Sentimental boysが導く、夏の終わりの情景──2ndフル・アルバム『Festival』ハイレゾ配信開始
美しく情景の浮かぶ歌詞とメロディーに、幻想的な浮遊感のある美しいサウンドを奏でる、長野県上田出身の4人組ロック・バンド、Sentimentai boysが2ndフル・アルバム『Festival』をリリースした。儚さのなかに温かさが表現された、3年の構想を経て完成された今作のテーマは、“誰もいない夏”。こだわりのアナログ録音による今作をOTOTOYでは独占ハイレゾ配信を実施。アルバムの構想やレコーディングについてメンバー4人へのインタヴューを敢行。彼らにとって"夏"とはどういう季節なのか。インタヴューとともにじっくりお楽しみください!
"誰もいない夏”がテーマの2ndフル・アルバム
INTERVIEW : Sentimental boys
3年の構想ののちに、ついに完成されたSentimental boysの2ndフル・アルバム『Festival』。今作では、コンガやクラベス、12弦ギターなど、これまで使用してこなかった楽器を新たに取り入れて制作されたという。そのおかげで、今作を聴いたときに、瞬間瞬間でまるで映画を見たかのようにそのシーンを鮮明に思い浮かべることができた。これまでの作品でも巧みにその情景を描いていた彼らだが、『Festival』は、間違いなく彼らをストーリーテラーとして飛躍させる作品になるだろう。丁寧につくり込まれた“物語”を生み出した彼らにインタヴューを行った。
インタヴュー&文 : 鈴木雄希
写真 : 作永裕範
人間が演奏するからこそ生まれるズレやその空気感、タイム感を愛せるようになった
──3年ぶりとなる2nd フル・アルバム『Festival』が完成しました。率直にいまどんな心境でしょうか。
堀内 : 前作『Parade』(2015年)をリリースしたときから、すでに2ndアルバムのことは考えていて。構想期間として3年間あったので、「やっとできた」という思いが強いですね。
──当時の構想はどういったものだった?
櫻井 : ちょっとしたテーマがあるようなアルバムを出したいね、みたいな話はしていて。「誰もいない夏」というテーマも、メンバー間で共有していたんです。だけどちょっといろいろあってリリースするのに時間がかかってしまって……。だからやっと出せてよかったですね。
──なるほど。
上原 : 3年間かけてみんなで作ってきたものなんだけど、ちゃんと“いまの自分たち”が入っている感じがしていて。
藤森 : あと、夏をテーマにしたアルバムだから、この時期にリリースできてよかったですね。
──リリースまでに3年間という時間を要したのはなぜでしょう。
櫻井 : 「出したい」という気持ちだけではリリースできない、ということが、はじめてちゃんとわかったというか。周りの人たちにも「ある程度の実績を積んでからアルバムを出す方がいい」みたいなことを言われることもあって。だからこの3年は、ずっとこのアルバムを出すために活動してきたとも言えますね。でもいま思えば、このタイミングで出せたことがよかったのかもしれない、という感覚もあって。だからこの3年間は、バンドが成長するために必要な時間でしたね。
堀内 : この3年間のなかでリリースした会場限定CDとミニ・アルバム(『青春が過ぎてゆく』)がステップとなった感覚もあって。その集大成としてこのアルバムを完成することができた。
櫻井 : 成長という部分でいうと、結構サウンドの方向性とかは挑戦してみた作品でもありますね。1stアルバムでは熱量があるものを、ミニ・アルバムでは無機質でひんやりしたものを意識してつくっていたんです。これをつくったことで「音楽は人間が作るからおもしろいんだ」ということに気づいて。だから今作は、「見た目は平熱だけど、心の中は熱い」みたいな感覚で。
──“人間がつくるおもしろさ”みたいなことに気づいたキッカケは?
上原 : やっぱりアナログで録ったというのはデカかったかもしれないですね。アナログで録ることで、人間が演奏するからこそ生まれるズレやその空気感、タイム感を愛せるようになりましたね。
──今回、なぜアナログで録ったんですか?
