いま自分が作っているものをアウトプットする手段を正当に選択した結果、バンドになった
──そのうえでLAMP IN TERRENの活動終了後、ひとりで歌うのではなく、再びバンドという形態を選んだのはどんな理由からでしょう? 「自分のなかに湧いた欲望をちゃんと覚えておきたい」「心が死ぬ状況を回避したい」という気持ちに忠実に生きる方法は、バンド以外にもある気がします。
多分自分は表に立つよりもプロデュース業の方が向いているので、そもそも最初はバンドをやろうとは思っていなかったんですよ。だけど新しく入ってきたドラム(伊藤嵩)が「俺はやる気だよ」ってすごく言ってきて。彼は元々バンドマンじゃなくて、ドラムテックだったんです。自分のやっていることにちゃんと意義を感じているタイプのプレイヤーだから、おそらく彼自身が認められるバンドに出会えなかったんじゃないかと僕は予測しているんですけど、そんな彼が自分と一緒にバンドをやりたがっていた。それもあって、「じゃあ、やるか」という気持ちになりました。だけどEnfantsは、半分バンドで半分そうじゃないと考えている自分もいるんですよ。
──というと?
昔は曲ができたら「ここのフレーズこれがいいと思うんだけど、どうかな?」とメンバーに聞いていたんですよ。だけどいまは「練習しておいてください」「これがあなたの仕事です」という感じで。そういうふうに変わったのは、メンバーに変な気を遣わなくなったからなんですけど、今のやり方は、かつての自分が思い描いていたバンドのスタイルとはちょっと違うものだなと思います。
──それは、そもそも中学生の時にLAMP IN TEREENを結成しているというのが大きいかもしれないです。バンドに憧れながらはじまったバンドだったじゃないですか。
確かに。中学で組んだバンドをずっと続けていたから、仕事というよりも部活のような意識だったんですよ。どこかのタイミングで「これにお金を払ってくれてる人がいるんだ」と思うようになってからは価値観がどんどん変わっていったけど、「友達(=メンバー)は裏切らないようにしよう」という気持ちはずっとどこかにあった。ご機嫌取りをしていたとまでは言わないけど、あいつらを傷つけないように、ノリが悪くならないように気をつけてはいた。だからメンバーに意見を聞くことが結構多かったんですけど、最近は「曲できた。これでいくわ」ってわりと勝手に決めちゃっていて。ある意味ドライになってきたのかな。
──おそらく、スタジオでジャーンと音を合わせただけで無条件に「バンドっていいよね!」と思える感覚とか、家族とも仕事仲間とも違う関係性ならではの絆とか、そういった“バンド幻想”みたいなものがキャリアを重ねるなかで薄れていったんでしょうね。
そういうことだと思います。薄れたというか、Enfantsに切り替わったタイミングでなくなりました。……LAMP IN TERRENがバンドっぽく見えたのってそういうことなのか。Enfantsもバンドに見えると思うんですけど、自分からすると全く違うものなんですよ。LAMP IN TERRENがバンドに憧れながらはじめたバンドだとしたら、Enfantsは、いま自分が作っているものをアウトプットする手段を正当に選択した結果、バンドになったという感覚で。バンド幻想みたいなものはいま確かにないですけど、「バンドでしか表現できないから」という理由で自分で選んだものなので。僕がやりたかったものはEnfants以外あり得ないです。
──「バンドでしか表現ができないと思った」というのは音像的な意味ですか? それとも、複数人の手を使って表現したかったということですか?
両方ですね。自分の抱えている孤独を表現する時に、ひとりでギターを弾きながら歌ってもしょうがないなと思うんですよ。誰かの要素を巻き込むことで初めて浮き彫りになることもあるから、孤独を表現するなら、ギター・ベース・ドラムの重なり合いのなかで表現したい。そういう音像を思い描いているから、バンドしかあり得なかったというのがまずひとつ。
それに、楽曲のアレンジメントは9.5割は僕の意思によって決まるんですけど、それをプレイするのはメンバーなので、彼らの感性や解釈が加わることによって同じフレーズでも変わってくるじゃないですか。それは矯正しようのないことだし、音楽の楽しいところのひとつだとも思っているので、バンドをやっているというのもありますね。
──Enfantsは現状“2021年末に活動を終了したLAMP IN TERRENの松本大が新しくはじめたバンド”というプロフィールになっていて、正式メンバーは松本さんだけなんですよね。その理由は、松本さんの価値観=Enfantsの方向性と3人がやりたいことにズレが生じた時、3人が「やめたい」と言い出せる環境にしておきたかったから。そのうえでメンバーにはEnfants以外の仕事にも積極的に取り組んでほしいし、自立していてほしいんだと、別のインタビューでおっしゃっていましたね。
親みたいなこと言ってますね(笑)。ただ最初期はそんな感じだったけど、最近はメンバーが「俺はここに骨を埋める」くらいの圧で来るから、これはバンドだと考えた方がいいのかなと思ってます。合宿しようかという話まで出てきているし。
──3人の様子はどんな感じですか? いまの環境に居心地の良さを感じているかどうか。
どうなんですかね? それは彼らに聞いてみないと分からないですけど……。この前、地方のホテルに泊った時に、4人でひとつの部屋に集まって話をしたんですよ。その時にベースの(中原)健仁から「俺はお前の曲が好きだから、お前の曲を弾いてライヴがやりたいんだ」と面と向かって言われて。最近は彼もサポートの依頼をちょいちょい受けていたりするんですけど、そういう経験を経た結果、感じたことがあったみたいでそう言われました。
──松本さんはどう返したんですか?
「おお、そうだな。じゃあ、それを続けていくためには売れるしかないな」って。そしたら「そうだよ。俺はいま、人生でいちばん売れたいんだよ!」って言われたんですけど。そういう感じだから、もしかしたら居心地はいいのかもしれない。彼らなりにやりがいを感じながら、取り組んでいるのかなとは思いますね。