「一緒に悩めたらよくないですか?」という気持ちでいる
──あと、個人的に特に好きな"数学 | RULER"の話も聞きたいです。他の楽器が音を伸ばしているところでもドラムだけ譜割りが細かくて、ドラムのフレージングによって曲全体が色づけられている。ビスさんの個性を活かした、新生BIGMAMAだからこその曲だと思いました。
柿沼:この曲のドラムに関しては、金井のイメージする「ビスのドラムといえば」というフレージングに、ビスが応えた形だったと思います。
金井:そうですね。こういうビートパターンを叩いているときに、おそらく彼は「これを叩けたらカッコいい」と感じるんだろうなと、想像しながら作りました。
──しかも2番Aメロに入るとドラムだけではなくバイオリンもすごいことになるから、「これはなんなんだ?」と(笑)。
金井:この曲は「なんなんだ?」感ありますよね(笑)。
柿沼:しかも2A後にいきなり止まって、ギターだけになって……。
金井:僕もこの曲いいなって思うんですよ。でも同時に、「これは絶対に売れないだろうな」とも思う(笑)。
柿沼:あはは!
金井:でも、カッコいいんですよ。「自分はすごく好き」「でもこれは一定の層にしか届かないだろう」と思いながら作る曲だからこそ、注げる種類の愛情ってありますよね。この曲は、メンバー5人が微動だにせずストイックに演奏するだけで、心をギュッと掴まれるような……サビを歌ったときになんか動けなくなるような……そういう場面を想像しながら、「BIGMAMAの最もエモいポイントを目指して作ろう」と思いながら作りました。僕はこの曲が『エモ学』の裏リード曲だと思う。自分の好きな1990~2000年代のエモバンドをイメージした時に、僕はこれを2020年代のエモと呼びたくなりました。

柿沼:いま思い出したんですけど、"RULER"のレコーディングで金井が歌を何度も録り直していたんですよ。この曲のヴォーカルはサビのキーが高いし、コントロールが難しそうなところをすごく頑張って、いいテイクが録れたのに、「もう1回やらせてほしい」と。本当にずっと歌っているから声も徐々に枯れてくるんですけど、絞り出していて。みんな「もうよくない?」って言っていたんですけど、多分、戦うことに意味があったんだろうなと。そうやって戦っている金井の姿は、長い付き合いのなかではじめて見ました。いままでの金井だったら、ある程度のところまで来たら納得していたと思うんですけど、その日はなにかを出そうとしていたし、その"なにか"はこの曲のなかに入ったと思う。
金井:おそらく、("RULER"は)このアルバム全体の「エモさ」を象徴する曲になると思っていたから、自分のイメージになかなか届かなくて、何度もやり直していたんだと思います。レコーディング中、〈一体なにと戦っているんだろう?〉と僕が歌っている時、みんなもそう思っていたと思います(笑)。
──その歌詞、いいですよね。今作は新体制としてのバンドの覚悟を感じさせる表現が多いんですが、その部分は、自分を鼓舞し続ける日々のなかでふとこぼれ落ちた言葉という感じで、純度が高いなと思いました。
金井:本当に自分のなかからふと出てきたものなんですけど、この曲で歌詞にした時になんかスッキリしたんですよ。歌詞にしたことで疑問が解決したわけではないけど、歌詞が届きやすいパートでそう歌った時に、この曲がより愛しく思えて。
柿沼:この5人は長く音楽をやってきたメンバーですけど、今回のレコーディングはみんな戦っていましたよ。例えばビスくんで言うと、彼は打ち込みでフレーズを作るので、自分には再現できないようなフレーズを打ち込んじゃって、レコーディングで苦労していました。だけど「どうしてもこれを表現したいから」と自分の限界を超えていく。そしてレコーディングが終わった頃には、レコーディング前の自分よりも上に行っている。メンバーのそういう瞬間を、今回の制作中に何度も見ました。