堀内 : もともとアナログ機材が好きで、アナログという手段で録るというのに興味があったんです。それで今回録音をしたスタジオを紹介してもらったので、やってみよう! と。
──アナログでのレコーディングはいかがでしたか?
堀内 : めっちゃ楽しかったですね。
櫻井 : 録り直しが効かないので、その場で出た奇跡的な味とかズレが出てくるんですよね。
上原 : 後から直せないので、“リアルな自分たち”が出てくるんです。そういうあるがままの姿を愛することができたのは大きかったですね。
──レコーディングはどのように進んでいたんですか?
上原 : エンジニアの近藤さん(近藤祥昭 / GOK SOUND)さんが奥からいろんな楽器を出してきてくれて、それをパッと使ってみたりして。だからいままで使ってなかった楽器を使ったり、そういうのは楽しかったですね。
藤森 : ミニ・アルバムの時には、櫻井も言っていたみたいに冷たいというか平熱的な音楽を目指していたので、リズムも結構手直しした部分も結構あったんです。そういうのを経て、今回のアナログ録音だったので、僕の中ではかなりチャレンジでしたね。あと、今作ではドラム以外にもいろんな打楽器を使っていて。はじめて使う楽器とかもあったから、こんなんでいいのかな…… なんて思いつつレコーディングしましたね(笑)。だけど近藤さんのアイデアもいただきながら、いろんなことを試しながらのレコーディングだったので、本当に楽しかったですね。
──割とレコーディング中の即興的な要素が多く取り入れられてるんですね。
堀内 : そうですね。いままではぜんぜんなかったんだけどね。
上原 : レコーディング中にできた曲もあって(笑)。
──えー! それはすごいな…… (笑)。
櫻井 : 「構想3年」とか言っておきながら、全然作業が間に合っていなくて(笑)。レコーディングの合間の日にアレンジをして、できた曲から録っていくという感じでしたね。
上原 : いちばん最後に「誰もいない夏」を入れようと思っていたんですけど、テープの残りが2分しかなかったから2分以内の曲にしよう、ってこともあったりして。
櫻井 : もともとはもっと長い曲だったんだけど、そういう理由で今作では短くなっています(笑)。
堀内 : 単純に新しいテープを使うのがもったいないだけなんですけどね(笑)。
夏の、楽しい時間が終わったあとの喪失感を描いている
──まさにアナログ録音ならではの話ですね。先ほどちょっとお話しいただいたんですが、「誰もいない夏」というテーマについて教えていただけますか?
櫻井 : 1stアルバムのときは、東京にいるなかで思うことを歌った曲が多くて、詩も半分愚痴みたいな感じだったんだけど、それもちょっとしんどくなってきて。それで次のアルバムは都会の喧騒から離れたのどかな風景が似合うような音楽を作りたいなと思ったのが最初です。そこから「そうだ、誰もいない夏だ」ってテーマが浮かんで。
──夏をテーマにしたのは?
櫻井 : いままでの僕らの曲には夏っぽい曲がなかったから、作ってみたらおもしろそうだな、と。夏の昼間とかに聴けるようなアルバムを作りたかったんです。
上原 : 僕がいま思う夏は、すべてこのアルバムに詰まってますね。“誰もいない”というところが大事で。
堀内 : 夏って楽しいイメージがあると思うんですけど、このアルバムでは、その楽しい時間が終わったあとの喪失感を描いていると思っていて。
櫻井 : イメージとしては、お祭りが終わって、ゴミが散らかっている感じだったり、誰もいなくなった朝だったりですね。
──『Festival』というタイトルもそういうところから?
