鬱憤がたまってなければなかったアウトプット
──ジャケットのディストピア感や幅広い曲調からも、『音樂』は様々なテーマを持っている印象を受けました。なかでも1曲目“STEAL”から7曲目“MAD HYMN”は、「悪魔」という概念と「宗教音楽」が主軸なのではないかと。
ユーキ:そのあたりの雰囲気は、僕のテイストが強いですね。悪魔も宗教音楽も、単純にかっこいい(笑)。『ロード・オブ・カオス』っていうノルウェーのブラックメタルバンドのメイヘムの映画で、聖書に火をつけたり教会を燃やしたりするシーンがあって……当時一緒に映画館へ観に行った友達とめちゃくちゃ奮えて。こんなんいちばんかっこええやん! あんな感じの曲やりたい! というところからはじまってます。僕はアイコンが好きなので、「怪獣(“かいじゅうのうた“)」や「プレステ(“PS4”)」と同じ文脈で「悪魔」を使ってる節がありますね。使うと自動的にポップにアウトプットされる、そういうキャッチーさが好きなんです。
──なるほど。ポップなものを選んだ結果の「悪魔」なんですね。
ユーキ:だから全然重い意味はないんです。宗教ごっこも可愛くておもしろいな~と思っていろいろ曲を作った後に、世の中にガチな問題がばり出てきちゃったんですよね。そこに切り込んでいくつもりはさらさらなかったけど、いろいろ勘ぐってくれる人たちのなかで「こんなところまで言及しちゃうのすごい! かっこいいわ~!」みたいに俺らの評価が上がってくれたらうれしいです(笑)。
──(笑)。「宗教ごっこ」というのは?
ユーキ:バンドとかアーティストって、究極の宗教ごっこなんじゃないかなあと思うんです。たとえば音楽で背中を押しまくるバンドは、聴き手の弱みを探してその傷を癒してあげることで自分たちの音楽の価値を高めて、そこにお客さんがお金落としたりグッズを買ったりしてるなあって。それってほんま宗教ごっこやなと思うし、それができるのはアーティストの特権のような気もしてるんですよね。……でも実際とある人から注意されたことあるんですよ。「このままいったらお前らほんまの宗教みたいになってまうで」って。
──宗教音楽をここまで取り入れたり、歌詞で洗脳に言及するバンドは、そこまで多くはないですからね。特に日本だとタブー視されがちで。
ユーキ:そう言われていろいろ考えたんですけど、こういう音楽を作ることはいまの僕にはあんまりダメなことだと思えなかったんですよ。やらないほうがかっこ悪いなと思った。だから俺らから発信してる宗教的な要素は全部カジュアルです。ガチじゃない。そういう意味でも「宗教ごっこ」なんですよね。仲間のバンドもお客さんもみんな友達みたいなヴァイブスなんで。
チヨ:ポップアップで変な水晶とか若返る豆とか売り出したら、「ごっこ」じゃなくなったと思ってください(笑)。
ユーキ:でもちょっと水晶は売りたない?(笑) いちばん宗教音楽感が強い“悪魔降臨“はもともとアルバムに入る予定ではなくて、“akuma”の歌い出しの部分をタクマがサンプリングして作ったリミックスなんですよね。〈akuma tour 2022.02-04〉でSEとして使っていて、俺があの雰囲気が好きすぎたのでアルバムに入れたいと言ったんです。
──“悪魔降臨“の後に、タナカさんがお作りになった“MAD AGE”と“MAD HYMN”が続くのもいい意味で異質だったので、そういう意味でも宗教ごっこ的な要素もあるかもしれません。
ユーキ:さっき話した「全然違う内容で考えていたアルバム」では、この2曲を最後に置こうと思ってたんです。この2曲はチヨの絵からインスピレーションを受けて作ったんですよね。結構カルト感とか宗教感があったので、タクマにしろチヨにしろ俺にしろ、なんやかんやみんなそういう雰囲気が好きなんでしょうね。
チヨ:結局は自分の好きにしたらいいと思っています。他人がどうこうではなく。
──これだけ「悪魔」や「宗教音楽」に傾倒したところから、ストレートに愛情を伝える“優気“につなげるところがスサシ流のロマンチシズムだなと。タナカさんにとってはある意味セルフタイトルソングではないでしょうか。
ユーキ: 2020年の4月の緊急事態宣言中に家で弾き語りで作った曲で。もう言いたいこと全部言っとこうと思いながら作って、それがうまいこと書けたんで、自分の名前つけときました。自分の名前を曲のタイトルにする人あんま知らんかったし、自分の名前を曲のタイトルにするとかイタいしナルシストが過ぎるやろって。じゃあちょっとそこ立候補しようかなと(笑)。漢字は名前とちゃうんすけどね。
チヨ:この曲は2020年の夏の終わりにレコーディングもしてるんですよね。その後にちょこちょこライヴでやってたので、自分たちに馴染んでるのはライヴでやってるヴァージョンだったりもして、今回収録するにあたって聴き返して「こんなにこの曲遅かったっけ?」と驚いて(笑)。でもいい曲やな、俺こんなベース弾いてたんやな、この曲レコーディングしたときこんなことがあったなー……とかいろんなことを思い出して、センチメンタルな気分に浸りましたね。
ユーキ:なので俺らは結構、コロナのおかげでできたことや変わったことが多いんですよね。“優気“も狭い部屋に缶詰めになって、鬱憤がたまってなければなかったアウトプットやと思います。コロナ禍がなかったら、多分今頃もっとライトな内容を曲にしてたような気がする。
──“優気“のようなマインドを持っているバンドではあるけれど、それを曲としてかたちにすることはなかったかもしれない。
チヨ:コロナ禍以前と以降やとライヴのスタンスも変わったっすね。すごく深くなった。悪い言い方をすると玄人っぽくなった(笑)。