「スープください」「Hold me tight」──「ハングオーバー ララバイ」
こうしてスタートしたUVSのアルバム制作は既存楽曲をふくめてじょじょにふたりの間のキャッチボールで作られていく。「雨のうた」は、ケンケンがGRASSROOTSでそのテスト・ヴァージョンをプレイしたところ、そこに居合わせたDJのSports-koide(Moodman、MinodaとのDJポッセ / イベント、 SLOWMOTIONなどで活躍)の耳にとまり、彼のオファーによって、レーベル〈3E STUDIO〉から、アルバム未収録のエクステンデットなヴァージョンとVIDEOTAPEMUSICの「さめた気分のブギー」リミックスを伴って10インチでリリースされた。
Hacchi : アルバムの形になるまで、「曲ができない」とかはなかったかも。ケンケンが足をケガして作業が中断したりとかはあったけど(笑)。実はリリースする2年くらい前には、ほとんどアルバムとしてはできてて、あと10%で完成みたいなところで止まってた。
KEN KEN : そう、2018年ぐらいにはほぼ出きてて「今年中に出す」って言ってたんだけど、結局いろいろあって2020年の秋にという。最後の部分で寝かす時間が少しできちゃったと。
アルバムには、タイトル・トラックにして、アルバム中盤の盛り上がりとなるヴォーカル曲「blue hour」。そして7インチとしてカット、ギターリストの竹久圏(KirihitoやGROUPで活躍、最近ではコンピューマとのギター・インスト・アンビエントのすばらしい作品もリリース)をフィーチャー、二日酔いの悲哀と苦痛と後悔を歌ったディスコ・ブギー「ハングオーバー ララバイ」が収録されている。こうした楽曲はやはり「さめた気分のブギー」をさらに推し進めた作品という感覚はある。
Hacchi : このへんはもう曲作りはじめたときに、イントロからして歌じゃないと成立しないタイプの音源だなって思ってた。
KEN KEN : 「blue hour」と、「ハングオーバー ララバイ」もそうか。「ハングオーバー ララバイ」の歌詞…… 一番最初に浮かんだフレーズは、二日酔いをテーマにしようというのははじめからあって……「スープください」と「Hold me tight」はセットで、そこからかな。辛いでしょ、二日酔い(笑)。もちろん「ホーミタイ!」は「悲しい色やねん」ですね。 自分が実際に経験した事、思ってる事に自分にすり込まれてるフレーズが自然に入ってきて歌詞ができたという感じで。「さめた気分のブギー」に関しては、あるとき自分で気づかない間にすごい精神的にストレスが蓄積されていた事に気がついてしまった時があって、その時の感覚を歌詞にしたんだけど、歌いながら作ってるときに自分的にすり込まれてる80年代的ギンギラギンにさりげないフレーズも自然と出てきたりして違和感なくはまった感じがしたのでこうなりました。
夜の期待感も、楽しい夜が明けてしまうときも
前述の3枚目のシングル候補だったというトロンボーンとサックスが交叉するトロピカルなラテン・ディスコ「Disco Santos」、ファンキ-なベースラインの「Urban Hights」、ブルージーなサックスがムーディなぶれないエレクトロ「bure night」といった楽曲たちには、ケンケンの朋友とも言える橋本“KIDS”剛秀が参加している。名前の割にはしっかりとしたエレクトロ・トラックながら、唐突な終わりが「blue hour」の盛り上がりを用意する「INTERLUDE」、アルバムのひとまずの締めと言えそうな「blue hour」のインスト・ヴァージョンも収録されている。
Hacchi : 他の曲はそれぞれ素材をレコーディングした重ね録りで、「blue hour」のインストだけ唯一、うちのスタジオでちょっとふたりで即興で音を出して演奏したという感じで。リズムマシンを流して。
KEN KEN : 他のは結構作り込んだから、ラストはユルい曲も入れようって。あとは最後の「My Way」を入れるなら音数の少ないああいうのもありかなという。
そう、本作の最後を飾るのはまさかの、あの「My Way」である。フランク・シナトラが歌い、シド・ヴィシャスが叫び、そして晩年の勝新太郎がコンサートの最後にボレロと融合して歌い上げた、あの「My Way」である。本作ではボーコーダーのロボ声が歌う、スロモーなブギー・チューンになっている。
KEN KEN : あれはね、UVSに関係なく、ハッチがひとりで作ってたんだよ(笑)。でもこの曲いれるとしたら最後しかないじゃない。絶対真ん中でもないんだよね。「My Way」なし案のアルバムも途中ではあったんだけどこの曲順で入れることに。曲順、1曲目「そして、カーティスは途方に暮れる」はこれしかないなと思ってたけど、2曲目以降は考えたよね。他にも何パターンかつくって入れ替えて。家で何回か繰り返し聞いたりとか、そこから入れるとなったらもちろん1曲目と「My Way」だけは不動で決まってたけど。
Hacchi : 別のボコーダーの実験みたいなことをしてて、そのテストとしてメロディを使っていろいろやってたら、考え込まずにすっと出来てしまって。アルバム作りはじめたときは「入れよう」って言ってたんだけど、1年ぐらい経ったら「やっぱり辞めよう」って話になって。最初は俺も入れるつもりはなかったんだけど、アルバムの流れとか組みはじめたら、入れる気になってたかという。
アルバム全体は冒頭に書いたように、彼らのスタイル=いわゆるクラブ・ミュージック的なグルーヴをもちながらも、楽曲の尺は3分程度、それでいていわゆるポップな「歌モノ」とも違った絶妙なバランス感を保っている。それ故の軽快さは、逆にトロンボーンのような楽器や「歌詞」の音楽的な魅力を浮上させている。アルバムには最終的に「blue hour」というアルバム・タイトルが付けられた。“ブルー・アワー”とは、夕方と明け方、どちらにも訪れる青く空が染まる、ほんのひとときのことを指す。
KEN KEN : アルバム・タイトルの前に「blue hour」という曲がすでにできていたんだけど、それとは別にアルバム・タイトルはいくつか考えていて候補もあったんだけど、「曲のタイトルでもあるけどアルバム・タイトルもblue hourでいくのはどう?」ってハッチに言われたら、「あ!それいい」ってなって決まったんだよね。
Hacchi : 基本、曲名とか言葉の部分はケンケンに任せているんだけど、提案したらコレにという感じ。
「blue hour」の空、ジャケットを見つめれば、その青い空に、これからの夜の期待感も、楽しい夜が明けてしまう寂しさも両方とも思い浮かべることができる。サウンドや歌詞全体を包む、心地よいノスタルジーも本作の魅力のひとつだ。なんというか、そこには過去の夜から来る期待感も、明けてしまった夜のさみしさもどちらもそのサウンドへと投影できてしまう、そんな空気感がアルバム全体に漂っている(そしてやってくる二日酔いの後悔もそこにはある)。
本作の下地にはやはり、サウンドにしてもどこかクラブ・ミュージックという「夜」の楽しみが渦巻いているように感じてしまう。そこへと至る、もしくは出て行く「出入り口」にあたる「blue hour」というタイトルはなんとも相当しいと僕は思う。そして、そんな夜が簡単には手に入らなくなってしまった2度目のコロナ禍の夏に、入り口と出口、2つの『blue hour』の間にあった楽しい思い出にノスタルジーを重ねながら、また新たな『blue hour』が訪れることを望みながら本作を聴いていた。そこでは「ハングオーバー ララバイ」の後悔すらも愛おしかった。 (2021年10月)
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