2021/03/24 18:00

まずはスタジオでさまざまな音源を聴いてみた

今回はiFi audio NEO iDSDのプロ用スタジオ機材と並列に扱える出力スペックを利用して、まずは」高橋のプライベート・スタジオのディスクトップ環境で使用してみた。ちなみに中央のなミキサーは先日逝去した名エンジニア、故ルパート・ニーヴの設計によるNEVEの名機

 そんな僕のスタジオにNEO iDSDを持ち込んで、テスト試聴を行う。NEO iDSDに付属のUSBケーブルでスタジオのMac Proに接続。NEO iDSDのバランス・アウトをスタジオのモニター・コントローラーに接続する。僕が使っているColeman Audioのモニター・コントローラーはパッシヴなので、そこでの色付けはない。NEO iDSDとPSI AudioのA-17M をセレクターとアッテネーターだけ通して、繋いだ形だ。

 NEO iDSDの電源にはiFiのiPowerを使用する。NEO iDSDは接続したUSBケーブルから提供される5Vでも動作するが、iPowerが付属しているので、これを使わない手はないだろう。

iFi audio iPower : iFi audioによる軍事用レーダー技術を流用したオーディオファイル基準の超低ノイズDC電源アダプター。

 Mac Pro上の再生ソフトはAudirvana。まずは聴き慣れたアルバムをということで、ドゥービー・ブラザーズの『Livin’ On The Fault Line』を聴くことにした。マイケル・マクドナルドが中心となった編成で、大ヒットを連発したドゥービーズの1977年のアルバムだが、近年、サンダーキャットのアルバムへのマクドナルドのゲスト参加などで、興味再燃して、聴き返していた。OTOTOYでは24bit/192kHzのハイレゾ版が手に入る。

 冒頭の「You’re Made That Way」で、NEO iDSDとA-17Mで聴くドゥービーズは予想とはちょっと違う鳴り方をするのに気づいた。iFi audio製品はこれまでにも数多く聴いてきた。同社のDACの特徴はフラッグシップ機からエントリー機まで、心臓部はほぼ同じだということだ。NEO iDSDも例外ではなく、DACチップにはバー・ブラウン社がテキスト・インストゥルメンタル社に吸収される以前のDSD1793を採用。独自の制御技術によって、PCM768kHzや DSD512(24.6/22.6MHz)の再生を実現している。だから、NEO iDSDの音も過去の製品と同傾向だろうと思っていたのだが、本機は明らかに違う。より現代的といえばいいだろうか。輪郭がクリアーになり、空間も広く見通せる。

 シルヴァー・カラーのシャープなフォルムのボディ・デザインもそんな音の傾向と一致していると言ってもいいかもしれない。これまで使用してきたmicro iDSDのブラック・ヴァージョンとは聴き比べるまでもなく、違いは明らかだ。明るい光が差し込むような感覚は、『Livin’ On The Fault Line』の再生にはピタリ。スピーディーな躍動感に気分高揚する。

 だが、他の音源ではどうだろうか? micro iDSDに代表されるiFi audioのDACは中域の質感が良く、滑らかさがあって、音楽的だというのが僕の評価だった。もっとアコースティックな音源も聴いてみないと、僕にとって、どっちが好ましいかは分からないところがある。

 そこで最近、とても気に入っているCande Y Pauloの新しいシングル「Limite En Tu Amor」を試聴音源に選んだ。彼らはアルゼンチン出身だが、英〈デッカ・レコード〉と契約し、2021年にデビュー・アルバムが出てくると思われる男女デュオだ。

 「Limite En Tu Amour」を聴いて驚いたのはコントラバスとキック・ドラムの音の出方だった。アコースティック・ジャズ的な音楽の空気感をチェックしようと思って聴いたのに、まずは低音楽器に耳を奪われてしまったのだ。アタック感と制動感を備えた、僕の好きな感じの低音が聴ける。思えば、ZEN DACを試聴した時にも、低音の出方がこれまでのiFi audio製品とは違うように思ったのだが、NEO iDSDを聴いて確信した。iFi audioは変わった。新しい領域に踏み出したと。

 エントリー・クラスのZEN DACでは聴かせる要素を絞り、メリハリを付けた結果かなとも思っていたが、NEO iDSDははるかに情報量が多く、空間の細部まで見渡せる。それでいて、サウンドの印象としては太さやキレがある。

