Lantern Parade 『あなたが思い出すための / 記憶の中の海辺』
Lantern Paradeこと清水民尋の音楽への偏愛に満ちた『あなたが思い出すための / 記憶の中の海辺』は2部構成のフル・アルバム。自身も「どこの国のものか分からない不思議なダンスミュージック」と紹介しているように、メロウでスムースなトラックに最後まで酔いしれる。しかし、「憂鬱な人の方がまともさ」というフレーズが印象的な“ひとり道徳授業”や、ほかの楽曲においても、これからいちばん気持ちいいところ! というピークでぷつっと曲は断絶される。そう簡単にうまくはいかないという、清水の人生観が表れているかのようだ。知りたいけど分からせてくれない、でも知りたいと思わせられる天邪鬼のような魅力がそこにはある。本作と関係はないが、今から10年ほど前、環七通りで自転車に乗った清水民尋によく似た人とすれ違った。その人の気迫に満ちた表情が忘れられず、ずっと頭に残っている。本人だったのかどうかをいつか確かめてみたい。
oono yuuki 『遠雷|よあけ』
前作の『夜と火』から9年間という決して短くはなかった年月の間で、oono yuukiは核心に迫ったなにかを得たのだと感じた。それは、今作のギター1本での弾き語りソロ・アルバム『遠雷|よあけ』のなかに、まるで体裁を整えることが馬鹿みたいなことのようにまで思えるほどに、強烈な生命力を野生のままに歌うoonoの姿があったからだ。歌詞において豊かな自然を想起させる描写が多数あるが、時に厳しさを示し、時に黒い煙を吐きながら燃える。生のとなりに死があるように。やがて嵐のなかを突き進むようなoonoの歌声とギターによってそのふたつはもつれ合い、転がり回り、ひとつになる。それは別々にあるよりも輝いているように見えた。
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Adrianne Lenker 『Bright Future』
インディー界の至宝、ビッグ・シーフのフロント・ウーマンであるAdrianne Lenkerが〈4AD〉から発表したソロ・アルバム『Bright Future』。鼻から吸いこむ息づかいや、固いものにコツとぶつかる細かな物音までが収められ、フォーキーなアコースティックなサウンドによってみせる風景だけでなく、すべてがそこに“ある”という実体を生々しく閉じ込めている。それは単なる音楽作品を超えて、Adrianneの胸の内がうつされた手記のよう。ビッグ・シーフの楽曲を再構築した“Vampire Empire”は必聴。自分の意識をどこまでも拡張して魂で出会うような、特別な力を持った一作だ。