音源とライヴのギャップを作りたい
──新しくリリースされた「夜間飛行」は、フル・アルバム『事象の地平線』収録曲の「少年よ永遠に」と同じ温度感を内包しているという印象を受けました。
柳田:あぁ、たしかに。前半は「眠いけど制作頑張るぜ」っていうテンションですけど、最終的にはスタジアムっぽい響きになっているし。星をテーマにしているところもそうですね。通ずるものがあるっていま言われてはじめて気づきました。
──柳田さんは今年から制作のためにスタジオを借りているとのことですが、リリースコメントにあった「アイディアが、メロディーが降ってくる瞬間をぼうと待ち望む」というのは、まさにそのスタジオでの様子なのかなと。
柳田:そうです。「この景色を全部 / 掴めるような気がしている」という歌詞がありますけど、「この景色」というのは、そのスタジオから休憩中にタバコを吸いながら観ているベランダからの景色のことなんですけど、それが今回のジャケ写にもなっているんです。
──えぇ、そうなんですか。
柳田:(スタジオまで)カメラマンさんにきてもらって、みんなで色々な角度を試しながら、撮影していただきました。プロの方がちゃんとしたカメラで撮影すると、やっぱりすごく綺麗に映るんですけど、今回はもっと等身大で、僕がみえているそのまんまの温度をジャケ写にしたくて、あえてこういうインスタントっぽいリアルな質感にしていただきました。画角も僕の目線の高さと揃えていたり、このオレンジの4つ枠もカメラの画面に映っているものをそのまま使っていますし、上部にある小さなオレンジの文字もこの曲が生まれた時間になっていたりとか。とにかくリアルを突き詰めて完成したジャケットなんです。

──上下が黒いのもカメラのボディをそのままジャケ写にしたからなんですね。
柳田:そうなんです。歌詞も制作中に思ったことを書いていて。だから「キラキラ」と同じで、「夜間飛行」の歌詞も日記に近いかもしれないです。
──どういったところから歌詞は生まれたのでしょう。
柳田:夜中まで制作することが多いんですけど、思いのほかビルも明るいし、団地もまだ起きている人がいるんですね。そのなかには仕事や勉強を頑張っている人が絶対にいて。自分と同じ職業とは限らないし、年齢もわからないけど、朝4時とかに頑張っている人がこんなにいて、その人たちが僕の活力で、頑張れる理由になるんです。だからその人たちへ思ったことをそのまま書きました。頑張っている人へ向けた応援ソングでもあり、自分を奮い立たせるための曲でもありますね。
──レコーディングはいかがでしたか?
吉田:毎回音決めに時間がかかるんですけど、今回は特に悩んで、結構大変でした。サウンド感もUK寄りなので、絶妙なニュアンス感を出すためにはどうしたらいいんだろうっていう話し合いもしましたし。
桐木:僕は音の音感にすごく悩みましたね。シンプルが故にどこで音を切ればいいんだろうって。例えばAメロの「世界中に一人だけみたいだ」から入るベースとか、音の長さの見極めがとにかく難しくて。柳田と話し合いながら色々試してあの形になりました。最終的にいい音が録れたのでよかったです。
吉田:あと自分らって柳田が作ったデモのサウンド感を大事にしている節があるので、いつもはデモからサウンドのイメージを持ってくることが多いんですけど、ギターに関してはいつもと違う終着点だったように思います。
──いつもと違う終着点?
吉田:デモはギターがジャキジャキしていたけど、これはこれでいいじゃんっていうまた別のところに最終的には落とし込まれた感じがあって。そうだったよね?
柳田:うん。ギターもたくさん入っているんですけど、そのうちの1本は、僕がずっとよぴ(吉田)から借りパクしているSquier(スクワイヤー)っの安いテレキャスを使っていて。たぶん4万ぐらいのシャバ僧なんですけど、それがめちゃくちゃいいんですよ。
吉田:人のギターになんてことを(笑)。
柳田:(笑)。でもあのギター以外では全く出ないような、めっちゃいい音が本気で録れるんです。いい意味で音が細いんですよね。「夜間飛行」みたいなジャンルの曲にはいい意味でペラい音が逆に欲しかったし、このギターがいることで、歌を広げられたりするから、その足し算引き算を考えるのがおもしろかったです。
──そのテレキャスはどこの部分で鳴っているんですか?
柳田:「走り出せばいい」のあとにディレイのフレーズが出てくるんですけど、そこもそのテレキャスで弾いています。
──曲のなかでも目立つフレーズを弾いているんですね。
柳田:録った音をミックスの段階で軽くお化粧しているので、結果的に(どんなギターでも)いい音になるんですよね。ドラムは録り音が大事だと思いますけど、極論ギターは録り音なんでもいいんじゃないかなって。歌もぶっちゃっけ、いいマイクの良さもありますけど、どこにでもある普通のマイクでも全然いいと思っているんですよ。そのマイクでインプットして、アウトでスピーカーから出すけど、その間の処理をどうするかの方が大事だと思うので。
──なるほど。では、ドラムについてはいかがでしょう。
黒川:この曲は音源だとドラムがほとんど打ち込みになっていて、生音はキックとスネアぐらいなんです。だからこそ、ライヴでは派手にやってほしいって柳田からオーダーがあったので、ダイナミックなパフォーマンスをしたいですね。音源とはガラッと違う感じにしたい。
柳田:亮介、本当はレコーディングでドラム叩きたかったよね?(笑)
黒川:(笑)。でも曲を作っている人の意見を尊重するべきだと思うので、柳田がいうなら仕方ないです。
柳田:(笑)。音源とライヴのギャップを作りたいから、キックとスネア以外は打ち込みでってお願いしちゃいました。「原曲はしっとりめだけど、ライヴだとめっちゃエモい」「原曲じゃなくて、ライヴバージョンでずっと聴きたい」みたいな、いい意味で音源とライヴのイメージが違うのって、僕はすごくグッとくるんです。そういうことを「夜間飛行」では、提示できそうな気はすでにしていますね。ライヴでのパフォーマンスを楽しみにしていてほしいです。