CROSS REVIEW 1 『PEOPLE』
『歩みを振り返りつつ、集大成的な新作を探る』
文 : 峯岸 利恵
PEOPLE 1は、公開されている情報の少なさが故に「謎多きバンド」という紹介をされてきた。しかし、今作『PEOPLE』に収録されている15曲を聴く限り、彼らが音楽に宿している思念は、物凄くピュアだということが改めて分かる。リスナーである私たちと同じように、悩んで迷っては、時に「あーあ」と思考回路を切断しそうになりながらも、自分の存在意義を見出したいと奔走している人間が作っている。きっとそこには、謎はない。
ここで少々、彼らのこれまでを振り返る。PEOPLE 1が活動をスタートさせると同時にリリースしたファースト・EPが『大衆音楽』だ。そのタイトルからも分かるように、彼らは多くの人に聴かれる音楽をやろうという意志があったのだろう。その後リリースされたセカンド・EP『GANG AGE』では、「大人」というワードを共通項としながら、人間の精神的な成長や、大人になることへの焦燥感を感じさせる楽曲が収録されているし、サードEP『Something Sweet,Something Excellent』では虚無感の先にある温もりに触れることができる。特別な人だけにしか分からないようなものではなく、歳を取りながら、この時代を生きている人であれば、核心に触れる部分がどこかにあるはずだ──PEOPLE 1の歌詞からは、そうした考え方が見えてくる。また、そのような視点で彼らの音楽を聴くと、「こういう音楽性だよね」と一括りにできないジャンルレスなサウンド・メイクについても納得がいく。楽曲の雰囲気を多様化することで、間口は一気に開けるのだから、彼らが大衆音楽家を目指しているのであれば、これほどの強みはないだろう……と、戦略的な読み解き方をしてはみたが、PEOPLE 1がリスナーを魅了するいちばんの理由は、「次はどんな曲が聴けるんだろう?」という期待感を与え続けてくれるからだろう。予測不能、予定調和なし、ドキドキ、ワクワク。推測できないことへの不安から、答えを先走ってしまったり、考えを諦めてしまったりする人が多い時代だと耳にすることもあるが、PEOPLE 1の音楽は、そういった時代性へのカウンターかのように、分からないことを受け入れ、楽しめたらいいよね、と提示してくれている。
そして、先述した3作品に加え、“ゴースト“、”PEOPLE”、“怪獣“、”スクール!!“と、今作にも収録されている楽曲をコンスタントに配信リリースしつつ、初のアルバム作品となる『PEOPLE』に至る。今作は、既出楽曲も含めた15曲入りというボリューム感も相まって、彼らの集大成と位置付けられるだろう。しかし、インスト楽曲“PEOPLE”を経て、2曲目に飛び込んでくるダンサブルなビート感とミクスチャー・ロックのエッセンス、さらにハスキーなDeuの歌声との3点結合がばっちりはまっている“怪獣“は、集大成のその先にある、PEOPLE 1の新たな幕開けを告げている楽曲だ。<どこにも馴染まないまま大人になったから/未だにこんなことを歌っているんだな>と過去を振り返りながら、等身大を脱して怪獣と化した<これからの僕>が君を救う、というストーリーが見える歌詞なのだが、“大人“よりも大きくて勇ましくて強い存在=怪獣をテーマにしているところに、彼らの目指すべき姿と決意が垣間見えるし、これは前述した大衆音楽の話にも繋がっていくように思う。大勢を救う為に、自分はどうすればいいか? そのひとつの解が“怪獣“に現れているように思う。
また、エネルギッシュでソウルフルなDeuの歌声とは対照的な、透明感のあるItoの声が爽快感溢れるメロディをなぞる“魔法の歌”や、ポップで豊かなメロディに乗せて自らの羞恥心をも曝け出す“僕の心”も、テーマはかなりディープだ。自分が自分らしく生きていこうとすると、どうしても生き辛さを感じるこの世界。そこで自尊心を見失いそうになったら、この曲たちが救いになるように──そんな優しい願いが込められているこれらの曲もまた、リスナーの行く先を照らす灯火になるに違いない。
今作のラストを飾る“バンド“の歌詞を借りるならば、<この物語を終わらせないと次の物語は/いつまで経っても始まらないってこと!>に気付いたPEOPLE 1は、これまでの2年間を見事にパッキングした『PEOPLE』を経て、また新しい境地へ向かって歩みを進めるのだろう。さあ、次はどんな音楽で私たちの心を躍らせてくれるのか?世界はまだ、はじまったばかりだ。
峯岸 利恵
1989年生まれ、三十路街道爆進中。邦楽メインのフリーランス音楽ライターです。
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