あくまで一貫して、目の前の一歩を踏むことしか考えていない
──他にもいくつか楽曲についても触れますが、9曲目の“鈴鹿御前 –鬼式”と11曲目の“鈴鹿御前 –神式”の間には、“大嶽丸”という楽曲が収録されていますが、この3曲はどういう関係になっているんでしょう?
瞬火:これは「鈴鹿御前」という伝説上の女性の鬼をモチーフにしています。鬼として生まれ、最終的には“神女”となって神格化されていく。その鬼としての「鈴鹿御前」と、神としての「鈴鹿御前」、それぞれの側面を描きたかったんです。「大嶽丸」という鬼は鈴鹿御前の伝承に密接に関わっている強力な鬼です。だから「鬼式」→「大嶽丸」→「神式」という順番で3曲を配置しました。組曲としてくくることも考えたんですが、「大嶽丸」という個性の強いキャラクターを、組曲の一部として片付けるのが忍びなかったんですよね。ちゃんと一曲として独立させたかった。でも鈴鹿御前に関しては、一曲で描くよりも「鬼の面」と「神の面」をそれぞれの曲で表現したかった。だから結果的に3つが並んだ形になったというわけです。組曲にしようとしていた名残として捉えてもらえればいいかなと思います。
──すごく興味深い話でした。最後に収録されている“三千世界の鴉を殺し”は、今作のなかではかなり明るい印象を抱きました。
瞬火:“三千世界の鴉を殺し”はアルバムの最後の曲なので、勢いよく、楽しく、を意識しました。でもライブの最後のほうでやることを想像すると少し寂しい気持ちにもなる。そういったことを意図している曲です。だから歌詞も、普段は文語体で難しい表現が多いですけど、こういう曲では口語を使って、特に僕の地元・愛媛県の方言を取り入れて、親しみやすくしています。基本的にアルバムの最後は“四の五の言わずに楽しく終わる”というのを感じてもらえるようにしていますね。
──“三千世界の鴉を殺し”というタイトルについては、どのようなイメージで?
瞬火:これは、幕末の革命家・高杉晋作が詠ったとされる、都々逸(どどいつ)の歌詞からとっています。「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」って続くんですけど。「三千世界」っていうのは“世界中”という意味で、鴉(からす)は“朝っぱらからカーカーうるさい嫌なもの”の象徴。つまり、世界中の良くないものを全部なくしてしまえたら、お前とゆっくり朝寝でもできるかもしれない、そんな願望の歌と言われています。その“願望”を、いまこの大変な世の中に重ねて、「良くないことがなくなったら、もっと平穏に暮らせるのにな」と思いながら作りました。
──歌詞の最後のパートには「眠れるようには ならんもんかいな」という方言が入っていますよね。
瞬火:この部分はそれほど愛媛弁というわけでないですが、随所に濃い愛媛の方言が使われています。愛媛の中でもいろいろ方言の違いがあるんですけど、使われているのは僕の出身・八幡浜市の言葉です。これはもう最初のアルバムから、どこか一曲には入れるようにしているんです。これもずっと変わらない部分ですね。自分の生まれた土地の、今ではもうおじいちゃんおばあちゃんくらいしか使わないような言葉を、作品の中に刻んで残しておきたい。そういう郷土愛だと受け取っていただければ嬉しいです。

──“紫苑忍法帖”についてもお聞きしたいのですが、これは「忍法帖シリーズ」のひとつですね。
瞬火:そうです。「紫苑」という花には、「追憶」とか「あなたを忘れない」という花言葉があるんです。それをなぞらえたタイトルです。戦いの中で仲間を失った忍者が、それでも戦い続けるという曲ですね。実際に今、忍者をやってる人はいないかもしれませんけど、大切な誰かを失って、それでも生きていくことは誰にでも当てはまることだなと思って書きました。すごく普遍的な歌詞に仕上がったと思います。
──忍法帖シリーズとしての関連性みたいなものは意識されているんですか?
瞬火:今回は特にそういうストーリーのつながりはありません。前作『龍凰童子』で、長く続いていた“忍法帖シリーズ内のストーリー”が一応完結したんです。だから今回の“紫苑忍法帖”はまた違った忍者たちの物語の一つ。いわば“各話完結”のような感じです。
──今後も「忍法帖シリーズ」は続けていくんでしょうか?
瞬火:はい。「忍法帖」は多分最後まで続くと思います。新たな続きもののストーリーを作る予定はありませんが、アルバムをまたいで楽曲同士が前日譚・後日譚の関係になることはあるかもしれませんね。
──ちなみに、もう『吟澪御前』の次の作品の構想もあるんでしょうか?
瞬火:あります。どういうものにするかはもう決めています。
──結成25周年を超えましたが、30周年や、さらにその先のことも考えていらっしゃるんでしょうか?
瞬火:あまり“何周年”っていう意識はないですね。いまやっていることのその先に30周年やその先があればいいな、という感じです。冒頭の話に戻りますが、僕たちは一歩一歩、今できることをやっているだけなんです。この作品が完成して、ツアーを完走することにまずは真摯に挑む。こういうインタビューで、「次に目指すは30周年です」みたいなことを普通に言えばいいのかもしれませんが、僕たちはそれを目指してるわけではない。あくまで一貫して、目の前の一歩を踏むことしか考えていないんです。それが一歩一歩とつながって25年まできたので、そうやることで次は30周年を迎えることになるのかな、と思いますね。
陰陽座、厳然たる覚悟のもとに放つ入魂の最新アルバム
EVENT INFORMATION
〈陰陽座ツアー2025『吟澪』〉
9月11日(木)KT Zepp Yokohama
開場:17:00 開演:18:00
9月14日(日)Zepp Fukuoka
開場:17:00 開演:18:00
9月16日(火)Zepp Namba(OSAKA)
開場:17:00 開演:18:00
9月18日(木)Zepp Nagoya
開場:17:00 開演:18:00
9月22日(月)Zepp Haneda(TOKYO)
開場:17:00 開演:18:00
9月27日(土)SENDAI GIGS
開場:17:00 開演:18:00
9月30日(火)Zepp Sapporo
開場:17:00 開演:18:00
詳細はこちら
▶︎https://www.onmyo-za.net/live/index.html
PROFILE:陰陽座
1999年、大阪にて瞬火・黒猫・招鬼・狩姦の4人により結成。“妖怪ヘヴィメタル”という惹句を掲げ、 人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とし、道なき道を切り開く信念を“ヘヴィメタル”の名の下に貫く。 正統的ヘヴィメタルを音楽性の基盤としながらも、男女ツイン・ヴォーカルとツイン・リード・ギターによる 変幻自在な表現により、日本文化に徹底的に拘った唯一無二の世界観を結成時から現在まで淀みなく展開。 自主製作で2枚のアルバムを発表した後、2001年、キングレコードよりメジャーデビュー。 以降、精力的な音源制作はもちろん、すでに全都道府県を2周しているという事実が物語るように、 生粋のライヴバンドとしても歩を緩めることなく邁進中。安易な“変化”よりも“進化”と“深化”を信条とし、 “上”ではなく“前”に向かって着実に歩み続けることを最大の理念として実行する、極めて希有なバンドである。
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