INTERVIEW : ONCE

3ピース・ピアノ・バンドWEAVERの解散から比較的時間を空けずにスタートした杉本雄治のソロ・プロジェクト、ONCE。活動のマインドを示唆するタイトルが冠されたファースト・アルバム『ONLY LIVE ONCE』から約1年のスパンでセカンド・アルバム『Wandering』をリリースした。「人に頼らず自力でどこまでできるか?」に拘ったファーストでは全方位に振った音楽性が確認できたが、セカンドでは一本のライヴをイメージできる通底したグルーヴが感じられる仕上がりに。若いミュージシャンのサポートなど、ONCE以外の活動から受けた無意識的なフィードバックも含め、杉本雄治は今、彷徨うことに前向きな様子だ。
取材・文:石角友香
ライヴ写真 : AZUSA TAKADA
まずは一人でどれだけのことができるか
――この夏は森大翔さんのサポートでフジロックに出てらっしゃって。
ONCE:まさか自分が出る側で行くとは想像してなかったので。
――どうでした?
ONCE:めちゃめちゃ反応良くて。他にもいろいろフェス出てるんですけど、多分森大翔君のフェス史上一番受け良かったんじゃないかなって感じはありますね。最初はRED MARQUEEって聞いて、言っても結構大きいので「入るのかな?」って心配だったんですけど、横がフードエリアっていうのも良かったんでしょうけど、どんどん音を聴いて集まってきてくれてる感じがあったので、「やっと伝わった」って感じでしたね(笑)。後ろから「行け行け!」って。
――この1年、ご自分の活動以外のサポートや作曲、舞台(無伴奏ソナタ-The Musical-)への曲提供などもありましたが、そうした活動はアーティストとしてどういう血肉になってると思いますか?
【公演ダイジェスト映像】「無伴奏ソナタ-The Musical-」【公演ダイジェスト映像】「無伴奏ソナタ-The Musical-」
ONCE:解散してから1年半ぐらいは今自分ができることは全部やってみたいっていう感覚でしたし、このONCEっていうプロジェクトのテーマにもなっている“ONLY LIVE ONCE”、人生一度きりの中で後悔ない人生を送りたいというのが今の自分のマインドでもあるので、そのタイミングでいろいろやらせて貰えてるのがすごくありがたいなと思ってて。それこそ森大翔君の現場とかもなかなかこの年齢で20歳前後の子たちとプレイできるってなかなかないので。で、毎回ライブがあるたびに成長して行く感じは本当にひしひしと伝わってくるので、それだけでも間違いなく自分の刺激になっているなと思いますし、自分のやってる音楽とはちょっと違うミュージカルだったりは楽曲を作る手法みたいなものが単純に違ったりもするので、この年齢になってまだまだ勉強させられるものもあるなと思うし、いい環境にいるなと思わせて貰ってて。それが自分の作品やライブへのモチベーションにもなっている気がしますね。
――ONCEとしては1stアルバムが出て、しかもライブ盤もリリースされましたし。
ONCE:そうですね。『ONLY LIVE ONCE』っていう最初のアルバムはまずは一人でどれだけのことができるか、どういう音楽が作れるのかというちょっと挑戦的で実験的なアルバム、そしてツアーでもあったので、ライブ自体もステージでいろんな楽器をその場で多重録音して曲にして行くという実験的なライブでもあったので、それは一つやりきったことによって「こういう表現も突き詰めていったら面白いなあ」っていうのも感じたんですけれども、それと同時にやっぱり人とアンサンブルを重ねて作る、やっぱりライブの面白さだったりだとか熱量だったりそういうのがやっぱり気持ちいいよなっていうのも同時に感じたので、そこから作品の中でも人と演奏した時により一体感が生まれるような楽曲を作りたいなっていうふうに気持ちが芽生えていったので、その中でビルボードライブがすごいいいライブだったので、これをできるだけちょっとでも早くONCEのもう一つの形として、ライブ来れてない人にも伝えられたらなっていうのでライブ音源はあのタイミングで出しました。
――それは人と一緒に演奏することも面白いという以外に、原曲から派生するアレンジが面白かったのかなと想像するんですが。
ONCE:そこはやっぱ僕も好きなアーティストは音源とライブは大胆に違ってたりするんで。レディオヘッドとかもめちゃめちゃ好きだったんですけどーー「だった」って解散してないですけど(笑)、それこそ一番好きだったのが『In Rainbows』っていうアルバムだったんですけど、あれも盤自体は打ち込みだったりが多かったりするんですけど、それが生になった時に「めっちゃグルーヴいいじゃん」ってなったり。そういう変化がやっぱり僕の音楽の中でも音源とまた違う良さがライブで出るみたいな、そういうのは大事にしたいなと思ってます。
――そうした変化を経て、今回の2ndアルバムに向けてはどんな発想や、やりたいことがありましたか?
