「私たちはこんな感じです。あなたどうですか?」と言っているだけの音楽
──改めて新作の話に戻ると、毛利さんが全面的に歌詞を書いている曲があったり、曲作りの体制もかなり変化したということですかね?
Chamicot : そうですね、最近、曲作りの面をみんなに投げるようになってきて。元々、毛利は歌詞が書けるんですよ。一緒に弾き語りのライブ出たときも自作の曲をやったりしていたし。“I Don’t (but someday)”と“Spirit & Gravity”、あと“スクーター”の最後の2節も毛利が書いているんですけど、毛利が自分で書いた言葉が彼女の口から出てくる方がいいなと思った曲に関しては、今回、書いてもらったんです。
毛利 : 作曲の面もそうだよね。いままではチャミちゃんがGarageBandで1から10までガッチリ作ってきてくれていたけど、大塚くんがコード進行を考えてくるようになったり、いままでとは違う曲の作り方をしました。やっと全員で作るようになったから、もしかしたら、ここからがステレオガールの本領発揮っていう感じなのかもしれない。
大塚 : あと、今回、初めて合宿レコーディングをしたんですよ。
──へえ!
Chamicot : でも、3泊4日のタイトなスケジュール感で、てんやわんやの状態だったんですけね。朝早いって言っているのに、吉田と大塚が朝の4時までモンハンやっていたりして(笑)。
吉田 : だって、曲の土台ができないとリードギターって録れないんだもん。私は泊まり込みでモンハンやっただけ。
立崎 : 私は泣きながら録ってた。
大塚 : まあそんな感じで(笑)、新たな風は入っているアルバムだと思います。機材でもおもしろいことをやってみたり、フィードバックを1本録るのに2時間くらいかけてみたり、訳のわからないこともしたので。
Chamicot : いちばん最初に作った『ベイビー、ぼくらはL.S.D.』は、結構ミックスでいじったりすることが前提だったんですけど、今回のアルバムはギターの音がカッコよくて、ドラムがガチッとキマっていて、ベースの鳴りがよくて……みたいなシンプルなことを考えながら作っていたんですよね。楽器の音に関しては、「生音でしっかり勝負するよ」っていう感じはあるかもしれないです。
──先ほどChamicotさんの口からがザ・スミスの名前が出ましたけど、アルバムの最後を飾るアコースティック曲“Everything’s Gonna Be High”の歌詞には、スミスの“Cemetry Gate”の歌詞を思わせる部分がありますよね。
Chamicot : 「Keats and Yeats were by Your Side」(“Cemetry Gate”より)。
──この歌詞を引用したのは何故だったんですか?
Chamicot : そこまで深い意味はないんですけど、「Cemetry Gates」って、スミスの中でも特殊な位置づけの曲なのかなって思うんですよね。スミスって「自殺したいな」みたいなテンションの曲が多いけど、「Cemetry Gates」はそういう暗い感じじゃなくて、「お墓で遊んでますよ」っていう感じの曲で。私にとって、スミスって結構そういうところのあるバンドなんですよ。落ち込んでいるけど、全然、卑屈じゃない。しみったれているし、ネガティブだけど、心の中に反骨精神を忘れていない。そういうところがスミスのすごくいいところだし、イギリスらしさだなって思うんです。そういう部分を、私はちゃんと受け継いでいきたいって思うんですよね。
──“Cemetry Gate”は『The Queen is Dead』に収録されている曲ですけど、僕はあのアルバムの“There Is a Light That Never Goes Out”が好きで。あの曲はサッチャー政権下のイギリスだからこそ生まれた曲だと思うんですけど、いまの日本もすごくしんどい時代だと思うんですよね。みんな疲弊していってしまう……若者は特にそうかもしれない。そういう社会的状況のなかで生まれる音楽に対する切望感や、「それでも誇りを失いたくない」という感覚は、もしかしたらいまのステレオガールに通じているものなんじゃないかと思いました。
Chamicot : そうですね……それこそスミスって、サッチャー政権下の暗い時代のイギリスのバンドだけど、言ってしまえば、いまの日本も暗いじゃないですか。
毛利 : 言っちゃった(笑)。
Chamicot : だって暗いじゃん(笑)。いまの日本も、すごく暗い時代だと思う。日本の社会は自分たちのことをちゃんと語ろうとしないから、バブルのまま、先進国のままでここまで来れているって感じている人も多いのかもしれないけど、「なに言ってるの?」っていう感じじゃないですか。「めっちゃ大変だよ、余裕なんてないんだから」って思う。そういう部分をめちゃくちゃナイーブに受け取っているのが、私たちとか、もっと下の世代だと思うんですよ。
──そうですよね。
Chamicot : そういうときに、ステレオガールのアルバムをお買い上げいただけたら……。
──はははははは(笑)。
Chamicot : 励ましもせず、慰めもせず、「私たちはこんな感じです。あなたどうですか?」と言っているだけの音楽。たったの2000円で買える心の安定剤です(笑)。
毛利 : 聴いて「よくない」と思ったら「自分の方がいい曲作れるぞ」って、ギター買ってくればいいからね。
──でも、「自分でやっちゃえばいい」というのは、本当にそうですよね。
毛利 : そう、最近すごく思うのは、同世代の友達の話を聞いていても、自分にもなにかができるエネルギーがあるっていうことを信じられない人が凄く多いような気がして。それがしんどさに繋がっている気もするんですよね。なにかを成し遂げられる、自分が納得のいくことができる……そういうエネルギーが自分のなかにあるって、感じることのできない人がかなり多いと思う。感じることできないいというか、そういうふうに成長するしかない社会でもあると思うし。でも、そんなときだからこそ、スミスみたいに自分のロマンスをしっかり持って、それを片手に生きていくことって、凄く大事だなと思う。それによって、キツい現実を生きていける。私自身、ステレオガールにそういうことを信じさせてもらっている感じがします。
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PROFILE : ステレオガール
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都内の高校軽音部で結成。2018年より本格的に活動を開始する。同年6月、1st mini album 「ベイビー、ぼくらはL.S.D.」をリリース。限定店舗のリリースにも関わらず、早耳リスナーや 音楽関係者の間で話題になり2000枚を超えるスマッシュヒット。その後も「Summer Sonic」「BAYCAMP」や「OTODAMA」など国内主要フェスに出演を果たす。 また国内のみならずアメリカ、テキサスで開催される「SXSW2019」への出演や、 カナダで開催される「Next Music From Tokyo Tour」に招聘されるなど海外のリスナーからも 注目を浴びている。2020年、音楽キャリアとしては初の全国流通となる1st full Album「Pink Fog」をリリース。 タワレコメンやエイチオシなど主要の新人アワードの選出、オールナイトニッポンや スペースシャワー「it!」をはじめとして多数パワープッシュを獲得するなど、高い評価を得ている。
Twitter:https://twitter.com/stereo_girl_