TAIKING 『TOWNCRAFT』
こんなに歌える人だったのか。昨年ソロ・デビューしたSuchmosのギタリストの初アルバムだが、ラリー・カールトンみたいなインスト(“SPOT SESSION”)もあるものの、ギターを弾きまくるのではなくバランスを重視した歌ものがほとんど。ほぼすべてのパートを自ら演奏しているが、まさに一人バンドの趣である。歌も実にチャーミングで、 “Easy” “Holiday” “Summer Again” “VOICE” などで発揮されるスウィートな声質と軽妙な歌い回しの華奢な色気は、現代版ヨット・ロックの旗手という感じ。その代表はR&Bというよりブラコンと呼びたくなるサウンドで土屋太鳳とデュエットする “Rules” か。アコギの音色が印象的なブルース小唄 “Brother” もいい。今後のソロ活動が楽しみだし、プロデューサーとしても活躍してくれそう。
TENDRE 『PRISMATICS』
「多彩な、色鮮やかな」という意味のタイトルは、河原太朗という個人の多面性を表しているのだろうか。スムース・ジャズやファンクの匂いが強い音作りはグルーヴ豊かで洒脱、マイケル・フランクスを思わせる歌声はステージ・ネームそのままに優しくジェントルだが、本作では心なしか歌がたくましさを増したように聞こえる。それは例えば “MISTY” で「隠してもないさ 込み上げる怒りは/守るものの為 持ち合わせてるんだ」、“PRISM” で「当然さ 子供みたく泣いた/溢れたきもち/いつでも見せるよ」と怒りや悲しみを歌っていることと、ニワトリと卵的な関係がありそう。 “SUNNY” や “MOON” や “PRISM” の包容力も印象的で、AAAMYYYや父の河原秀夫など、ゲストの活躍も「多彩さ」の一側面を構成している。
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竹渕慶 『1,000 TAKES』
世界中にファンを持つ日英バイリンガル・アーティストの新EP。「THE FIRST TAKE」ブームから着想したと思われる表題曲では、憧れていた天才にはなれなかったけれど、1テイクでだめなら1000テイクでもやればいいじゃないか、と自らを鼓舞する(姿をもって僕ら凡人をエンカレッジする)。そのメッセージはGoose house時代の仲間たちとの共演でさらに強まる。愛し愛されればその関係においては平凡も非凡、と伝える “あい(音偏に愛)” はこれと対をなす曲。昨年インタヴューしたときに「建前でも、胸を張って歌っていきたいです」と言っていたが、友愛、平和、公正、尊厳といったグローバルな価値観(今後ますます大事になってくるはず)を自然に共有し、力強く明朗に表現できる貴重な歌い手だと思っている。