自分たちに起きていることが、ちゃんと歌詞になっている
──4月6日にシングル「Bell」、4月29日にはEP『TWO』がリリースされます。ここからはこれらの作品のお話を伺えればと思うのですが、まずシングル「Bell」は収録曲2曲ともテレビドラマ『ねこ物件』のタイアップ・ソングで。両曲とも作曲はバンドではなくFace 2 fAKEが担当するという、いままでのSPiCYSOLにはない形のシングルですよね。
KENNY : “Bell”に関しては、ほんとにいままでやっていたスタイルと違う曲作りでした。決められたメロディラインがあって、そこに歌詞を入れるっていう。難しさはありましたけど、勉強にもなりました。
──2曲目の“Coffee And Tea”は全編英語詞の楽曲で、作詞はMichael Kanekoさんがクレジットされていますが、元々繋がりがあったんですよね?
KENNY : そうですね。バンドとしてはフェスで一緒になったことがあったし、僕個人としてはソロの弾き語りで対バンしたことがあって。“Coffee And Tea”のドラマサイドからの要望として、「英詞にしてほしい」というのがあったんです。なので、僕が知る限りで英詞といえば、マイキー(Michael Kaneko)が間違いないだろうということで、オファーさせてもらいました。そういえば、『TWO』に収録されている“Traffic Jam”をリミックスしてくれたAmPmさんの曲がきっかけで、マイキーの存在を知ったんですよ。最初はAmPmさんもマイキーも海外のアーティストだと思ったんですけど。AmPmさんも、シンセのキャッチーさとか、ヴォーカルの処理とか、深みがあって大好きで。
──その「Traffic Jam (AmPm Remix)」が収録されるEP『TWO』は、まずタイトルが凄くシンプルですよね。メジャーデビューEPのタイトルは『ONE』でしたが、今回は『TWO』という。
AKUN : 『ONE』を作った段階で、『TWO』、『THREE』と続けていこうっていう構想はすでにあって。今回の『TWO』は数字の「2」の意味もあるし、収録されている“Far Away”も“Traffic Jam”もロード・トリップやドライブが歌詞のモチーフになっているので、裏コンセプトとして「ドライヴでかけたくなるような曲を集める」というのがあって。なので、「~へ行く」という意味での「To」も掛かっているんです。
──先ほどAKUNさんの話に出た“Far Away”は、1月に既に2022年最初の新曲として配信リリースされましたが、どのように生まれた曲だったんですか?
KENNY : まず歌詞の話をすると、AKUNが言ったように「ロードトリップ」をテーマにしていて。SPiCYSOLが今年1発目に出す曲としてどういうものがいいんだろうと考えたときに、ラヴ・ソングでもないし、パーティー・チューンでもないなっていう感じがあったんですよね。もっと、自分たちのこの1年を振り返るような曲が相応しいんじゃないかと思ったんです。それに、僕らは自分たちのYouTubeの企画でVANを買って改造するっていうのをやっていて。もうずっとコロナ禍でライヴができないから、今年のはじめはそのVANを使って全国を旅しつつライヴをしようという計画が、そもそもはあったんですよ。ちゃんと少人数でも人と会って、音楽を提供するっていうことをしたかった。だけど、結局それもコロナでできなくなってしまったんですよね。なので結果的には、その歯がゆさも曲になっていると思います、“Far Away”は。あと、やっぱり新年1発目なので、「新生活を応援する」っていう感じもありますね。
──AKUNさんが言っていたバンドの「本質」を出したいという気持ちは、作詞においてはありました?
