『MEMORIES』シリーズはある種思い出を振り返るアルバム
──さて、今回リリースする『MEMORIES2』は朝日さんがボカロP・“石風呂”名義で過去に発表した曲をネクライトーキーでセルフ・カヴァーするアルバム『MEMORIES』シリーズの第2弾にあたります。このタイミングで2作目をリリースすることに決めた経緯を聞かせていただけますか?
朝日:『FREAK』というフルアルバムを作って、しかもそのあと爆速でシングル『ふざけてないぜ』を作ったので、自分としては「エネルギー出しきったなあ」「ちょっと疲れたなあ」という感覚だったんですけど、スタッフからわりとすぐに「次のアルバムはいつ出す?」と聞かれたので、(頭を抱えながら)「ああああ~~~!」みたいな感じになって(笑)。フル・アルバムのように0から1を作るのはエネルギーがかなり必要だからまたすぐにフル・アルバムを作るのは大変だけど、セルフ・カヴァー・アルバムを作るエネルギーならまだあるなあと思ったのと、元々「いつか『MEMORIES2』を出したいよね」「『MEMORIES』に入りきらなかった曲もあるからね」という話をしていたので、このタイミングで出すことになりました。
──1曲目の“君はいなせなガール”はツイン・ヴォーカルの曲で、フィーチャリング・ヴォーカルとして、東京カランコロンのせんせいとしても活動していた日本松ひとみさんが参加されていますね。この曲は原曲でもツイン・ヴォーカル・スタイルでした。
朝日:10年近く前の曲なんですけど、僕は当時から東京カランコロンのファンで。この曲を作った時、「こんなふうに歌ってほしい」というイメージの基になったのがせんせいだったんです。
──ということは、当時朝日さんが思い描いていたイメージが10年越しに実現したと。
朝日:はい。この曲、俺は好きなんですけど、演奏するのが本当に難しいんですよ。メンバーからの「いまならやれるよ」という言葉を聞いて、今回収録することになったんですけど。
藤田 : 「いまならやれるよ」と言ったのは主に私ですね。音源では日本松ひとみさんに歌ってもらっているんですが、ライヴでは私が歌うことになるんですよ。ただでさえとんでもなく難しい曲なので、ベースを弾きながら歌わなきゃいけないなんて……『MEMORIES』を出した2019年には「この曲は100%できない」と言っていたんです。だけどそこから時間が経って、「もしも『MEMORIES2』を作るとしたら」という前提で試しにひとりでやってみたら、「どうにかいけそうだな」と思ったので、朝日さんに「いまならやれるよ」と伝えて。そのあとみんなと話し合って、入れることが正式に決まりました。
──全体的に譜割りがかなり細かいし、テンポのアップダウンもあるし、確かに難しそうです。もっささんも歌うのが大変だったのでは?
もっさ:いや、そんなに……というか、10年聴いてるので(笑)。
藤田:強いな~(笑)。
もっさ:“覚える”という作業が特に必要なかったし、10年間聴き続けた曲を愉快に楽しく歌えたという感覚でしたね。
──キーボードの軽やかなフレーズも印象的でした。クラシックで言う協奏曲のように、中村さんがある種ソリストのように演奏しているように感じられるというか。
中村:『MEMORIES2』は全体的にキーボードを速弾きしているところが多いんですよ。“君はいなせなガール”のサビ以外の部分と、“ロック屋さんのぐだぐだ毎日”のサビは特に細かく弾いているので、ぜひ注目していただきたいなと思います。プレイヤー的には美味しいところではありますけど、自分が少しでも失敗すると全体がおかしくなってしまうので、責任もありますね。
──石風呂楽曲をバンドでセルフ・カヴァーするにあたって、“アレンジを抜本的に変えない”、“原曲の雰囲気をある程度残す”ということは意識していますか?
朝日:これ、あるあるだと思うんですけど、作り手側がよかれと思って大幅にアレンジをしても、結局ファンは元のままが好きだったというパターンが結構あるんですよ。そういう難しさってありますよね。
藤田:ありますねー。カヴァーは特に。
もっさ:細心の注意を払わねば。
朝日:それに、『MEMORIES』シリーズはある種思い出を振り返るアルバムでもあるので。僕の過去の曲を知らない人は新曲として聴いてもらっていいんですけど、知っている人が聴いた時に、パッと当時のことが思い浮かぶような盤であってほしいという想いがあるんですよね。なので、基本的には原曲準拠がいいのかなと。でもまあ、“深夜の街にて”は、原曲ファンがそもそもあんまりいないので……(笑)。
タケイ:B面集(『スピンオフガールズ』)に入っていた曲だよね?
