現場から離れるのも悪いことではないというのはいいと

──さて次は最後の曲、ついに思い出野郎が「僕らは踊らなくなった」という。これもまさにライフステージの変化を感じる楽曲ですが。
岡島 : スタジオのあとにメンバーと飲んでるともう出てくる話題は「良い歯医者さんどこ?」とか、年齢感じる部分はある。
高橋 : 俺自身「子供が生まれたりして、全然クラブとか行かなくなっちゃったなぁ」と思うんですよね。なんか色んなこと、日々のことに追われて本当に踊らなくなったなという、だからこれも実生活のストレートな歌なんですけど。
山入端 : ライヴ終わりとかでコーラス・サポートのYAYA子ちゃんが「これから深夜DJなんですよ」とか言っていると「いや、もう全然違うな、元気だな~」ってなりますよ。
高橋 : YAYA子ちゃんがコーラスで「僕らは踊らなくなった」って歌わされてるけど、本人は踊っているという。
山入端 : オールとかしなくなったよね。
増田 : 全く踊らなくなったわけじゃないけど、まずオールはしなくなったね。
──これもまさにそれぞれの人生のタイミングで音楽の楽しみ方は年相応に変化していくよねという視点もあって。これも冒頭出た、ある種の「成功」みたいなものとも違った音楽の価値観っていうのにも繋がってくると思うし。多様なライフ・ステージの人たちが共感できる音楽があってもいいじゃないという。
高橋 : 昔の同級生とか近しい友だちがだんだんライヴに来れなくなったり、一方で色々な年代の人たちが来てくれたり、本当、それぞれの人生のタイミングで音楽との関わり方もかわる感じがします。かつて遊んでた人が現場にこなくてもどこかで聴いてくれてるのかなと。そういう感じで楽しんでくれてたらいいなと。
増田 : 現場から離れるのって、寂しいけど悪いことではないですからね。
岡島 : 踊らせようとしてる人たちがそういうスタンスの曲を作るのも良いかなと思って。
──サウンド的なところでは?
高橋 : これはスティーヴィー・ワンダーとか最近のPJモートンの、モーグとかシンセ・ベースが生ベースに絡むというのがむっちゃやりたくて。デモの段階でシンセ・ベースを頑張って打ち込みで作って。レコーディングのときは沼澤(成毅)くんにシンセを弾き直してもらったんですが、沼澤くんが上手すぎて、オカジのドラムのゆらぎのニュアンスとかバンドの生演奏の感じとちょっと合いすぎちゃって。生演奏ってよりはシーケンス的な感じにしたかったのでもとの打ち込みのシンセ・ベースの無機質な感じを採用しました。
岡島 : たぶん沼澤くんのテイクをボツにできるというのも、いままでの経験があったからこそできるというのはあると思う。
高橋 : ライブだったら沼澤くんがいつもの感じでバチっと合わせて弾いてもらうので良いんですが、音源としては違和感みたいなのを残したくて、あえて私のつたないデモ・ヴァージョンを採用しました。
山入端 : そういえば、この形式のイベントってOTOTOYでやるのはじめてなんですよね?むちゃくちゃいいな、お客さんとこうやって聴けるの。歌詞もいいね!
高橋 : トロンボーンもいいよ! お客さんの前で聴きながら褒め合うという(笑)。
──試聴会はありますがアーティストもお客さんも持ち込みでお酒飲んでははじめてですね(笑)。
その趣向と、このシーンと、音質の方向性

──EPに関してはこんな感じですが今回、本作を作る上でリファンレンスにした楽曲というのを用意してもらいました。ちょっと聴いてみながら解説というか。まずはジェイレン・ンゴンダの“Illusions”。UKのモダン・ソウルのシンガー・ソングライターですね。
高橋 : 〈Daptone〉という、僕らが大学時代から憧れているレーベルがありまして。現代のレーベルだけど、とにかくヴィンテージ機材にこだわって、オープン・リールでレコーディングして、当時のソウルのサウンドを再現するという方法の第一人者みたいなレーベルですね。彼は現代のシンガーですが、曲調としても我々が好きな〈Brunswick〉とかバリバリなシカゴ・ソウルのサウンドで。それに少しだけ現代的なハイファイさも持ち合わつつ、レトロな感じなっているという、ある意味で僕らがやりたいことの理想像のひとつですね。ただいまのヒップホップとか、R&Bとかに比べると低音はあまり出ていないのもあって、ここまでヴィンテージな方向にすると、他の日本のアーティストと並んだときにただ単に音圧が低く聞こえてしまうだけになってしまうかなと思って。だから最初にエンジニアさんと話したときに、僕らが目指しているサウンドの「レトロ」のフィーリングの最大値がこれですって伝えたのがこの曲。憧れではあるんですが。
岡島 : まだ〈Daptone〉のリリースのなかでもモダンな方だしね。単にレトロといってもそれぞれのエンジニアさんのイメージも違うと思うので、そこの目線を合わせるという感じで。 〈Daptone〉とか〈Big Crown〉とか、僕らが憧れているヒップホップやモダンなR&Bなんかも吸収した「レトロ」を伝えるという部分ですね。
──さてお次はデュランド・ジョーンズ・アンド・ザ・インディケイションズ『American Love Call』ですが。さきほどに比べると、ドラムもタイトなドラムで、もっとブレイクビーツみたいな鳴りもあって。
