだったんですけど、今回は私が歌うという部分に重きを置いてもらいました。私が元々ずっとアコースティックギターで20年近く歌ってきているので、そこをメインに。結構難しいビートにはなってるんですけど、歌いやすかったですね。ライブで歌っても楽しい曲になりました。
堀江:本当に大きく変えるというよりかは、解釈を変えるだけなんですよ。歌をあくまで一個の楽器パートとして考えて、“楽器としての草野華余子の歌”を生かす場合にはどうするか、を意識しましたね。
草野:音階もちょっとラテンとかスパニッシュのような異国情緒ある音階を自然に選んでくれました。私もそういうアプローチなんだったら、80年代の香りがするようなコーラスワークにしようというところでコーラスを付け足したりしました。大人で、ビターな仕上がりになったと思います。

――「たゆたえ、七色」も、堀江さんが原曲、カヴァー版ともに編曲を担当されています。
堀江:これはオリジナルのアレンジを僕が担当しました。カヴァー版では、ギタリストとして呼ばれたんです。ただギターだけ弾くというより、ギターの力で楽曲全体を底上げしてくれというお話いただいて。
草野:これはセルフカヴァーするにあたり、一番最初のデモで使っていたドラムを引っ張り出してきて、オーケストレーションで大きな波を表現するようにしたんです。ストリングスアレンジメントは、うたたね(歌菜)さんにお願いしたんですけど、ある程度鍵盤とかも出来上がった状態で「ここに命を吹き込んでくれー!」って堀江くんに頼みました。
堀江:全くギターは一切入ってない状態で、「好きな場所に入れてくれ」って依頼でしたよね。
草野:本当はプレイヤーのところにクレジット表記する予定だったんですけど、このギターはアレンジの範疇だなと、編曲者として共作になりました。
――堀江さんは、そうやって任されることについてどうですか?
堀江:そっちの方が嬉しいですね。でも僕、楽器は本当に好きって言っておきながらも、一般的な練習は一切しない人間なんですよ。自分で曲を作る時か、実践で曲を弾くときしか楽器は触らないんです。なので、すでに決まっている「このフレーズを弾いてください」みたいな依頼がむしろ無理なんですよ。
草野:絶対できるけどね(笑)。
堀江:僕は楽曲聴いた瞬間に弾きたいから。しっかり楽器やってる人たちはそれでも自分らしいのが弾けるかもしれないけど、僕は楽譜がそもそも分かんないんで。
草野:私も楽譜一切見てないなぁ。
堀江:いろんな現場とか呼んでもらったり、レコーディングやサポートとかもたまにはしてもらいますけど、楽譜はわかんないですね。むしろ「なんかない?」って言ってもらった方が自分らしくできますね。あと、基本的にその場で弾いちゃうから、2番と1番のフレーズを一緒にして欲しいって言われた時にもう覚えてないんですよ。
草野:そういうレコーディングだから、後々堀江君の弾いたフレーズをコピーしなきゃいけなくなるプレイヤーが全員悲鳴をあげてるよね(笑)。
堀江:バックバンド系とかでね。そのプレイヤーと会ったときに、「堀江さんのフレーズ難しいんですけど、どうやってるんですか?」っていつも言われます。
草野:なんかおかしいと思ったんだよねって、よく言われてる(笑)。
堀江:今でこそ自分はベースのイメージが強いってよく言われるんですけど、実はここ最近、ギターの方が依頼が多いんですよ。でも今思うと俺に「ギター弾いてくれ」ってまず言ったのは華余子さんが最初でしたね。
草野:私はもうずっとデモ音源で、堀江君が私の曲にギターを添えてくれてるのをたくさん聞いて、「これいいやん」って10年間言い続けてるので。 実は2月25日に開催するイベント〈草野華余子 presents 産地直送プレミアム〜人生四十周年大収穫祭〜〉では、ベースはヒトリエのイガラシくんなんですけど、私のバンドに堀江君がギタリストでバンド参加してくれるんですよ。
堀江:そう。不思議なことが起きますよね。
草野:やっぱりこの10周年の大事な日を祝ってもらうんだったら、私のキャリアの中で堀江晶太は絶対必要だということで声を掛けさせていただきました。かなり珍しいステージが見れると思うのでぜひ来て頂ければと思います。
――堀江さんはこの「産地直送」というアルバムを聞いてみて、いかがでしたか。
堀江:「これが華余子さんだな」ということを、改めて再認識しましたね。やっぱりメロディーメーカーではあるんですけど、そのメロディーの中で自分の歌心とか言いたいことのイメージがくっついて曲を作る人なんで。それがしっくりきました。自分自身の書いたものを自分を歌ってる図が、見えて良かったなと思います。こういうことをやれてるうちは、華余子さんは音楽に対して、変に絶望することはないだろうなと思いましたね。
草野:今回、他のアーティストさんに書いた時のアレンジより、地味になったものももちろん中にあるんですよ。そういう不器用でも世に出たものよりもちょっと無骨だったとしても、これが本当に産地直送の野菜、「あの大根引っこ抜いた瞬間はこうだよ!」っていうところはなんか提示できたと思います。うちの両親が「昔は聞いててしんどい瞬間もあったけど、今回のアルバムは気持ち良く聞けるね」って言ってくれたんですよ。発声の方法を全部オペラやってた時に戻したんで、喉も壊さなくなったし、人が聴いてて心地いい音色を楽器として出そうっていうのは、今回すごく気をつけたんですよ。なんか今までの自分の曲も、ライブで歌ってる時の方が全然内容がいいから録音し直したいくらい。
堀江:音楽作る人ってみんな、それぞれが唯一性のある音楽人で居続けるために必要な巡礼というか、行事というか、儀式がある気はしていて。僕の場合は楽器なんですけど、華余子さんの場合は歌なんだなって感じがする。
草野:それが多分、堀江晶太がPENGUIN RESEARCHでベーシストとしてやっている、草野華余子がシンガーソングライターとしてやっている、という部分に帰結すると思うんですよ。アーティストをやらなきゃ、作家としてのモチベーションを保てないっていうよりは、本当に自分が音楽を好きな状態、まっさらな状態に戻れる瞬間を守るっていう意味でアーティストとしての活動を私たちはやってるかもしれないですね。このアルバム、去年6月ぐらいから着手したんですけど、何をやってても楽しかったんですよ。去年はこのアルバムのおかげで本当に楽しく音楽できました。
堀江:確かに、10年ぐらいやっていく中で、やっぱ自分はこれをやってればいいんだってことを見つけられないと、多分うまく続けられなかったなと思いますね。
草野:作家生活10年経ちましたけど、正直、まだまだ歌いたいことがあるんですよ。それをまだ思っていることに対して、今40を目前にして恐怖を感じてますね。まだまだ自分のメロディーとか歌詞を世の中にちゃんと浸透させたいとか、全然自分が思う場所にまだ行けてないとか毎日思います。そういう反骨心とか、ストリートライブしてた頃の悔しいという気持ちが何一つ変わってない。でも、ここまでやってきたなかで、どういう状態に自分を置いておくと、音楽に関わりたいと思えるのか、みたいな部分の答えというか、やり方が見えるようになった10年間ではあるかなとは思います。また10年後に機会があればインタビューしてもらって、答え合わせさせてもらおうかな。そのときは、もしかしたら農家とかやってるかもしれないですけど(笑)。