 「Limite En Tu Amour」ではヴォーカル表現も印象的だった。女性ヴォーカルの口元がクローズアップされて浮かぶかのよう。ただ綺麗に聴かせるのではなく、厳しさも持った再生だ。声の消えぎわや歌い始める前の空気感みたいなものも伝わってくる。

 これはR&B系の音源にも向くだろうと、リリースされたばかりのラッキー・デイの新作『Table For Two』も聴いてみた。デイは2019年に発表したデビュー・アルバムで一躍注目され、グラミー賞にもノミネートされたニューオルリンズ出身の才人だ。新作はOTOTOYで24bit/48kHzのFLACが販売されている。

 面白いことに、『Table For Two』ではリズム・マシーンやシンセ・ベースがど~んとした迫力で来るのではないかと思っていたら、むしろタイトな印象だった。決して量感に頼った低域を聴かせているのではないことが分かる。それは『Table For Two』がミックスやマスタリングで緻密な低音処理に成功していることの結果でもあるだろう。NEO iDSDとA-17Mがそこをきちんと再生してくれているのだ。

iFi audioの音作りは変わったのか?

 こうしたNEO iDSDの方向性は、僕が近年、求めていた音の方向性と重なるものかもしれない。モニター・スピーカーをATCのSCM10からPSI AudioのA-17Mに換えることにしたのも、低域から中低域にかけての解像度を高くすることと、高域から超高域の情報量をより多くすることが目的だった。マッキントッシュのアンプでドライヴするSCM10はサイズから考えられない低音再生が可能で、ローランドTR-808のキックがスモール・モニターでもきちんと聴き取れる。密閉型なので、わずかにコンプレッションのかかったキックの鳴り方をするが、それも僕の好みだった。

 A-17MはそのSCM10に負けない低音再生能力を持ち、かつバスレフ型なので、コンプッションのない素直な鳴り方をする。しかし、キックのディケイが長くなり過ぎるというバスレフ型の難点は避けられている。帯域バランスはSCM10とほぼ変わらない。SCMの方が中低域にわずかに厚みがあり、A-17Mはよりフラットで、ハイローともに少し伸びている。一番の差は低域から中低域の解像度だ。現代の音源はDAWによるミックスやマスタリングでその帯域の諸要素が作り込まれていることが多い。そこを聴き取れる、より現代的なモニター・スピーカーとして、A-17Mを選択した訳だ。

 SCM10とA-17Mの違いはmicro iDSDとNEO iDSDの違いとも似たところがある。iFi audioは面白いメーカーで、DACのようなデジタル・オーディオ機器を主力商品としつつ、ヴィンテージ・オーディオを意識した真空管アンプやスピーカーを作ったりもする。そこには伝統的なブリティッシュ・サウンドへの敬愛が感じられる。それがロジャース、ATCなどのブリティッシュ・スピーカーを好んできた僕のテイストとも重なった。愛用してきたmicro iDSDはそういうヴィンテージ~アナログ的なテイストも持ち、音楽を滑らかに、気持ち良く聴かせてくれる製品だったと言っていい。

 だが、時代は変わる。僕がSCM10からA-17Mにモニター・スピーカーを換えたように、iFi audioもより現代的な音源に対応する音作りに進んだのではないだろうか。

この記事の筆者
高橋 健太郎 (Reviewed by Kentaro Takahashi)

本名:高橋健太郎 プロデューサー、ジャーナリスト、選曲家など。高橋健太郎 文筆家/音楽制作者 評論集「ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの」がアルテスパブリッシングから発売中。http://tinyurl.com/2g72u5e twitterアカウントは@kentarotakahash

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この記事の編集者
河村 祐介

1981年生まれ。ビヨンセとは1日違いで時差的に多分ほぼ一緒。渋谷区幡ヶ谷出身。2004年~2009年『remix』編集部で丁稚から編集者へ、LIQUIDROOM勤務やのらりくらりとふらふらとフリーを経て、2013年よりOTOTOY編集部所属、現在編集長。テクノあたりとダブステップあたり、ルーツ・レゲエ〜ダブあたり(そのあたりでライナーノーツなど多数)、その他では酒あたりと本あたり。

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