ようやくここで『サーフ ブンガク カマクラ』がアジカン4人の作品になる
──そして“柳小路パラレルユニバース“は、車じゃないっていう感じが特にしたんですよ。楽しい曲でもあり。
後藤:“柳であって狸じゃない“とか、そういう間違い方がなんかねいいなと思って。狸小路じゃないよ、みたいな。だけど小町通りでもないぜって意味で小路を使ったんだけどね。
──地名や駅名とかって勘違いしがちですもんね。
後藤:そうそうそう。そういう感じで「俺たち間違えてるよな、人生」というのもありつつ(笑)。
──人生までいくんですか(笑)。
後藤:「人生、狸小路みたいな間違え方してるだろ?いつも」って。
──サザンの話に戻りますけど、“西方コーストストーリー“にはサザンでお馴染みのワード、“烏帽子岩“も”チャコ“も登場します。
後藤:はい。“ピーナッツ“(ザ・ピーナッツ)も出てきて。でも西方って烏帽子岩は見えないんだよね。もうちょっと茅ヶ崎感じたいけど実は遠い。そういう感じで俺らは夏を諦められない。サザンは「夏をあきらめて」って歌ってますけど。だからそういう引用もしつつというところもあります。
編注:“西方コーストストーリー“の「烏帽子岩」「チャコでもミーコでもない」「ウチらを嘲笑うピーナッツ」は、サザンオールスターズ「チャコの海岸物語」から。同曲には「エボシ岩が遠くにみえる」「心から好きだよ ミーコ」「ピーナッツ 抱きしめたい」という歌詞が登場する。ザ・ピーナッツは日本の双子の元女性歌手。

──いろんな要素がレイヤーになってる曲ですよね。そして“日坂ダウンヒル“、これはやはり駅名は日坂じゃないとダメなんですよね。
後藤:そうなんです。
──いまの地名じゃ……。
喜多:鎌倉高校前だもんね。
後藤:鎌倉高校前だとちょっとね。
──映画の『THE FIRSY SLAM DUNK』でさらに有名になりましたね。
後藤:そうなんですよね。まあでも俺達第0回より先に“日坂がダウンヒル“作ってたっていう。ていうか、発表される前に作ったもんだから、同時期だったかもしれないですけどね。俺たちは『SLAM DUNK』が映画化されるってことなんか知らずに。でも挿入歌に使って欲しかった(笑)。
──アルバムのなかではパワーポップというよりもヒップホップ感があるし、疾走感の真逆な感じはします。
後藤:ああ、そうですか? っていうより、岡村靖幸さんみたいなイメージ。『SLAM DUNK』みたいなキラキラした青春の音とはまたちょっともうちょっと違う、本当に突き抜けられない青春の歌なんです。そのまま大人になった人たちが見て、「とは言え、まだ諦めないよ」「ここから下りだとしても」というニュアンスですね。
──“日坂ダウンヒル“が入ってくるのが今回の完全版らしさなのかなと。
後藤:そうですね。全部が“西方〜“でもいいし、“江ノ島エスカー“でもいいし、“柳小路〜“でもいいんだけど、こういうパワーポップばっかり入ってるとコントラストができない。「やっぱ変な曲が入ってんだよな、俺の好きなアルバムは」みたいなのがあったので、“日坂〜“はちょっと変なコード進行からはじめてみたいと思って作ったんですよ。いまの技術だと変なコードではじめてもいい曲になっちゃうんだけど。
──いい曲といえば“和田塚ワンダーズ“は堂々たるハチロクで。
後藤:ただの名曲ですね、これ。
喜多:「ただの名曲」(笑)。言ってみたいよ。
後藤:ただの名曲です(笑)。“半カートン“を作る時に「これが最後だな」と思ったんで若干“鎌倉グッドバイ“と言ってることは被りつつ、いまっぽく。でも冒頭の歌詞「派手に泣いていいぜ」って歌えた時に、「すごいいい曲だ!」と思いました。救われるなって。「泣くな」みたいなこと言っちゃいがちだけど、「泣いていいんだよ」ってすごい大事なことだなって。