──素晴らしい。今作を聴いていると、青春に年齢は関係ないんだと勇気づけられるんですが、それを踏まえて「勝負時に全力を出す」ということについておふたりに聞きたいです。きっと若い頃が「青春だった」「黄金期だった」と言われがちなのは、肉体が丈夫だからだと思うんです。例えば徹夜して練習するのも、30代だとつらいけど10代だと余裕でできる。私自身も、年齢を重ねるなかで「この作業をする時間があったはずなのに、疲れてしまってできなかった」という場面が増えていて、罪悪感も湧いてきて、「いまの自分の状態でベストパフォーマンスを発揮するには」と試行錯誤中なんですが……おふたりもそういうことは考えますか?
金井:超考えます。結局疲れた時は寝た方がいいんですけど、自分が休んでいる間にライバルたちは練習しているかもしれないし、いい曲を書いているかもしれないし、いいライヴをしているかもしれない。そういう恐怖心がミュージシャンには常にあるんです。家でなにもしないでいる自分、超苦しい、みたいな。
柿沼:うん、そうね。
金井:でも、勝負どころで心身ともにいいコンディションでいないと、努力を積み重ねても無意味になってしまうから、やっぱりちゃんと寝た方がいい。今話してもらった葛藤は僕自身も感じていることで、この葛藤をどうにか言語化しようとして、こういう歌詞になっているんですよね。この作品を受け取ってそういう質問をしてくれたということは、僕の葛藤ごと届いているということだと思うので、「そのまま一緒に悩めたらよくないですか?」という気持ちでいるんですけど。
──なるほど。BIGMAMAの活動が始まったのはおふたりが高校生の頃ですが、結成から20年以上経ったタイミングで、情熱的なドラマーが新しく入ってきて、一緒に炎を燃やしながらアルバムを完成させて、ここが自分たちの勝負時と認識している。そんないまと10〜20代の頃では、戦う時の心持ちや方法も変わったんじゃないかと思うんですが、いかがですか?
柿沼:そう考えると、「絶対に寝た方がいいから、寝よう」という選択ができるのはいまだからこそかもしれない。例えば朝8時からレコーディングがあるとして、徹夜でフレーズを考えて一睡もせずにスタジオに行くと、録る時にはもうフラフラなんですよ。必死だから「いいプレイしたな」という手応えも残らないし。そうじゃなくて「〇時までに終わらせる」「あとは当日の自分の感性で弾けばいい」と決めて、余裕を持ってスタジオに行けば、フラフラにならずにプレイできる。考え方としては「あのガムシャラだった時代を経ているから、いまの自分ならできる」と信じられている感じですかね。その上で、いまは、夜中に奇跡的なものが生まれる可能性に賭けているんじゃなくて、「いままで培ってきたものをここで出せなかったらダメだ」と現場にいるその瞬間に戦っている。あの頃とはまた違うものと戦っている感覚がある。
金井:バイトしながら学校行きながらバンドやって、曲作って、車に乗って全国行って、ライヴして……という10~20代の頃の全力さも必要なものだったと思うけど、頑張っていること自体に満足していたところも少なからずあっただろうし、"頑張っている自分"に酔ってなきゃ頑張れなかった部分もあったと思います。その酩酊具合が明確な違いですかね。いまはきちんと醒めている。昨日MVの撮影でキャッチボールをしたんですけど、ある程度力を抜かないと球って飛ばないんですよ。力を抜いた方が上手くいくことも往々にしてあると理解していること、ガムシャラにやればいいってもんじゃなくて、正しい頑張り方をすることが大切だと分かっていることが違いなのかなと、自分に関しては思います。
──「過去の自分たちが築いたものを信じた上でいま戦っている」「思考がクリアである」ということは今作を聴いて感じたことなので、いまのお話は腑に落ちました。ありがとうございます。では、最後の質問を。10月28日からはじまる〈SCHOOL WARS TOUR〉はどんなツアーになりそうですか?
金井:メンバーが変わってからも基本的に自分たちのそれまでの財産で構築されたライヴをしていたけど、今回は新しいアルバムがあるので。ちゃんと新しくなれたと、このツアーでようやく実感できるんじゃないかと思っています。新曲はもちろんですけど、「青春」というキーワードがあると、いままでのBIGMAMAの曲のなかからこのツアーに連れてこられる曲もたくさんあって。そういう曲が、いままでとはまた違う聴こえ方になるといいんじゃないかなと思っています。
柿沼:いままでやってこなかった試みも予定していて。実際に観ていただけたら分かると思うんですけど、「お前ら何年目だよ」って自分たちでも思います(笑)。「やっぱり音楽好きだな」という純粋な気持ちが溢れるツアーになりそうだなと。「この曲が好きだ」という前向きな気持ちを届けられるツアーにしたいし、最終的にそれがすごく大きなパワーになったらいいなと思っています。

編集:梶野有希
これまでで最も無邪気なBIGMAMA!
LIVE INFORMATION
BIGMAMA〈SCHOOL WARS TOUR〉
10月28日(土)KT Zepp Yokohama
OPEN 17:00 / START 18:00
11月10日(金)Zepp Osaka Bayside
OPEN 18:00 / START 19:00
11月11日(土)Zepp Fukuoka
OPEN 17:00 / START 18:00
11月19日(日)Zepp Sapporo
OPEN 17:00 / START 18:00
11月22日(水)Zepp Nagoya
OPEN 18:00 / START 19:00
11月23日(木祝)Zepp DiverCity(TOKYO)
OPEN 17:00 / START 18:00
過去音源
PROFILE : BIGMAMA
バイオリニストとバケツのいる唯一無二5人組のロックバンド。
2002年に東京・八王子で金井・柿沼を含む同級生で結成。2006年7月にCDデビュー。活動休止を経て、2007年に安井英人(Ba)と東出真緒(Vin)が加入。2017年には初の日本武道館公演をソールドアウト。2021年には、創設時のオリジナルメンバーの脱退の後、バケツドラマーことBucket Banquet Bisが加入し、現体制に。2023年3月には、全国25ヶ所をまわりながら、BIGMAMAの全149曲を披露するツアー〈BIGMAMA COMPLETE〉を開催。同年10月に9枚目のアルバムとなる『Tokyo Emotional Gakuen』をリリース。
■公式HP:https://bigmama-web.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/bigmamaofficial