色んな人から「短い曲を作りなさい」と言われて、それにイラっとして(笑)
──みなさんは20代半ばということですが、きっと配信リリースやサブスクリプションなども身近な存在として育ってきた世代だと思います。その上で、今回のようにCDという実態ある物に拘ったというのは、なにか理由や憧れがあるのでしょうか?
坂井:俺は高校時代からCDを買っていたし、両親が音楽好きということもあり、幼少期から身近にあったんですよね。それに、CDを聴く時ってめちゃくちゃ楽しくないですか? CDのビニールを破る時の緊張感とか、歌詞カードを集中して読んで、ふとインクの匂いを嗅いだ時のワクワク感とか。その良さを知っているからこそ、今度は自分たちがそういうものを誰かに届ける番になったんだと思っています。あとは単純に、CDで聴いた時の音の良さって格別なんですよね。だからこそ拘りました。
──歌詞カードを手元に置きながらCDで聴く時って、やっぱり音楽との向き合える気がしますし、そういう時間を作って聴くに相応しい作品だと、私も思います。今作は“Stay alive”を筆頭に、いままでのApesと一線を画すような違いがあるなと思いましたが、なにか意識的に変えたことはありますか?
坂井:昔は弾き語りで曲を作っていたんですけど、今作を作る少し前から、完全に打ち込みで作るようになりました。ギターのアプローチでまずしっかりカッコイイものを作ってからオケを乗せていって、そこに良い歌詞と良いメロを乗せていくというフローが個人的にいちばんしっくりきたし、そうなると、オケに手を抜かないようになる。じゃあ、「オケに手を抜かないジャンルってなんだ?」と考えた先にあったのが、ポストロックだったんですよね。あとは今回、Tortoiseの『TNT』やMogwaiの『Come On Die Young』を参考として聴いていました。轟音系はMogwai、アルペジオ系はTortoise、歌はASIAN KUNG-FU GENERATIONという感じです(笑)。なので、歌というよりは、楽器陣のアプローチをよりポストロック方向へ突き詰めていきたいという考えがありました。
アラユ:この作り方になって、3人間の曲への解釈がブレなくなってきたよね。
坂井:でも、ふたり的にはプレッシャーになっているんじゃないかな? とは思います。
村尾:ああ、でも確かにそうかも。ただ言われたままやるだけでは能無しのプレイヤーなので、音色なりアプローチなりで、自分らしさを出していかなきゃいけないなと思いましたし、そこに関するプレッシャーはありますね。玲音くんが出してきてくれたものをそのまま再現する方がいい場合もありますし、そこの匙加減というのはかなり苦労したところではあります。
──でも、この曲って同じリフだけど、どんどん表情を変えていくじゃないですか? そこにも凄くこだわりを感じました。
坂井:そうなんですよ。そこはかなり意識して作りました。
アラユ:オケを聴いて、ここは絶対欲しい部分なんだろうなというところは残しつつ、他はわりと自由にやらせてもらいました。でも、オケの時点で気合の入ったギターソロが入っていたので、そこを越えていけるように頑張りました。
──その上で、3曲目の“Wake me up!“は、一発録りなんじゃないか? というくらいのグルーヴ感や、良い意味での粗さを感じる、今作の中では異色ともいえるショートチューンだと感じました。
坂井:ああ、確かに異色かもしれないですね。俺ら、基本的に曲が長いんです。それもあって、色んな人から「短い曲を作りなさい」と言われていたんですよ。それにイラっとして書いたという背景もあります(笑)。去年の時点でデモはあって、むしろ最初のバージョンの方が今作のコード感に寄っているものではあったんですけど、ケイトが全然納得していなくて……。
村尾:そうそう、めちゃくちゃ地味だと思っちゃったんですよね……(笑)。そこは忌憚なく意見を言った方がいいと思ったし、いまのバージョンの方向性になってからはめちゃくちゃ良くなっていったので、いまは凄く納得できています。
坂井:なので、全体的にチューニングを落として、全体的にオケ自体を重くして、それでいてビートやメロを軽やかにする、という方向性で仕上げていったので、そういう意味でもアルバム寄りというよりかは、自分たちがテンション上がるように作った曲ではありますね。
──確かにその感じは、聴いていても分かります。5曲目“Vinyl”は、アラユさんが作曲したということではありますが、どのように完成させていったんですか?
アラユ:これは元々、インストで作っていた曲だったんです。それもあって、ギターを主役にして作ってはいったんですけど、玲音くんが歌を入れてくれたことで、「ああ、これは歌を入れて完成する曲だったんだな」と思いましたね。
坂井:たまにアラユさんが、曲とタイトルがセットになったデータを僕にポンと送ってくれることがあるんですけど、“Vinyl”もまさにそうでした。そこからタイトルに沿うように歌詞を付けていったんですけど、これこそポストロックらしい作り方だなと思いましたし、今回のアルバムに入れることができて良かったなと思います。
──半分くらいが英詞ですね。
坂井:曲のリファレンスとして聴いていた曲が海外の楽曲だったし、自分たちも海外のアーティストの楽曲が好きなので、そういうルーツがあることを知ってもらいたかったんです。でも、不思議なことに、アラユさんが持ってきてくれたインスト曲に歌詞をつけると、絶対にラヴソングになるんですよ。
アラユ:あはは!
坂井:アラユさんは愛の男だからなぁ……。
アラユ:そういう意識はないんだけどね(笑)。自分のなかで、〇〇と〇〇と〇〇が同時に曲を作ったらどうなるんだろう? という意図の下、何回かに分けてキメラ的に曲を書いていくので、タイトルに関しても完全に雰囲気から取ってきています。
──なるほど。そして、ショートチューン“Wake me up!“との対比的に、7曲目の“Something gonna happen when we insist”は7分近くある長い曲ですね。でも、元々長めの楽曲を作りがちとのお話もありましたし、この曲は作り易かったですか?
坂井:これは2年前くらいに作った曲なんですけど、多分最初は全然違うアプローチだったと思います。
村尾:うん、全然違ったね。
坂井:長さも3分ちょいくらいだったもんね? なので、1年くらい懸けて水面下でコツコツ作り上げていった楽曲です。スタジオで3人でセッションしながら試行錯誤しつつ、いまの完成形になりましたね。ライヴで演奏するには少し長いかもしれないですけど。
──楽曲を作る際に、ライヴで演奏することは想定していますか?
坂井:デモを作る時からめちゃくちゃ意識していますね。
アラユ:セトリも考えながら作ることが多いです。
坂井:今作は全体的に、リードギターだけチューニングがオープンチューニングなんですけど、そういうところもライヴを意識しています。
村尾:でも、この曲のベースに関しては、ライヴのことを全く考えずにフレーズを作っていっているんです。ライヴで演奏せずにスタジオで詰めていった曲ということもあって、和音からはじまる冒頭だったり、ピッキングを意識したフレーズを入れ込んだりと、いままでにはなかったアレンジに挑戦できたなと思っています。それもあって、いままでずっと指弾きだったんですけど、今作に関しては“Neighbor”以外は全部ピックで弾いているんですよ。なので、いままでの楽曲との差別化が図れていると思うし、自分のプレイを顧みる良いきっかけになったなと。今作で新しい扉が開けた実感があります。