INTERVIEW : nonoc

前作“ヒトリイロ”に続き、アニメーションMVという新たな表現に挑戦しているnonoc。今作に収録されている“ヒスイ”、“ネオンテトラ”でも、その才能を遺憾無く発揮している彼女。新たに作り手としての目線を手に入れ、表現者として大きく成長する彼女に、話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西田健
写真 : 西村満
変化している自分に対しての捉え方が変わった
──昨年2021年はnonocさんにとってどういう年でしたか?
nonoc : 去年は環境が変わっていくなかで、新しく自分と向き合っていった1年でした。周りのひとに、大人っぽくなったねって言われることが増えましたね。自分では全然そんなことはないかなと思うんですけど(笑)。
──なるほど、ご自身のなかで意識が変わった部分もありますか。
nonoc : 歌や音楽に対しての捉え方もすごく変わりました。いままでは、そのときの出来を振り返って後悔して、その都度追いやられていたんですよ。去年からは、できなかったことに対して、その過程にちゃんと目を向けられるようになって「いまは出来なくても、まだ出来ないだけなんだ」と考えられるようになりました。あとは、去年はアニメーションMVのプロデュースもやらせてもらったので、ひとつの作品を見るにしても「この人はどういうやり方で作品を作っているんだろう」って作り手目線にも変わりましたね。
──今作の表題曲はタイトルが“Change”ですが、nonocさん自身いろんな部分が変わっていったんでしょうか。
nonoc : まだまだ変わっていくと思うんですけど、“Change”の歌詞の内容みたいに、変化している自分に対しての捉え方が変わったかなと。自分自身を上手に俯瞰できるようになったと思います。歌に対しては、悩んでいた時期があったんですけど、結局悩みながら正解を導くしかないんですよね。どれだけ曲に向き合って、そのときの正解を導いていけるかというとこだなと思っていて。今作は新しい部分を出してきたから、どんな感想をもらえるかわからないけど、ひとつの作品として満足のいくものになったと思います。
──今回は衣装もアニメ『ハコヅメ』に併せて、ジャケットっぽいものになっているんですか。
nonoc : そうですね。今回の『ハコヅメ』は警察が舞台の作品なので、かっちりしたイメージの服が着たくて札幌のファッションデザイナーさんに作ってもらいました。でも、かっちりした部分はありつつ、ところどころ生地の配色が違ったり、背中がヒラヒラしたプリーツになっていたりするんですよ。『ハコヅメ』の、「型にはまることが正解じゃない」みたいな感じを衣装でも出したかったんです。
──カップリングの話になりますが、今作の2曲目に収録されていれる“ヒスイ”はアニメーションMVもプロデュースされているんですよね。
nonoc : 前作の“ヒトリイロ”につながる第2弾です。まず曲を頂いたあと、そのメロディーに沿って歌詞を書いて。それと同時進行くらいで、どういう環境に住んでいて、どのくらいの季節感で、という感じで物語のプロットを詰めていきました。
──MVでは、どういう世界を描いていったんですか。
nonoc : この曲の主人公の名前をヒスイとすると片方のツノが折れていたり、特殊な目を持っているヒスイ。この子は、景色が他の人とは違う色に見えているんです。見た目ではわからないものを背負っている人なりの、孤独感や閉塞観を歌詞に表したかったんです。でも今回歌詞を書くにあたり、そういう他の人と色の認識が違う人って、現実に結構いらっしゃるということを知りました。でも、ハンデと言われるものに対して目を向けたい、向けてほしいとかそういうことだけを伝えたいのではなくて。「もうこれは生まれ持ったものだから」ってそんなに気にしてないって思っている人もいると思うんです。他人とのギャップは気にしないけれど、見える世界が違うことに孤独を抱いてる。配慮されたこの世界でも超えられないこと。自分の翡翠色の髪の色も、ビルだらけの街も、全てグレーに見えていたのに、かわせみ=翡翠の鳴き声が連れてくるヒトリイロの主人公との出会いや過去の記憶に、心が解けていく、そんな物語を描きたくて作詞をしましたし、はじめて出会った感情や感覚を表すのに、空にペンキが溢れてそこから世界が色づいていく様にしたり、色合いにもこだわって監督と創らせてもらいました。
──なるほど。
nonoc : MVには、前作の“ヒトリイロ”で出てきた子と、今回の“ヒスイ”の子が出てくるんですよ。今回の“ヒスイ”では、“ヒトリイロ”の子とは違う孤独感を描きたくて。みんなと同じものは見えないけど、それがきっかけで“ヒトリイロ”の子とどう繋がっていくかもと描きたいと思っていました。
──どちらもテーマとしては孤独があるんですね。
nonoc : みんなそれぞれ孤独を持っていると思うし、そのなかで社会に自分の存在を認められたいとか、それに馴染んでいきたいとかは、人それぞれだと思うんです。“ヒトリイロ”の子と“ヒスイ”の子で、考え方が違うふたりはどうしたいのかなというところをそれぞれ書いていったって感じですね。
──そして、今作の3曲目に収録されているのが、MV第3弾の“ネオンテトラ”ですね。このネオンテトラは、熱帯魚の種類のネオンテトラからですか?
nonoc : そうですね。群れでしか生きるのが難しいとされる、かわいい魚ちゃんです。“ネオンテトラ”では、“ヒスイ”のMVの最後で出会ったあとの、ふたりの関係性を描きました。この曲は青色がテーマです。都会の夜の青い感じをネオンというタイトルにかけたり、“若さ”という意味での青さもかかっています。青さのなかで不安や孤独を抱えていたふたりが互いに依存していくのをテーマにしました。
──誰かと一緒に生きるのがテーマなんですね。
nonoc : 現実と理想とのギャップすらわからないぐらいのときの、ただ寂しい、といった雰囲気も歌詞にしました。都会を夢みて出てきたけど、人の冷たさを感じたり、孤独を感じてひとり寂しくしてる時間の方が多かったり。このままじゃだめだってなんとなくわかってるんだけど、ふたりで一緒に沈んでいる方が楽、みたいな。世間の正解じゃない、ふたりだけの居心地の良さだけで世界に沈んでいってしまうようなイメージです。そんな風に思うふたりも居るんじゃないかなと思って書きました。