朝日:そうそう。自分からもそんなに宣伝していないし、隠れた俺のお気に入り曲みたいな立ち位置だから、魔改造しても許されるだろうと。
藤田:魔改造って(笑)。
朝日:まあ、魔改造というほど大きく変えてないけどね(笑)。
──原曲準拠スタイルを採っているからこそ、バンドのグルーヴやサウンドの厚みがより際立ち、“ロックバンドとしてのネクライトーキー”の現在地が浮き彫りになるのが『MEMORIES』シリーズの特色かもしれません。例えば、“魔法電車とキライちゃん”は近年ライヴでよく披露しているとのことですが、イントロ前の導入は原曲にはなかったものですよね。
朝日:そうですね。その導入はまさにライヴで育った部分なので、音源でも入れようかということになりました。
──個人的には“ロック屋さんのぐだぐだ毎日”のテイクが好きでした。バンドの骨太なサウンドが真ん中にありつつ、遊び心も感じられて。
もっさ:エンジニアさんの遊び心も相当入っていますね。
藤田:この曲は最近ライヴでやっていなかったんですけど、今回久々に演奏してみたら「ああ、上手くなったな」と自分たちでも思いました。
朝日:この曲の変化って分かりづらいものだと思うんですよ。フレーズとかが分かりやすく変化しているというよりかは、もっと全体的な……
タケイ:ノリみたいな?
朝日:そうそう。グルーヴがぐいぐい出ているのが原曲とは明確に違うポイントだと思います。
中村:うん。人間が演奏するからこそ出るグルーヴがあるよね。
──“このメロディをこの音を変えた”という楽譜に書き表せるような変化ではなく、楽譜に書き表せないタイプの変化というか。
朝日:そうですね。この曲って3バージョンあるんですよ。
──2011年にニコニコ動画にアップしたバージョンと、2012年リリースの石風呂のアルバム『ティーンエイジ・ネクラポップ』に収録されているバージョンと、今回のネクライトーキーバージョン。
朝日:最初のバージョンは打ち込みで作ったのでグルーヴもクソもなくて。ふたつ目のバージョンは、ゲスト・アーティストとしてドラムの方とベースの方を招いたので、ドライヴ感はあるんですけど、短期間で詰め込んで作ったせいで細かいところを精査する時間がなかったから、勢いの音になっているんです。だからそのふたつを聴いたあとに聴くと……これ、演奏が実はクールなんですよ。
藤田:クレバーだよね。
朝日:そう。クールでタイトでクレバー。
タケイ:この曲を表す形容詞とは思えない(笑)。
中村:ぐだぐだって言ってるのに(笑)。
タケイ:でも“クールでタイトでクレバー”というのはこのアルバム全体の裏テーマとして自分のなかにもあったかもしれない。今回、テンポの速い曲も多くて、派手なフレーズが結構入っていたりするんですけど、自分としては“やっていることは派手だけど脳みそは冷静に”というプレイができた手ごたえがあって。それが音に乗っているかどうかは自分では分からないんですけど、聴いた人にもそう感じてもらえたら嬉しいです。
――因みに2サビ後の間奏で、一瞬「プイッ」とはみ出しているのは?
朝日:僕のギターですね。
藤田:「プイッ」ってモルカーみたい(笑)。
中村:確かにギターに聴こえないというか、鳴き声みたいですよね(笑)。
朝日:あれはわざとやったんですけど……いや~、緊張感あったなあ。タケちゃん(タケイ)の振り下ろしに合わせて「ダッ! ダッ! ダッ!…… プイッ」って(笑)。
一同:あははははは!
もっさ:あれだけタイトな中でよくやろうと思ったよね(笑)。
──あえて聞きますけど、どうして音をずらそうと思ったんですか?
朝日:やっぱり遊び心の曲ではあるんですよ。石風呂版に至ってはこの部分、揃えてすらいないくらいなので。
藤田:とんでもなくずらしているよね。「ドッべッ、ドッ…べッ…、ドッ…………べッ…………」くらい。
朝日:そうそう。だから最後までなにもトラブルがないというのもそれはそれで寂しいなと。で、「なんか綺麗に揃いすぎているなあ……プイッ!」みたいな。
もっさ:今回、いっせーのせで録ったんですよ。だからいつものように演奏していたら合っちゃうというか。
藤田:いやー、自然と合っちゃうんだよなー(笑)。