櫻井 : タイトルに関しては、5曲目の「Festival」ができたことがすごく大きかったですね。この曲ができたときに、アルバムの核となる曲ができたと思って。それでそのままアルバム・タイトルにしようと。“Festival”っていろんな意味にとれちゃうからどうなんだろう、とか思いつつも……。
上原 : 「Festival」というタイトルで、あの曲ということだけで説明になっていると思っていて。この曲を聴いてもらえれば『Festival』というタイトルの意味もわかってくれるんじゃないかな。
──「Festival」は1曲のなかで、主人公の心情の変化や時の流れを感じて、4分49秒のなかに物語がしっかりと存在する歌だなと思いました。
櫻井 : 聴いた人がいろんな想像できるような余白は残したいと常に考えて歌詞を書いていますね。だからあまり限定的な言葉は使っていないです。
上原 : そこはバンドとして意識しているところかもしれないですね。僕もできあがってきた曲をはじめて聴くときは、いつもすごくシンパシーを感じて、救われるような気持ちになるんです。いままではそこに自分の感情を乗せて歌ってきたんだけど、僕がわざわざ色を足す必要はないのかなという感覚が出てきた。だから今回はアルバムを通して、あえて感情を削るような歌い方をしてみて。それも聴く人の余白に繋がったらいいなぁと思いますね。
──感情が入っていない分、聴いた人の感情を投影できる。
上原 : そう思ってます。自分で聴いていても、歌ってるのは自分なんですけど、切り離して聴ける感覚がありますね。
櫻井 : サウンドでいうと、聴いてて情景が浮かぶようなものを作ろうと思っていて。ひとつの風景を思い浮かべて、そこに聴いている人を連れていくようなイメージは、作曲するときにいつも持っていますね。
──今作ではそれがすごく感じられました。みなさん的に、今回のアルバムの中で、印象に残っている曲はありますか?
堀内 : 僕は、6曲目の「情緒」という曲ですね。この曲はデモの段階ではリズムも全部打ち込みで、ギターもループしているものだったんです。それをレコーディングで、クラップ音やコンガ、クラベスみたいな特殊なパーカッションを入れて。いままでにないやり方をしたので、個人的にすごく新しさがある曲だと思っています。
櫻井 : 打ち込みのようなリズムを、敢えて全部人力でやるというのがおもしろいと思って、この曲ではそれをやりました。
堀内 : アルバムに入っているのは、スタジオで4人で合わせてたら出ない音というか。
藤森 : 僕らのいままでの曲って、ライヴでやると「CDを聴いてるみたい」みたいなことを言われたりするんですけど、「情緒」に関しては不可能ですね(笑)。これをライヴでどうやってやるかというところも、楽しみのひとつにしてもらいたいです。
櫻井 : いままではアコギ1本で弾き語りをして、そこにサウンド的な肉付けをしていくという流れで曲を作り上げていたんです。今回のアルバムは、それぞれの楽器が合わさることでひとつのコードやリズムを作り出すことを意識して。そうすることで立体感を感じることができると思います。
上原 : その立体感という部分でも、僕らの今回の挑戦をわかってもらえるかな。僕も「情緒」の話をしようとしたんですけど(笑)。
──なるほど。これまでと比べて音の作り方も変わったんですね。
櫻井 : 前はすごく歪みをかけたりもしていたんですけど、今回はその歪みも取って。あとはバッキング禁止っていうルールをみんなで作ったりしてね。
堀内 : いままではドラム、ベース、ギターだけで作ることばかり考えてたけど、今回は楽器の選択肢が増えたので、音色の幅がだいぶ広がったんじゃないかな。
──今回OTOTOYではハイレゾで配信させていただくので、そういうところも楽しみですね。
櫻井 : たぶん、より鮮明に聴こえるんじゃないかな。僕らとしても楽しみですね。
──藤森さんは印象的な曲はありますか?
藤森 : 僕的には「青春が過ぎてゆく」という曲ですね。ミニ・アルバムにも収録していた曲なんですけど、もう1度収録して。1度録った曲を、どう表現していけばいいのかというところで、僕の中の挑戦でもあって。いろいろ吸収して、いまぼくらが僕ら出せる表現ができたんじゃないかな。エンジニアの近藤さんのアイデアもいろいろ入っているので、ミニ・アルバムを聴いてくれていた人も新しく感じてもらえるんじゃないかな。
──具体的に新しい挑戦とは?
