EP全体で今回は歌詞の面で、どストレートになってしまって

──EP後半は、もう少し誠実な思いというか、社会的なメッセージの曲が続きます。“BGM”は、おそらくガザの虐殺やロシアのウクライナ侵攻など、そうした残虐な暴力をメディアで目にしながら、音楽家としての無力感と、それにどう抗うのかがそのまま歌詞になっていると思うのですが。
高橋 : もともとこういうポリティカルな曲は『Share The Light』の“それはかつてあって”という曲でより色濃く出したのが大きくて。
──いわゆる関東大震災のときに起こった朝鮮人虐殺などに関して歌った曲ですね。
高橋 : あのときは自分のマジョリティ性とか内在する加害性とかそういうものが入れられてなかったかなと反省があって。そこからコロナ禍を経て、あのときよりもさらに社会的な情況が悪くなっているなと自分は思っていて。そういう社会において、自分のマジョリティ性みたいなものをどう歌に入れて行くのかというのを考えていて。“BGM”は特にそういうことを表現してみようと思いました。自分は子供もいて、テレビを観たらガザの報道が連日あって憤っている、だけど子育てとか日々の生活に追われて抗議のデモにも行けないし、何もしなくても無事でいられる立場であるという。まずはそういう葛藤をドキュメント的に描写してみようと書いた曲ですね。もちろんプロテスト・ソングだけでなくてパーティ・ソングも作るけど、まさに「BGMになってしまう」じゃないけど、本当になにをやっても空虚に響いちゃうなと。でもいまでもガザでは実際に人が大勢殺されてという。そういう状況をまずは歌にしてみようと。泣き言ばっかりいってもしょうがないと、さらに書いていくうちに後半に行くと「ふざけるな!でもやるんだよ!」という歌詞になっていきました。
増田 : どストレートだよね。
高橋:EP全体で今回は歌詞の面で、どストレートになってしまって。
──メンバーと政治や社会のことは話すんですか?
岡島 : 話しますね。練習のあとで飲みながらとか。
高橋 : みんな年をとってきて実感することも増えてそういう話はおおくなったかもしれない。ラッキーなことに、〈カクバリズム〉の人たちはそうしたポリティカルなこととかもわりとオープンで、例えば僕らがパレスチナ支援を目的としたチャリティー・シングル(「それはかつてあって 2024」)をリリースしようとしたけときも、角張社長も「いいよ、やりなよ」って言ってくれるような会社で。やっぱり日本のエンタメ業界では、そういう面を出さない方がお金になると思う人も多いと思うから。
──最初の曲でも話しましたが、やっぱりそれはバンドのスタンスとしていわゆる金銭的な成功とは別の、また表現としての音楽の、自分たちのスタンスの表明ということでもありますよね。
高橋 : そうですね。最近だとダース・レイダーさんが“レイシストは踊れない”って曲を出してて、まさに僕もそう思ってて。やっぱりダンス・ミュージックって差別や抑圧に抗いながら形作られてきたと思うし、ファンクやソウル以外でもハウスでも、ジャズだってそうだし、ミュージシャン以外でも〈Blule Note〉の社長だって移民の人だったし。やっぱりレイシズムとか虐殺を肯定してしまったら、いま鳴っているほとんどの音楽なんて楽しめないんじゃないというのが根底にあって。
──排外主義やレイシズムは、いままで否定されていることが社会の基盤として当たり前だったのに、いまは明確に否定しないといけないフェーズにきているというのはありますよね。
高橋 : 特にそれはここ数ヶ月思いますね。 実際にマイノリティの人たちが排外主義的なメッセージをより直接ぶつけられてるっていう現実があって、まずはそういう情況に対して怒るぐらいは僕らマジョリティの側がやらなくてはいけない、少なくとも傷口を広げちゃいかないというのがあって。僕らの音楽をそういう人たちが聴いてくれるかはわからないけど、別に僕らではなくても、普段皆が聴いてるパーティ・ミュージックのなかで当たり前のように言えたほうがいいなとは思っています。
──サウンド的にはアグレッシヴなホーン隊のリフレインが印象的な楽曲ですが。
高橋 : これはプリンスが80年代にやっていた94イーストっていうバンドの“If You See Me”って僕らがすごい好きな曲の影響が強くて、オマージュしています。バンドとしては昔からやってみたかったアレンジで落とし所がなかったのを今回改めてできるようになって作ったというか。
岡島 : あの曲は僕らが勝手に言っている「思い出野郎クラシックス」という憧れのある曲群のひとつで。その系譜で言うと“生活リズム”がまずはあって、でも今回はまた全然別物になって。
山入端 : さっきストレートという話が出ましたけど、今回は思い出野郎らしさというのをあけすけに出してしまおうというのは曲に関してもあったよね。
高橋 : 今回は「これが俺が昔から好きな感じ」で曲を作ったから、それがそのままこの曲に限らず出ていると思う。大学の頃とかにやりたくてもできなかったことが、ちょっとできるようになったのかなと。
増田 : だんだんやっと近づいてこれたというか。
これを書いてるときはこんなにタイムリーな曲になるとは思ってなかった

──次は“帰らなくていい”という曲ですね。さきほど話に出たような例えば排外主義的なメッセージにダメージを受けてしまった側に立つというか、多様な出自の共生に関して歌った曲という感じですが。
高橋 : これを書いてるときはこんなにタイムリーな曲になるとは思ってなかったんですけど。「帰れ」という排外主義的な言説に対してストレートに「帰らなくていい」という、まんまなフレーズが浮かんで。でも「どんな人でも受け入れる居場所としてのパーティ」みたいなパーティ・ソング的な意味合いにもとれるしというところもあって。これも書いていくうちにポリティカルな題材がどんどんストレートになって。作ってるときはこの前の参院選で排外主義的なメッセージが争点になるなんて思ってもいなかったんですけど。
──ある意味普遍的なことのような気がしますが逆にいえばこれが政治的に聞こえてしまうことの方が社会的に変だなと言うか。そしてサウンド的にはどうでしょうか?
高橋 : この曲はゴスペル・ライクだし、コード進行的にはいわゆるカノン進行的な気持ち良く降りていくという感じの進行で。ギターの斎藤くんと作ってて、キャッチーなリフで押してく、かなりポップな良い曲になりそうだねって言ってたら、最終的に私の癖でこうしてポリティカルな曲に……。そういう意味ではひねりがないんですけど。
山入端 : この曲のホーン隊の聴かせどころとかむちゃくちゃ気にいってますね。ホーン・フレーズはだいたいマコイチが考えてくれて作って、僕らはプレイに徹してレコーディングに臨むっていう感じなんですけど、ここは力が入ったところですね。
増田 : わりと思い出野郎の場合、ビブラートとかを使わない、ストレートにホーン・フレーズが多いんですが、この曲はちょっと別で、サックスらしい表情を付けてます。
高橋 : サックスが歌う感じだよね。
増田 : 優しい内容だから、音色的にもちょっと優しくしようと思って吹いてて。