2021/12/29 17:00

YOASOBI 『THE BOOK 2』

12月初旬の武道館ライヴを見た。細切れにセリ上がるLEDパネル・ステージでアリーナを埋め尽くし、360度から観衆に見られる形で展開した光と映像のショーも壮観だったが、威風堂々としつつも純朴さを失わない風情、スタッフやバンド・メンバーとの信頼関係はAyaseとikuraの好人物ぶりを偲ばせた。英語版を挟んだこの2nd EPではラテン・テイスト(ビートがソカっぽい)の “三原色” を筆頭に、進行や音色や歌声にきちんと「らしさ」をキープしながら新味も加え、着実な成長ぶりを見せている。ラジオのリスナーの「音楽さんへ」という手紙から生まれた “ラブレター” がいちばん気に入った。

OTOTOYでの配信購入(ハイレゾ配信)はコチラへ

DEAN FUJIOKA 『Transmute (Epigenesis)』

世界の音楽トレンドを見据えた先進的な曲も多いなか、前作『History In The Making』でいえば “Fukushima” にあたるシンプルな “Hiragana” を冒頭に持ってきた時点で攻めている。アルバム・タイトルは『Transmute』=変異が予測不能な将来を生き抜くために必要だというメッセージの表明だそうだが、あらゆる面でコロナ禍の影響を色濃く反映していて、彼ほど世界状況を踏まえて自らのミッションに正面から向き合うアーティストも珍しいと思う。すべての構成要素について「なぜそうなっているのか」をきっと完璧に説明できるはずだ。音楽性もヴォーカル・スタイルも言語も変幻自在、圧巻の18曲。

別野加奈 『death has light』

わかれの・かな。不勉強ながらまったく知らなかった人だが、ホームページには「音楽家、映像作家。自身の架空の心象風景に基づく芸術活動を横断的に行なう」とある。これが4作めのアルバムで、テーマは「死」。自身の死の前後73分間に流れる音楽をイメージしているそうだ。ほぼ全編ピアノと歌だけだが、冒頭の “death has light” に引き込まれれば、感覚的にはあっという間に終わってしまう。もしかするとポップ・ミュージックとは呼びにくい音楽かもしれないが、とても純粋かつ繊細で透徹した、ガサツな触り方をしたら壊れてしまいそうな、それでいて凜としてブレない美しさは得がたいものだ。

OTOTOYでの配信購入(ハイレゾ配信)はコチラへ

ENDRECHERI 『GO TO FUNK』

CD発売は8月だが配信は10月からということで今回の落穂拾いの対象に。中高年ファンカティア垂涎のグルーヴ洪水だが、とはいえ今は2020年代なわけで、ファンクを軸にしたここ50年の音楽史絵巻のような現代日本ならではの音楽になっているのがポイント。繊細と大胆の両方に発揮される稀有な洞察力と想像力の好例として “愛を生きて” “Make me up! Funk me up!” を挙げておきたい。多くの楽器を自ら演奏し、ほぼGakushiと二人だけでこれだけの大作を作り上げたのもすごいが、この内容で発売初週5.4万枚のナショナル・チャート1位なんて国は世界にもないと思う。

OTOTOYでの配信購入(ハイレゾ配信)はコチラへ

この記事の筆者
高岡 洋詞

フリー編集者/ライター。 近年はインタヴュー仕事が多いです。 https://www.tapiocahiroshi.com/

REVIEWS : 076 ポップ・ミュージック(2023年3月)──高岡洋詞

REVIEWS : 076 ポップ・ミュージック(2023年3月)──高岡洋詞

「図太い信念を持ったエンタメに勝るものはない」──小野武正(KEYTALK) × るいまる&パーミー(ビバラッシュ)

「図太い信念を持ったエンタメに勝るものはない」──小野武正(KEYTALK) × るいまる&パーミー(ビバラッシュ)

