自らの表現としての言葉とリズム、そしてラップ

──朝日さんは作詞でも言葉のリズムを重視されている気がします。
そうですね。ラップをやりたい気持ちは実はデビューしたころからずっとあって、ようやく叶ったのが前作( “スイミースイミー” )なんですけど。言葉の語呂とか韻とかリズムにずっと興味があったと思います。
──今回も “アンバランス・フラミンゴ” “通り雨” “Silent Pop” “木枯らしのロンド” などでラップされていますね。
もう自然とやるようになっちゃったかな。さっき話に出たタンク・アンド・ザ・バンガスのタリオナはポエトリー・リーディングをしますが、歌も普通にうまくて、1曲のなかで両方やってます。わたしが大好きなK-POPでもラップと歌が共存してるから、それが普通だと思っているところもあって。
──たしかに朝日さんのラップもすごく自然な感じです。
タリオナもそうだし、ノーネーム(Noname)とか、ラッパーでもわりとポエトリー・リーディング寄りの人たちの影響が大きいんです。最初にラップを始めたのはDJみそしるとMCごはんの影響ですし。ずっとやりたいと思ってたのに、ラップはアグレッシヴでないといけないとか、ストリート・カルチャーの背景が自分の中にないとやっちゃいけないと思ってたんですよ。おみそはんを聴いて「こんなふうに力を抜いてごはんのレシピをラップしてもいいんだ!」みたいな発見があって、ちょうど子育てのタイミングと重なったので、例えば本を読むときにラップ調に読んでみたら子どもにウケたので、これでいいんだ!と思うこともあって。
──いい話!
DJみそしるとMCごはんの音楽をいっぱい聴いて “スイミースイミー” でラップをしてみて、今後自分がラップするならどうすればいいか考えてたらノーネームとかの音楽に行き当たって、ポエトリー・リーディング的にやってみることでスタイルがとりあえず落ち着いてるのが現状です。ヒップホップっぽいアグレッシヴなラップも聴く分には好きなんですけど、自分の表現としてはあまり似合わないので。
──もうひとつ、僕が朝日さんの特徴じゃないかとずっと思っているのは、メロディがソウルっぽいんですよね。
それはわたしが70年代の黒人音楽にいちばん影響を受けたというか、出発点になったからだと思います。スティーヴィー・ワンダーの『インナーヴィジョンズ』を聴いて衝撃を受けたところから始まってるので。ダニー・ハサウェイも好きですし、アリサ・フランクリンも60年代よりは70年代初めのシンガー・ソングライター的な音楽性が好きだったりしますし。
──朝日さんが持っていらっしゃるもともと折衷的な要素が、健太郎さんやミュージシャンのみなさんの要素とさらにブレンドされてできた作品という感じですね。
特定のジャンルが好きという感じでもないし、自分が影響を受けたいろんなものをみんなに知らせたい気持ちもあるし。あと、さっき言ってくださったリズムというのが、自分のヴォーカルのいちばんの特徴だと思ってるので、そこを聴いてほしい、気づいてほしいというのは思ってます。リズムのことってあんまり言われないんですよ。とくにCMの仕事で求められるのは、この声だったりするので。
── “羽ばたけバタフライ” の歌詞も面白いなと思いました。
歌詞にも全部ネタがありますよ。これはバタフライ効果について歌った曲なんです。2022年にプライベート・スタジオ・ライヴをエマーソン北村さんとデュオでやったんですけど、彼に演奏してほしくて作った曲なんですね。曲を作ってから、連絡して「やってくれませんか?」とオファーをした記憶があります。OKもらえて、来てくださる日までの間に歌詞を書いて。たいてい歌詞にいつも追い詰められてるんですけど(笑)。
──いろんなシンガーソングライターにお話をうかがっても、作詞には苦労されている方が多いですね。
わたしも歌詞は曲の何倍も作るのが苦しいです。ハナモゲラ語で歌ったときの雰囲気を壊さず、さらにそれを超えた世界観ができるように言葉を当てていくのは難しいし、何を歌いたいのかをはっきりさせないといけないな、とか考えちゃって。いま思ってることとか、読んだ本とか、そのなかから言葉を探していく感じかな。
──社会の動きなどに対して思っていらっしゃることも、ズバリそれをテーマにした曲があるわけではないけれど、合間合間ににじみ出ているような。
それは自分のヴォーカル・スタイルもあるのかもしれませんね。フォークやロックだったらドンと表現するのかも。
──ギターがもっと上手になったら、変わるかもしれませんね。
変わっちゃうかもしれないですね。期待しちゃいます(笑)。
本作ではわたしのなかでは歌がすごく変わってるんですよね
──朝日さんがインスピレーションをもらった曲のプレイリストも記事に載せたら面白そうですね。
