カフェで何気なく流れたときに耳に残るヴォーカルにしたい
──“Far Away”は、作曲と編曲にメジャー・ファースト・アルバム『From the C』(2021)収録の“So What”や“THE SHOW feat. Def Tech”などに引き続き、SUNNY BOYさんがクレジットされていますね。すごく立体的で、モダンなサウンドを作られていると思うんですけど、いま、SPiCYSOLとして理想とするサウンドとはどういったものですか?
AKUN : できるだけ音数を少なくして、洋楽の音圧に勝ちたいという気持ちはあります。車で音楽をかけていたときに、洋楽のあとにJ-POPが流れると、急に厚みがなくなって聴こえづらくなったりするんです。それを解消したいという気持ちはあって。SUNNYくんはそんなに(音を)積まないし、いろんなことの近道や技を知っている人なんです。彼のそういう部分がいまのSPiCYSOLの曲にプラスになってくれている感じがしますね。
KENNY : SUNNYくんって曲をポップスとしてパッケージングする技術がすごくて。デモの美味しい部分を生かしつつ、ちゃんとみんなが聴けるものにしてくれる。それに基本的には頭で鳴っている音を人に伝えるのって難しいんです。でもSUNNYくんは僕らと好きなものも近いから、デモを聴いたうえで「ここはこんな感じの音だよね?」ってドンピシャの音を出してくれる。そのセンスがめちゃくちゃズバ抜けているなと思いますね。あと個人的には、僕は北海道出身で南国のアイランドスタイルに憧れて上京してきたような人間なんですけど、SUNNYくんはハワイ出身のガチアイランドスタイルの人で。いわば僕の憧れを日常として生きてきた人なんですよ。そこでシンクロしたものもあったような気がしますね。
──最初にこの1年でKAZUMAさんがドラムに向き合う時間が増えたと仰っていましたが、特にSUNNY BOYさんのようなプロデューサーと組むようになってそれぞれのパートに対しての向き合い方や考え方に変化はありましたか?
AKUN : ギターに関して言うと、“Far Away”も、『TWO』の1曲目の“Playback”も、デモのときのギターをそのまま使っているんです。この曲たちってギターをバッと聴かせる曲たちではないんですよね。結構前はギターを録ったらそれでお終い。で、他の人が楽器を重ねていくっていう感じだったんですけど。最近はデモを作るときに自分でシンセを入れたりもするし、「俺がどういうギターを弾きたいか?」ということじゃなくて、他の楽器のイメージもちゃんと持ったうえでのギターを考えるようになりましたね。
KAZUMA : 俺は『TWO』では1曲もドラムを叩いていないんですよ。でもそれでいいと思っていて。もちろんライヴでは叩くんですけど、いまのSPiCYSOLが作っているレコーディング作品に関しては、生ドラよりも打ち込みの方がカッコいいと思っているんです。そのぶん、音色はこだわるんですけどね。例えばいま、ジャスティン・ビーバーやブルーノ・マーズのような海外のポップスターたちの多くは、同じように音源は打ち込みでライヴは生ドラっていうスタイルをとっていますよね。しかもそういう人たちは、ライヴでは特にゴスペル系のドラマーを起用することも多い。日本だとEXILEとかで叩いているFuyuさんが、そういう人だと思うんですけど。
──ここ数年間のポップスの変化のなかで、ドラマーに求められるものもだいぶ変わりましたよね。その変化に拒否反応を示す人ももしかしたらいるのかもしれないと思います。
KAZUMA : そうですね。「パッドを使わなきゃいけないの?」とか「トリガーを付けて生ドラの音を変えなきゃいけないの?」とか、その悩みはみんなあると思います。僕個人としては、ちゃんと根本を見つめ直そうと思ってジャズをはじめました。いままでロックは沢山叩いてきましたけど、それでもジャズをはじめるのってイチからのスタートなんです。そういう新しいことをライヴでも生かせるようになればいいなと思っていますね。
PETE : 僕の場合、特にSUNNYくんと一緒に作った曲に関しては、シンセが入っているじゃないですか。その世界観を壊さずにライヴでどう演奏するかはすごく悩みますね。自分なりにピアノを入れてみようとしたりもするんですけど、SUNNYくんのアレンジは引き算がしっかりできているから、入れてみたけど「やっぱりないほうがいいな」と気づくことも多くて。でもライヴはスカスカ過ぎても迫力がないし。どういう音色を足すかということは試行錯誤しているし、SUNNYくんとの曲に自分なりに色付けをする楽しみも同じくらい感じていますね。
──KENNYさんはどうですか? 特にヴォーカリストとして、という面では。
KENNY : 僕は一貫していると思います。ファンの人がじっくり聴いてくれるのは当たり前なんです。それよりも、例えばカフェで何気なく流れたときに耳に残るヴォーカルにしたいし、「誰の曲だろう?」ってなってくれるようなヴォーカリストになりたい。そういうことはずっと思ってますね。そのためにこの1年で特に気をつけたことというと、綺麗に録ろうとするよりも質感を重視してヴォーカルを録ることが多かったです。
──『Two』の1曲目“Playback”はどのように生まれた曲だったんですか?