REVIEWS : 071 ポップ・ミュージック(2023年12月)──高岡洋詞

REVIEWS : 071 ポップ・ミュージック(2023年12月)──高岡洋詞

誰もが“ゴールドマイン”を探し求めている──GLIM SPANKYの枯れない原動力

誰もが“ゴールドマイン”を探し求めている──GLIM SPANKYの枯れない原動力

REVIEWS : 066 ポップ・ミュージック(2023年09月)──高岡洋詞

REVIEWS : 066 ポップ・ミュージック(2023年09月)──高岡洋詞

志磨遼平 × 松田龍平 対談──僕らの青春を着色した、90年代のカルチャーを振り返る

志磨遼平 × 松田龍平 対談──僕らの青春を着色した、90年代のカルチャーを振り返る

REVIEWS : 061 ポップ・ミュージック(2023年06月)──高岡洋詞

REVIEWS : 061 ポップ・ミュージック(2023年06月)──高岡洋詞

REVIEWS : 056 ポップ・ミュージック(2023年03月)──高岡洋詞

REVIEWS : 056 ポップ・ミュージック(2023年03月)──高岡洋詞

視覚と聴覚を往来する、ヨルシカの音楽画集『幻燈』レビュー──2名の評者が魅せられた世界観とは

視覚と聴覚を往来する、ヨルシカの音楽画集『幻燈』レビュー──2名の評者が魅せられた世界観とは

わたしたちとおしゃべりしよ?──illiomoteが映す世の中の歓喜と悲哀

わたしたちとおしゃべりしよ?──illiomoteが映す世の中の歓喜と悲哀

REVIEWS : 053 ポップ・ミュージック(2022年12月)──高岡洋詞

REVIEWS : 053 ポップ・ミュージック(2022年12月)──高岡洋詞

世の中を静観し、様々な“世界”を旅したTWEEDEESが新作でみせたい夢

世の中を静観し、様々な“世界”を旅したTWEEDEESが新作でみせたい夢

ドレスコーズからすべての“頭の悪い”若者のために、愛を込めて──新作『戀愛大全』

ドレスコーズからすべての“頭の悪い”若者のために、愛を込めて──新作『戀愛大全』

REVIEWS : 051 ポップ・ミュージック(2022年9月)──高岡洋詞

REVIEWS : 051 ポップ・ミュージック(2022年9月)──高岡洋詞

”声優”ではなく、山村響という“人”が届ける音──メイン・ディッシュだらけの新作になった理由

”声優”ではなく、山村響という“人”が届ける音──メイン・ディッシュだらけの新作になった理由

バンド解散を乗り越え、ひとりで音楽と向き合うということ──歌心を愛おしむ、岩崎優也の初作

バンド解散を乗り越え、ひとりで音楽と向き合うということ──歌心を愛おしむ、岩崎優也の初作

さとうもかのポジティヴをあなたへ──素直になることで生まれたシングル「魔法」

さとうもかのポジティヴをあなたへ──素直になることで生まれたシングル「魔法」

REVIEWS : 046 ポップ・ミュージック(2022年6月)──高岡洋詞

REVIEWS : 046 ポップ・ミュージック(2022年6月)──高岡洋詞

こんな世の中だからこそ『gokigen』に──chelmico、2年ぶりのフル・アルバム

こんな世の中だからこそ『gokigen』に──chelmico、2年ぶりのフル・アルバム

これまでのイメージに囚われないで──“THEティバ”というなにかを目指す、ふたりの一歩

これまでのイメージに囚われないで──“THEティバ”というなにかを目指す、ふたりの一歩

REVIEWS : 042 ポップ・ミュージック(2022年3月)──高岡洋詞

REVIEWS : 042 ポップ・ミュージック(2022年3月)──高岡洋詞

まだまだ輝く、どこまでも輝くヒップホップ・ドリーム──サ上とロ吉、新作『Shuttle Loop』

まだまだ輝く、どこまでも輝くヒップホップ・ドリーム──サ上とロ吉、新作『Shuttle Loop』

前向きに解散をしたSUNNY CAR WASH ── 愛と敬意、軌跡を記録した最後のベスト作

前向きに解散をしたSUNNY CAR WASH ── 愛と敬意、軌跡を記録した最後のベスト作

REVIEWS : 039 ポップ・ミュージック(2021年12月)──高岡洋詞

REVIEWS : 039 ポップ・ミュージック(2021年12月)──高岡洋詞

キュートだけじゃない! さとうもかの新作『WOOLLY』が描く、リアルでちょっとビターな共感

キュートだけじゃない! さとうもかの新作『WOOLLY』が描く、リアルでちょっとビターな共感

REVIEWS : 032 ポップ・ミュージック(2021年9月)──高岡洋詞

REVIEWS : 032 ポップ・ミュージック(2021年9月)──高岡洋詞

REVIEWS : 026 ポップ・ミュージック(2021年6月)──高岡洋詞

REVIEWS : 026 ポップ・ミュージック(2021年6月)──高岡洋詞

ドレスコーズ志磨遼平がピアノで描く孤高と反抗──コンセプチュアルな新作『バイエル』に迫る

ドレスコーズ志磨遼平がピアノで描く孤高と反抗──コンセプチュアルな新作『バイエル』に迫る

3つの視点のクロス・レヴューで迫る、BRADIOの魅力の正体

3つの視点のクロス・レヴューで迫る、BRADIOの魅力の正体

REVIEWS : 014 ポップ・ミュージック(2021年1月)──高岡洋詞

REVIEWS : 014 ポップ・ミュージック(2021年1月)──高岡洋詞

ヒナタとアシュリー、ボーナストラック付きEP『longing E.P.』配信開始&インタヴュー掲載

ヒナタとアシュリー、ボーナストラック付きEP『longing E.P.』配信開始&インタヴュー掲載

アイドルネッサンス、シングル3タイトルを独占ハイレゾ配信開始

アイドルネッサンス、シングル3タイトルを独占ハイレゾ配信開始

男女ツインボーカル、うたたねの1stミニ・アルバムをハイレゾ配信

男女ツインボーカル、うたたねの1stミニ・アルバムをハイレゾ配信

TOP