「なにかが足りない」みたいな気持ちが常にある
──そして大学卒業後は一般企業に就職するも2年半で退社、単身上京し、メジャー・デビューを目指していったそうで。
イズミカワ : 職場のクリスマスパーティーで「イズミカワさんになにか歌を歌ってもらおう」ということになったんです。ひとりで歌うのもなんだったので、妹を呼んで、何曲か一緒にステージしたんですけど、久々にステージに立って拍手をもらったら「あれ? この感覚って……」みたいな感じになって。
──それはイズミカワさんにとって「離れていたけど、やっぱり音楽って楽しいなあ」と感じた瞬間だったんでしょうか?
イズミカワ : そうなんですかね? 久々の感覚が蘇ったのと、あと、2年半働いて「このまま働き続けたとして、その先にはなにがあるのかな」と感じていたのもあって、挑戦するならいましかないという気持ちで上京しました。
──そして1998年にシングル『等身大の地球儀』でメジャー・デビューしたんですよね。
イズミカワ : はい。はじめての東京なので親が心配したのか、いとこの家族の近くに住むように言われたんですけど、自由が丘を選んでくれたんですよ。
──はじめての上京にしては結構リッチな場所ですね(笑)。
イズミカワ : そう(笑)、部屋自体はワンルームの小っちゃいところだったんですけどね。で、自由が丘だから、近所にあるごはん屋さんがたまたま芸能関係の人が集まるところだったんです。そこでデビューのきっかけとなる人と出会いました。デモテープを渡したらとんとん拍子にデビューへと繋がったので、私って超ラッキーガールだなあと思いましたね。
──そこからおよそ2年間、メジャーで活動していたんですよね。
イズミカワ : はい。メジャー時代はギャップに悩んでいた時代でもあったのかな。セカンド・シングルとしてリリースした“ヤッホー!“という曲がいちばん売れたんですけど、それ以降、「“ヤッホー!“みたいな曲をお願いします」と言われることが多くなってしまって。もちろんそういう要素も自分のなかにある一面だったけど、「こういう曲だけをやりたいわけじゃないのにな」「でも、それが世の中に求められるし……」と思うところもあって。だからインディーズに行ってからは、メジャー時代にキラキラしたものを求められてきた反動で、どんどんディープな方に行っちゃいました。ライヴでも一切喋らず、自分で作った映像を流して、それに合わせながら歌って。
──ストイックですね。
イズミカワ : あの頃のファンの方はよくついてきてくれたなあと思います(笑)。その頃は陰の時代でしたね。作る曲作る曲、全部が闇(笑)。あの頃は結構エグかったです。
──たしかに『はがねマシーン』や『サイボーグ99%』辺りはいま聴くと尖っているなあと思います。
イズミカワ :『Scene 1』の頃までは尖っていました。そういう時代を経て、またポップに戻っていくんですけどね。
──その頃はメジャー時代の反動という意味合いが強かったのかもしれませんが、イズミカワさんのなかにある「陰」の由来ってそれだけではない気もするんですよね。というのも、2013年に発表した“message”という曲で「確かなものって何? 壊したくて/崩してみて少し安心したり」と歌っていて。唐突にこのラインが出てくるのでビックリしたんですけど、インディーズ14年目の曲なので、少なくとも闇の時代真っ只中の曲ではないですよね?
イズミカワ : そうですね。
──ということは、イズミカワさんは破壊衝動のようなものを常に持ち合わせているのかも、と思ったんです。先ほど話していただいたように、ご自身のキャリアにおいて、「このまま進んでいって、それでいいのか?」というモードが転機を呼んでいるようですし。
イズミカワ : ふふふふ。そうですね。確かに排他的なところがあるというか、「なにかを壊したい」という気持ちは常に持っていると思います。それこそ“Continue”の歌詞にも、現実に対して「ケッ!」と思っているような感じが出ているし。
――そうそう。
イズミカワ : それはなぜでしょうね……。(少し考えてから)私、父親の仕事の関係で転校ばかりしていたんですよ。こういう感じの性格だからいじめの対象にはならなかったんですけど、でもやっぱり「転校生のくせに生意気だ」みたいなことをわりと言われてきたから、人を信じなくなっちゃったところがあって。みんなに合わせるために、ポーカーフェイスで、自分の感情を押し殺す方法を自然と身に着けていったんですよね。そういう「誰も信じない」みたいなところが出ているのかな? 音楽を作る時はなにも考えず、好き放題やっているので。
──そういう心のなかにある闇のようなものは、結婚されて、お子さんが産まれて以降も変わらず心の中にあるものなのでしょうか? というのも、私はイズミカワさんの音楽の「ポップだけどちょっとぶっ飛んでいる」ところが好きなのですが、生活における音楽の割合が変わったであろういまでも、エッジを失っていない印象があって。
イズミカワ : 結婚して子どももいるいまは、ハッピーオーラのなかにいなきゃいけないんじゃないかと思うけど……「いなきゃいけない」なんて言っちゃいけないか(笑)。でも、ふと波が来ることはありますよね。独身時代は常に音楽を聴いていたし、ヒールを履いて戦闘態勢で街のなかに出ていました。だけど、いまは「曲を作ろう」と決めた時間にピアノの前に座るし、スニーカーを履いて子どもたちと公園に行く。毎日がバタバタと過ぎていくし、生活の中に音楽って一切ないんです。そんないまが別に不幸せなわけではないんだけど……だからこそ、ふとした時になにかいろいろ考えるようなことがあるのかもしれないですね。実は、昔は「幸せになってしまったらいい曲が書けなくなるんじゃないか」と思っていた時期もあったんです。
──ああ、ありますよね。クリエイターは幸せにならない方がいいんじゃないか説。
イズミカワ : でも、子どものことを想って書いた曲もあるように、いまだからこそ歌える歌もあるし、私のなかには「なにかが足りない」みたいな気持ちが常にあるようなので、そういう部分が原動力になっている気はします。まあ、昔とは違って、いまは「私にとって音楽とは……」ということを改めて考えたりもしないんですけどね。