KENNY : この曲は、実はメジャー・デヴュー曲にしようか悩んだくらいの曲だったんです。“ONLY ONE”(メジャー・ファースト・アルバム『From the C』(2021)収録)にしようか“Playback”にしようか、すごく悩んだ。ただ歌詞の内容的にデヴュー・タイミングじゃなくてもいいのかなと思って、このタイミングでリリースになりました。
AKUN : SUNNYくんと一緒に作った曲としても、“Playback”は最初に作った曲だったんですよね。リリース的には“So What”(メジャー・ファースト・アルバム『From the C』(2021)収録) が最初だったけど、実は“Playback”のほうが先に作っていたんです。“Playback”を作っているうちにフィーリングが合っていって、“So What”ができたり、“Far Away”も信頼して託すことができたっていうのがあって。
──デヴュー・タイミングで“Playback”を出すことを躊躇したのは、この歌詞のそこはかとないエロさも要因にあると思うんですけど、“Playback”は同時に、歌詞のなかで固有名詞が頻出するのがおもしろいなとも思いました。「Rihanna」、「STING」、「プラスチックラブ」……。“From the C”(メジャー・ファースト・アルバム『From the C』収録)という曲でも歌詞のなかに茅ケ崎にまつわる固有名詞を使われていましたが、歌詞で固有名詞を歌うことへのこだわりはありますか?
KENNY : う~ん……正直“Playback”に関しては、そこまで深く考えていなかったと思います。“Playback”だから、俺が聴いてきた曲たちをプレイバックしてみたっていう感じで書いたので。
AKUN : でもインディーズ時代に出していたEP『To the C』(2015)の歌詞でも、固有名詞をよく出していたよね。当時、俺たちはよく三軒茶屋で飲んでいたんですけど、そこでよく俺たちにテキーラを飲ませる「クマさん」っていうおじさんがいたんですよ。その「クマさん」が歌詞に出てきたりもしていましたからね。例えば、RIP SLYMEとかKICK THE CAN CREWってそういう感じですよね。「これ、誰のことなんだろう?」というような言葉が歌詞のなかに急に出てきたりして。
KENNY : そういった人たちの影響があるかはわからないし、そこまで考えて書いているわけではないんだけど、例えば「クマさん」というひと言がファンと俺たちだけが知っている、ちょっとクスクスできるような秘密事項になったりするとおもしろいですよね。
──EP『TWO』に収録された3曲は、すべてトーンが違いますよね。“Playback”は官能的なラヴ・ソングと受け止めることができるし、“Far Away”はお話していただいたように、“惑い“や”揺らぎ“を受け止めようとする曲で。そして“Traffic Jam (AmPm Remix)“は渋滞中の車内にいる人の気持ちを描いている、移動しながらも密室的で内省的、という不思議な状況が捉えられていて。一言では言えない作品だと思うんですけど、そこがいまのSPiCYSOLの豊かさであり、リアルなんだろうなと思いました。
KENNY : いまコロナで、きっとみんななにが正しいのかもわからない状況で、俺らもそうだったから、こういう作品になったんだと思っていて。セカンド・アルバム『Mellow Yellow』(2018) の頃は、もっとシンプルに「海に行こうぜ」と言える明るい気持ちだったのかもしれないなって思います。でもいまの僕たちは、そうは言えない。だからこそ、『TWO』は「いま」だからこそできた作品といえると思うし、「いま」だからこそ、この作品で救ってあげられる人がひとりでも多くいるんじゃないかとも思います。特に“Far Away”はそう思いますね。自分も同じ場所で迷っている人間なので。
編集:梶野有希
SPiCYSOLのシングル「Bell」はこちら!
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PROFILE : SPiCYSOL
2021年10月にリリースしたメジャー・ファースト・アルバム「From the C」はiTunes R&B チャート1位を獲得。Spotify&Apple Musicでの人気プレイリストにも数多くの楽曲が選曲され、これまでのストリーミング総数は1億再生を超える。湘南茅ヶ崎から発信する彼らの楽曲は、ソウル・ファンク等のブラックミュージックを昇華させ、ボーカルKENNY のメロウな歌声により、唯一無二のコントラストを生みだしている。今の「SHONAN SOUND」を代表する4人組バンド。
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