作家活動10周年を記念したセルフカバーアルバム
LIVE INFORMATION
〈草野華余子presents産地直送プレミアム〜人生四十周年大収穫祭〜〉

日程:2024/02/25(日)15:00開場/15:45開演
会場:SpotifyO-EAST
出演 Artist:草野華余子(BAND)、岸田教団&THE明星ロケッツ、鈴木このみ、uijin、ARCANA PROJECT、アキストゼネコ、ヒグチアイ
草野華余子バンドメンバー:Vo&Gt. 草野華余子、Gt. はやぴ~(岸田教団&THE明星ロケッツ)、Gt. 堀江晶太、Ba. イガラシ(ヒトリエ)、Key. モチヅキヤスノリ、Dr. みっちゃん(岸田教団&THE明星ロケッツ)、Mani. 坂井伽寿馬
詳細はこちら
https://kusanokayoko.com/live/
草野華余子ディスコグラフィー
PENGUIN RESEARCH ディスコグラフィー
PROFILE:草野華余子
大阪府出身・東京都在住。シンガーソングライター/作詞作曲家。
3歳の頃からピアノと声楽を始め、5歳で作曲を始める。 中学生の頃に出会ったJ-ROCKシーンのバンドサウンドに衝撃を受け、18歳の関西大学進学を機にバンド活動を始める。2007年より「カヨコ」としてソロ活動を開始し、2019年に本名である「草野華余子」に改名。
自身の活動に加え、そのソングライティング力が認められ、数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲を提供。2019年にリリースされた LiSA「紅蓮華」の作曲を手掛け、一躍注目を集める。以降、西川貴教、A.B.C-Z、FANTASTICS from EXILE TRIBEなど、楽曲提供の幅を広げている。また、卓球愛好家としての一面を持ち、2022-2023シーズンから日本の卓球リーグ・Tリーグのアンセム制作を手掛けてる。
2022年12月には、5th Digital Single「最終電車は泣いている」をリリース。シンガーソングライター兼クリエイターという” 二足の草鞋型アーティスト”として、より一層の活躍が期待されている。
【公式HP】https://kusanokayoko.com
【X】https://twitter.com/kayoko225
【Instagram】https://www.instagram.com/kayoko_ssw/
PROFILE:堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)
岐阜県出身。5人組ロック・バンド、PENGUIN RESEARCHのベーシスト。
作編曲家として早くより活動。ゲームミュージックとバンドサウンドとDTMに貴重な青春の全てを捧げた為、ロックを中心とした派生系ジャンルが得意。近年はアニメ主題歌やアーティスト楽曲等を多く手掛ける。
また2017年5月に記録的な楽曲数のミリオン再生を達成しているボーカロイド・プロデューサー、「kemu」であることを公表した。
【X】https://twitter.com/kemu8888