──実際に完全版が出来上がってみてこのアルバムはどういうものになったと思いますか。
後藤:マスタリングが最後まで終わってすごくいいアルバムだなと思いました。僕のいろんな思いつきに付き合わせてた、最初の『サーフ』って、ちょっとソロっぽいニュアンスがあったし、僕のフィール的にそこにつながっていくんですけど、いまになってこうやってみんなで演奏するとちゃんと自分たちのオリジナル・アルバムとして、アジカンにしかない音だなと思う。それがすごい達成なんじゃないかなって気がちょっとありますね。最初の『サーフ』は身になる前に録っちゃったみたいな。体になんか身につく前に録っちゃったところがあったけど、これは完全に身につけてるというより、自分たちの温度感でちゃんとものにしてる感じがしますね。ようやくここで『サーフ ブンガク カマクラ』が俺たちのアルバムになるって空気もあるんじゃないかな。アジカン4人の作品になるというか。
喜多:2008年の時にはなかった「『サーフ』ってこんな感じだろう」みたいなものがそれぞれちゃんと僕ら3人にも培われた。そういうのがちゃんと注ぎ込めたかなっていうのはフレーズひとつとっても明らかに違うかもしれないですね。
後藤:相対化できてる感じですね。
──2008年の時はテーマありきだった。
後藤:そうですね。アイツがやるって言ってるから付き合うかっていう空気もやっぱりあったと思うし。
喜多:あったし、ちょっと企画盤かなっていうか「どうなんだろう」ってところもあった。「オリジナルアルバムじゃないんだ」って言い聞かせながら。
後藤:そうそう。いまは結構みんな自分のものとして盛り上がって、「ここはこうするっしょ」ってことをやってくれたよね。
──確かに当時、オリジナルが三作続くと思ったらテンションが違ってたでしょうね。
後藤:アルバム作りとかも当時はね?「鳴ってりゃいいんでしょ?」みたいなね……。
──そんなことはないでしょ(笑)。
後藤:ではないと思うけど(笑)。でも全然こだわりは違いますからね。いまだったら長いときは2時間ぐらい音作りとかしてるから。
──今回はいまの録音で15曲なんで完全にアルバムなんじゃないかと。
後藤:それは僕もオリジナルアルバムだと言っていいと、カウントしていいんじゃないかって気がしますけどね。
──その自信なのか、バンドのムードの良さからなのか、今回は初回版に“カマクラお散歩MAP”がついたり、アーティスト写真でビーチ・ボーイズばりのお揃いの衣装だったり。
後藤:そうですね。一部ではコンビニ店員っていう噂が(笑)。いまいちこう伝わんなかったね(笑)。

──そしてツアーは最近のアジカンスタイルで前半はライヴハウス、後半はホールですね。
喜多:ライヴハウスはゲストも迎えつつ。
後藤:今回は久々に4人でやるんで、楽しみ半分、心配半分(笑)。
──いま、羨ましいです。アジカンというバンドが。
後藤:まだなにも決まってないけど、俺、来年もツアーやりたいな。
喜多:なにも出てないけどやるやつ?
後藤:なにも出てない時にやるツアーの方が好きなことやれるじゃん。
喜多:それいちばん最高のやつじゃん(笑)。
編集:梶野有希
約15年の時を経て完成した『サーフ ブンガク カマクラ』
過去記事はこちら
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの過去作はこちらから
ライヴ情報
日付:2023年9月29日(金)
場所:福岡県 Zepp Fukuoka
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月1日(日)
場所:東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月4日(水)
場所:大阪府 BIGCAT
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
日付:2023年10月5日(木)
場所:大阪府 なんばHatch
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月8日(日)
場所:宮城県 SENDAI GIGS
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月15日(日)
場所:北海道 サッポロファクトリーホール
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月18日(水)
場所:愛知県 Zepp Nagoya
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月21日(土)
場所:広島県 広島CLUB QUATTRO
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION / and more
日付:2023年10月22日(日)
場所:広島県 広島CLUB QUATTRO
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
日付:2023年11月2日(木)
場所:東京都 日本青年館ホール
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
日付:2023年11月3日(金・祝)
場所:東京都 日本青年館ホール
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
日付:2023年11月19日(日)
場所:東京都 立川ステージガーデン
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
日付:2023年11月22日(水)
場所:神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
日付:2023年11月23日(木・祝)
場所:神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION
PROFILE : ASIAN KUNG-FU GENERATION
1996年結成。後藤正文(vo.g)、喜多建介(g.vo)、山田貴洋(b.vo)、伊地知 潔(dr)による4人組ロックバンド。2003年メジャーデビュー。同年より新宿LOFTにてNANO-MUGEN FES.を立ち上げ、2004年からは海外アーティストも加わり会場も日本武道館、横浜アリーナと規模を拡大。2016年にはバンド結成20周年イヤーを迎え、自信最大のヒット作『ソルファ』の再レコーディング盤をリリースするなど話題を集めた。2021年バンド結成25周年を迎え、2022年3月には記念すべき10枚目となるアルバム『プラネットフォークス』をリリース。2023年4月には、メジャーデビュー20周年を迎えた。
■公式Twitter:https://twitter.com/AKG_information
■公式HP:https://www.asiankung-fu.com
■公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC3J-txytRWiRtNXrLS95eEw