全部陰陽座なんだけど、どこか新しい
──では、アルバムの話に移ります。今作は『吟澪御前』という作品になりますが、まさに“陰陽座らしさ”が最初から最後まで詰まっているなと感じました。
瞬火:そうですね。今回も「これが現在の陰陽座なのだ」というものを示す作品になったと思っています。このアルバムを頭から聴いてもらえたら「陰陽座というバンドがどういうものか」を言葉で説明する必要がない。「これが陰陽座なんだね」と思ってもらえる、そんな作品になったと思います。25年を生き抜いて、「やりたいことだけ」をやってきた陰陽座が、また“やりたいことだけ”をやっている。それが今回の作品です。
──まずタイトル『吟澪御前』にはどんな意味があるのでしょうか?
瞬火:これは僕の造語なんですけど、「吟」というのは「歌うこと」「音楽をやること」そのものを指していて、「澪」というのは船が通った航跡を表している。つまり「歌うことを己の澪とする」ことを「吟澪」と名付けました。それを成す者、という意味のタイトルです。「御前」とは女性への敬称ですが、強力な女性の鬼の名前に付けられる場合があります。陰陽座というバンドでは、黒猫という歌い手が、まさに「吟澪」の覚悟を持って歌っています。その黒猫自身が“吟ずることを己の澪とする強力な鬼”である「吟澪御前」でもあるし、僕たちの音楽そのものが「吟澪御前」でもある。そういうスタンスを表したタイトルです。
──前作からの変化はありますか?
瞬火:変化は良い意味でないですね。常に新しい音楽を作っているつもりではありますけど、自分たちの信念に反するようなことをわざわざ取り入れるとか、何かしらの良からぬ意図で音楽性を変えるということはないので。でも常に「一本筋の通った陰陽座」でありながら、「こんな枝葉もあるんだ」と新鮮味を感じてもらえるように意識しています。だから、決してマンネリではない。すべてが新しく、すべてが陰陽座。そんなアルバムになったと思っています。
──その「こんな枝葉もあるんだ」という部分は、どのあたりにあるんでしょう?
瞬火:具体的に「この曲が新しい」というのではなくて、もともとあった持ち味だとしても、少しアプローチを変えてみる、ということを随所でやっています。例えば11曲目の“鈴鹿御前 –神式”は、すごく陰陽座らしい要素で構成されていますが、曲の構成や細かいフレーズの作り方など、ありそうでなかったものが詰まっています。ファンの方には「全部陰陽座なんだけど、どこか新しい」と感じてもらえると思います。他にも“三千世界の鴉を殺し”も今までにあった雰囲気だけど、ここまでやるのは初めて、というようなものを目指しました。そういう“まだまだ涸れることなくみなぎっている感覚”を感じてもらえたらうれしいですね。

──今作は、まず1曲目の“吟澪に死す”からエネルギーがすごいですよね。
瞬火:“吟澪に死す”はアルバムのコンセプトを一曲で体現するような、そんな役割を担っています。ですので、このアルバムの制作に取りかかったときに「この曲を一曲目に置く」と決めて作った曲です。
──ということは、そもそもアルバムの全体像が先にあって、今作を作ったんですか。
瞬火:そうですね。常に作曲に入る前の段階で、アルバムの全体像はタイトルと共に見据えているので、、こういう雰囲気や空気感、意図を持ったアルバムを作る、ということは決まってました。
──構想自体はいつ頃からあったんですか?
瞬火:最低でも前作『龍凰童子』を作ってるときにはもうありました。その時点でタイトルも決まっていましたね。
──ということは2年くらい前にはもう構想はあったんですね。
瞬火:そうですね。人によっては、なんとなく作っていく中で最後にタイトルを決めるってこともあるでしょうし。それも自然な音楽の作り方だと思います。でも僕は結成したときから、いつまでもこの活動がつづくとは限らないという気持ちで、どこかでそれが途切れてしまわないように常に構想を絶やさないように、と先走ってしまうところがあって。もちろん大事にしているのは目の前の1つのことですが、頭の中では次のことが渦巻いているという状態です。
──曲が浮かぶというより、アルバムとしてのコンセプトが浮かぶんでしょうか。
瞬火:そうですね。そこが先にあります。
──今の時代は1曲ずつ配信するような時代ですけど、陰陽座はアルバムとしての“流れ”をすごく大事にしてますよね。
瞬火:そうですね。だからこそ、つくづく時代に合わないバンドだなって思います(笑)。今は多くの人がイントロだけ聴いて、ピックアップしてプレイリストに混ぜるような時代だと思うんです。でも僕らはアルバムの流れまで味わってもらいたいし、ありがたいことに、それを楽しみにしてくれるファンが多いです。CDという形で手に入れたい人もまだまだ多い。サブスクで聴く人も、つまみ聴きじゃなくてアルバムで浸りたいという人が多くて。だから先行配信しても、「アルバムで初めて聴きたいからまだ聴かない」って人もいる。それも嬉しいことですね。
──バンドの想いがファンにちゃんと通じてるんですね。
瞬火:そうですね。だからこその25年だったんだろうなと思います。
──今作のサウンド面で、特に意識した部分はありますか?
瞬火:基本的に、オーディオ的に“良い音”で聴いてもらいたいという思いは常にあります。ヘヴィメタルだからといってただ激しいだけでなく、耳が楽しくなるような音で。特に今回は、激しいサウンドの中でボーカルの黒猫の声や歌の“美味しいところ”がしっかり響くようにと。それは単に歌が大きいということではなく、黒猫が本来持っている、オケに埋もれない声をそのまましっかり作品にするということをいつも以上に大事にしました。
