余裕の王者の帰還を醸し出したい
──5月7日にはニュー・シングル『Bursty Greedy Spider』がリリースされます。ゴリゴリのロック・ナンバーに仕上がっていますが、こういうラウドな楽曲は鈴木さんの声が映えますよね。
鈴木:手術の一週間前にレコーディングしたんですけど、正真正銘、手術前ラストの歌声を「ここに全部置いてきた」って感じがしますね。サウンドも相まって気合抜群のシングルになったなと思います。
──作詞・作曲は草野華余子さんが携わっています。制作はどのようにして進んでいったんでしょうか。
鈴木:まず、華余子さんとzoom会議をしまして。その時に「蜘蛛ですが、なにか?」の小説を読んで、自分が共感したところや、「これが今回歌いたい」というところを、華余子さんに全部ぶつけさせてもらいました。
──鈴木さんから見て、草野さんってどういう方なんでしょう。
鈴木:華余子さんとお仕事するのは今回で3回目なんですけど、いつもとにかく話を聞いてくれる方という印象がありますね。打ち合わせが終わった後でも「思いついたことがあったらなんでも言ってね」って言ってくださいましたし。すごく話しやすいんですけど、いつもメラメラしていて「赤色」ってイメージがあります。いつ寝てるんだろうっていうくらいパワーが枯れない人だなぁと。しかも、それがグイグイ押し付けてくる感じではなくて、すごく心地いいんですよね。レコーディングも華余子さんがディレクションして下さったんですけども、あんなに笑いながらやるレコーディングってなかなかないんじゃないかなっていうぐらい、楽しかったです。
──実際、どのようなディレクションをされたんでしょうか
鈴木:「この曲は子音をはっきり言った方がかっこいいよ」とかそういう具体的なものもいただきました。気持ち的にも今回はその手術の一週間前ということで、多少荒くてもいいのであまり綺麗にまとまろうとしすぎずに、「ちょっとはみ出すぐらいで歌ってもいいよ」という風に言ってくださって、そのなかで自由に歌わせてもらいました。
──レコーディングにはどんな心境で挑んだんですか?
鈴木:「蜘蛛ですが、なにか?」で、主人公の蜘蛛子ちゃんは人間から蜘蛛に転生するんですけど、スキルを獲得して強くなりながらリアルな生存競争を突破していくんですよね。私は後期のオープニングテーマを担当させていただいているんですが、前期は結構ヘロヘロになりながら絶体絶命で戦ったりすることがあるんですけど、後期はメキメキ強くなった蜘蛛子ちゃんが、ピンチの瞬間にも、ちょっと楽しんでるんじゃないかって表情を見せたりとかするんですよ。その状況が、私の「声帯結節の手術やるぞ!」って決めた時の自分の心境とすごくマッチするなぁと思ってて。すごくピンチでもあるけど「これからもっと歌えるんじゃないか、強くなれるんじゃないか」というワクワク感が一緒だなと思ったので、そういう気持ちでレコーディングも挑んでいたら、結果的に、いつもより荒い方向になりましたね。
──なるほど。
鈴木:これが術後発売する復帰作になるので、「すごく大事にやっていきたいです」っていう話はしてたんですけど、切羽詰まって帰ってきたりするより、余裕の王者の帰還みたいなものを曲で醸し出したいって言っていただいたんです。それがすごく嬉しくて、その余裕な感じは、曲にも現れてるんじゃないかなと思います。
──「最強 ごめん遊ばせ」という歌詞もそういう部分を象徴しているような気がします。
鈴木:ワードは完全に華余子さんにお任せしました。「普遍性などクソ食らえですねー」の部分が好きですね。「クソ食らえ」なんて普段そういうことは言わないし、言えないからこそ歌っていて楽しかったです。レコーディングの時に華余子さんが「このみん、意外とこういうの歌うの好きそうだから入れといた(笑)」って言ってくださって。「さすが、華余子さんだな」って思いました(笑)。
──いい話ですね(笑)。
鈴木:最後の「波乱の数だけ強くなれたの」の部分も好きなんですけど、この一言は結構重いんですよね。今年が9周年イヤーでまもなく10周年を迎えようとしているので、そういう部分にもぴったり当てはまるなと思っていて。思わず感情が乗っちゃうフレーズですね。主人公の蜘蛛子ちゃんもそうだし、私自身も傷をいっぱい作りながらどんどん鎧が硬くなっているので、「ちょっとの傷じゃ、倒されんぞ!」みたいな気持ちになれるところが気に入っていますね。
──MVも堂々としてかっこいいですよね。
鈴木:本当にすごく生々しい、リアルな鈴木このみのライヴに近い形で撮れました。バンドメンバーもいつもツアーで回ってくれてるメンバーだったりしますし、ライヴに行ったことない人にも、ぜひたくさん見て頂きたいです。