高橋 : 〈Colemine〉とか〈Dead Oceans〉っていうレーベルから出ているアーティストですけど、これはジェイレン・ンゴンダよりももうちょっとモダンな。
──それなりにローの成分がさきほどの曲よりも多いのが今回用意したスピーカーは、ADAM AudioのS3Vというスタジオ・エンジニアやアーティストが、こうした音の配分やバランスを決めるに使うスタジオ・モニター・スピーカーなので、非常に低音などの質感の違いがわかりやすいですね。
高橋 : この曲も同じヴィンテージ機材で録るというUSモダン・ソウルの一派なんだけど、さっきよりもローも出てるし、ヒップホップを通過した感じでドラムがもっと前に出てくる感じで。さっきの曲がレトロ感最大としたら、もうすこし現代的な音像に近づいたのがこれですという音質で、三段階でいったらコチラは2つめというか。彼らのドラマーはアーロン・フレイザーという、スウィートなヴォーカルも歌える人ですね。このあたりが本当に理想的というか。
──三段階って話だと、自ずと次の曲はレトロなソウルだけどさらにモダンよりという感じになりますよね。アディ・オアシス『Lotus Glow』です。
高橋 : そうですね。さらにもうちょっとモダンなR&Bの音像なんだけど、ドラムとかはプリっとしてコンプがかかっていてという。ホーン隊もいて。
岡島 : まじでハイブリッドという感じですよね。
高橋 : さっきの2組より、キックとかベースのローがグッと前に出てくるサウンドで、だけど、ヴィンテージっぽさもある。
──本当三段階って感じ、ロー、低音の重みが全然違います。
岡島 : このアルバムに参加しているカービー(Kirby)ってシンガーの作品では〈Big Crown〉のひとたちがバックバンドやってたり、意外とさっき紹介したシンガーとも人脈的にも近いところがあって。僕らはこういうところが結局好きというか。
高橋 : このモダンでもあって、ヴィンテージ感もある良い塩梅でナチュラルなミックスを目指したんですが、さすがにできるわけもなく。
──それでもエンジニアさんとの共通言語を作るために、共有していた曲だよと言う。
高橋 : そうですね。今回ベーシックを録ったhmc studioって、ヴィンテージのNEVEの卓があって。それはドラムにコンプをかけて録らなくても、ゲインを上げただけで自然にコンプが掛かったみたいな音になるっていうのをエンジニアの池田さんに教わって、そうやって録った音がすごい良くて。いまはもちろんそういう音を再現するパソコン上のプラグインっていっぱいあって自分もNEVE系のプラグイン使ってミックスするんですが、本物で録音されたことでプラグインも以前より少なめで済んだし、やっぱ音が全然違うなと思って。池田さんの録り音がすごい良かったんだよね。めっちゃ勉強になった。
増田 : いままでマコイチさんが独学で教科書的な方法論を勉強しながらでやってたからこそ、その経験値を得た上でプロのエンジニアの人が現場でやってることがわかりやすく目の前で学べてというのは大きかったと思います。
──さてイベントはジャケットの話を聞いて、終わりにしようかなと。
高橋 : “エンドロールの後に”という曲ができてて、EPのタイトルも決まって、みんなで最初に言ってたのはスクリーンにエンドロールが流れているようなイメージが良いんじゃないかと。でも途中から、逆にエンドロールを見てるお客さんを映した方が面白いんじゃないかって話になって。で、大学時代からの友人で、我々がはじめて作ったCD-Rのデモ音源のジャケットのイラストを描いてもらったひらのりょう君っていうアニメーション作家がいて。彼が最近作ってる「あみぐるみ」を観客にしたらよいんじゃないかって話になって。
岡島 : あみぐるみ教室に通って作ってるというのはきいて、いいねってみんなで話してて。
高橋 : ひらの節全開のモンスターなのか、宇宙人なのか分かんないけど、それぞれ違ったキャラクターというか、絶妙に多様性みたいなことも感じられるし、かわいいからこれを座らせて、彼らがエンドロールを観ているようしようと。マネージャー兼PV監督のタッツ君が映画っぽさを出すっていうところで16ミリ・フィルムで撮って、こういう画質にしてもらって。そして僕らのデザインをやってくれている國枝(達也)さんが良い感じに整えて作ってくれて、バッチリコンセプトにハマったジャケになったなと思いますね。
最新EP、ハイレゾ配信中
コチラはCD版にボーナス・トラックとして収録されている
PROFILE
思い出野郎Aチーム
2009年の夏、多摩美術大学にて結成されたソウル・バンド。
2015年、mabanuaプロデュースによる1stアルバム「WEEKEND SOUL BAND」を、2017年に2ndアルバム「夜のすべて」、2018年には初のEP「楽しく暮らそう」、2019年3rdアルバム「Share the Light」、そして2023年には待望の4thアルバム「Parade」をリリース。
2021年の新木場スタジオコーストでのワンマンライブから、サポートミュージシャンと手話通訳をメンバーに加えた編成でも活動中。
思い出野郎Aチーム・オフィシャル・サイト
http://oyat.jp