c678924 『678924』
Discordなどのコミュニティで発掘される、あるいは発表されることで徐々にジャンルとしての地盤を築き上げてきたのが“HexD/surge”だが、その源流のひとつとして挙げられるのがオーストラリアのSewerslvtが形成した陰鬱さを基調とするブレイクコアの隆盛だろう。
2017年頃より活動をスタートした彼女は大量のリリースを重ねて絶大な人気を獲得し、Spotifyのリスナー数だけでも55万人超の巨大な存在となる(2021年6月に活動終了を発表)。メンタルヘルスやジェンダーなどの問題にも積極的に向き合い、世界中の病めるWebジャンキーを癒やしてきたことも特徴的なスタイルとして注目すべきだろう。
…………が、その流れを汲みつつも挑戦的なメッセージ[fvck sxwxrslvt]を掲げた新作をリリースしたのがチリのDJ/プロデューサー、c678924だ。Sewerslvtを思わせるアンビエントなトラックに始まったかと思えばローパス・フィルターとビットクラッシュが激しく施されたトランスへと一気に切り替わり、どこか醒めたようなテンションのまま終わりゆく7曲入のファーストアルバム。 Hiphop寄りのイメージが強かったHexDをダンス・ミュージック寄りの路線に転換したことも大いに評価できる仕上がりだ。BandCampやSoundCloudでたびたび披露される彼のショートDJミックス合わせて現行のムードを感じ取ってはいかがだろうか?
Himera,Petal Supply,Mura Masa,Malibu 『You Make It Look So Easy(Playtime)』
〈PC Music〉や〈YEAR0001〉など気鋭のネットレーベルとも呼応する弱冠18歳のカリスマプロデューサー・Himeraのシングル+リミックス集。フィーチャリングにはカナダの盟友Petal Supplyを迎え、ハイパーポップの先を探る意欲的な作風に仕上げられている。
本作では同じ楽曲を4つの異なるパターンで提示するアプローチがなされ、リミックスにはフランスの新鋭プロデューサーMalibuとUKの世界的スターMura Masaが参加している。全体的に非常に豪華な顔ぶれが目立つ話題作だが、特に注目したいのはTr.3『You Make It Look So Easy - Ruined by Mura』だ。
Ruined by Mura 、つまり「Mura Masaによる滅亡(台無し?)」というシニカルなタイトルもさることながら、ボーカルを基調にやはり激しいクラッシュが全編に渡って施されている。HexDの文脈で取り上げるのはやや強引なものの、ハイパーポップの特徴として想起される「過剰さ」のカリカチュアのようにも感じられるMura Masaの試みには心惹かれるものがある。対するMalibuのリミックスは極端なリバーブ処理によってアンビエントへと再構築されており、「破壊か安寧か」に分断された両極端な近年のムードを肌で感じることができる構成となっている。
Ugly Perfection 『Ugly Perfection』
2014年よりDIYな活動を続けるNYのソロアーティストの最新作。ミクスチャーロックやグランジにはじまり、クラウドラップやデジタルハードコアなどからの影響も感じさせつつ、やはり主軸にはビットクラッシャーによる激しいエフェクトが存在する仕上がりに。ロック色の強いサウンドでありながら、当人はジョン・ホプキンスやエイフェックス・ツイン、ダフトパンクやBT、DJ DVD RIPといったテクノ~ハウスのプロデューサーからの影響を公言するなど幅広い音楽性を備えている点も興味深い。
音楽レビューサイト〈Rate Your Music〉での評価も3.46と高く、クラウドラップとノイズロックの間を取り持つ次なるヒーローと目されているようだ。
全編を通して歪みきったサウンドと激しい勢いに押し負けそうになるが、たしかに「壊れているぐらいじゃなきゃ正気でいられない!」という気持ちにもさせられる、そんな激情の詰まった1枚。後述するrirugiliyangugiliやYokai Jakiなどの暴力性あふれるムードとも呼応する“HexD”作品。