頭のなかで描いていたことがちゃんと出てきてくれたことにワクワクする
──MVは、第2弾、第3弾に続くにつれて、こういうことを表現したいんだっていうのがだんだん固まってきているんでしょうか。
nonoc : そうですね。全体として色に対する物を書きたいというのは、ずっとテーマとしてあります。人の個性っていう意味の“色”もあるし、気持ちの表現での“色”というのもあります。目で見て入ってくる色の情報っていうところでも、すべてシリーズで統一して満足いくものができているかなと思います。MVは絵コンテ段階から打ち合わせをしているんですけど、独特な映像技術を使っているので目新しさもあるし、切ない感じが伝わる物になりました。
──これからの2022年はどんな年になっていきそうですか?
nonoc : 2022年はワンマン・ライヴをやりたいです。いままで応援してくれた人に恩返しになるものとして、ライヴをやりたい。やってくださいって言ってくれる人たちのためにも、いままで私を支えてくれた人たちにも形として届けたいです。この前、久しぶりにフェスに出たんですけど、みんなの顔が見える距離でのステージだったんですよね。みんながいろんな部分を支え合ってくれたからこそ出来たステージだし、しっかり届いてると感じたんですよ。ライヴに関してはまだまだ拙いところがあると思うんですけど、みんなと作っていけるようなものにしたいです。
──制作の方はどうでしょう?
nonoc : 制作も好きです。でも、歌もそうだけど感性って正解がある物じゃないから、やっぱり伝えるときに不安もあるし、作詞もすごく悩んでいます。でも、すごく楽しいです。アニメ表現も好きだし、音楽だけに限らずいろんなクリエイターさんの情報を追っていたから、その世界に踏み入れることができて、すごく嬉しいです。頭のなかで描いていたことがちゃんと出てきてくれたことにワクワクしますね。映像公開した後もどんな風に受け取ってもらっているのか、みんなが思ったこと、考察したことや感じたことをコメントで教えてくれたら励みになります。
──コメントにも目を通されているんですか。
nonoc : めちゃくちゃ見ます。海外の方が多くてありがたいです。どこの言葉かわからないのもあるんですけど(笑)。私自身も海外にすごく憧れがあって。だから、少しずつ英語を勉強しているんです。自分で「この曲はこんな感じです」って伝えられる程度までにはなりたいです。それは2022年の目標のひとつですね。

安月名莉子とnonocの対談インタヴューはこちら
安月名莉子の個別インタヴューはこちら
編集 : 津田 結衣
安月名莉子 ディスコグラフィー
nonoc ディスコグラフィー
PROFILE:安月名莉子

幼少よりミュージカルやTVへの出演を通し、役者としての表現を学ぶ。 大学進学と同時に自身の思いを形に残すためシンガーソングライターとしての活動を開始。 2018年10月放送TVアニメ『やがて君になる』のOPテーマ「君 にふれて」でメジャーデビュー。同時に『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』の挿入歌「Memories」の歌唱に抜擢される。以降も『彼方のアス トラ』『蜘蛛ですが、なにか?』と人気アニメのテーマソングを歌う。さらにゲーム『夢現Re:Master』では「ニエ」役として声優としてもデビューを果た している。その才能はアニソンシンガーにとどまらず、シンガーソングライターとしてもギターテクニック、繊細な歌唱力が認められオーストラリアのギターメーカー Cole Clarkとエンドース契約。2019年12月にはCole Clark 安月名莉子シグネチャーモデルが発売された。卓越したギター演奏と寄り添う声で、こころを歌い上げる。
■公式HP https://azuna-riko.com/
■公式ツイッター https://twitter.com/azuna_riko
PROFILE:nonoc

北海道出身・在住のシンガー。高校在学中に楽曲投稿アプリで歌声を披露し始め、2018年、映画「Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow」イメージソングと主題歌のボーカルとして、 2曲同時に抜擢される。2019年には、1stシングル『KODO』(TVアニメ「魔法少女特殊戦あすか」OPテーマ)、2ndシングル『star*frost』(TVアニメ「彼方 のアストラ(2019年マンガ大賞受賞作品)」OPテーマ)をリリース。同年公開の映画「Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆」では主題歌『雪の果てに君 の名を』を担当した。2021年、4thシングル「Believe in you」(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」2ndシーズン後期EDテーマ)をリリース。
■公式HP https://nonoc.net/
■公式ツイッター https://twitter.com/nonoc_doll