藤森 : 先ほど話題にあった「熱量」という部分で、どうしても僕は表現しすぎてしまいがちなだったんです。今回は気持ちを込め過ぎないようにして、ドラムで表現しきらないイメージを持ちながら叩くようにしましたね。
上原 : 「青春が過ぎてゆく」は前回の時よりもキーがだいぶ落ちた状態で作ったから、印象がすごく変わって。これはこれで、いいものができたんじゃないかな。
アルバム全体を物語っている歌詞
──Sentimental boysは歌詞もすごく魅力的なバンドだと思っていて。ここまで余白を持たせながらストーリーもしっかりある歌詞を書くことができるバンドって、なかなかいないと思っていて。この機会にみなさんが印象に残っているフレーズがあれば聞いてみたいです。
櫻井 : うれしいですね。あんまりメンバーからこういうこと聞いたことないから聞きたいですね。でもみんな出てくるかな(笑)。みんな結構歌詞に関しては、「ちゃんと書いてこいよ」みたいな感じで厳しいんですよね(笑)。
──厳しいなら出てくるはず! 上原さんいかがですか?
上原 : 僕は「Festival」なんですけど。サビの最後のかたまりですね(〈またひとつ季節が変わるね / 沈んだ空 見下ろした街から / 君をさがすとするよ / また笑いあえるように〉)。個人的にここの歌詞にめちゃくちゃ救われました。あまり説明を付けたしづらいんですけど。
櫻井 : なるほどね。フレーズじゃなくてもいいから、この曲の詞がいいとか、そういうのがほしいな(笑)。
堀内 : 「誰もいない夏」の歌詞は、すごくこのアルバム全体を物語っているような感じがして僕は好きですね。
──この曲はアルバムのエンドロールのような感じもありますよね。
上原 : この曲でアルバムがすごく締まった感じがありますね。藤森はどう?
藤森 : 僕は…… ないですね。
一同 : (笑)。
上原 : まさかすぎるでしょ!(笑)
藤森 : このバンドに限らず、他の曲に関しても、リズムとか音色を吸収はするけど、歌詞は僕の中にあんまり入ってこなくて(笑)。
櫻井 : 自分のバンドだけどたぶん歌詞知らないでしょ!
藤森 : いやいや(笑)。個人的に歌詞って、すごく現実的になるポイントだと思っていて。今作はバンドとしても熱量を下げて、あまり現実的になりすぎないように意識したんです。だからこそ僕的には、逆に歌詞を耳に入れたくないというか……。歌詞を聞かないことによって、聴いた人それぞれの心象風景が想像できるんじゃないかなと思っています。
──そういう楽しみ方もできるアルバムだということですね! 最後にお聞きしたいのですが、なぜSentimental boysっていうバンド名なんですか?
上原 : ゴイステ(GOING STEADY)の「Sentimental boys」(『You & I』収録)から来ています。
櫻井 : 音楽的にこの名前をつけたとかではなくて(笑)。高校1年生のときにバンドを組んだんですけど、その時に付けたバンド名でずっと活動しているっていう。
上原 : そんなに深い意味も踏まえずにね。
櫻井 : 意味があるように思われがちなので、定期的に「バンド名変える? 」みたいな話になったりはします(笑)。
上原 : 20歳位の時に出ていたライブハウスの店長とかにも「おまえら、そのうちバンド名絶対変えると思うよ」って言われていたけどね(笑)。もうだいぶ時が経っちゃったからこのバンド名のまま活動していきます!
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LIVE SCHEDULE
2nd Full Album "Festival" Release Tour
2018年10月7日(日)@長野・上田Radius ※ワンマン・ライヴ
時間 : OPEN18:00 / START18:30
2018年10月22日(月)@大阪・心斎橋Pangea
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出演 : Sentimental boys / チャンポンタウン / 裸体 / …… and more
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時間 : OPEN/START 24:00
出演 : Sentimental boys / THE SATISFACTION / SHORT STORY / Emitation / DJ TA-1(KONCOS)
※入場無料
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://sentimentalboys.jimdo.com/live
PROFILE
Sentimental boys
藤森 聖乃(Dr.) / 上原 浩樹(Vo.Gt.) / 櫻井 善彦(Ba.) / 堀内 拓也(Gt.)
長野県上田市出身の4人組ロック・バンド。上京後、幾度かのメンバー・チェンジを経て、2012年より現メンバーにて活動を開始。
【公式HP】
https://sentimentalboys.jimdo.com
【公式ツイッター】
https://twitter.com/Sentimentalboys