歌詞がなくても曲だけで絵が浮かぶようにしたい
──今回歌詞を作るにあたって、なにか影響を受けたりしたものはあるんでしょうか?
平牧 : 最初はなかなかネタがなくて、めちゃくちゃ映画を見ました。「怒り」とか「ぐるりのこと。」とか。「ロード・オブ・ザ・リング」も見ましたね。アニメもバチェラー・ジャパンも見ましたね(笑)。
──結構ありとあらゆる映画を見ていたんですね。
平牧 : ひたすら映画を流しながら、白紙に思いつく単語をワーッと書きました。“涙”とか“旅”とか“絆”とかいろんなものを書いていて、その中に“浪漫”と“異端”っていうワードがあって、それをくっつけたりしてできました。どこで“浪漫”と“異端”を拾ってきたか覚えていないんですけど(笑)。バチェラー・ジャパンで拾ってきたのかな(笑)。
宇野 : どこから来てるんだよ(笑)。
──他にも影響を受けるものはありますか?
平牧 : 僕、絵はがきとか絵画が好きで、ゴッホとかモネとか結構集めているんですけど、それを並べて見て音楽を作ったりしますね。
──絵画からインスパイアされたものを言葉とか曲にしていくみたいな感じなんですか?
平牧 : 僕、絵画を見ているときに頭の中で何かしらのBGMが鳴るんです。音楽と絵は一緒だと思っていて、絵が浮かばない音楽もあんまり好きじゃないし、音楽が聴こえてこない絵画もあんまり好きじゃないんですよ。なので、曲を作るときも、歌詞がなくても曲だけで絵が浮かぶようにはしたいなと思っています。
──1曲目に“イタンロマン”を並べるのは決まっていたんですか?
平牧 : “イタンロマン”という曲はアルバムで言うとプロローグなんですけど、一作目二作目の流れで聴くとエピローグなんです。その流れで聴くと締めの曲としてバシッと決まるし、意味がより豊かになって幅を持って届くのかなということで1曲目におきました。
宇野 : ライヴの1曲目で流れてきたらおもしろいかなって。声をいろいろ加工したりして、入場BGMっぽい感じに仕上げているうちに、自ずとアルバムの頭にきたっていう感じですかね。
──制作にあたって苦労した曲はありますか?
平牧 : “愛”はちょっと困りましたね。前作『ケモノアガリ』は、悠人が社会風刺とかそういうものに興味があって、挑戦してみたいっていうのをきっかけに作ったんです。せっかく前作で築いたシキドロップの色をもう一回挑戦したいなということで“愛”を作りました。 いま未曾有な事態になってみんなの汚い本性が露呈していると思うんですよ。自分だけ自分だけみたいな。そのとき、すごく安易にいちばんきれいなものは愛なのかな?と思ったんです。変な出会い系アプリとかもちょっと怪しいビジネスとかも、それ本当に正しいんですか? みたいな感じがして、そこから歌詞を書いていきました。
──アルバム全体を通して聴いても、この曲は歌詞に「愛は無料アプリじゃない」とか毒気がありますよね。
平牧 : ネタ探しで家の周りをプラプラと旅に出ていたら、絶対マッチングアプリで会っている2人だなみたいな人が広場にいて(笑)。
宇野 : 「はじめまして~」みたいな人でしょ?
平牧 : よそよそしくて「なんて呼べばいいですか?」みたいな(笑)。町を見下ろしているときに、本当にいろんな人がいるんですよ。絶対これ付き合ってなさそうなカップルだなとか、セーラー服を着たおじさんとか。それを見ているときに、いろいろ感じて生まれた曲です。
──ユニークな曲だなと思います。
平牧 : いままではアルバムを通して主人公を一人にしていたんですけど、今回の『イタンロマン』はオムニバスっぽい感じで異端のなにかを描いていったんです。そのときに、ひとつ核となるものを描きたいなと思っていて、ちょうどこのアルバムの真ん中に一文字で“愛”っていうのはおもしろいかなと。それを軸に、このご時世にアンチをしながら自認の物語を見つけていくという皮肉な曲になりましたね。
──最後に収録されている“ふたりよがり”も歌詞にストーリーがあっておもしろいですよね。
平牧 : Mr.Childrenさんの“しるし”とかBUMP OF CHICKENさんの“スノースマイル”って、歌詞をしっかり読んでいくと、すごく幸せなものを描いているのに最後に「共に生きれない日が来たって」とか「君の居ない道を…」とか「えっ! 何!?」みたいな。そういうのに挑戦してみたくて。
宇野 : どっち? みたいなね。
平牧 : 最初の着想はそういうところから。“ふたりよがり”は僕の意味的に分かれているんですけど、大サビの読み方次第だなと思ったりするんです。ずっと僕がそういうものを書きたいなと思っていて、今回のアルバムの作風にピッタリだなということで最後に並べました。
──なるほど。
平牧 : そうですね。最後の方で、あえて歌詞をひらがなにしているのは僕、江戸川乱歩とか宮沢賢治も大好きで言葉遊びをしたいなと思っていたんですね。このコンセプトとこの曲で絶対使えると思ってひらがなにして、どこに句読点を置くかで意味が全部変わるんですよ。なので、それをぜひ楽しんでもらいたいなって思いました。