アルバム「Wandering」ティザーアルバム「Wandering」ティザー
ONCE:今の時代性もあるのかもしれないんですけど、僕自身あんまりアルバムに向けて曲を作ってたっていう感覚は全然なくて。この一年、特に前回のツアーを終えてからは瞬間瞬間に自分が思ってることだったり伝えたいこと、それこそビルボードもそうですけど「ビルボードライブがあるからライブでこういう曲やりたいな」っていうイメージで曲を作っていたんです。それができる時代でもあるしすごい良いことだなと思ってて。
――ああ、なるほど。
ONCE:で、曲がある程度できて並べて聴いた時に、今伝えたいことを歌っているわけなんだけど、それって今までの人への感謝の気持ちだったり過去の自分だったりそういうものがあって今の自分があるんだなっていうことに曲を作る中で感じさせられて。ONCEっていうのはまだまだアイデンティティもなくてこれからそれを見つけていくと思うんですけど、でもそれは夢を達成したときにできるってことではなくて、例えば何か目標に突き進んでもやっぱりかなわない瞬間があったり後悔したりっていう時に「今自分はこういう思いを感じたから次どうしていこう」とするというか、それで自分の人格や価値観が決まってくるんだろうなと、今回の楽曲たちを作っている中で感じて。だからまさに今このONCEっていう新しい人生の中を彷徨っている途中なんだなっていう部分でアルバムタイトルに繋がって行きましたね。
――今回もまさにオーバーチャー的な「Overture〜Wandering〜」から始まりますが、M1からM2の「Flyby」に繋がる感じがいいですね。
ONCE:これはアルバムの最後にできたトラックではあって、そういった意味でもちょっとアルバムの作品性を持たせたいなという思いもありましたし、単純にこの「Overture〜Wandering〜」は自分の人生を彷徨っているっていうサウンドも曲として作りたいなというのでこの1曲目を作りましたね。
――「Flyby」の着想はどういうところでしたか?
ONCE:これは今の自分と自分の音楽を受け取ってくれる人たちへのメッセージでもあるし、本当に自分の人生を表した曲、今の人生を表してる曲かなと思ってます。というのも、音楽を作る、歌詞が特にそうなんですけど、自分の思いを言葉にする作業ってやっぱり自分の過去を振り返ったりだとか、自分の大切なものを見つめなおす瞬間がすごく多くて。この曲を作ってる時も今の自分がなんでここにいられるんだろう?みたいなことを考えたときに、この1年半ぐらいの中でまあONCEを始めてすごく新しい出会いも色々ありましたけど、別れというか離れてしまった人たちもいるし、自分自身も新しいことを始めるために取捨選択じゃないですけど置いてきたものもあって。だからそうしたものを置いて来てはいるんだけどふと振り返ると自分の心の近くにはずっと大切なものっていうのが今も残ってるなって思ってて。それをこのまま一緒に連れて行ったらまたどこかでちゃんと距離的な部分も含めて巡り会えるかもしれないし、そのおかげで今の自分があるんだなっていうのを改めて気づかせてもらったので。それをそのまま歌詞にして作りました。
――「Flyby」から「Right Now」の流れもいいですよね。モダンなレトロポップ的ではあるけど、「Right Now」はピアノリフがポイントになってるんだろうなと。
ONCE:でももうあんまり「自分はピアノだ」みたいなことを別に考えてもなくて。自然と音にしたい時に必然的にピアノに導かれている感覚はありますね。去年の作品は自分は何で表現して行ったらいいんだろう?やっぱピアノなのかな?でも新しさ出すんだったらピアノじゃないのかなみたいなことを考えながら作ってたんですけど、そういうことじゃなく今は自分の思いをそのまま音でアウトプットしてる感じですね。