確認し直したのでできますよ。バレてもかまわないというか、むしろみんなに知ってほしいし。 “世界を揺らし続けてる” はプライヴェート・スタジオ・ライヴをやるときに、NPRのタイニー・ディスク・コンサートを振り返ってみたんですよ。そこですごく印象に残っていた2018年のエリカ・バドゥを見返して、その1曲目が ”Rimshot” という曲で、すごくかっこよかったんです。「こういう雰囲気で演奏できないかな」というのが、 “世界を揺らし続けてる” を作りはじめたきっかけだと思います。その ”Rimshot” の演奏は、メンバーにも「こういうふうにやりたい」って言って見せた記憶があります。
──言われてみれば通じるものがありますね。
あらためて、コロナ禍はとてもとても大きかったです。プライヴェート・スタジオ・ライヴをやったことで、 “羽ばたけバタフライ” ができたのとか。「この人と一緒にやるから、こういう曲を作ろう」と考えて作った曲って、それまであんまりなかったし。
──活動を制限されたことで生まれたものもあると。
一緒にやる人に迷惑はかけられないから、演奏も歌もすごいトレーニングをして臨んだんですよ。「どうやれば楽に、良い声で歌えるか」っていうことにコロナ禍の初期に一所懸命に取り組んだので、聴いてる人は気づかないかもしれないけど、本作ではわたしのなかでは歌がすごく変わってるんですよね。それとギターを始めたことが大きな転換だったかなと思います。
──5年かけていれば歌も変わりますよね。
最後に録ったのが “チョコレートコスモス” と “アンバランス・フラミンゴ” なんです。昨年11月に乳がんの手術をしたんですけど、手術後に録ったのがその2曲。入院する前にアルバムの曲をぜんぶ揃えなきゃ、と思って、揃えてから入院したんですけど、その2曲は詞ができてなくて。なんで最後の最後にこんなに追い詰められることになったんだろうとも思いますけど(笑)、手術の経験が、その2曲の歌詞に反映していると思います。
──アンバランスというのは体調のことだったんですね。
そうです。自分の体のアンバランスさに対して、片足で立ったり、向かい合うとハートの形になったりと、バランスの良いイメージのフラミンゴを持ってきたというか。フラミンゴって調べたら生態がすごく面白いんですよ。アフリカや中南米の魚が住めないような塩分濃度の高い湖で暮らしてて、彼らの羽が赤いのは、その湖を染めている赤いプランクトンを食べてるからなんですね。映像を観たら、その極端な地域で暮らす彼らの姿があまりにも美しかったので、アルバムのキーワードに入れたいと思って、このタイトルをつけてます。
──冒頭を飾る “アンバランス・フラミンゴ” と、ほぼ最後(10曲中9曲め)の “チョコレートコスモス” が、アルバム全体のトーンを決めている感じがしますね。
うん。最後にアルバムのタイトル曲として “アンバランス・フラミンゴ” ができたのも、ギターを始めたことの象徴のような “チョコレートコスモス” ができたのもよかったなと思います。この2曲は詞に関してもリアルタイムですしね。
ギターへの挑戦など、コロナ禍以降の活動の記録とも言える新曲を携えた、5年ぶりとなる新作をOTOTOY限定の先行&歌詞カード付きハイレゾ配信
RELEASE INFO
朝日美穂『フラミンゴ・コスモス』CD版は、レーベル〈朝日蓄音〉オフィシャル・ストア他、各種ストアにて、また各種配信も、4月23日(水)にリリース / スタート
朝日美穂過去作品も配信中
まさにコロナ禍のなかでリリースされた前作、コチラも歌詞PDF付き
堀込高樹(キリンジ)、青山陽一などが参加の2013年作
岡村靖幸作曲楽曲も収録、自身のレーベル〈朝日蓄音〉を設立しての2004年作
1999年のセカンド・アルバム、ロスレス=CD音質で配信中(CDは現在未流通)
1998年の記念すべきソニーからのファースト・アルバムをロスレス配信(こちらもCDは現在未流通)
PROFILE : 朝日美穂
1996年、ミニ・アルバム『Apeiron』でCDデビュー。その後ソニーミュージックより2枚のアルバムをリリース。2002年より自身のレーベル「朝日蓄音」を立ち上げる。トータルな音作りと軽やかにグルーヴするヴォーカルで、自身の活動のほか、CMソングなども多数。2013年、アルバム『ひつじ雲』リリース。2014年より、音楽家の良原リエと共に、乳幼児の親子を対象とした音楽イベント「ハニカムジカ」を主催。2020年7月、7年ぶりのフル・アルバム『島が見えたよ』リリース。2021年よりプライベート・スタジオ・ライブを開始し、バンドでのミニ・ライブをYouTubeにて配信。2025年4月約5年ぶりとなるフルアルバム『フラミンゴ・コスモス』リリース。
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