KENNY : どうだろう……近いものはあったのかもしれないです。メジャー・デヴューする前の僕は、すごくポップな曲を書こうとしていたんですよ。歌詞も、ふわっと聴き馴染みのいい言葉を書こうとすることが多かった。そういう部分はいまもあるんですけど、もっと普段の俺が言いそうなことや、普段の俺が言いたいことを歌詞に乗っけたいなと思いはじめたんですよね、この1年で。“Far Away”もそうやって生まれたうちの1曲なんです。言葉の選び方にしても、普通に自分の友達くらいの関係の人が聴いたときにパワーをもらえるようなものであればいいなと思って、意識していて。結局そういう言葉がいちばん、「みんな」にも響くんじゃないかと思ったんです。
──日常的に目が合うくらいの距離感の相手に届けようとした方が、その奥にいる大勢に伝わるんじゃないか、ということですよね。
KENNY: 逆に最初から「みんな」に向けてなにかを言うのって、僕はキング牧師じゃないし、そういう人生を歩んできたわけでもないし、違うなって思うんです。どちらかと言えば、僕は人前で喋れないからこそ音楽を選んだ人間なので。だとしたら、ちゃんと俺が俺になれるようにというか、身近な人に向けて真面目に喋るときの俺の言葉のほうがみんなに刺さっていく言葉になるのかなと思ったんです。
──“Far Away”の歌詞は、皆さんはどのように受け止められましたか?
AKUN : リアルな感情を出してくれているなと思いましたね。自分たちに起きていることが、ちゃんと歌詞になっているし、嘘っぽくない。KENNYは「身近な人に向けている」と言いましたけど、僕もそういうものがいいなと思うんです。もちろんファンの人たちが聴いてくれて「いい曲だね」と言ってくれるのも嬉しいんですけど、本音を言えば、いつも一緒にいる友達や、憧れている先輩に聴いてもらって「カッコいいね」と言ってもらえるほうが僕は嬉しくて。あと曲を作るとき、僕自身もなんとなく歌詞をイメージして作ることが多いんですけど、“Far Away”は僕がデモを作るときに感じていたイメージとKENNYの歌詞が近かったんですよ。
──AKUNさんがデモで想像したイメージはどのようなものだったんですか?
AKUN : メジャー・ファースト・アルバム『From the C』(2021)のなかに“Cry No More”という曲があって。それが三角関係の歌だったんです。僕のなかの設定としては、“Far Away”はその続きで。勝ち取って駆け落ちするような歌詞を勝手に想像して、夜明けに車で走ってどこかに行くようなイメージでデモを作ったんです。そうしたらKENNYも、ラヴ・ソングではなかったけど、出発する感じや進んでいく感覚を歌詞にしてきたので。そのリンクはおもしろいなと思いましたね。
──そうしたイメージの擦り合わせは、AKUNさんとKENNYさんの間ではされないんですか?
KENNY : ないんですよ。シェアしてくれないんです(笑)。
AKUN : シェアすると、逆に凝り固まっちゃうかなと思って。本当に「こういう曲を作ってほしい」と思ったら言うかもしれないけど、「こういう感じ、できちゃったけど」って渡して、それをKENNYなりに料理してほしいっていう気持ちの方が強いです。でも、“Far Away”もそうですけど、結局どこかでリンクするんですよ。オケの特徴をKENNYが感じてくれて、どこか僕自身がイメージしたものに通じる歌詞がKENNYから出てきたりする。
──KAZUMAさんとPETEさんは、この1年ほどのKENNYさんの歌詞の変化はどのように感じていますか?
PETE : 僕はKENNYの歌詞には、昔からリアリティを感じていて。“Bell”の歌詞もKENNYの感情が出ている気がするんですよね。そういう部分は昔からなので、どうだろう……「変化」って言うと、僕はそこまで感じていないかもしれないです。
KENNY : うわぁ、それはモテないよ(笑)。
KAZUMA : PETE、サイテー。
KENNY : せっかく美容室に行って1.5センチ切ったのに(笑)。
PETE : ごめん(笑)。
──(笑)。KAZUMAさんはどうですか?
KAZUMA : 基本的にKENNYは音先行、響き選考で歌詞を書くタイプだと思うんですけど、俺はインディーズ時代にリリースしたミニ・アルバム『To the C』(2015) で、すっごい好きな歌詞があって。“Hello Swallow”という曲なんですけど、あの曲の歌詞は音先行ではなかったと思うんですよ。KENNYって、プライベートでなにかあると、音先行じゃなくなって、すっごくいい歌詞を書く傾向があるんです。そうやって出てくるKENNYの歌詞で何度泣いたかわからない。なので俺もKENNYの歌詞が変化したとは思わないんです。ただ、そういう歌詞が出てくる割合が増えたのかなと思っていますね。