The Aces 『I’ve Loved You For So Long』
自身のクィアネスとしてのアイデンティティを作品に投影し続けてきた4人組バンドは、本作に男女両性の特徴を有するアンドロジナスになりたいという想いを強く投影。彼女らが得意とするダンサブルなオルタナ・ポップは今作でロック色を強め、パンキッシュな音楽スタイルと力強いアンサンブルで、憧れから傷ついた心、弱音まで胸の内をありのまま曝け出す。口ずさみたくなるポップなメロディと清涼感のあるサウンドは聴き心地良く、数多の感情を押し付けることなく、するりと人の心の内側に入り込み、優しく寄り添うように響き渡る。今年3月にデビュー・アルバムをリリースしたボーイジーニアスに続き、ジェンダーレスな魅力でガールズ・バンドというイメージを刷新するパワフルな1枚。
The Japanese House 『In the End it Always Does』
先述のジ・エイシスと同じくクィアの目線でものづくりを行うのが、ヒットアーティストの宝庫〈Dirty Hit〉所属のザ・ジャパニーズ・ハウスことアンバー・ベイン。4年ぶりとなる新作アルバムには、プロデューサー兼エンジニアのクロエ・クレイマーに、The 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエル、ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノン、チャーリーXCXなど豪華面々が参加し、彼女の感情豊かなポップ・ミュージックを華やかに仕立てる。愛のもとに生まれる憧れや焦がれ、その一つひとつをアンバーの柔らかく透明な歌声が優しくすくい上げる。「結局はいつもそう」と言うけれど、愛情深い彼女の歌を聴いていると誰かを愛したいと思ってしまうのだ。
Salami Rose Joe Louis 『Akousmatikous』
その彼女、異才につき。先日長谷川白紙が契約発表したことで話題のフライング・ロータス率いる〈Brainfeeder〉よりリリースされたSSW / マルチ・インストゥルメンタリストのリンジー・オルセンによる新作は、彼女の精神世界にすっぽりと取り込まれたような異世界が広がる。ドリームポップ、ジャズ、ヒップホップ、テクノ、R&Bなど多ジャンルを巻き込んだ特異なミクスチャーポップに、ふんだんに取り入れられたSEに斬新なサウンドコラージュ、至極のグルーヴを生み出すベース。メルヘンな歌の背後で物凄い情報量が蠢いており、思考が追いつく前にすべてが過ぎ去るし、おそらく追いつかせる気もない。それがたまらなく気持ち良い。「答えがない」ことが答えというロマンに満ちた音楽体験がここにはある。