YOASOBI 『THE BOOK 2』
12月初旬の武道館ライヴを見た。細切れにセリ上がるLEDパネル・ステージでアリーナを埋め尽くし、360度から観衆に見られる形で展開した光と映像のショーも壮観だったが、威風堂々としつつも純朴さを失わない風情、スタッフやバンド・メンバーとの信頼関係はAyaseとikuraの好人物ぶりを偲ばせた。英語版を挟んだこの2nd EPではラテン・テイスト(ビートがソカっぽい)の “三原色” を筆頭に、進行や音色や歌声にきちんと「らしさ」をキープしながら新味も加え、着実な成長ぶりを見せている。ラジオのリスナーの「音楽さんへ」という手紙から生まれた “ラブレター” がいちばん気に入った。
DEAN FUJIOKA 『Transmute (Epigenesis)』
世界の音楽トレンドを見据えた先進的な曲も多いなか、前作『History In The Making』でいえば “Fukushima” にあたるシンプルな “Hiragana” を冒頭に持ってきた時点で攻めている。アルバム・タイトルは『Transmute』=変異が予測不能な将来を生き抜くために必要だというメッセージの表明だそうだが、あらゆる面でコロナ禍の影響を色濃く反映していて、彼ほど世界状況を踏まえて自らのミッションに正面から向き合うアーティストも珍しいと思う。すべての構成要素について「なぜそうなっているのか」をきっと完璧に説明できるはずだ。音楽性もヴォーカル・スタイルも言語も変幻自在、圧巻の18曲。
別野加奈 『death has light』
わかれの・かな。不勉強ながらまったく知らなかった人だが、ホームページには「音楽家、映像作家。自身の架空の心象風景に基づく芸術活動を横断的に行なう」とある。これが4作めのアルバムで、テーマは「死」。自身の死の前後73分間に流れる音楽をイメージしているそうだ。ほぼ全編ピアノと歌だけだが、冒頭の “death has light” に引き込まれれば、感覚的にはあっという間に終わってしまう。もしかするとポップ・ミュージックとは呼びにくい音楽かもしれないが、とても純粋かつ繊細で透徹した、ガサツな触り方をしたら壊れてしまいそうな、それでいて凜としてブレない美しさは得がたいものだ。
ENDRECHERI 『GO TO FUNK』
CD発売は8月だが配信は10月からということで今回の落穂拾いの対象に。中高年ファンカティア垂涎のグルーヴ洪水だが、とはいえ今は2020年代なわけで、ファンクを軸にしたここ50年の音楽史絵巻のような現代日本ならではの音楽になっているのがポイント。繊細と大胆の両方に発揮される稀有な洞察力と想像力の好例として “愛を生きて” “Make me up! Funk me up!” を挙げておきたい。多くの楽器を自ら演奏し、ほぼGakushiと二人だけでこれだけの大作を作り上げたのもすごいが、この内容で発売初週5.4万枚のナショナル・チャート1位なんて国は世界にもないと思う。